軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

378 瘴気の中の幻影

扉の奥から嫌な感じが伝わってくるが、俺は何となくこの扉の先には邪神がいない気がしていた。

それでも念とために聖域結界を発動しておき、いきなりの襲撃に備えると、師匠とライオネルがそれを確認してから左右の扉を片側ずつ押し開いた。

するとずっと行き場のなく押し込められていた瘴気が、僅かに開いた隙間から噴出するかのような凄い勢いで溢れ出てきた。

聖域結界はその瘴気を浄化していくが、視界が紫黒に染まって何も見えないため、俺は浄化波を発動して瘴気が消していく。

しかし聖域結界が何か攻撃を受けたのだろう。その攻撃による轟音が響き渡ると、いきなり聖域結界に罅が入ってしまった。

俺は慌てて聖域結界をもう一度発動し、浄化波で対抗しようとした時だった。

「ルシエル、守りと援護は任せるのじゃ。ルミナ、妾達は索敵したのち攻撃じゃ」

「はっ」

二人はその言葉を残して瘴気が覆われた部屋へと突入していく。

俺はそれを止めようとするが、既に師匠とライオネルの姿もなく、二人に気を取られていた隙に突入したのだと理解した。

「本当に俺の周りには俺を心配すると冷静に行動することが出来ない人達しかいないな……」

そう呟きながら、俺は自分の口元が緩んでいたことを自覚していた。

教皇様は俺に援護を頼んだけど、師匠、ライオネル、ルミナさんは俺が援護してくれると信頼しての行動だろう。

まぁ教皇様のように声をかけてもらった方が対応しやすいんだけど……。

俺は援護すべく、小さな聖域結界反転させて発動し、聖域属性を増幅させた浄化波を連続で発動していく。

初めは浄化波が瘴気の壁に吸い込まれていき、効果が出ているのか分からなかったが、七回目の浄化波を発動すると俺にも部屋の中の様子が見えてきた。

そして何か高速で戦っている様子を捉え、さらに浄化波を三度発動した時、完全に瘴気が消滅したのだが……。

「この状況は一体……」

師匠とライオネルが対峙していたのは物語に出てくる吸血鬼のように漆黒の大きな羽根を背中から生やし、鋭い牙と妖しく輝く緋色の眼光をしている。

どうやら長い爪から滴り落ちる血液を操って武器としているらしい。

師匠とライオネルがかすり傷を負っているみたいだし、かなりの強敵にも思える。

ただ明らかに吸血鬼の方が追い詰めているように感じるから不思議だ。

教皇様が対峙していたのは試練の迷宮で俺が対峙したキングワイトに近い見た目をしていた。

しかし明らかにキングワイトとは比べ物にならない程の濃密な瘴気、殺気、狂気を内包した魔力をその身に纏っており、手に持った杖からは紫黒の魔力が 迸(ほとばし) っていた。

そのキングワイト似た魔物に対し、教皇様もまた青白い光をその身に纏い、世界樹の杖からは黄金の魔力が迸っており、互いの杖から放たれた魔力が引かれ合うように中央で拮抗している。

