軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

382 誓いと覚悟、そして……

人を殺める覚悟……そんなものはいつだって持ち合わせてはいない。

そのために治癒士という平和的な 職業(ジョブ) を選択したのだけどな……。

それでも人と似た種族でありながら、決して人とは交わることなく、対立するしかない魔族を初めて浄化した時から、その業を全て背負って生きていくことを決めたのだ。

だから元人族であったとしても世界に混乱と恐怖、厄災を招くというのであれば対処しなければならない。

それが力を持った者の責任でもあるのだから……。

しかし、どうやら男を浄化するという単純なことではないらしく、教皇様の焦り具合から一筋縄ではいかないことが予想された。

「そんなに焦るなんて一体何事ですか?」

「よく聞くのじゃ。その男にトドメを刺した場合、各地の上空に出現している魔法陣が大地に落ちることになるのじゃ」

魔法陣が落ちる……聖域結界で消滅させることが出来るだろうか? 単純な召喚魔法なら聖域円環で破壊することは出来たけど……。

「魔法陣が大地に落ちたと仮定して、俺が張った聖域結界が消滅するから魔族や魔物が出現するということでしょうか?」

「そうではないのじゃ。各地の魔法陣が大地に落ちると、その魔法陣が新たな魔法陣の一部となのじゃが、どうやら各地にある迷宮と暗黒大陸が繋がってしまうのじゃ」

「何ですって!?」

レインスター卿が暗黒大陸を封印してくれたから、凶悪な魔族や魔物が出現することがなかったのだ。

それが迷宮とはいえ繋がってしまったら 魔物の集団暴走(スタンピード) どころの被害では済まないぞ。

「教皇様、その魔法陣の解析はどこまで正確なのでしょう?」

俺が驚いている中で師匠は冷静さを保ったまま教皇様へと質問した。

「その男を倒した場合、あの球体が各地の魔法陣と繋がり、各魔法陣からそれぞれ守護者が出現するらしいのじゃ」

「ではその守護者を倒せば問題ないのでは?」

「それはその通りじゃが、可能性がある以上、下手なことをするわけには……」

どうやら教皇様の中で迷いがあるらしく、決断することができないようだ。

しかしここで考えている時間はそれほど残されていない。

未だに魔法陣からは魔物が現れては俺達の攻撃によって粒子となり球体へと吸い込まれている。

どのみち時間が解決してくれることではないのなら、ここで男を浄化するか、球体が完成するのを待つしかなくなってしまう。

「それでは仲間達に聞いてみましょう。既に仲間達が俺に命を託してくれています。その仲間達の判断に委ねます。もちろんその責任は俺が負います」

そして俺は教皇様の返事を待つことなく、皆へと魔通玉を通して連絡を入れた。

内容は魔法陣から強敵が出現すること。そして迷宮から魔物が溢れる 集団暴走(スタンピード) が起こる可能性があることを告げた。

すると直ぐに返答がきたのはケフィンとケティだった。

『ルシエル様、こちらケフィンです。先程の光の攻撃のおかげでルーブルク周辺のアンデッドが消滅しました』

『凄いニャ、助かったニャ。だから今度はこちらが助ける番ニャ』

『ですから、ルシエル様の思うように行動してください』

『その代わり、ライオネル様をしっかりと守るニャ』

「ありがとう。よろしく頼む」

あ……あの光は教皇様が精霊達を解放したのだと伝え忘れた。

まぁ後で説明しよう。

そして次に連絡がきたのは驚くことにハットリからだった。

『こちらイエニスにいるハットリでござる。どうぞ』

「えっと、そちらに強力な魔物か魔族が出現する可能性があるんだけど……」

『拙者の活躍のシーンが増えるのはウェルカムでござる。どうぞ』

魔通玉はトランシーバーではないのだが、まぁいいか。

「ハットリは一人で対応することができるのか?」

確かにハットリも少しはレベルが上がり強くなったけど、一人だと不安に感じる。

『心配ござらん。クレシア殿とアリスが一緒でござる、どうぞ』

「二人も了承しているのか? それと二人が応対しない理由は?」

『ルシエル様とクレシア殿が連絡を取り合うのに拙者が嫉妬するからでござる。どうぞ』

急に声が小さくなったな。それにしてもまさかそこまでクレシアを慕っているとは……。

「それならアリスは?」

『ルシエル様とアリスを会話させてしまったら、クレシア殿とも会話させないのはおかしいでござる。さすがに不信感を抱かせるのは都合が悪いでござる』

どうやらハットリなりにいろいろと考えているらしく、何だか感心してしまった。

ただそれが良いか悪いかはまた別の問題だ。

「そういう嫉妬する気持ちがあるのは相手を想ってことだから、ある程度は仕方ないだろう。だけどクレシアがそのことを知ってどう思われるかも考えた方がいいと俺は思う」

『色々な女性から好かれているリア充のルシエル様には非モテの気持ちなんて分からないでござる……。ただ忠告は有難く受け取っておくでござる。どうぞ』

