軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

387 魔族の城

城壁の一部を破壊し、轟音を立ててのかなり乱暴で雑な侵入となってしまった。

そのため魔族や魔物が直ぐに集まってくるだろうと予想し聖龍幻化を維持したまま警戒していたのだが、一向にその気配はなく城の内部は何事もなかったような静寂に包まれていた。

「魔族や魔物の姿が見えないだけじゃなく気配すら感じないのは不気味だな」

「結界を破ろうと瘴気の渦になったのは、城の外の魔物だけではなかったのかもしれないな」

師匠とライオネルの感想に俺は軽く頷き、不気味だと感じつつ聖龍幻化を解除して着地した。

「ライオネルは奇襲されても防げるように大盾の準備、師匠とルミナさんは周囲の警戒、教皇様は魔物や魔族の魔力探知をしてください」

そう指示を出して、俺は邪神のいる場所を探すための 追跡者の目(トラッキングアイ) を魔法袋から取り出し、邪神の顔を思い浮かべながら弦を引き、額を射抜く想像をして放った。

すると追跡者の目から放たれた光は正面の廊下を一直線に伸びていく。

「運が良いのか悪いのか、どうやら邪神はこの階層にいるみたいですね。そうと分かれば……」

俺は侵入した箇所と追跡者の目から伸びなかった通路に聖域結界を展開して塞ぎ、無駄な戦闘を避けることにした。

たったそれだけことだけど気が楽になり、周囲をしっかり見回す余裕が生まれた。

俺達が侵入した城の廊下は漆黒の石が敷き詰められて冷たい印象を受けるが、姿が微かに反射するほど磨かれているかのように綺麗で汚れなども一切ない。

壁や天井に関しても同じ漆黒の石が使用されているみたいだが、元々この城が岩場から築城されたのか、壁や天井などは剥き出し感が強く天然の迷宮のようにも感じるが、暗黒大陸の瘴気を吸っているからなのか、ところどころ赤黒く変色し発光しているからなのか模様が浮かんでいるように見える。

その模様の発光とは別に瘴気が燃えているのかと錯覚する紫黒の炎が薄暗く廊下を不気味に照らしている。

魔族と魔物だけが棲む大陸だから、もっと殺伐とした 髑髏(ドクロ) や骨が埋め込まれた迷宮みたいなものを想像していただけに 単純(シンプル) だけど洗練されているように感じる。

ただ俺達の目的は暗黒大陸やこの城の物見ではないので、直ぐに追跡者の目から放たれている光を追い城の中へと進んでいく。

しかし城が広いこともあり邪神への警戒と緊張で皆が無口なため精神的に疲弊を感じた俺はこの城の感想を口にすることにした。

「魔族や魔物だけが住む世界なので、もっと魔境を想像していましたよ」

「魔族にも色々な奴がいるってことだろう。それこそレインスター卿が張った結界のおかげで高位の魔族はこの暗黒大陸を出ることも出来なかったようだしな」

「確かにそうですね。そういえば教皇様、師匠の言ったように暗黒大陸にレインスター卿が結界を張ったことは分かるのですが、高位の魔族だけが暗黒大陸から出られない結界をどうやって構築されたか分かりますか」

これは単純に気になっていたことだ。俺の聖域結界も同じように魔族や魔物を通さないようには出来る。ただ低位の魔物などは聖域結界に触れた瞬間に青白い炎で浄化してしまう。

その原理が知りたかったのだ。

「暗黒大陸や聖都父様がどのような結界を構築したのかは分からぬ。じゃが、父様は全ての魔法は魔力を媒体とし、現象をしっかり設定し想像することで創造するのだとよく言っておられたのじゃ」

想像して創造か。俺が魔法を開発した時は既存の魔法を改良しただけだった。でも確かにレインスター卿は魔法を想像によって創造することが出来ると教えてくれた。レインスター卿に追いつくにはまだまだ研鑽が足りないのは分かっているけど力不足だと分かるだけに悔しいな。

ただ三百年も破壊されることがない結界ということは、その結界を維持するための魔力を補わなくてはいけないはずだ。

そうなると考えられるのは……

「既存の結界魔法ではなく、新しい結界を想像し創造したのか……」

「おい、ルシエル。そろそろ集中しろ。未だに魔族や魔物の気配はないままだが、嫌な感覚が徐々に強くなってきた」

「はい」

師匠に返事はしたものの皆に目配せすると俺だけじゃなく皆が師匠の嫌な感覚に首を傾げていた。しかし師匠が嫌な感覚を捉えているのはその師匠の身体から湯気が立ち昇り異常発汗していることを考えれば間違いないのだろう。

「ああ、旋風が感じているのはこれか。ルシエル様、どうやら邪神がいるだけの城ではあるみたいです」

今度はライオネルが大盾を前に突き出し襲撃に備えて腰を落とした。

「呪いやその類のものですか? それなら直ぐにディスペルや浄化波を発動します」

「落ち着け。既に俺達はルシエルと教皇から邪神に触れても平気な魔法を付与されているだろ。これはそういう類のものじゃなく、得体の知れない何かに無理矢理死線上に引き攣り込まれる感覚だ」