こちらも拮抗はしているものの、教皇様が力をセーブしていることが何となく分かる。

そしてネルダールで自称魔王に完勝したルミナさんだったが、瘴気を纏った一人の貴族服を着る青年の攻撃を必死で躱し続けていた。

特に苦戦するような相手ではないと思うのだが、もしかすると何か関わりがあった人物なのかもしれない。

そんな二人を玉座から愉悦に浸るように見入る人族の中年男性らしき姿が確認することが出来た。

ただ男性は他の騎士達とは違い瘴気を纏っているのにも関わらず、その影響を受けていても意識がしっかりとしていそうだった。

しかし俺が何よりも困惑したのが、こんな状況なのにも関わらず、楽しそうに踊る着飾った者達の姿だった。

初めは今までと同じように過去の舞踏会が開かれた光景を見せられているのだと思っていたが、踊っていた者達が実体化したように師匠達とぶつかり、その動きを妨げる。

しかし師匠達が触れようとしても、幻影のようにすり抜けてしまうようだ。

あれが魔族や魔物であるならば対処も難しくないと思うけど、楽しそうに踊る者達を攻撃対象にすることは出来ず、戦いに集中することは難しいのだろうな。

俺も浄化波でも浄化されないのだから、幻覚なのかどうなのかも判断することが出来ない。

それにしても聖属性を増幅させた浄化波を十回発動したのにも関わらず、四人が戦っている魔族や魔物、騎士にも効果がないとは思わなかったな。

それでも援護するには浄化波が一番だと信じて、しっかりと目を凝らして浄化波を発動し援護に入る。

効果があればそれだけで教皇様の戦いも優勢に傾くだろうと判断したからだ。

しかし浄化波が部屋の中へと入っていくと、魔族、魔物、騎士の下に魔法陣が浮かび、瘴気の障壁が出現して浄化の波を弾くのが分かった。

どうやらあれのせいで効果がなかったらしい。

今まで聖属性に対策を講じてこなかったから、てっきり何もしないのだと思っていたけど、本拠地ではさすがにしっかりと対策していたんだな。

もちろん師匠達であればあの魔法陣から魔族達を押し出すことは難しくないだろう。

だけどその場合、踊っている者達になんらかの影響があるかもしれないと懸念しているのだろう。

俺は瘴気の障壁に浄化波が防がれることを理解した上で、それでも浄化波を放ち続けることにした。

一度、二度、三度と、浄化波を放つが全て瘴気の障壁が出現して弾かれてしまう。

しかし俺が浄化波を放つことを止めなかったことで、状況に変化が訪れる。

「いつまでも無駄なことをしておるのだ! それとも意味がないことに気づくこともできない無能なのか!」

先程まで玉座に座って愉悦に浸っていた男が立ち上がっており、俺を睨みつけて怒鳴り声を上げたのだ。

その声はもちろん俺の耳にも届いていた。

しかしその声に構うことなく浄化波を発動させていく。

俺の目的は瘴気の障壁を破壊すること……ではなかったからだ。

ただこれが男の気に障ったのだろう。

男が纏っていた瘴気が膨れ上がり、瘴気が魔族、魔物、騎士へと流れていく……が、その瘴気はタイミングが悪く浄化波に飲まれて消えてしまった。

それを見ていた師匠、ライオネル、教皇様、そしてルミナさんまでもが笑ってしまう。

「この世界を束ねる私の邪魔をしたな~~!!」

そして憤怒の表情になった男がそう声を荒げると、今まで踊っていた者達の動きが止まり、俺の方へと身体を向けた。

それでも俺は関係ないとばかりに浄化波を放ってから男を挑発する。

「邪神の 僕(しもべ) となったのに、中途半端な幻影を使って人々を脅かすことぐらいしかできないのに……ふっあっははは」

「だから物事の本質を見抜けぬ貴様らは無能だと言うのだ。こいつらはただの幻影ではなく、俺が奪ったこいつらの記憶だ。記憶を実体化させるぐらい余裕なのだ」

偉そうに記憶を奪ったと告げた男に対して怒りの感情が芽生えるが、それだけでは情報が足りないため、俺は小馬鹿にした表情を作り挑発を続ける。

「邪神にお願いして記憶を奪って幻影を使える……それで戦えるのか? 邪神のお気に入りだったブラッドはもっと強大な力を手にしていたけど、比べると何だか……」

「あんな貧民と一緒にするな。貴族である私のこの力も真価も分からぬ無能が!」

どうやらブラッドと面識があったらしく、さらに苛立ったようだ。

「俺達の目的は邪神であって自分の力も説明できない 法螺(ほら) 吹きに用はないんだけど?」

俺は追跡者の目を高く掲げ、光が伸びる玉座の後ろに隠れている鏡を見ながら告げた。

「この私を法螺吹きだと……神に選ばれた血を引く私を……。それならば貴様の身を持って知ればいい。往け、記憶の亡者どもよ。侵入者に血の裁きを与えよ」

男の命令と同時に踊っていた者達が俺へと駆け寄ってくる。

そして俺が攻撃をしようと幻想杖を幻想剣に変えて構えた時だった。

「ああ、そうそう。私が奪ったこの記憶達だが、一定以上の攻撃を加えることで、この空間から記憶の持ち主に還元されてしまうことになっている。ふくっ、くく、ただし攻撃したこともそのまま身体に還元されてしまうが、な」

想定した通り最悪な解除条件だった。

「俺達がそれを聞いて攻撃することが出来ないとでも?」

「ああ。だって世界を救う賢者様なのだろ? だったらブランジュ公国の公国民も救ってやらないと、な」

どうやら男は俺のことを知っていたようだ。きっと俺が非常になれず甘いことも知っているのだろう。

ただ男は俺にヒントを出し過ぎたことと、師匠達のことを甘く見過ぎていることにまだ気がついていなかった。

俺は迫りくる記憶の幻影達へと駆け出すのだった。