軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

219 選択肢

教会の闇である執行部及び人族至上主義派のトップであるドンガハハ、そしてナンバーⅡである……筈のブルトゥースを生かしたまま拘束することに成功した。

当初の目的はカトリーヌさんの救出及び保護だったので、無事に教会の闇から救出した時点で、一応の目的は達成することが出来た。

「あっ……ディスペル」

いきなりディスペルをかけられたカトリーヌさんは驚いていたが、呪いがかけられていたら、また面倒に巻き込まれてしまう。

それは正直御免被りたかったので、直ぐに行動したのだった。

さて目的も達成したし、後は自分達で何とかしてね……そんなことが言える状況なら、教会はここまで腐敗していなかっただろうな。

ドンガハハは自らが何をせずとも、勝手に教会が腐敗していったと語っていた。

それは教会の評判が良くなったとされている最近も、大きく変わってはいないだろう。

例えるならば、会社の評価が自分の評価だと勘違いして、噂程度で一喜一憂し、感情のコントロールが出来ない新入社員のような騎士達。

中核を担っていた人達が突然いなくなったことで、それまで責任を負わずに過ごしていた事なかれ主義の中間管理職のような隊長格と治癒士筆頭の司祭達。

下を育てることを諦めてしまった……とまでは言わないが、自分の権威や権力を保持することだけを選んだ、支社長や営業所長のような大司教や各治癒士ギルドのマスター。

そして締めるところを締められない教皇様。

レインスター卿の伝記に書かれていたのが事実なら、彼がこの教会を作った理由は、前世のように救える命を当たり前の様に救う時代、そしてそんな場所を早く作りたいと願ったからだろう。

その思いが教会全体の目標となり、治癒士ギルドの創設に至った。

きっとそこまでは皆が同じ方向を向き、一丸となっていたのだろうが、大きな目標を達成してしまい、その後の指針を決定する人物がおらず、組織としての機能に綻びが出てきてしまったのであろう。

本来ならば教皇様、もしくは大司教クラスの人物が舵を取らなければならなかっただろう。

しかしそのような人材が教会の中枢には居なかった、居たとしても見切りをつけて取らなかったのだろう。

舵を失った組織は脆い。それが巨大であればあるほど……。

各々がバラバラな目標を立て、進んできてしまったのが、現在の状況なのだろう。客観的にみれば、そんな印象しかない。

ただ大企業は腐っても大企業だし、教会は腐っても教会なのだ。

教会が無くなれば、治癒士ギルドの存続が難しくなり、そうなれば困る人が大勢いるだろう。

取替えがきく教会のような組織が他にあるならばまだ良い。

だが、そんなものはこの世に存在していないのだから潰すことも出来ない。

教皇様がまだ聖女として人々を癒すポジションであったなら、全体の舵を取れるレインスター卿のようなカリスマ性のある人物が教皇を務めていれば、また違った 未来(いま) が訪れていたのだろう。

まぁ今ないものを想像しても虚しいだけか。

ここにいる大半の騎士達は、俺が邪法を用いて神罰が下ったと噂を信じ込んだ。

俺からすればとても嫌なやつ等だけど、教会を思う気持ちは本物なのかも知れない。

問題を起こす大企業であっても、末端にいる社員の考え方や行動はまともな事が多く、頑張っていたりするから余計に 性質(たち) が悪いんだよな。

深呼吸して今やるべきことに集中することにした。

「師匠、ライオネル達は、ドンガハハや魔族化した騎士達を見ていてください」

「ああ。わかった」

「承知しました」

師匠とライオネルが頷くと、手分けして魔族化した騎士達をまとめていく。

「ルミナさんや戦乙女聖騎士隊の皆さんは、教会本部にいる全職員を此処へ集めてください」

「……承った」

ルミナさん以外の皆もルミナさんの了承と合わせて頷く。

「ガルバさんは悪いんですが、ちょっと執行部の情報を洗って来てください。あ、ケフィンもガルバさんを手伝ってくれるか?」

「分かりました」

「何を調べればいいのかな?」

「もうあれだけ迷宮があると話していたので、秘匿情報ではなくなってしまいましたが、この教会本部には迷宮があります。およそ約五十数年前に出来た迷宮ですが、攻略を断念した頃のことを調べてきてください」

