軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

212 飛行

メラトニの冒険者ギルドから出て、更に街の外へ出てから街道を三百メートル程歩いてきたところで、街道から離れた草原へ足を踏み入れた。

そしてライオネルが魔法袋から飛行艇を取り出すが、見ているこちらとしては、飛行艇が飛び出てくるような印象を持った。

よくこれだけ大きなものが入るよな。

魔法袋の凄さに改めて感動を覚えた俺だったが、その感動は隣ではしゃぐ声にかき消される。

「おおっ! これは凄いな。本当に空を飛ぶのか? ドランの旦那は凄いものを作るじゃないか」

「ふん。材料を用意したのは、ルシエル様だ。それを育てたブロド殿にも功績がある」

はしゃぎながら師匠がドランに賛辞を送ると、ドランも照れながら、俺を育てた師匠をもてはやし、二人はすっかり仲良くなっていた。

「師匠、本当に聖都へ一緒に行くんですか?」

師匠は書類仕事で徹夜して、俺と戦ってから寝ていたところをガルバさんの報告で目を覚ました。

そして俺が聖都へ戻ることを渋った。しかし飛行艇の話をした途端、「俺も絶対に行くぞ」と、強権を発動させたのだった。

しかし昨日の夜に、ガルバさんとグルガーさんからこってりと絞られたのに、師匠は懲りないよな。

いっそのことグルガーさんが、メラトニの冒険者ギルドのマスターになれば良い気がしたのは俺だけじゃない筈だ。

「おう。グルガーにはちゃんと伝えてきたから大丈夫だ」

「了承はもらったんですか?」

「それは後で何とでもなる。それにガルバが慌てる姿なんて、早々拝めないからな」

師匠がニヤリと笑う後ろで、凍えるような笑みを浮かべる顔が一つ師匠の背後に現れる。

「悪趣味だよ、ブロド。そんなに暇ならもう修行に 託(かこつ) けて、書類仕事をこちらに回しても手伝わないよ」

そうガルバさんだ。

朝日が出ていて明るいのにも関わらず、話の途中までガルバさんの姿に気がつかなかった。

「……いつの間に後ろを取った?」

「君がはしゃいでいる時だよ、ブロド。今回はグルガーに悪いことをしちゃったな」

「聖都で何か土産を買って帰ればいいだろう?」

師匠はあっけらかんとして、ガルバさんにそう言い放った。

ガルバさんも師匠の割り切った考え方には、笑うしかなかった。

この二人に話を振ったら薮蛇になりそうだったので、俺はドランに飛行艇の気になったところを質問することにした。

「昨日、空を飛ぶこれを見た時は制御もしっかりされていたと思うけど、中もあまり揺れないの?」

「一応、この飛行艇には風の障壁が展開されている為、揺れることは殆どない。ただ飛行する魔物に対しては無防備になってしまう。最悪の場合、誰かが倒しに行かないといけない場合があることだけは頭に入れておいてほしい」

