軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

222 愚痴

血を吐き倒れたドンガハハのことがあり、一時場が騒然としたたが、ここで教皇様が皆に向かって声を掛ける。

「落ち着くのじゃ。ここに賢者ルシエルがいる限り、死にはしない。まずはジョブを消失させることとする。記憶の削除に関しては、魔族の件や他国の情報を取り調べた後で実行する」

教皇様はそう宣言すると、実行犯である魔族化していた騎士達の額に手を触れて何かを呟きながら、その行動を繰り返していった。

「これで御主らのジョブは消失した。残り少ない時間で、教会を混乱させたことを悔いるが良い。そして御主達にそのような行動をとらせた妾を恨んでくれ」

教皇様はもう一度頭を下げてから、ゆっくりと顔を上げると、今後について話し始めた。

「今回の一連の責任は妾にある。本来であれば、妾が教皇の座を降りるのは、当然のことだとも思っているのじゃ」

いきなりの宣言に、全員が石のように固まってしまう。

俺もこの宣言には少なからず動揺する。

「しかし、教会をこのようにしてしたまま誰かに委ねるのは、無責任でしかないとも思う。じゃからここにいる皆と、一人一人面談の機会を設けようと思う」

約七百名いる教会内部の一人一人と面談するとは、いきなり思い切ったことをすることにしたな。

ここにカトリーヌさんが居たら、また騒がしくなっただろうに……。

連れてくるときも結構大変だったからな。

もしローザさんがいなかったらと思うと、本当にゾッとする。

ただ教皇様が物事を決めるこの展開は、良い傾向なのかもしれないな。

さっきの教皇を降りると言った時は吃驚したし、万が一教皇の座を俺に譲ろうとしたのなら、飛行挺に乗って聖都から離れるつもりだった。

俺は教皇様の宣言に、耳を傾ける。

「面談では皆の考えを妾に聞かせて欲しい。自分がしたいこと、教会にして欲しいこと、見てもらいたいこと等、何でも良いのじゃ。もちろん全てが反映出来るとは言わん。しかしまずは皆の意見を聞いて、皆に教会のことを好きになってもらうことから、妾は始めたいのじゃ。どうか皆の知恵と力を妾に貸してほしい」