ハットリは素直だし、普通にしていれば容姿は良い部類なんだけどな。それにしても女性と接するだけでこれだけの嫉妬を受けるのか……。

でも俺にしてみれば師匠やライオネル、バザックと一緒に修行している時間の方が圧倒的に長い……空しくなるから、もう考えるのは止そう。

「それならイエニスはハットリに任せた」

『 承(うけたまわ) ったでござる。どうぞ』

何だかハットリと会話しているだけで疲れてしまったが、ここでポーラからも通信が入った。

『光が空から魔法陣へ吸い込まれてから魔物が現れない』

『それだけでは伝わりませんわ。ルシエル様、魔法陣からデストロイヤーらしき魔物が出現しましたが、倒しましたわ』

「それは凄い。でも魔物が結界から外へ出たのか?」

まさか特別な聖域結界を魔物が突破するなんて……。

『何だか訳の分からない集団が結界を攻撃して、結界が揺らいだ後に落ちてきた』

ポーラが言っているのはこの男が言っていた死兵だろう。

「その集団はいまどうしている?」

『光が空から降ってきて一面を白く染めて、光が収まるともういなかった』

『まるでルシエル様が転移したように消えていましたわ』

教皇様は確か精霊石に封じられていた精霊達を解放すると言っていた。

それならば自由になった精霊達が反撃したからなのか、それとも精霊石が何らかの現象を引き起こしたのかもしれないな。

それにしてもあの聖域結界が揺らいだということは精霊石を用いた兵器の威力はかなりのものだったみたいだな。

「それで先程も伝えたけど、魔法陣から強敵が出現する可能性があり、地下から魔物の集団暴走が考えられるが……」

『ドワーフ王国はこの日のためにしっかりと準備してきた』

『ロックフォードの職人さん達も何だか凄くやる気でしたわ』

それはそれである意味で怖いのだけれど……。

「それじゃあロックフォードは二人に任せる」

『ん』『任されましたわ』

本当に頼もしくなった。

『ルシエル、こちらドランだが、飛行艇が攻撃能力を失ったわい』

「それは一体……」

『空から無数の光の雨が降ってきて飛行艇を守るためには仕方なかったのだ』

ドランに言われて気付いたが、確かにあの光が攻撃であれば空を飛ぶ飛行艇が墜落するのを何とか避けようとするはずだ。

俺もまさかの展開だったから、そこまで気が回らなかった。

「ドラン、申し訳なかった。あの光は攻撃ではなく、精霊石を兵器として使わせないために精霊達を解放するためのものだったんだ」

『こういう状況だから連絡出来なくても仕方ない。儂等は常にやれることのベストを尽くすだけだ』

「そう言ってくれてありがたいよ。でもそうなると帝国の魔法陣と闇竜がいた迷宮から魔物が現れたら不味いことになりそうだな……」

『それなら問題はない。飛行艇はまだ飛べるし、飛行艇が攻撃能力を失ったのなら攻撃する兵器があれば問題ないだろ?』

「まさか!?」

『リィナに言われて研究していた自走砲台を使うことにする』

自走砲台……戦車だろうな。しかし現代兵器を開発しているとは思わなかったな。

リィナは転生者であり、魔道具技師だけど、発想は地球にいたものをただ倣っているだけに過ぎない。

これ以上の兵器開発はもっとこの世界を殺伐なものへと変えかねないから、いざということを考えて、注視しておかなければならないな。

「ドラン、もし難しそうであればポーラ達やケフィン達へ支援を要請してほしい」

『分かっておる。こちらは任せておれ』

ああ、頼もしい。本当に俺は仲間に恵まれた。

そう思っていると今度は仲間ではなく、グランドルの冒険者本部からの通信が舞い込んできた。

『賢者ルシエル殿、無事ですか?』

「ええ、無事ですよ。何かありましたか?」

『ずっと通信が繋がらなかったので心配しておりました』

「それは申し訳ありませんでした」

『いえ、それよりも空から飛来した光はルシエル様が?』

「いいえ、教皇様です。精霊石に封じられていた精霊達を解放するためのものでした」

『聖シュルール共和国の皇帝が動かれたのですか!!』

「ええ。邪神と戦うための戦力には欠かせない存在なので……」

俺は教皇様へと視線をむけると、どこか照れたような表情しながら強力な魔法を魔物へと打ち込んでいる。

どうやらこちらの声が聞こえていたようだ。

『なるほど。実はあの光が落ちる前にグランドル周辺の町や村に魔物だけではなく、ブランジュ公国の兵士が集団で現れたのですが、光が落ちた後になって気がつくと消えていたので……』

まぁ魔物や人が目を少し離したら忽然と消えていたら、安堵よりも恐怖だろうな。

「もし説明が必要であれば、そのままお伝えください」

『はい。そういえば巫女がまた未来予知をしたのでお伝えたします』

「巫女の方は何と?」

『それがどうも抽象的な内容なのです。偽りの世界で漆黒の闇が悠久の時を与える。 然(さ) れど光が邪魔で悠久の時が消えていく。漆黒の闇はその光をも呑み込み、静寂な世界が訪れるが……です』

