軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

394 レインスター卿からの提案

邪神が最終形態に変身する最中、先程まで死闘を繰り広げていた師匠とライオネル、そして何故かレインスター卿が助けた半魔神からの視線を感じた。

その中でも半魔神は特に混迷を極めた表情だったが、徐々に自分が助けられたことを把握したからなのか、怒気と殺気が膨れ上がるのを感じた次の瞬間――。

まるで師匠の【瞬動術】を模倣したかのような速度で攻撃の間合いを詰め、六本の漆黒の剣で俺の身体を襲いかかってきた――が、レインスター卿は大した攻撃ではないとばかりに手に持つ剣で半円を描くように軽く振って全ての攻撃を弾き返し、半魔神の喉元へ切っ先を向けた。

半魔神は自分の攻撃がここまであっさり弾かれたことに目を見開いた。

「いきなり攻撃とは酷いな。まぁ色々混乱させたみたいだから少し会話をしようか。まず私は全身全霊を尽くしたあの死闘を穢すつもりは一切ない。本当に素晴らしい戦いだったと思う」

「それならば何故、我まで生かしのだ」

「それはこの暗黒大陸を魔族である君に統治してもらうためだよ」

「???」

半魔神は困惑した表情を浮かべたが、俺もレインスター卿の考えが理解できなかった。

「魔物や魔族は弱者には従わない。逆に言えば暗黒大陸最強の君には全ての魔物と魔族が従属するということだ。そして何より大事なことは残虐非道で快楽を求め謀略を企てることを好む魔族の中で、君はただ弱者が嫌い強者との戦いを望む希少な武人だ」

「我がそのような面倒事を引き受けると思うか? そもそも魔族を滅ぼし、暗黒大陸を貴様達が統治すればいいだろう」

「残念ながら暗黒大陸の瘴気は他種族にとっては毒なんだ。だから統治することは出来ないのさ。だから弱者に冷酷であったとしても、強者と戦う以外には冷淡、それでいてしっかりと冷徹な判断を下すことが出来る君に統治してもらいたいと思っている」

師匠とライオネルはその言葉に一定の理解を示していた。レインスター卿は半魔神なら暗黒大陸を統治できると考えたのだろう。だけど俺はこの半魔神の圧倒的な強さを見ているので正直不安でしかない。

「どれだけ賛美な言葉を並べても我の考えは変わらない。そして先の戦いを貴様が穢したこともだ!」

だけど半魔神の怒りも収まっておらず、レインスター卿の提案は拒絶された。

「そうか。さらに強くなっていく彼等とこれから何度でも戦える機会を考えていたのだが……」

「それはどういうことだ!?」

「言葉通りの意味だよ。彼等にはかなりの伸びしろもあるし、君が暗黒大陸を統治してくれたら暗黒大陸にそこまでの結界は必要なくなるだろう。そうすれば定期的に戦える機会を設けることも可能だからね」

すると今までの怒りが嘘だったかのように収まり、半魔神の心が揺れているのが面白いように分かった。

まさかこの半魔神も師匠達と同類……なのか。

その後ろで師匠とライオネルからは訝しげな視線が向けられていた。たぶん俺が俺でないことに薄々感づいているのだろう。

「その提案が本当であれば考えなくもない……が、最低条件はお前達が邪神を倒すことが出来たらの話だ」

「それは私の確定事項だから条件には入らないよ。さて、ルシエル君の師匠と従者殿、魂が震える良き戦いを見せてもらった」

「やはりルシエルじゃないのか。一体何者だ?」

「ルシエル様をどうした?」

師匠とライオネルからは剣呑な雰囲気が漏れ出すが、レインスター卿は気にすることなく軽く自己紹介を始める。

「私の名はレインスター・ガスタード。ルシエル君が邪神を倒すために召喚した英霊……でいいのかな? 自分のことを英霊だと紹介するのはおかしい気がするな」

すると師匠とライオネルから剣呑とした雰囲気が消え、どこか納得しているような印象を受けた。

「それでレインスター卿が何故ルシエルの身体に入っておられるのでしょうか?」

師匠が敬語とか初めて聞いたな。

「それはルシエル君が私を召喚することが出来るか不安を覚え、確実に邪神を倒すためにその身に私を召喚したからだね」

「そんな、それではルシエル君は!」

レインスター卿の言葉を聞き、先程まで気を失ってしまっていたはずのルミナさんの声が下から聞こえた。

「安心するといい。ルシエル君の魂は私と共存しているし、この会話もしっかり聞こえている。それに邪神を倒したらルシエル君にこの身体を返すからね。私は愛する人を誰からも取り上げたりしないさ」

