軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

04 訓練1 武術の才能

「今日も筋肉痛かぁ」

朝に目が覚めると身体の節々が痛い。

「やっぱり調子に乗るとこうなるんだよな」

俺はこの一週間ずっと、朝起きる度に筋肉痛に苛まれている。

しかし、その原因を俺が己で作り上げてしまったのだ。

初日の訓練を終えた翌日、筋肉痛にならなかった為、この身体が若くて前世よりも身体能力が高い……

そう判断して調子に乗った。

「ブロド教官、確かに訓練中は辛かったですけど、筋肉痛にもならなかったですし、もっと鍛えてくれませんか?」

そんな馬鹿な提案をしたのだ。

「ほう。治癒士がそんなことを言ってくるとは、そこまで剛毅だとは思わなかったぞ」

あの時のブロド教官の目は今も忘れない。

あの獲物を見つけた狩人のように、ギラっと鋭く輝いた気がするほどの眼力だった。

その時、俺は何故調子に乗ってしまったのか? 後悔と背筋に走る寒気で凄く嫌な感じがし始めていた。

「休むな、ペースを考えるな、とにかく速く走れ」

その日から訓練場の端を全力で走らされる。

「そんなにひょろひょろな拳で魔物が倒せるか。姿勢を低くして腰を回転させろ。一撃で攻撃を止めるな。魔物がそんなに弱いはずがないだろう。死にたいのか? ん? 反応がないってことは死にたいのか?」

尋常じゃない威圧感で俺はじわりと詰め寄られる。

徐々に近づいてくるブロド教官の怖さは、尋常なものではなかった。

そのあまりの恐ろしさに身体は鉛をつけたように重くなり、カチコチに固まった拳を無理矢理突き出して、棒のようになってしまった脚で何とか蹴り出す。

それをやらなければ死んでしまうと想像してしまった為、無理矢理攻撃を続けた。

しかしそれらは避けられて、体力を奪われながら捌かれ、両手両足にダメージが蓄積されていった。

それでも訓練は終わらない。

「終わりか? 死にたいのか? 分かった。ならこちらから行くぞ。小僧、目を瞑るな。ほら、さっさと防御しろ。出来なければ避けろ」

ダメージが蓄積した俺は動くことが困難だった。そのことを分かっているブロド教官は、ここでもゆっくりとした動作で攻撃を始める。それも俺の限界を見定めながら攻撃をしてくるのだ。

攻撃訓練から防御訓練に切り替わり、攻撃を何とかブロックした俺は想像を絶する痛みに悶絶するのであった。

「何にも考えずに防御するからそうなるんだ。攻撃にだってちゃんと意味があるし、対応を間違えるとそんな痛い目にあうんだ。見て、考えて、必死で覚えろ!」

そんな俺の癒しの時間は訓練の合間合間で訪れる怪我をした冒険者達だった。

ブロド教官の監視下で冒険者にヒールを唱える。この時間が休憩となってくれた。

ヒールを自分に使用することを固く禁止されている俺の現在のスケジュールは、午前七時から午後七時まで合間に休憩を挟むが、一日八時間以上の体力づくりと体術の訓練となっている。

その為に休憩時間は本当にありがたい。

なにしろ、この環境を俺は己で作り上げてしまったのだ。

己が己を追い込んでしまったのだから世話が無いのだ。

唯一の楽しみは三度の食事だ。この食事が前世と比較してもとても美味しかった。

犬獣人のグルガーさんが出してくれる料理は毎回違い、かなりのレパートリーを持っている。

肉もただ焼くステーキからハンバーグ、ビーフシチューやポトフのような煮込み料理、焼きうどんみたいなものや煮物まで出てくる。どれもこれも香辛料がふんだんに使われている。