「その続きは?」

『これで終わりです。抽象的ですが、あまりいい印象を受けなかったのですが、お伝えしようかと……』

なるほど。これは伝えるのにも勇気がいっただろうな。

巫女の予言か……。それにしても静寂な世界が訪れる が(・) 、か、きっとそこからは未来が見えなかったのだろうな。

「ありがとうございます。巫女に無理する必要がないとだけお伝えください」

『賢者ルシエル殿、それはいったいどういう意味ですか?』

「言葉通りです。また連絡します」

『……お待ちしております』

悪いがこれ以上は不安にさせてしまうだけじゃないし、知らない方が幸せなこともあるだろう。

そしてずっと待っていた男から遂に返答がきた。

『ルシエル殿、こちらは特に問題ない。魔物や魔族、悪戯をする洗脳され操られた兵など取るに足りないからな』

基本的な戦闘力は師匠やライオネルには全く及ばない。

しかしバザックは一人で数多の敵と戦い殲滅させることが出来る魔法の使い手だから、あの謀略の迷宮に残ってもらったのだ。

ただし本当ならば連れてきたかった。その理由は――。

「それは頼もしい。ただバザックならば魔法陣の解析をしているのではないかと思って連絡を待っていたんだ」

『それなら既に終わっている。あれは召喚魔法ではなく、空間魔法で間違いない』

「空間魔法!?」

『うむ。空間と空間を繋げ、こちらへと出来くる時には強化され、あちらへ移動すると弱体化されてしまうようだ』

そこまで読み取っていたのか……。やはりここはバザックに頼ろう。

俺はネルダールへと転移してきたアンデッドや魔族のことから、ブランジュ公国へ転移して今に至るところまで簡潔に説明した。

「それでバザック、ここに召喚魔法を使う邪神の使徒がいる。トドメを刺すことで各地の魔法陣と繋がり守護者が出現するらしいのだけれど……」

『なるほど。あの光は教皇が放ったのか、何とも興味深い一度お会いしたいところだ』

どうやらバザックは教皇……というよりも、教皇様の魔法に興味を持ったらしい。

「それでどう思う」

『それは使徒ではなく生贄の間違いなのでは?』

バザックの言葉がすっと俺の耳へ入ってきた。

確かに本人は使徒だと言っているし、球体からも力を得てはいる。

しかしこの男を倒すことで各地の魔法陣に守護者が発生するのであれば、確かに生贄でしかない。

もしかすると本来はメインリッヒ卿を生贄にするつもりだったのかもしれない。まぁ実際のところは分からないけど……。

「それで起動させるつもりだったんだけど、仮に魔法陣を攻撃するとどうなるか、予想することはできないだろうか?」

『ふむ。魔法陣を見てみないことには正確なことは分からない、その前提で話を進めよう。仮に魔法陣というよりも、その球体を攻撃した場合考えられることは三つ。まずは爆発、もしくは消滅』

「具体的には?」