レインスター卿がルミナさんにウインクして答えるとルミナさんは安心したように笑った。

よく考えてみれば俺の身体なのだから俺が話しているのと変わらない……そう考えると急に恥ずかしくなってきた。

「貴様が父を殺した勇者レインスターだったのか!?」

半魔神が何とも言い難い顔でレインスター卿に驚きの声を上げたが、襲い掛かってくることはなかった。

「そうだね。仕方なかったとしても私が暗黒大陸を魔物と魔族の血で染めたのは事実だ」

その言葉に後悔の念は一切含まれていなかった。

「本当に一人で乗り込んできたのか」

「そうするしか選択肢がなかったからね」

本当に一人で暗黒大陸に乗り込み、魔王を含めた魔族や魔物と戦ったのか。

「そうか……。我ら魔族は強者が正義であるという考えは昔から変わらないから文句を言うつもりはない。だが、魔族を殲滅しなかったのは何故だ?」

「魔族の中にも本当にごくわずかだったけど、魔族らしくない家族や仲間を守るためだけに戦う気高き者達がいたんだ。だから殲滅はせずに結界を発動することで魔族が暗黒大陸の外へ出ることを封じ、気高き魔族達を生かす選択をしたんだ」

魔族は全て悪だと思って戦ってきた俺にとって、それは色々と考えさせられることだった。救いは俺が戦ってきた魔族は全て残虐で好戦的だった。

「本当に邪神を倒し、定期的に戦いを楽しめる機会を設けるのであれば貴様の提案を聞いてやる。どうせ邪神によって暗黒大陸に残った魔物や魔族は数えられる程しか残っていないからな」

「それは良かった。この約束はこの身体の持ち主であるルシエル君が引き継いでくれるから安心していいよ」

いやいやいや、何を勝手に決めているんだ。俺は抗議の声を何度も上げたが、俺の声が聞こえているレインスター卿は笑ったまま取り合ってくれなかった。

「さて、そろそろ時間がなくなってきたな。私がこれから邪神を倒した後の話をしよう。暗黒大陸の結界が崩壊したことで瘴気の濃度が高まり、強化された魔物が各地で出現するようになる。たぶん 魔物の集団暴走(スタンピード) が起こる可能性は高いだろう」

「父様、協力して欲しいのじゃ」

縋る教皇様へ近づき、レインスター卿は優しく頭を撫でた。

「フルーナ、これは今を生きている君たちが解決するべきことなんだ。皆は分かっているね?」

師匠達はレインスター卿の言葉に頷いた。

「最後に私は全力で邪神を討伐するためにルシエル君の身体を酷使してしまうことになる。何とか回復してあげてほしい。そうすれば大半の問題は解決できるからね」

ちょ、ちょっと最後の最後でなんて不吉なことを言い残すんですか。

そこへ上空から爆発音が聞こえ、空を見上げれば邪神が本当に変身していた。

頭の真紅の角や六対の漆黒の羽根にそこまで変化があるようには見えなかったが、龍となっていた下半身に足が戻り長く太い尻尾が生えていた。

しかも赤黒い球体の小さな結界のような膜が あれが邪神の最終形態なのか。

先程まで普通に話していた師匠とライオネルまで震え、何とか足に力を入れて立っている状態だ。

やはり人の領域を大きく逸脱している存在なのだと改めて感じる。

「くる!!」

レインスター卿が鋭い声を上げると、邪神の纏っている羽根が広がり、紫色に光ったと思ったら羽が凄まじい速度で落下してきたのだ。

レインスター卿はその攻撃に対して剣を振り、全ての落下してくる羽を消滅させ、逆に邪神を覆った膜が裂いた。

その一瞬の出来事をレインスター卿と身体を共存する俺は認識することが出来ていたけど、皆やあの半魔神さえも視認することが出来なかったのだろう。

その理由は再び時が静止した世界へ俺達が入り込んでいたからだ。

「ルシエル君、これから体験することが君にとって生きていく糧になってくれることを願う」

レインスター卿はそう口にして邪神のいる空へと飛翔した。