「分かったよ。執行部の場所を知っている者と一緒に行って来よう」

「宜しくお願いします。さて騎士達の皆さんはここで隊列しておいて下さい。教皇様をここへ連れてきます。カトリーヌさんは、ついて来てください。それとナディアとリディアも執行部の残党がいると困るからついて来てほしい」

「分かったわ」

「「はい」」

俺は各々に指示を出したところで、ドランとポーラが目についた。

「ポーラ、ナイスゴーレム。ドランもここを頼む」

「魔石を貰ったお礼」

「暴れる者、逃走する者が居たら、ポーラと一緒に捕まえておくぞ」

「……殺さない程度でお願いします」

「分かった」

ポーラは頷きながら、騎士達を見つめ始めるのだった。

俺は苦笑しながら、教皇様のもとへと歩み始めるのだった。

教皇様の部屋へ向かう途中で、カトリーヌさんが謝罪の言葉を口にしてきた。

「ルシエル君、今回は件でも貴方に救われたわ。ありがとう」

「いえ、ドンガハハの標的は俺だったみたいですから、こちらこそ巻き込んでしまったようで、すみませんでした。それから、カトリーヌさんを助けに来たのは、大恩のあるガルバさんの頼みだったからです。だから感謝ならガルバさんにお願いします」

不確定要素の多いカトリーヌさんとは、状況が落ち着くまで、あまり接点を作りたくないのが本音だ。

社交的に会話をするのも大事だとは思うけど、一線を引いて話すことにした。

「そうなの……。それにしてもルシエル君はどんどん成長していくわね。聖属性魔法は以前から他者を寄せ付けなかったけど、今では武力でも私よりも強い。もしかするとルミナよりも……ね」

カトリーヌさんは笑顔のままで褒めてくれるのだが、やはり今は面倒な部分があるので、俺の本心を少しだけ語ることで、ある程度の壁を作ってしまうことにした。

「……先日は蹴り飛ばしてしまい、すみませんでした。状況を聞いたのが、メラトニへ行ってからだったので、それまでカトリーヌさんも敵に回ったのかと思っていました」

「ふふっ。元はといえば、私の力不足が招いたことだもの。それよりも、これからどうするつもり?」

きっと彼女が聞きたかったのは、このことだけだったのだろう。

「教皇様を教皇の立場のままでいさせるか、それとも辞意を表明してもらうか、ご自身で進退を決めてもらいます」

「教皇様をその座から下ろすというの! そんなことは絶対にさせないわ!」

戦闘中のときから言っているが、教皇様に全てを託すことを告げると、 カトリーヌさんは俺の前に立ちはだかり、歩みを止めさせた。

ナディアとリディアは俺とカトリーヌさんの出方を窺って動けないで居る。

「決めるのは教皇様です。それにこのままだと教会は直ぐに腐敗し、遅かれ早かれ教会は滅びの道を辿るでしょう。どれだけ崇高な理念で作られたものでも、それを風化させてしまったら、そこに教義などないも同然です」

そう告げ、カトリーヌさんの横を通り抜けると、また道を塞がれる。

「教皇様がどれだけ教会ことを、人々のことを想っているのか、貴方にも分かっているでしょ。それなのに教皇様を否定するの!」

「否定しているのではなく、妄信していないだけですよ。確かに教皇様は優しく、教会のことを人一倍想っているのでしょう。それは俺も分かっています。ですが、教皇様がどれだけ皆の幸せを祈ろうと、その想いを引き継ぎ形にして広める人が、この教会本部にいるんですか?」

