軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

277 女性強し

ウィズダム卿は何やら焦っているようだった。

直ぐにでも逝ってしまいそうな兵士がいるのだろうと思い、早歩きで近寄っていく。

するとやはり焦ったように口を開いた。

「ルシエル様、何故我が国の負傷した兵士にあのようなことを?」

どうやら抗議だったようだ。

「ウィズダム卿。先程浄化の魔法を発動させたのですが、気がつかれませんでしたか?」

「いえ、少し鼻の調子が悪くなっているようで、何も気付きませんでした」

どうやら既に鼻が利かなくなっていたらしい。

「では、【リカバー、ピュリフィケイション】これでどうでしょう?」

「……ええ、あの臭いは消えていますね。でもそれがあの者達と何の関係が?」

「あれは十中八九公国ブランジュから紛れ込んだ者達ですよ……魔族の力を宿した」

「なっ!?」

……さっきルーブルク王国にもいるかもと警告したのに、 些(いささ) か驚き過ぎのような気もする。

「先程のピュリフィケイションは浄化魔法なのです。ですから魔族には……魔族の力の源である瘴気に効果があるのです。一応帝国の魔族、魔族化した兵は死亡したか、人へ戻っています」

「……まさか既に軍の中にもいるなんて……しかも彼らは私が見出したのです」

……もしかすると魔族の力同士が反応でもしたのかも知れないな。

それか帝国から逃げ帰ったサンプルとして、ウィズダム卿の経過観察でもしていたのか……。

どちらにしろウィズダム卿はかなりのショックを受けているようだった。

「賢者様、申し訳ありませんが、先に負傷した兵士達を治療していただいてもよろしいでしょうか?」

ルノア王女はそう言ってウィズダム卿を自分の元へと引き寄せた。

しっかりウィズダム卿を慰めてあげて欲しい。

ルノア女王はとても夫を立てるタイプなのかも知れないな。

そんなことを考えながら、重傷の兵士達をエリアハイヒールで一気に治療していく。

『ルシエル、それ以上の治療をすることは悪影響が出るわ』

そして四肢を欠損している者達をエクストラヒールで治療しようとしたところ、フォレノワールカら待った掛かった。

「どうしてだ?」

『今は貴方しか欠損を完治させられる聖属性魔法の担い手はいないのよ』

「でも今までも使ってきたけど?」

『今までも使っているから使用出来ることは知られているのは分かるわ。だけどあれだけの戦闘を終えた貴方が呼吸するように患者の欠損を治したら、要らぬ恨みを買うことになるわ』

