軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

325 主神との交渉

封印門が見えてきたところでいくつもの空気を膜を通ると、落下速度が徐々に緩やかとなり、封印門の手前で完全に止まり、身体が壁際へと引っ張られてしまう。

直ぐに空中で体勢を整え、壁に着地して周りを確認してみると、俺はその瞬間、この空間があの転生した空間に酷似していることに気がついた。

落下していた時には輝いて見えていた景色が色を失い、真っ白な世界へと姿を変えていたからだ。

「この空間は……」

「この迷宮の最下層でしょう。封印門があるので、この先に時空龍がいると思います」

「それは分かっています」

いきなり変わった空間に驚きもしないなんて、精霊のいる世界では珍しいことではないんだろうか?

それとも人の姿、形をしていても、精霊は感情が希薄なんだろうか?

「たぶんですが、時空龍が空間を創りだし、許可していない者は入れない仕組みを構築しているのかと」

「……精霊女王はこの場へ訪れたことはなかったのですか?」

「ええ、一度もありません」

「……そうですか」

封印門の先に主神クライヤの依代である時空龍がいることは知っているのに、一度も来たことが無いのか…。

まぁ精霊はどこにでも存在するし、目の前にいるのは精霊の頂点である精霊女王だから、人が計れる存在じゃないだろうけど。

「早速ですが、封印門を開いてもいいですか?」

「ええ。中に入れば時空龍と戦うことになるでしょう」

覚悟はしているけど、何だかこう淡々と話をされてしまうのは納得がいかない。

地上に戻ったら、属性龍と属精霊を集めて物体Xパーティーでもしようかな。

色々なレシピをグルガーさんが保有しているだろうし。

俺はそんなことを考えながら、気になることを聞いていく。

「戦うのは構わないんですが、精霊女王はどうされるんですか?」

「私は失った力がまだ戻らないので、精霊化を維持したまま、戦闘の邪魔にならないようにするだけです」

一緒に戦ってもらえればきっと心強い存在だと思っていたんだけどな。

実際に光の精霊であるフォレノワールは強いし、前任の賢者も精霊達の力を行使して、魔物の 集団暴走(スタンピート) を止めたぐらいだからな。

ただ相手は主神の依代である時空龍だから、どこまで精霊の攻撃が通じるかは疑問ではあったけど……それでも、精霊女王が言っているように、本当に戦うことになるんだろうか?

「分かりました。あ、最後にご存知であれば、時空龍の攻撃、魔法、特性などを知りたいんですが……」

「レインと時空龍が戦った時は、ブレスが途中で空間に飲み込まれて全く違うところから出てきたり、時を止められたりしていました」

……そんな大事なことは最初に言っておいてほしい。

転移や空間が歪ませて多方向からのブレスはまだ予想通りだ。だけど時を止められたら、それこそ一瞬で負けるに決まっている。

「レインスター卿はどうやって勝ったんですか?」

「レインも時を止めることが出来たから……それに戦いはしたけど、勝敗はつきませんでした」

俺は平穏に暮らしたかっただけなのに……どこで間違えたんだろう。

人より少し強くなっただけで増長していたのか? なぜ少しでも戦える気になっていたんだろう。

何か時間止められても大丈夫なアイテム……はないから、スキルを探してみるか。

SPはかなり溜まっている。

だけど肝心の時を止められる耐性が付くようなスキルが存在していなかった。

仮に俺が時空属性を習得したとしても、スキルレベルを直ぐに上げるなんてことは出来ないだろう。

せめてアンデッドになっているとか、そろそろ依代が転生期にきてくれることを願うしかないか。

「行かないのですか?」

精霊女王の声で思考の渦からは戻れたけど、本当に他人事だよな。

ここで口論しても迷宮から脱出することは出来ないけど、本当に納得いかない。

「出来れば勝算がないまま、進みたくないのですが、何でもいいので、少しでも勝ち方や勝率を上げる方法を知りませんか?」

精霊女王は目を閉じ、首を振った。

「はぁ~」

その様子を見て、もう一度頭を切り替えて考えてみる。

今からもう一度迷宮の魔物を倒してレベルを上げてみるか? いや、さすがに時を止められたら終わるから意味はないだろう。

それなら時空属性を取得……しても時を止められるようになるまで、時間が掛かり過ぎる。

そしてまた転生龍達を全て倒していいのか、迷い続けることになるだろう。

「はぁ~ここで待っていても仕方ないか。封印門を開きます」

「ええ」

覚悟を決めて封印門を手で触れると、封印門が俺の魔力を吸収して光の文様を浮かび上がらせていく。

これで光龍を除いた転生龍達が封印されていた全ての封印門を開いたことになるのか。

特別報酬とかはないのかな。

そんなことを思ってみたけど、あの脳内に聞こえるアナウンスが流れることもなかった。

まぁ分かっていたことだけど。

「じゃあ行きましょうか」

「ええ」

封印門を通り中へ進むと、時空龍が中央に浮かんでこちらを見下ろしていた。

俺は直ぐに幻想剣を構えようとして、その行動を止めた。

時空龍の瞳を見た瞬間、全く敵意を感じなかったからだ。

まぁ敵意なんてあっても無くても、人を簡単に転生させてしまうぐらいだから、人ひとりの人生を終わらせてしまうことも容易だろう。

「いい判断だね。初めまして転生者君。それと久しぶりだねラフィルーナ」

念話ではなく、少年ような声が転生龍から発せられたことに驚く。

目を閉じていたら、たぶん龍だとは思わないだろうな。

「初めましてルシエルと申します。主神クライヤ。転生させていただき感謝しています」

「いつも私を監視していたのに、久しぶりというのはどうでしょう? 時空龍」

先程と全く様子は変わらないのに、さらっと毒を吐く精霊女王。

本当に勘弁して欲しい。

なぜ穏便に地上へ戻る交渉をすることが出来ないのだろうか?