明確なビジョンも策もないまま、気持ちだけを語られても何も解決しない。

カトリーヌさんも本当は分かっているのだろう。

今度は止められることなく、歩みを進める。

カトリーヌさんが教皇様にここまで拘る理由はわからないが、きっと何かあるのだろう。

しかしそれよりも、教皇様を教皇の座から下りさせることが、そんなに簡単に出来ると思われている時点で、色々と間違っていると思ったが、思うだけに留めるのだった。

教皇様の部屋へ着くと、中からエスティア?が出てきて迎え入れてくれた。

「ルシエル様、教会へ帰還されたのですね」

闇の精霊ではなく、普通にエスティアだった。

「……ああ。エスティアには教会に残ってもらって、負担を掛けさせてしまいすまないことをしたと思っている」

「いいえ。私は教皇様が好きですから、問題ありませんよ」

そう言って微笑んでくれたエスティアに、申し訳ない気持ちになりながら、入室するのだった。

教皇様の部屋はすっかりと片付いていたが、中にはローザさんとエスティアの姿しかなかった。

「教皇様、二日ぶりですね。侍女達の姿が見えませんが?」

「ルシエル、元気そうで何よりじゃ。侍女達は今頃食堂でローザの代わりをしているだろう。ん? カトリーヌも一緒か」

「ええ。彼女と戦乙女聖騎士隊が処刑されそうだったので、助けてきました」

「どういうことじゃ!!」

「ルシエル君!!」

まさかの一言に驚きの声を上げた教皇様とカトリーヌさんだったが、今回事実を話したのにはちゃんとした理由がある。

一度教皇様が信頼している教皇様派の者達が、危険に晒された真実を知り、どのような行動に出るか、知りたくなったのだ。

「カトリーヌさん、教皇様へ嘘を吐くぐらいなら、わざわざここへは来ていませんよ」

「ルシエル良くぞ、良くぞ救ってくれた。して何故処刑されそうになったのじゃ?」

教皇様はカトリーヌさんが生きていることに喜んだが、処刑の原因の方が気になる様子だった。

「その前に教皇様。先日頼んでおいた私が賢者になったことを、教会本部の者達と全治癒士ギルドへ話をしてくれましたか?」

「うむ。魔通玉で話が出来る大司教達や、治癒士ギルドのマスターには話をしたぞ」

「治癒士や侍女達については、私が教えてきたよ」

どうやらローザさんも手伝ってくれていたらしい。

「そうですか。えっと処刑の沙汰は二重スパイ容疑ですが、これは教会の闇である執行部の中へカトリーヌさんが単身で潜り込んだ事がばれたからです」

「カトリーヌ?」

「教会の闇を払拭しようとして、失敗したことは残念ですが、教皇様は単独行動したカトリーヌさんを裁くことも、忘れてはいけません。まぁ教会のことを思っての行動ですから、恩赦を与えてもいいとは思いますけど……」

「…………」

カトリーヌさんに凄く睨まれているが、二重スパイのリスクを考えていなかったのだろうか? 色々と残念な人にしか思えなくなってきてしまった。

ガルバさんはそんなところが気に入ったのだろうか? 視線を受け流しつつ、一連の首謀者を教皇様に分かりやすく説明することにした。

「……私の噂を流した首謀者が分かりました」

「何!? 誰じゃ」

教皇様は座ったまま前傾姿勢を取った。

「執行部トップであるドンガハハ主導で、元神官騎士隊長のブルトゥース以下、人族至上主義の騎士達を大訓練場にて捕縛しています」

「ドンガハハが……か」

とても信じられないといった表情だが、執行部と聞いて彼を連想しないことなどあるのだろうか? 少し疑問に思いながらも、ドンガハハの口から語られた真実をそのまま教皇様へと伝える。

「はい。彼等は私を誘き寄せる為に、彼女達を処刑しようとしました。その際、魔族化する邪法も使っています」

「……魔族化じゃと? 他国ではなく、教会内でじゃと」

「ええ。実は魔族化する邪法が、最近あちらこちらで使われています。まさか教会内で魔族化するとはおもいませんでしたけど……」

「…………」

教皇様は何かを必死で考え始めたが、教皇様が思考の渦へトリップする前に、ここで本題を告げる。

「これから大訓練場へと赴き、全て教皇様が裁いてください。どんな裁きだろうと、私は受け入れましょう。例え全てを許すとしても構いません」

「ルシエル君!?」

カトリーヌさんは驚きの声を上げるが、別にブレたことは何一つ言っていないし、受け入れるだけで、納得すると言った訳じゃない。

「教皇様が教会を大事に想っていることは分かっています。レインスター卿が創設した場所であり、教皇様にとっても思い入れが強いでしょうからね」

「ルシエル……」

「ただ教皇様は優し過ぎた。優し過ぎるあまり、甘さとの境目がなくなってしまったのです。優しいことは素晴らしいことだと思います。私も教皇様の優しさで救われたことが多々あります。ですが、優しさと甘さは違うのです」