「師匠とライオネルに狙いを定めてということですか?」

「ああ。邪神と戦う前のウォーミングアップだな」

「左様。ルシエル様が邪神を倒すまでにはしっかり合流させていただきます」

二人はそう告げ、俺は二人を信頼し頷き、それから間もなく封印門のような巨大な扉が追跡者の目の光を阻んでいた。

念のために師匠とライオネルには聖域鎧と、エリアバリアを発動してから巨大な扉をライオネルと師匠が開いていったのだが、そこには魔族や魔物の姿はなく城の中だとは思えないほど広い部屋だった。

ただ追跡者の目の光は部屋の中央で突如として消えていた。

「何か仕掛けたがありそうですね」

俺は浄化波を発動させ青白い光の波が部屋の中を進んでいくが、やはり部屋の中央で浄化波は消えてしまったが、それ以外には何も起こらなかった。

それならば呪いでも消すことが出来るディスペルならどうかと発動してみるが、何も変化はなく揺らぎも感じなかった。

「教皇様、何か思い当たる現象はありませんか?」

「すまないが心当たりがないのじゃ」

「そうですか。しかし進むしかなさそうですよね」

「そうだな。ルシエル、余っている剣があれば出してくれ」

「はい」

俺は魔法袋に余っている聖銀の剣を取り出し、師匠に渡すと師匠は唐突に地面へと剣を叩きつけたと思えば天井にも同じように剣を振るい聖銀の剣は砕けてしまう。

師匠は気にすることなく、今度は使い物にならなくなった剣を部屋の中央に投げた。すると剣は中央で消えることなく甲高い音とともに弾かれた。

「どうやら姿形だけじゃなく魔力や気配を消し、ルシエルの聖属性魔法を消せるのが俺の相手らしいな。そうなんだろう?」

すると師匠の声に反応するように何もないところから 大鬼(オーガー) のような巨躯をした六本の腕を持つ漆黒の鎧を身に纏った騎士が姿を現した。

その瞬間、背筋に寒気が奔った。もしかすると邪神と同じかそれ以上に……そう考えただけで足が震えてしまう。

「我が求めるのは武人との死闘。邪神の元へ進みたければ我を倒すか、我が贄と戦っている間に先へ進め」

そう告げ、漆黒の騎士は踵を返し中央へ戻っていくと消えてしまった。

その瞬間、圧が消え去り額から汗が噴き出してきた。

「ルシエル、俺が戦っているうちに先へ進め」

一瞬、師匠が何を言っているのか分からなかった。

「師匠、あればやばいです。全員で戦いましょう」

あんな化け物を師匠だけに戦わせるわけにはいかない。

「いや、悪いが足手纏いだ。ああいう相手に回復魔法は意味をなさない。一瞬でも気を抜いたら死ぬだろう」

「しかし」

「やれやれ旋風、自信がなさそうだな。あれは武人を求めていたのだからお主ではなく私がいってもいいのだろう?」

俺が説得しようとしたところで、ライオネルが師匠の代わりとなることを宣言した。

だが、それも俺は認められない。

「あん? あれは邪神のウォーミングアップだって言っただろ」

「そうか? あまりにも自信がないようなので自らの命と引き換えに進ませようとしているようにしか見えなかったぞ」

「けっ、お前はルシエルのことをちゃんと守ってればいいんだよ」

「確かに私はルシエル様の筆頭従者だ。だからルシエル様の望み通りお主とあれを倒してからルシエル様と合流するぞ」

俺も二人ならば乗り越えられる可能性があると思うが……。

そんな俺の様子に気がついたのか、師匠は怪訝そうな表情で俺を見た。

「ん? 何だ、その顔は? もしかして師匠を信じられないのか?」

「勝てますか? いや、勝って俺が邪神を倒すまでに戻ってこられますか?」

俺は無理矢理笑ってみせた。

「ふん、俺一人なら間に合わないかもしれんが、戦鬼がいるから間に合うんじゃないか。なぁ」

「ルシエル様、必ず旋風を連れて行きますので、ご安心ください」

「ライオネルも必ず無事に戻ってきて」

「承知致しました」

ライオネルはしっかりと頷いた。

「教皇と聖騎士の嬢ちゃん、ルシエルが邪神に速攻で負けないように頼むぞ」

「なっ!?」

「任せるのじゃ」

「しっかりと守ってみせます」

「それじゃあ、またあとでな」

「はい」

師匠とライオネルはゆっくりと中央へと進んでいくと、その姿を消した。

そして追跡者の目から放たれた光を遮っていた何かが消えると、光は部屋の奥に出現した大きな紫黒の球体へ触れた瞬間に弾けて消えた。