軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

295 賢者VS旋風、戦鬼、深淵

何度考えてもおかしいと思う。

およそ半年前にレベルやスキルが初期化された師匠とライオネルは、着々と力を取り戻してきていた。

そして半月前に龍の力を過信した俺は師匠にあっさりと沈められている。

何故そこへ賢者に最も近いと謳われていたバザックまでもが加入するのか、理解出来なかった。

二十メートル先に少し長い直剣を持ち、獰猛的な笑みを浮かべる師匠。

炎の大剣と大盾を構えた無表情のライオネル。

掌をグーパーさせながら、目を瞑り自然体で合図を待つバザック。

対峙したからこそ分かる三人の圧力は、あのデストロイヤーに勝るとも劣らないものだった。

俺は幻想剣と盾を構えると、魔法陣詠唱を三つ、瞬時に発動出来るようにした。

そしていよいよ戦闘開始の時間となった。

「ルシエル、いくぞ」

「ええ。ただ先手はもらいます」

俺は笑って直ぐにアタックバリア、マジックバリア、サンクチュアリバリアを発動させた。

それが 開始(はじまり) の合図となった。

まず動いたのはライオネルとバザックだった。

炎の大剣に魔力を込めたライオネルが直径一メートル程になる炎弾をこちらへ向け撃ち出してきた。

それに続いてバザックが、遠慮を全く感じさせない程に無数の四属性魔力矢を空中へ出現させると、こちらへ向け撃ち出してきた。

たぶん師匠がライオネルの炎弾の後ろから迫ってくることは、気配で何となく分かっていたけど、よく突っ込んで来られるものだと感心しながら、俺は全てを迎い入れることにした。

そう、今回は初心にかえることにしたのだ。

迫り来る炎弾や魔力矢は聖域結界が威力を激減させるだろうし、バリアを発動したのだから死ぬことはない。

本当は水龍の力を使って氷壁を築いたり、土龍の力を使って地面から三人を喰らわせたり、闇龍の力を使って幻影を見せたりすることも考えたのだが、邪神同様、そんな小手先に頼るようではこの三人に勝てないだろうと判断したのだ。