「う~ん、転生はこちらの娯ら……こちらの世界を発展させるためだから気にしなくいい。それよりも転生者君が私を主神だと分かっているのは何故だい? ラフィルーナが語るとは思えないんだけど」

本音は娯楽だったのか……まぁそれでも転生させてくれたことにとても感謝しているから問題ない。

「時空龍が主神クライヤ様の依代であることをレインスター卿から教えていただきました」

「レインかぁ~。彼なら自らの精神エネルギーを特殊空間に固定したんだろう。しかしわざわざ寿命を縮める行為をするとはね」

「寿命を縮める?」

「そうだよ。魔力とは違って、空間に自分自身を固定するには、当然それなりの代償を支払うことになるのさ。世界樹を切っておいて寿命を縮めるなんて、罪以外のなにものでもないのにね」

龍の姿をしているので表情は読めない。だけど何だか怒っている感じはしない。それどころかこちらの反応を試して楽しんでいる気がする。

「そうなんですね。ちなみにレインスター卿が邪神を退けていなかったら、どうなっていたんでしょうか?」

「……ところで転生者君は何でここにいるのかな?」

露骨に話題を変えてきたな。

でもこれなら戦わなくても済むかもしれないな。

それにしても主神とはいえ、全てを把握している訳ではないのかもしれない。

「はい。龍神様を含めた転生龍達と精霊達から、精霊女王を解放するという依頼を受けたからです」

「へぇ~転生龍達も……でも世界樹を壊した責任はレインと精霊達のせいだと思うんだよね。それを精霊女王も了承したから、新たな世界樹の守り役になったんだけど、転生者君はどう考えるのかな」

確かに話を聞いていきた分には、レインスター卿が精霊達の力を使って切り落としたことに間違いはないのだろう。

そうでなければ精霊女王が世界樹の為に贄されていることはありえない。

ただレインスター卿が生きていた頃は、贄にされることはなかったはずだ。

そしてあの規格外のレインスター卿が精霊女王を贄にすることを許すことはなかっただろう。

それこそ目の前にいる主神を敵にしても、だ。

たぶんこの件は誰かのせいにしての話をしていくと、ずっと平行線になって最後は戦うことになる確率が高い。

幸いなことに心の中まで読めないみたいだし、何も戦闘だけが戦いじゃないよな。

「そうですね。ただ邪神がこの世界に干渉することを許したことが、根本だと思えますね」

「ん? 転生者君は僕のせいだと言いたいのかな? そして説教でもするのかな」

威圧されたのか、空気がいきなり重くなった気がする。

「説教なんて滅相も無いです。世界樹を切り落とされた当時のことを私は知りまんから」

そう俺は当時を知らないし、知りたくもないのだ。

「ただ私が言えるのは、邪神がこの世界に干渉していなければ、私は禁術を使うことはなかったですし、精霊女王を助けにくることもなかったってことです」

「それで?」

「ですから、もし誰かのせいというならそれはすべて邪神のせいです。今からでも主神であるクライヤ様が邪神を止めることは出来ないんですか? そして邪神をクライヤ様の力で贄にすればいいのではないですか」

口から咄嗟に出たけど、我ながら中々いいアイディアだろ。

「いや、あれを贄にしたら、世界が瘴気で溢れて人類が滅亡してしまう。まぁ転生者君が言った通りで、全て邪神のせいなんだが……あれはどこにでも出没するからね」

とても呆れられた感じがするけど、この分なら戦闘をしなくてもいける可能性が高い。あわよくば対邪神の戦力になってくれるかもしれないぞ。

俺はさらに質問と対話を続ける。

「そもそも神様は世界に干渉で出来ないのなら、なぜ邪神は平気で干渉しているのでしょうか?」

「邪神は魔石に細工し、その魔石に触れた者の身体を依代として召還憑依しているからだ。もちろん憑依された者の魂や意識はそこで消滅してしまう」

それが分かっていて、なぜ対策を練らないのだろうか?

神様だから干渉出来ないのは分かるけど、他にやりようがあるんじゃないのか? それに……。

「それは干渉とは違うのですか? クライヤ様はそれが出来るんでしょうか?」

「媒体となる人が呼び出したことになるから、残念なことに自ら干渉していることにはならないんだよ。それと僕がそれをしたら、僕が邪神になってしまうからしないよ」

さすがに主神が邪神となったら、世界が滅んでしまうだろう。

それなら現実的な案を出してみるか。

「では、邪神と戦う際に、クライヤ様の力で封じてもらうことは出来ませんか?」

「その場に僕を召喚することが出来るのなら、邪神の力のみを封じることは出来ると思うけど、まさか転生者君が僕を召喚出来るとでも思っているのかい?」

「努力はしますが、召還することが出来るようになるかまでは、正直分かりません。ですが私が邪神と遭遇する確率は非常に高いです。その際に時空龍として私の元に転移していただきたいのです。この世界を救うために」

「どうやって知らせるのさ? 僕にずっと君を見ていろとでも」

さらに空気が重くなっていく。

「いえ、それはここにいる精霊女王や龍神が率先して動くから大丈夫です」

「えっ」

「えっ? それぐらい当然してもらいますよ」

急に話を振られて驚いていた顔をした精霊女王だけど、それぐらいやってもらわないと割りに合わない。

「あはっ、いいね。少しは面白いよ」

「ありがとうございます。それじゃあ協力していただけるんですね?」

「うん。世界樹を何とかしてくれるならね」

……時空龍が告げたその言葉を聞いて、精霊女王が何故ここに封印されていたのかを思い出し、俺は頭を抱えることになった。