師匠やライオネルに言われたことを思い出しながら、二人の受け売りだけど、自分なりの言葉にして教皇様へと伝える。

「優しさと甘さ?」

「はい。例えば子供が悪いことをしたとします。その子の親はどうしますか?」

「それは怒るじゃろ」

「ええ。ですが、それは子供が憎くて怒るのでしょうか?」

「違うぞ。悪いことを悪いと覚えさせて、その子が将来悪いことを悪いと思えるようにじゃ」

「ええ。そこには子供の将来を考えた親の優しさがあります。ですが、甘さとは悪いことをしても怒らないで、寛容に受け入れてしまうことです。そうなれば子供はどうなりますか?」

「……悪いことの認識が出来なくなるのじゃ」

「教皇様は叱られた経験はありますか?」

「叱られたこと……遠い昔にあったのじゃ」

何処か寂しげな表情で教皇様は笑いながら答えてくれた。

「私達は神様ではありません。だから間違える時もあるでしょう。ただ間違えた時には、誤りを正すことをしなくてはいけません。今の教会は正すことをせず放置し続けた為、こんがらがった状態だと私は思っています」

「…………妾にドンガハハ達を裁けというのか?」

教皇様はフルフルと震え出してしまう。

「はい。決めてもらうことは楽です。ですから、ここは全て教皇様が決めてください。どうしても決めきれないなら、誰かに相談するのもいいでしょうが、最後は教皇様が責任を持って決めてください。これは嘘を吐いてきた贖罪として」

シュッと音が聞こえると、カトリーヌさんが剣を抜こうとしたところを、ナディアに止められ、リディアに杖を向けられて止められていた。

「取り消しなさい」

カトリーヌさんは贖罪を取り消せと言っているのだろうが、俺は取り消すつもりはない。

カトリーヌさんを無視して教皇様に語り掛ける。

「教皇様は既に教会本部に……いえ、聖都に結界が張られていないことを知っていますよね?」

その瞬間、一瞬だが確かにビクッと教皇様の身体が震えた。

やはりそうだったのか。

そもそも教皇様が結界の消失に気がつかない方がおかしいのだ。

規格外の転生者レインスター卿と、この世に伝承しか残っていないハイエルフの子供である教皇様が、魔力感知を覚えていない訳はないのだ。

教皇様は仮に魔物が襲ってきても、聖都を守れるぐらいの魔力量を有しているのだから、魔力、魔法、操作に長けていることは疑う余地すらない。

その教皇様が結界の消失を認識出来ないわけがないのだ。

教皇様が無能を演じたのは何故なのか、その疑問は浮かんでくるが、ただ教皇様は優し過ぎるが故に裁くことを恐れているのだろう。

考えてみれば、 ネルダールやロックフォードを造った自由人のレインスター卿が、自由の娘の翼を折り、鳥篭で過ごさせるなんてことを強要する筈がないのだ。

「結界が消失しても気づかないフリをしたのは、責任者を処罰しないため。教会を離れられないのは、何かあったら教会本部及び聖都を守れなくなる可能性があるからでしょうか?」

初めて会った時の教皇様は神秘的な感じがしたのを、今でも鮮明に覚えている。

だからこそ魔族が教会内に進入してしまった今、教皇様がどう対処するかで、今後の教会の方針が決まる気がしたのだ。

「これから教会が創設された時のように崇高な理念を掲げるのか、それともこのまま緩やかに教会を腐敗させていくのか、教皇様の意思を聞かせてください」

俺は深く頭を下げるのだった。