その真摯な呼びかけが皆の胸に響いたかどうかは分からない。

ただ騎士達は片膝を突いて、胸に手を当てると 頭(こうべ) を垂れた。

騎士ではない者達は手を丸めて重ね合わせ祈りの姿勢を取ったのだった。

「ルシエル様、少々よろしいですか?」

これで教皇様の裁きは終幕だろうと思っていると、端に寄っていた俺に幾つかの羊皮紙を抱えたケフィンに声を掛けられた。

そういえば、ガルバさんがいたのだから、当然ケフィンもいるよな。

「その手に持っているのは?」

「調べるように言われていた資料です。まぁ大半は必要なくなってしまったものですが……」

教皇様とドンガハハが話していた内容が、真実だったことの証明するもののようだが、しかし何処か歯切れが悪い。

「どうした?」

言われなければ分からないので、とりあえず訊ねると、予想していなかった答えが返ってくる。

「その男、実は最初から死ぬ気だったみたいです。これが遺書になります」

「遺書だって!?」

小さくだが驚きの声を上げてしまった俺に、周りにいた者達が微かに反応したが、騒ぎにはならなかった。

教皇様の挨拶も終わっているし、ここは閉幕させてしまった方が良いと判断しながら、遺書を見つめる。

きっとこれを読んだら、せっかく前を向き始めた教皇様の精神に多大なるダメージを与えることは必至だ。

「遺書と分かっているってことは読んだってことだな?」

「はい。それと同じ場所にあったのが、この魔族化に関する資料と、召喚に対するリスクについて事細かに書かれているもの。不正に関する資料をまとめたものがありました」

……それだけ教会のことを思っているなら、いくらでもやりようがあっただろうが。

カトリーヌさんは執行部にいた時に何か掴んでいなかったのだろうか? それともガルバさんのところで止まっているのか? 頭が混乱していく。

「……分かった。裁きはもう終わっているし、調べないと分からないことだらけだから、教皇様に伝えるのは後でいいだろう。終わったら案内を頼んでもいいか?」

「はい、もちろんです。あ、それと私やガルバ様では触ることの出来なかった、微かに発光する宝玉のついた首飾りがありました」

俺は頭を切り替えるとケフィンから新たに不思議な首飾りの情報が上がる。

……なんかきな臭いけど、調べないことには駄目だな。

出来れば、ドンガハハも大事なことを言ってから、倒れて欲しかった……。

「……分かった。教会を旅立つ前にあとひと踏ん張り頼むよ」

「はっ」

ケフィンは俺に資料を渡して、はけていった。

もらった遺書が全てを繋げる気がしていたが、まずはこの裁きを終わらせるために、全員に向かって声を掛ける。

「今回の件は、教会を取り巻く様々な思惑が錯綜したことで引き起こってしまったものだと思っています。私事ではありますが、S級治癒士なってからここにいる大半の方々とは、全く接点がありませんでした。だから噂を信じ込ませてしまった。仮に私がもう少し時間を掛けていればと思うことはあります」

客観的に自分のことを 曝(さら) け出すいい機会だと思い、少しだけ自分の話をすることにした。

「ですが、私は皆さんのことを考えている暇がないくらい、死と隣合わせの生活をしてきました」

言いながら頭には、様々なことが甦る。

「この教会にある迷宮で丸二年、しかも最後の半年は迷宮から出ることすら出来ず、迷宮での生活を強いられました。イエニスに移った後は多種族から、暗殺などの妨害を受けながら、赤竜を倒したり、迷宮を踏破したりして、何とか平定しました。そしたら今度は魔族と遭遇して、何度も戦うことになり、正直生きることが、こんなにも苦しいことだとは思ってもみませんでした」

途中から皆が若干引きかけているが、構わず続ける。

「魔族との戦いで呪いを受け、一時的に聖属性魔法が使えなくなれば、悪意に満ちた噂をばら撒かれ、皆さんからは敵意を向けらましたね。歩み寄ることが出来ずに申し訳ありませんでした」

俺はニッコリ微笑むと、皆は絶対に視線を合わせないようにと、俯いてしまった。

「私の夢は愛する者と家庭を持ち、そのまま老衰するまで、穏やかな生活を送ることです。ですから、皆さんの中で私と代わってくれる方が出てくれるのを期待しています」

「ルシエル、分かったから、もう止めるのじゃ。それで逆に上を目指すものがいなくなってしまうではないか」

教皇様から言われて、ハッとする。

どうやら俺も少しストレスが堪っていたのかも知れない。

「えっ? ああ、すみません。途中から愚痴になってしまいました。ですが、皆さんなら私ぐらいのことなら出来ると思います。その情熱が新たな教会を作ると信じています(だから後のことは、皆さんにお任せします)」

「ルシエル、この後は……」

「後ほど各セクションの責任者とまずは打ち合わせをすることになるでしょうが、裁きも終わりましたので、私室に戻られてください」

「分かったのじゃ。ドンガハハのこと頼んだぞ」

「今回だけは仕方ありませんからね」

ここで音頭をとるべき人が居ないのですから……。

こうして教皇様はローザさん、エスティアと共に私室へと向かっていった。

俺はそれを見送ると、魔族化した騎士達を教会にある牢へと入れてもらう為、ルミナさんに話しかける。

「ルミナさん、申し訳ありませんが、彼等を牢へお願い出来ますか?」

「承った……ルシエル君、このあと少し時間をもらえないか?」

「このあと執行部の部屋へ行きますので、その後なら大丈夫ですけど?」

「それでは、彼等を牢へ入れたら、この訓練場で待っている。そちらの用事が終わったら来て欲しい」

「分かりました。それでは彼等のこと、お願いします」

「ああ」

それからルミナさんは戦乙女聖騎士隊に指示を出し、ドンガハハを除く魔族の騎士達は、地下にある牢へと連れて行かれた。

そして残ったドンガハハにもう一度、エクストラヒール、リカバー、ディスペルをかけてから一先ず、隠者の棺へ入れておくことにした。 ようやくひと段落したところで、師匠とライオネルに話しかける。

「師匠、ライオネル巻き込んですみませんでした。それでは今から騎士団の方々と遊んでくれて構いません。騎士団の皆さん、ここにいる私の武術の師と従者達と戦闘訓練をしてみてください。私が日頃どんな環境で戦いをしているのか、体験してみてください。では後を頼みます」

「おう。こっちは任せておけ」

「ゆっくりと調べ物をして来て構いませんよ」

「分かりました。ケティ達は師匠達のフォローを頼むよ」

「了解ニャ」

俺はこうして二人の戦闘狂を騎士団へと押し付け、ケフィンと共に執行部の部屋へと移動するのだった。