軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

341 揺れるネルダール

精霊女王の依頼を遂行するために魔術士ギルドを出ると、そこには区画整理された街並みが広がっていた。

「この街が本当に空を飛んでいるんだから、これを人の身で成し遂げたレインスター卿はやっぱり、人の皮を被った何かだったんだと思えてくるな」

ある歴史書にネルダールの面積が載っていて、そこには直径五キロの円形だと書かれていた。

ここから端までは見ることは出来ないので本当にそれぐらいの大きさがあるかは分からないけど、この大きな街が空に浮かんでいることを実感してみたい。

それと端まで行っても落ちないような工夫がされているだろうから、その技術を飛行艇にも応用することが出来れば……そんなことばかりが頭に浮かぶ。

ただその前に精霊女王の依頼を片づけなくてはいけないのだ。

「それにしても精霊女王からの依頼が人命救助だとは思わなかったですよ」

「人命救助ではなく瘴気を消すことと新たな魔族を生み出さないことです。この街にいる者達が瘴気を受け続ければ、まず身体が弱くなり、次に精神が不安定になり、そして最終的には魔族になってしまうのです」

人命救助というよりは魔族を生み出さないように動く感じなのかな。

それにしては一番被害のある魔術師ギルド内を後回しにするのは何故だ? ……まぁいいか。どうせここに来るまで何も話さなかったのにも理由があるんだろう。

しかし瘴気を吸うと魔族になることがあるとは……人を魔族にする方法って思っていた以上にあるんだな。

魔族と人族は元々同じ種だったとかありえそうだけど、呪いのように浄化すると消えてしまうのだから、こちらにとっては脅威な存在であることは間違いないだろう。

それにしても瘴気で魔族化すると精神崩壊したまま魔族になるはずだから、狂戦士のような魔族が出来てしまうってことか。

ある意味そちらの方が怖いな。

だからこそ帝国もブランジュも魔石による魔族化に切り替えたんだろうけど。

まぁどちらにしてもこれを考えて実行した者は間違いなくマッドサイエンティストだな。

「元が人であろうと魔族であろうと、ここが重要な拠点であることは理解していますので、魔族がいたら容赦はしませんし、助けられる人は一人でも助けますよ。何かあれば念話してください。直ぐに転移しますから」

「ありがとう。念の為に私達は精霊化した状態で動くわ。リディアは賢者ルシエルについていきなさい」

「畏まりました」

リディアは拒否するような性格ではないし、言われたことを引き受けてしまうそうな気がするけど、やっぱり発言力を持った方がいいよな。

少しだけリディアの考えを聞いてみるか。

そして俺達は八方向へ別れて、瘴気を吸って体調を崩した者と魔族化した者を探すことになった。

歩き出して直ぐにリディアへ精霊女王が精霊石を奪うこともせず、依頼を優先させたことについて何か聞いているか訊ねることにした。

今までなら精霊の加護を授かっている俺やリディアの為に動くことはあっても、他の人族の生死には干渉しなかったのが精霊だ。

しかし今回は人族の人命救助に動いた。

確かに瘴気うんぬんの話は本当のことだろうけど、精霊女王が俺達に語っていない別の目的があるだろうと思ったからだ。

「リディアは何故精霊女王がブランジュよりも、人命救助を優先させたのか分かるかな?」

すると少し考える素振りを見せて、リディアは俺の問いに答えだした。

「そうですね……ネルダールにいる方々のほとんどは魔族化の研究とは無関係ですし、精霊さん達も瘴気が苦手なので、もしかするとブランジュの研究所ではなく、この街のどこかに原因があると思われたからではないでしょうか」

なるほどな。

魔族がいたことや精霊石があったことで、瘴気の原因があそこだと決めつけていたけど、もしかすると本命は別だったって可能性もあるのか。

そしてそれは魔術師ギルドではないと判断した……いや、それなら念話でも伝えられた筈だよな。

今のネルダールには全力で魔力を込めた浄化波を発動しているから街中の瘴気は全て消えている筈だ……。

「あ!? 待てよ……。ピュリフィケイションウェーブを全力で発動したけど、建物を挟んでいたから威力も弱まっていた可能性があるのか。それを精霊女王達は補足していたのか」

「たぶんですがそうかも知れません。ただどうして念話をされなかったのか、それは分かりません」

「魔力の揺らぎを感知される可能性が少しでもあったからなのか、それとも自然な形で魔術師ギルドを出るためだったから……考えられるのはその二点だな」

「それでルシエル様、全ての家を回られるんですか?」

リディアは区画整理された街を眺めながら、顔を曇らせるけど、さすがにこの全ての家を見ていくのは無理だ。

こんな時は力押しに限る……本当にレベルが上がっていて助かることが多い。

さらに家の中に入らないようにすれば、誰が回復したのか分からないだろうし、一石二鳥だな。

「いや、気配と魔力を探って怪しいところにはピュリフィケイションウェーブを発動するけど、弱っている気配のところにヒールかミドルヒールを発動していくよ」

「そんなことをされて魔力が持つんですか?」

「ああ。世界樹の迷宮で……そうか!!」

どうしてあれほど隠していたのか分かったぞ。

どこからどう漏れて世界樹がこのネルダールにあることがバレないようにするためだったのか。

そうであれな精霊石よりも優先させた意味は分かる。

「どうされたんですか?」

リディアにはまだ知らせない方がいいだろう。

真面目だし直ぐに顔に出てしまいそうだからな。

「少し思い出しただけだよ。レベルが上がった恩恵で、かなり魔力が増えたから大丈夫だよ」

「そうですか。でも無理はしないでくださいね」

「ああ。行こうか」

精霊女王達の本当の目的は世界樹を守るために、疑わしいところを全て浄化することだったんだな。

時空龍との話の中で、世界樹は瘴気を打ち消す効果があるようなことを言っていた覚えがある。

でも逆にまだ小さい段階の世界樹が、そこまで瘴気を打ち消す力があるのかは非常に微妙だし、もしかすると精霊と同じように瘴気が悪影響を及ぼすことも十分あり得る話だ。

さらに世界樹を優先させたのは、ブランジュの研究室にいた魔族が、たった二度の浄化波で燃えてしまうぐらいの魔族だったから、大したことはないと判断したんだろうな。

たぶんさっき燃えていたのは魔族の力を欲したただの研究者だったんだろう。

それならすべて辻褄が合う……そう自信満々に閃いたと思った時だった。

激しい爆発音と共にネルダールが大きく揺れたところで、魔術士ギルドの中心部から物凄い勢いで瘴気が立ち上っていく。

「下手に頭を使うよりも、全て力業の方が何だか上手くやれそうな気がするのは、一体誰の影響なんだろうか……でもそれが今の俺か」

瘴気の発生している大元の場所を理解した俺は、リディアに転移先を伝えて、舞い上がり続ける瘴気に蓋をするよう聖域結界を張ってから転移するのだった。