「……それって逆恨み的なことか? “自分の元には来ない”みたいな?」

それはちょっと怖過ぎるな。誤った捉え方をされても困るし……。

『ええ。ここが聖都ならまだしも、自分が良く知りもしない国であることを忘れてはいけないわ』

「……いつも助言をありがとう、相棒」

『後で飛行遊泳に付き合ってくれるならそれでいいわ』

フォレノワールはそう念話を飛ばしてながら、何処か笑っているようだった。

俺の仲間達は皆が自分の欲望に忠実だと思いながら、特に遠慮がない女性陣に笑ってしまった。

それからエリアハイヒールを発動すること全三十回で、全ての重傷者及び行動に支障がありそうな兵士達の治療が終了した。

「怪我人の治療は約束通り無事に終わりました。これでルーブルク王国と敵対しないと思うと嬉しい限りです」

「賢者様、ありがとう御座います。マキシムに代わってお礼を申し上げますわ」

ウィズダム卿はどうやら、“プチルシエルン”に絞め上げられている部下達の元へ行き、何かを話しているようだった。

しかし彼らはウィズダム卿と話す気はなさそうで、うめき声を上げるだけだった。

「さて、ウィズダム卿。彼らの処遇はどうされますか? まずは人に戻しますか?」

近寄ってから声を掛けると、直ぐに頷いた。

『ルシエル、奴隷契約や変な契約をされていたら困るから、ディスペルを発動して、まずは彼らに不利な契約を破棄してしまいなさい』

「それが無難か」

『それでも口を割らなければ、あれを飲ませながらじっくりと聞けばいいと思うわ』

何やらフォレノワールが非常に好戦的となってしまっていることに、ようやく気づいた。

「……一応ルーブルク王国兵士だから、許可を取ってからだけどな。それよりもさっきまでと違って怒っているみたいだけど?」

話をしながら、三人にディスペルを発動させる。

『私のように加護が与えられる大精霊は精霊に仇名す者が分かるのよ。近寄っただけで嫌悪感が増すなんて、一体今までどんなことしてきたのか……』

……それらも聞いてみることにしよう。

だけどその前に確認を取っておかなければいけない。

「ウィズダム卿、彼らを拷問しますけど、いいですか?」

「えっと、今まさにしているのがそうなのでは?」

この程度では絶対に口は割らないでしょ。

師匠と訓練をしていた方がよっぽど痛いし怖い。

困惑するウィズダム卿に念を押すことにした。

「いいですか?」

「……ええ。お任せします」

ルノア王女もウィズダム卿に合わせて頷いてくれた。

「ありがとう御座います。それでは早速……公国ブランジュから潜入したのは既に分かっている。これでも何度か殺り合っているから知っているだろうけど」

俺は喋りながら物体Xの入った樽を出す。

ここ最近飲んでいなかったから、物体Xの臭いも忘れていたが、やはり治療施設の比ではなかった。

ウィズダム卿とルノア王女は後方に一歩、二歩と下がり、ポーラやリシアンは既にかなりの距離を取っていた。

『精霊に危害を与える者達には罰が必要よ』

フォレノワールは精霊化中だから側にいるが、その他にも今回は“プチルシエルン”がいるから、結構楽に物体Xを飲ませられるだろう。

まずは長時間キャメルクラッチをされている兵士に声を掛ける。

「今から物体Xを貴方に飲ませます。もし何かこちらが知らない有益な情報を握っていたら、次の方に飲ませる順番を移動することが出来ます」

一瞬男の視線が泳いだので、一応嘘がつけないことは教えておく。

「嘘は大精霊が見守っているので、吐けないことをあらかじめ伝えておきます。さて何かを教えてくれますか?」

キャメルクラッチを緩めながら、補助のもう一体が逆エビ固めを極めていく。

「痛い、痛い、痛い」

「それで何か知っていますか?」

「お、俺達が公国ブランジュの兵だって何で分かるだよ」

「帝国に潜んでいた魔族はもう既にいません。ちなみにブランジュから帝国へ送り込まれたクラウドという転生者は既に討ち取っていますし、皇帝の腕となっていた魔王を名乗る魔族も既に消滅させています」

俺は質問に答えながら、何も答えなかった男に物体Xを“プチルシエルン”に補助してもらい飲ませ始めると、途中で白目を剥いてしまった。

でも最後まで“プチルシエルン”は物体Xを飲ませていた。

ポーラが何故かサムズアップを決めたので、手を振っておく。

それにしてもこの人達って、本当に潜伏者だよな?

「何だ、情けない……さて、じゃあ今度は弓矢固めの貴方の番ですね」

「は、話します。話してももう平気なんですよね?」

そんなに飲みたくないんだろうか? それとも本当に潜伏者じゃないとか……まぁ違ったら違うで謝ればいいだろう。

「呪いや契約の解除は済んでいますよ」

「ううぅうあう」

するとロメロスペシャルを受けている人が激しく抵抗し始めたが、全く脱出出来ないらしいので無視する。

「俺達はイエニス、グランドル、ブランジュで活動していた盗賊だ。ブランジュの貴族に捕まって、命の代わりに潜入者へなることを誓ったんだ」

どうやら当たっていたようだけど、何を仕掛けるつもりだったんだろうね。

「その命令してきた貴族はカミヤ伯爵か?」

「違う。バクレイ子爵とメインリッヒ伯爵だ」

……ナディアとリディアの生家であるバクレイ子爵家が絡んでいたのは、聖都でドンガハハ氏に話を聞いていたから薄々そうだと思っていたけど、よりによってメインリッヒ家か……。

「じゃあ次、貴方は喋りますか?」

「はぁ、はぁ、喋ったら解放してくれるのか?」

「面倒なので、一人いればいいか……」

「待て、待て、待ってくれ。賢者は人に優しいんだろ?」

「賢者はジョブなだけで、私の性格がそれで改変される訳じゃないんですよ。盗賊、山賊、魔族に慈悲を掛けても裏切られるだけですし」

「話しますから、それを飲ませるのだけは……」

「じゃあ何を知っていますか?」

「公国ブランジュのが召喚したものを知っているぜ……知りたかったら解放してく……ださい」

フォレノワールを見ると、嘘はついていないらしい。

何故知っているかは疑問だけど、どうやら本当に知っているらしいので、“プチルシエルン”ロメロスぺシャルを止めさせた。

「それで何を召喚したんだ?」

徐々に男が距離を取ろうしているのが分かったが、そのまま質問を続ける。

「召喚したのは……誰が教えるか!」

男はそう言い放ち、出入り口に向けて走る。

これだけ人がいるから普通なら少しは逃げられるだろう。

しかし、甘い。ポーラ達に多くプチルシエル”がついていたので、“プチルシエルン”が“プチルシエルン”を飛ばして逃走した兵士を捕まえると、背後からおんぶの体勢を作ると、後方から手首を掴んでしたから上へと上げていった。

こうしてパロスペシャルが極まったところで、魔族化していた潜伏者達は次々と公国ブランジュの秘密を口にすることになった。

当然、パロスぺシャルを受け潜伏者は物体Xにより三度気絶したが、有意義な情報を収集出来たので、良しとして、帝国の方もそろそろ動きがあるだろうと、これから先のことに思いを巡らせるのだった。