だからこそ自分の能力を活かせる最大限の戦術をとることにしたのだ。

俺は幻想剣に水龍の力を纏わせて、師匠を待つ。

聖域結界に炎弾や魔力矢が到達すると、狙い以上の効果で聖域結界は第一陣となる炎弾と魔力矢を全て完封し、その役目を終えた。

まさか魔族の瘴気だけじゃなく、魔法に対してもここまでの効果があるとは思っていなかったので、うれしい誤算となってくれた。

キィィイインと迫ってきた師匠の攻撃を幻想剣で受けた時、闘技場全体に剣戟が響いた気がした。

「まさか真っ向勝負を受けるとはな。それで本当に勝てると思っているのか」

師匠は笑いながらそう告げてきた。

「ええ、良き師と巡り合えたもので、小手先ばかりに頼っていると大事なことを見落とすと教わりましたから……はぁああああ!!」

「チッィイイ」

俺は高速魔力循環で身体強化を発動させて、師匠を力で吹き飛ばした。

レベル差が絶対ではないけど、それでもステータスがかけ離れていると、こういった力押しも出来るのだ。

「【サンクチュアリアーマー】」

俺はまず師匠だけを狙い打つことに決めた。

バザックの魔法やライオネルの炎弾に聖域鎧が耐えられると踏んだからだ。

俺は既に師匠が着地したところを、幻想剣で斬り払おうと体勢を整えていた。

だが師匠は未だに笑みを浮かべていた。

その瞬間、師匠にはあれがあることを思い出したが、幻想剣が止まることなく、師匠の残像を斬ってしまった。

「ハッハッハ、いくぞ」

そんな目の前から消失した師匠の声が耳元で聞こえた時には、盾を持つ左腕に微かな違和感を感じることになった。

「【エクストラヒール】」

違和感の正体は確かめる必要がなかった。

バッサリと斬られていたのだ。

「本当にその技術はおかしいですよ」

「俺を支えてきた奥義みたいなものだからな」

「しかしその腕でよく剣が振れますね。やはり師匠は……」

「言いたいことはちゃんと言え。それにたかが腕を凍らされたぐらいで、剣が振れなくなったら、既に俺はこの世にいないんだよ」

そんな師匠との会話の最中、ゾクッとした悪寒が走った。

俺はその場で飛び上がり、狙い撃ちを避けるために風龍の力を使う。

「風龍よ、空を自在に飛翔する翼となれ」

その瞬間、炎の斬撃と四色の光が混ざり合った矢……いや、すでに槍が、俺のいた場所を通り抜けていき、三メートルの塀にぶち当たって爆発した。

俺はライオネルとバザックを見て悟った。

二人の戦闘狂を目覚めさせてしまったということに……。

戦闘に入ってから、聖域結界でも対処出来ると判断したことで、二人のプライドを大きく傷つけてしまったらしい。

ライオネルはいつの間にか大剣ではなく、槍に持ち替えてこちらを悪鬼のような顔で睨み、バザックは狂ったように四属性の矢ではなく、槍を空中に発動させていた。

「まずったか?」

俺がそう呟いた瞬間、バザックの魔力槍が俺へと向かって飛んできた。

俺はそれを何とか回避していたのだが、いつの間にかライオネルの間合いに入っていたらしく、ライオネルの槍が盾を持った俺の左腕を弾き飛ばすと、更に右膝まで打ち抜いた。

「【エクストラヒール】……何で槍が?」

ライオネルを見ても、全く開始時の場所から動いていないことに俺はただただ驚いていた。

しかしライオネルの槍がいきなり出てきた理由が分かった。

ライオネルが槍を構えたところで、槍の前の空間が歪んだのだ。

そしてライオネルが槍を突き出した次の瞬間、俺の目の前の空間が歪み、槍が出現したのだった。

俺はそれを慌てて回避して、ライオネルに文句を言う。

「ライオネル、その武器は何だ? 反則過ぎるだろ」

「これは神槍無突。レインスター卿が作り上げた魔導武器で帝国の宝具です。ただ魔法と違い最大射程距離が二十メートルとあまり長くありませんし、かなりの魔力を使うので多用することは出来ませんがね」

宝具を簡単に渡すなんて……アルベルト殿下に今度会ったら、泣いても物体Xを飲ませてやる……。

「よそ見しているなんて余裕だな」

俺の後方から師匠の声が聞こえた。

何故こうも連携がとれるのか疑問に思うところではあるが、これは俺にとっても負けられない闘いだった。

本来は師匠の技術を盗むつもりで、ずっと回復し続けながら戦うつもりだったけど、そうも言っていられないらしい。

「聖龍よ、我が身を守れ。雷龍よ、全てを置き去る力を。水龍よ、俺に触れるものを全て凍らせろ」

師匠の剣は俺の首を狙っていることが分かった。

きっと寸止めするつもりなんだろうけど、残念ながら負ける訳にはいかなかった。

俺は師匠の両足を幻想剣で斬り落とすと、空を駆けてバザックの両腕を切り落とし、ライオネルに迫ったのだが、どうやらここで俺の覚醒タイムにも限界が来てしまった。

そう、魔力が枯渇してしまったのだ。

残念なことに魔力ポーションの類は一つも持ち合わせておらず、買っていないことを思い出したのだが、その時もう一つ思い出したことがあった。

俺はすぐに物体Xの樽を取り出したのだ。

「ル、ルシエル様、何を?」

明らかに物体Xで攻撃されるのを心配しているみたいだったがそうではないのだ。

枯渇状態に物体Xを飲めば、枯渇のこの苦しみが無くなるのだ。

俺はすぐに物体X専用のマイジョッキに物体Xを注いで一気に飲み干した。

「ふぅ~不味い……けど、枯渇は収まったぞ。さぁライオネル、あとはお前だけだ。いざ尋常に勝負だ」

「……申し訳ありませんが勝たせていただきます」

ライオネルの槍捌きは、大剣のそれよりも様になっていた。

突き 払い、斬りが変幻自在に俺の全身を襲ってきて、これが発展途上の技術には到底思えなかった。

勝負はあっけなく決着を迎えた。

実はライオネルも既に魔力枯渇状態に陥っていたのだった。

物体Xを飲んだ俺は少しだけ回復した魔力に最後の望みを賭けて、再度身体強化を発動したらまともに攻撃が通ってしまったのだ。

こうして俺は師匠達を倒したのだった。

その後、ナディアとリディアがライオネルが神槍を出した辺りで、俺の魔力が枯渇するであろうことを想定したのか、急いで三階の工房へ向かい、技術班が解析を進めていた魔力結晶球を取ってきてくれていたおかげで、師匠達の傷をなんとか治療することが出来た。

そして師匠達に念願の復しゅ……罰ゲームが出来ることになった。

現在三人は物体Xが並々と注がれたピッチャージョッキを目の前にしていた。

「さぁ俺を鍛えてくれた時のようにこれを飲んでください」

きっと俺の顔はニヤけていただろう。

まさかこの人外の強さを持った三人に勝てたのだから、それは当然だった。

しかし師匠が物体Xを飲む直前に呟いた一言で、人の夢は儚いものだと悟ることになった。

「ルシエル、まさか負けるとは思わなかったぞ。これでお前に闘いを挑む口実が出来たな」

「えっ?」

それにライオネルが続く。

「此度は甘んじて罰を受けましょう。ですが、龍の谷で我らのレベルが上がったら、もう一度再戦を所望します」

「えっと、嫌だけど?」

「勝者とは追われる立場なのです」

俺の言葉を無視する形で最後にバザックが最もらしいことを言い切り、三人は合わせたように物体Xを呷るのだった。

バザックは気絶し、ライオネルはその場で小刻みに震え出し、師匠は千鳥足になりながら階段を目指して歩き出した。

勝者になったのは俺だっだはずだけど、始まる前よりも明らかに気持ちが沈む結果となるのだった。