そう。なにを隠そう様々な香辛料が使われているのだ。

さらに生野菜は使われていないけど、栄養価の高い温野菜サラダも朝食には必ず出る。

まぁ問題があるとすればその量なのだが、それについては決まったように同じ言葉が出される。

「食べることも冒険者の資質のひとつだ。残さずに食べろ」

何処かの部活と同様、残すことは許されない。これさえ・・・あ。

「ほら。これも飲んでいけ」

もう一つ問題があった。毎食後に出てくるあの物体Xを必ず飲まされるのだ。

これだけは本当に勘弁して欲しい。

このようにして俺は、この一週間を何とか逃げ出さずに必死で訓練に喰らいついていた。

いや、正確には逃げ出そうとすれば捕まっていた。

現在の俺はブロド教官やグルガーさんだけでなく、冒険者にも監視されていると思われる。

理由は分からないが、逃亡しようとする度に声を掛けられたりする。

「おう治癒士、ヒール頼むぜ。」

強面の冒険者にそう言われて無視する勇気はない。

更に逃亡防止策はそれだけではない。

「いつも世話になっているからな」

そう言って冒険者達やギルド職員達も服や小物をプレゼントしてくれたりするので、俺の私物が冒険者ギルドの仮眠室に溜まっていくのだ。

こうして冒険者ギルドの外に出ることさえも、どんどん難しくなっているのだ。

「まぁ、考え過ぎているだけかも知れないけど」

そう呟いて一週間の回想を終えた俺は、ヒールと瞑想、魔力操作、魔力制御の訓練を終えるといつも通り食堂に向かった。

「おう小僧。今日は早いな」

食堂に着くと既にブロド教官が居た。

「おはよう御座います。ブロド教官も早いですね。あ、グルガーさん。朝食をお願いします」

「分かった。今日から食べる量を少し増やすぞ」

不吉なことを言ってから、グルガーさんは厨房へと消えていった。

そして二人きりになった俺にブロド教官はゆっくりと口を開いた。

「小僧、この際だからはっきり言っておくが、お前には武術に関して天賦の才はない」

ブロド教官の真剣な目が俺を捉えていた。

「ええ。それは薄々気がついていました」

自嘲するように頷く。それはこの一週間で身に染みて分かったことだ。

攻撃は見切れないし、そのコツさえも掴むことが出来ない。だから武術の才能がないことは分かっていた。

「だが、小僧には努力する才能はある」

目を閉じたブロド教官はゆっくりとそう呟き頷いた。

「えっ? あ~、ありがとう御座います」

俺は少し照れくさくなって頬を掻く。

「努力する限り見限らないでおいてやる。それに継続していけば自衛ぐらいは出来るようになるだろう」

再び目を開けてこちらを見ながらそう言ってくれた。

「それまで宜しくお願いします」

「よし。食事を済ませたら、今日から本格的に体力づくりと武器を使った鍛錬も加えていくぞ」

その言葉とともに、また以前のように教官の目の奥が光った気がした。

俺はこの瞬間に思った。

(軽く死ぬかもな。)

本気でそう思っていた。

そこへグルガーさんが料理を運んで来てくれた。ただ、昨日の二割は確実にボリュームが増した食事と物体Xの量も何故か五割増しになっていて、出だしから気が滅入った。

「さっさと食って飲んで鍛錬にいくぞ」

ブロド教官に言われて、仕方なく急いで食事を摂ったが、物体Xを飲み干した時に全てをリバースしかけた。

しかしグルガーさんの威圧を感じて何とか踏み止まった。このギルドってみんな威圧感が半端無いのかよ。そんなことを思って訓練場へ向かった。

「よし。今日からは食事を摂ったら、一時間は必ずこの投擲術を学んでもらう」

訓練場に入るとそう言われて、そこら辺に転がっていそうな石を渡された。

「あの、投擲術ってこの石を投げるんですか?」

「そうだ。まずは石、次に短剣、最後に短槍を投げてもらう。だから最初は石だ」

訓練用の石なのか丸くて持ち易く結構軽いものだった。

「何か気をつける点はありますか?」

「初めは当てることに集中しろ。慣れてきたら、距離、威力を増すように考えて、短剣、短槍と変更していく。これはあくまで治癒士である小僧に敵を近づけさせない為の牽制だ。相手を倒しきるものではないことを頭に入れておけ」