「瘴気をそれだけ吸収しているということは、爆発すれば文字通りその周辺を吹き飛ばすことになるだろう。消滅とはその球体が瘴気の塊なのであれば、ルシエル殿が浄化して消すことも可能かと」

爆発か、消滅か、出来れば消滅してほしいところだけど……。

「それで三つめは?」

『その男が球体の力を取り込み、絶対的な力を得るか、邪神が出現するのではないかと愚行致す』

はぁ~もっと楽な予想が嬉しかったな。

「助言に感謝する。グランドル周辺のことは任せるよ」

「任された。出来ればブランジュ公国に残っている魔導書や歴史書などは保護してもらえれば嬉しい」

「了承した」

まるで負けることなど考えていないバザックの言葉が勇気を与えてくれた。

こうして俺は決断を下すことにした。

「師匠、ライオネル、教皇様、ルミナさん。この男が生贄なのではないか、それがバザックの予想でしたが、俺もそうではないかと思いました」

「それでどうするんだ?」

師匠やライオネルだけでなく、教皇様とルミナさんも俺の意見を尊重してくれるらしい。

「あの球体を直接浄化すると爆発、もしくは消滅。あとはそこの男が強化される、もしくは邪神が出現するのではとバザックが予想してくれました。だから俺は魔法陣と球体の両方を攻撃したいと思います」

たぶん爆発する可能性が高いだろう。

それでも各地で踏ん張ってくれている皆の負担が少しでも軽くなるのであれば、結界を張ることも出来る俺達が爆発を受けた方が被害を最小減に抑えることが出来ると考えたのだ。

「そうか……。ルシエル、もしもの時は俺もお前の責任を一緒に負ってやる。だからお前は結果を気にせずに人知を尽くせ」

「縁起でもないぞ、旋風。まぁ万が一爆発したところで、ルシエル様さえ無事であれば私達は何度でも立ち上がれますから、守りは任せてください」

「妾も結界を張るのじゃ。球体への攻撃は任せるのじゃ」

「ルシエル君、皆で世界を救おう」

それぞれが俺のことを想ってくれることに感謝して俺は聖域結界をまずは自分達へと発動し、球体と魔法陣に聖域結界を発動させて準備は整った。

一度深く息を吐き出し、大きくなった球体と魔族と魔物を出現させる魔法陣へ狙いを定め、聖域円環を発動した。

その直後、球体が激しく震えだし、鉄と鉄が擦り合うような異音がする中で球体に亀裂が入っていく。

爆発するんじゃないのか……そう思った瞬間、心臓を鷲掴みされるような圧迫感に襲われた。

すると球体が激しく飛び散ると、球体側に張っていた聖域結界を突き破り、こちらの聖域結界へ球体の破片が突き刺さった。

《やれやれ、人間という生き物はいつの時代も身勝手なものだ。まさかせっかく用意したゲームの駒を倒さず、余を狙ってくるとはな。マナー違反もいいところだぞ》

球体から闇の化身である邪神の声が脳に直接送られてくるようで最悪な気分だ。

それにしてもこのタイミング対峙することになるとは思わなかったな。

邪神は球体から軽やかに浮かび上がると、俺達を眼下に見つめながらその魔力を解き放つのだった。