作品タイトル不明
404 教皇の決断とルシエルの報告
聖シュルール教会本部上空へ転移して感じたのは、聖都全体が落ち着きを取り戻しているということだった。
聖都を魔族や魔物が襲わなかったことが大きいのかもしれない。俺とルミナさんは教皇の間へ向かうと、そこには多くの者達の姿があった。
「これは一体?」
ルミナさんの疑問を俺も同じように抱いたが、俺とルミナさんに気がついた教会関係者達が何も言わずに道を譲ってくれた。
教皇の間の扉は開け放たれおり、俺とルミナさんが入室すると教皇様とカトリーヌ騎士団長とガルバさん、教会本部の重鎮であるマルダン大司教達の姿もあった。
そのマルダン大司教が俺とルミナさんが入室したことに気がつくとこちらへと詰め寄ってきた。
「ルシエル殿、一体どうなっているのですか!?」
急に詰め寄られても意味が分からず、俺は教皇様へと視線を向けて助けを求めた。
その教皇様は既に疲れた様子だったが、今やってきた俺とルミナさんが分かるように説明を始める。
「マルダン、先程から言っている通りじゃ。妾は教皇の座から退身することを決めたのじゃ」
その発言を聞いて俺も驚いたが、その反面そういう決断をする可能性もありえるのではないかと思っていた。
ただ教皇様を神聖視してきた教会の重鎮であるマルダン大司教達にとっては、青天の霹靂だったのだろう。
「教皇様、直ぐにというわけではないですよね?」
「無論じゃ。邪神を倒すことが出来たとはいえ、各地に残った邪神の迷宮、魔族や魔物の 集団暴走(スタンピード) 、そして新たに結界が崩壊した暗黒大陸の問題も解決せねばならぬ」
「マルダン大司教、そういうわけですからまずは落ち着いてください。そして教皇様への報告も一緒にお聞き願いたい」
「ふぅ。聞かせていただきましょう。報告が終わったら話を聞かせていただきたい」
「承知しました」
これで直ぐに教皇を辞するというのなら話は別だけど、問題が山積みになっているのだから責任感の強い教皇様が全てを放り出せるわけがないのだ。
それでもマルダン大司教達には、教皇様の退身は納得できないことだろうけど……。
「教皇様、報告申し上げます」
「うむ」
「危惧していた通り、暗黒大陸の結界が崩壊したことで、各地で魔物の活動が活発化しておりました」
マルダン大司教を含めた教会本部の重鎮達に驚きはないが、俺達を通してくれた教会関係者からは驚きの声が上がった。
「やはり結界が崩壊したことによる影響は大きそうじゃな」
「はっ。各地にて魔族の姿を確認し、影響の大きさを実感した所存です」
「魔族が各地にとは穏やかではないのじゃ」
聖都に被害がなかったから、教皇様にとっても魔族が各地に出現していたことに驚いたようだ。
その教皇様よりも驚いたのはマルダン大司教達だった。たぶんマルダン大司教達も教会本部の迷宮の魔物が強化されていることは知っていたのだろう。
しかし魔族と聞いて、一気に場がざわめき出した。
「ルシエル殿、魔族が出現しているのですか! 何よりそれはどこからの情報なのです」
俺はざわめきを無視して報告と続けようとしたが、それよりも早くマルダン大司教から問われてしまった。
普段は冷静なマルダン大司教が教皇様への報告を遮るとは、教皇様の退身宣言で余裕がなくなっていたからだろう。
そう冷静に分析した俺は教皇様へ視線を向けたら頷かれたので、マルダン大司教へ回答することにした。
「まず暗黒大陸の結界が邪神によって破壊されました。私達はその後に邪神を倒すことには成功しましたが、暗黒大陸から瘴気の渦となった魔族と魔物がこの地で再構築され出現したのでしょう」
「なんということだ。それでは世界の危機ではないか」
「はい。そのため現在こうして報告させていただいています」
「うっ、た、確かにそうなのだろう。しかし各地の魔族とどうやって確認したのだ」
マルダン大司教は俺の話を信じないのではなく、ただ信じたくなかったのだろう。
そしてその問いに答えたのは教皇様だった。
「ルシエルが賢者へと至ったことは皆も知っておるじゃろ? ルシエルは伝説の転移魔法を習得しているのじゃ」
「教皇様、確かにルシエル殿が転移魔法を習得したことは存知あげています。しかし各地で魔族を確認したということは戦闘もあったはず。いくら戦乙女聖騎士隊隊長のルミナ氏がいるとはいえ……」
「くっくっく。マルダン大司教は知らぬようじゃが、ルシエルはルミナよりも強いどころか、邪神を一人で倒したのもルシエルなのじゃぞ」
「なっ!?」
マルダン大司教だけでなく、全ての視線が俺に集中し、ルミナさんも頷いている。
ガルバさんは嬉しそうに目を細め、カトリーヌさんは逆に目を大きく見開いた。
「その証拠にルシエルは賢者だけでなく、創造神から聖者のジョブを授かったのじゃ」
教皇様が余計なことを口にしたせいで、おかしなことになりそうな気がした。
「報告を続けます。各地の魔族はほとんど浄化、または暗黒大陸へ転移させました」
「こういう報告をする時だけはルシエルもつまらんのじゃ。でもよくやってくれたのじゃ」
俺の報告を聞き、あまりに現実離れした内容だったからか、マルダン大司教達は固まったしまった。
「最後にブランジュ公国全域の魔族と魔物をほぼ無力化したので、教皇様には各国の要人と今後について話し合いをお願いし、報告とさせていただきます」
そして最後の爆弾を落として俺の報告は終わった……と思ったんだけど、以外に教皇様の復活が早かった。
「ブランジュ公国全域じゃと!? ルミナ、ルシエルの申したことは?」
「事実です。今後も魔族や魔物の動きに注視する必要はありますが、ブランジュ公国を賢者……いえ、聖者ルシエルが救いました。ただ……」
「ただ……何じゃ?」
「ブランジュ公国の権力者がほぼ消滅したことにより、覇権を争う内戦が起こる可能性があります」
ルミナさんの言葉に教皇様は驚き、カトリーヌさんと視線を合わせたが、たぶんあり得ると思ったのだろう。
教皇様の視線が俺に向けられた。
「だからこそ各国の要人との話し合いをなるべく早くしていただければと思います」
「そうじゃな。それではルシエルにその任せるんのじゃ」
「はっ」
こうして教皇様の命を受け、各国へ散らばった皆に要人達へコンタクトを取ってもらい、三ヵ月に世界首脳会合が開かれることになった。
その間に俺達は世界に散らばった魔族を暗黒大陸へ転移させ、各地の邪神の迷宮に残った 核(コア) を回収し、ルシエル商会を通じて各国へ復興支援を行い、世界首脳会合の開催日を迎えた。