そういうことか。俺は納得しながら頷き返事をした。

「はい」

こうして俺は冒険者ギルドの仮眠室、食堂、訓練場を往復する日々となった。

その結果、徐々に冒険者ギルドの治癒士として、冒険者達から認知され始め、 一月(ひとつき) も経てば冒険者ギルドの職員と間違われる程になっていた。

「よし。とりあえず一月頑張ったな。これで治癒士の今年のお布施を払っておけ」

一ヶ月の訓練を終えた翌日、ブロド教官と朝食が一緒になった時に渡されたのは銀貨十二枚だった。

「えっ?このお金って?」

「まぁ、あれだけ毎日冒険者にヒールを掛け続けたんだ。これは冒険者ギルドからの報酬だな」

「けど、それは依頼料に入っていますよね?」

本音は貰いたいけど、建前が必要なこともある。だからワンクッション入れてみた。

「貰っておけ。ただ小僧の体術はまだまだヒヨッコだ。だから今日も鍛錬は続けてもらうぞ」

ブロド教官はニヤリと笑った。それに対して少し嫌な予感はしたが貰っておく事にした。

「分かりました。じゃあ朝食を食べたら、一度治癒士ギルドへ行って来ます」

「ああ」

俺はこうして貰った銀貨を持ってそのまま治癒士ギルドへ向い、税であるお布施を納めることにした。

久しぶりに出たメラトニの町は全く変わったことはなかった。

「変わってないなぁ。って、まだこの世界に来てから 一月(ひとつき) ちょいだから、変わってたらそっちのほうが問題か? それにしても街を見る余裕が出てくるのは、一体いつ頃からなんだろうな」

そんなことを呟きながら、俺は治癒士ギルドへ入った。

「聖シュルール教会、治癒士ギルド、メラトニ支部へようこそ」

中に入ると、一人の女性が声を掛けてくれた。

「どうも」

挨拶してからカウンターに向かう。どうやらクルルさんもモニカさんもいなかった。

「すみません。お布施の納付をしたいんですが、よろしいですか?」

カウンターの女性にそう告げる。

「ありがとう御座います。そう致しましたら、治癒士ギルドカードを出して頂けますか?」

「はい」

俺はカードを渡す。

「治癒士ランクGのルシエル様ですね。 一月分(ひとつきぶん) の御納付金ですが、銀貨一枚になりますが宜しいですか?」

「あの一年分の残り銀貨十一枚を先にお支払いしても構いませんか?」

「はい。ですがそう致しますとこの先一年間、正確には十一ヶ月の間、昇格をしようとした場合は、別途お布施を頂く形となりますが宜しいですか?」

「はい。そんなに簡単に昇格は出来ないでしょうし」

あ、そういえば、昇格って聖属性魔法を鍛えるだけだっけ? 詳しい説明を受けたっけか? ・・・まぁ当面は今の生活が続くし、また今度聞きにくればいいか。

「それではカードを返却させていただきます」

そう言って丁寧に対応してくれた。

冒険者ギルドへ帰る途中、治癒士ギルドが前世の役所みたいなところだったんだな。そう感じながら、此処へ来たばかりの時は、それを感じる余裕も無かったことをしみじみ考えていた。

一年が三百六十日で十二ヶ月、一週が光、火、水、風、土、闇の六日の五週で月三十日、時間も地球の時計のような魔力時計という物が売られているらしい。

今も余裕はないが、本当に今よりも余裕がなかったんだと思いながら、冒険者ギルドへの道を急いだ。

「良く帰ってきた」

冒険者ギルドに戻ると何故かブロド教官が待っていた。

「えっ? 態々(わざわざ) 待っていたんですか?」

その声が聞こえたのか、後ろではクスクスっと兎獣人の受付嬢のナナエラさん、人族の受付嬢のミリーナさん、同じく人族の受付嬢のメルネルさんが笑っていた。

「た、たまたまだ。よし訓練に行くぞ」

何故か午前中の訓練は、今までよりも少しハードだった。

昼食を食べ終わると、ブロド教官は布鞄から一冊の魔法書を取り出した。その表紙には聖魔法低級魔法一覧と書かれていた。そしてテーブルに置いた。

「ちゃんと冒険者ギルドに帰ってきたお前に、役に立つものをやろう」

「俺は幼児ですか?! はぁ~ってこれは?」

「治癒士は回復魔法のヒール、解毒のキュアが出来て漸く半人前だ。小僧はヒールしか使えないんだろう?それを見て勉強しろ」

ソッポを向いたツンデレ?のブロド教官をグルガーさんは笑っているが、俺が笑ったら午後の訓練に響くことが分かっていたので堪える。

「これは普通に嬉しいです。ありがとう御座います。俺、これからも頑張ります」

そう宣言をしてみた。

「おう」

とだけプロド教官は答えた。

「くっくっく。だったらこれを飲んで鍛錬に行って来い」

またもや物体Xを置いたグルガーさんは、これの臭いが強烈で直ぐに厨房へ消えていった。

「さっさと飲んでいくぞ」

「ブロド教官は、飲まないからいいですよね」

俺は少し嫌味っぽく言う。

「俺には必要ないからな。先に行くぞ。」

ブロド教官はそう言って訓練場へ向かって行った。

俺は溜息を吐いてから、我慢して物体Xを飲み干してブロド教官の後を追った。