かなり重要なことがドランの口から飛び出したが、それって唯一空を飛べる俺が適任となるのでは? ここは口に出すことなく思考することにする。

師匠達のレベルが落ちていなければ、飛ぶ斬撃で何とかしてくれただろう。

それが出来ない今、やはり俺しか選択肢はないだろう……いや、ここは発想を変えてみよう。

「この飛行船にエリアバリアをかければ、逃げ切れるんじゃないか?」

「う~ん。並の魔物ならそれも可能だと思うが、 翼竜(ワイバーン) が出てきたら、どうなるか分からん」

「翼竜なら俺が行きますけど、それ以外はお願いします」

龍種ならきっと問題ない。

俺の中でそんな確信めいたものが、確かに存在していた。

但し、出来れば戦いたくないが本音だ。

裏技として物体Xを散布して進むという手も考えたが、それは人としてやってはいけない気がする。

誤って飛行艇の周辺を人が通ったら、無差別に鼻や目を破壊してしまう可能性もあるし、変な植物が育ってしまう危険性も考えられる。

やはり物体Xの散布は、俺の心の中へ留めておくことにした。

飛行艇が倒れたりしないか、ライオネル達が安全確認を終わったようで、合図をくれた。

「じゃあ早速、中へと案内しよう」

ドランを先頭に、全員が飛行艇へと乗り込むことになった。

飛行艇へと近づいていくと、対人センサーでもあるのか、中へと入るため昇り降りする為の丸円のリフターが下りてきた。

「これって魔導エレベーターの原理だよな?」

「そうじゃ。知らないうちにポーラとリシアンが改造していたから、直後は吃驚したぞ」

いたずらに高性能だが、確かにあれば便利だし、怒るに怒れない感じなのだろう。

一度で五、六人程が余裕を持って昇降出来そうなので、今回は先に行かせてもらうことにした。

リフトが昇りきると、俺は飛行艇の内部の広さに驚くことになる。

中は外から見た以上に、いや異常なまでに広くなっていたのだった。

「これってもしかして」

「空間拡張!」

俺の呟きに答えたのは、ドヤ顔をしたポーラだった。

しかしドヤ顔を微笑ましく見る前に、俺は軽く混乱していた。

さっきまで一緒に乗っていた筈の師匠やドランの姿はなくなっており、ポーラ、リシアン、ナディア、リディアがリフトに乗っていたのだ。

「あれ、師匠とドランは?」

「持ち主であるルシエル以外は、レディーファースト。お爺とおっちゃんは二番目」

師匠をおっちゃん呼ばわりするなんて、ポーラのそういうところは素直に凄いと思う。

しかしいつの間に入れ替わったんだ? 飛行艇に目がいって全然気がつかなかった。

ドワーフは不思議がいっぱいだから、気にしたら負けと自分に言い聞かせながら、内部のことを聞いてみることにした。

「空間拡張を覚えたからって、これは馬車の比じゃないぞ? 一体どれぐらい広いんだ?」

「平面は五倍拡張したから、だいぶ広い」

外から見た感じだと、全長十メートル弱、幅七メートル前後だったことを考えると、この空間がおよそ三百五十平方メートルになる。

これは冒険者ギルドの訓練場約三倍の広さがあるということだ。

「広すぎだろ!」

プライベートジェット機が、内部だけジャンボジェット機にクラスチェンジしてしまったようなものだ。

俺のツッコミで、ポーラが一瞬ビクッとさせたが、ドヤ顔は崩れなかった。

「……すまない。少し驚いただけだ。他にも高性能になっていたりするのか?」

気を取り直して聞くと、ポーラとリシアンは、競い合うように内部を案内してくれることになった。

まず各個室だが、ダブルベッドとドレッサーはもちろんだが、驚くことにユニットバスも完備されていた。

そんな個室が十室あり、食堂、物置、何故か解体スペースとポーラ、リシアンの魔道具工房なるものが設置されていた。

「……これ必要だったのか?」

「当然」

「魔導砲も今後はここで設計して、簡易的なものを開発する予定ですわ」

「そうか……」

それ以上何も言う気にはなれなかった。

一通り案内してもらったので、いよいよ操縦室へと移動することにした。

操縦室への入り口は自動ドアになっていて、ここでも無駄に高性能な技術が使われていたが、スルーを決め込んだ。

師匠達は既に操縦室にいて、各々が自由な席へ着いて座っていた。

「遅いぞ、ルシエル」

「ルシエル君、出来れば急いでくれると嬉しい」

師匠は飛ぶのを待ちきれず、ガルバさんは聖都へ一刻も早く行きたいのだろう。

「すみません。じゃあ早速行きましょうか」

「ルシエル様、それじゃあこちらに来てくれ。操縦の前に個人認証を設定する」

「分かった……ん? 俺が操縦するのか?」

「ルシエル様の所有物なのだから、当たり前だ。そんなに硬くなることはないぞ。そこまで難しくないから大丈夫だ」

ドランは何でもないように言うが、墜落でもしたら皆の命が散ることになる。

そう思うと不安で堪らなくなる。

「まずは個人認証の設定だ。この水晶に魔力を通してくれ」

ドランに言われた通り、円柱状の台の上に埋め込まれた。半円の水晶に手を置いて魔力を流す。

すると水晶が発光して、直ぐにその輝きを失った。

「失敗か?」

「いや、それで完了だ。もう一度魔力を込めてくれ」

言われた通りに魔力を込めると、飛行艇が起動したと同時に、今までは見えなかった外の景色が視界に飛び込んできた。

先程まで確かに壁だったところが、いつの間にか強化ガラスへと変わり、前方百八十度が見渡せるようになった。

あまりのぶっ飛んだ技術力に唖然としていると、ドランが俺を見てドヤ顔で笑みを浮かべ、続きを説明し始める。

「水晶に手を当てていれば、貯蔵されている魔力量が出てくる。魔力の補充はその水晶からも出来るし、核がある技術庫でも出来る仕組みを採用している」

「これってドランだけの力だけじゃなく、ロックフォードの技術者達の力も入っているのか?」

「おう。ロックフォードが蟻に飲み込まれなかったのは、ルシエル様のおかげだからな。皆も精一杯頑張ってくれた」

「ロックフォードの技術者達って、皆が皆とても優秀な技術者なんですね」

レインスター卿が作ったロックフォードやネルダールは、確かな成果を上げていた。

きっと教会だけが彼の思惑とは違い崩れたのには、教皇様をサポートする人間がいなくなったことや、教皇様の性格があるんだろうけど、一番の問題は教皇様の逃げ道を作らなかったことなのかもしれない。

そんなことが漠然と頭に浮かんだ。

「最後に操縦だが、浮上も着地も操作は同じで水晶を下に軽く押し込めば、浮上しているなら着地するし、逆もまた然りだ。移動は前方のみ五段階設定になっていて、動き出したい方向に手を滑らせれば飛ぶし、段階を上げられる。逆に滑らせればスピードは落ちる。あと前方に山などの障害があったら、左にあるレバーを手前に引けば更に浮くし、逆なら低空飛行になる」

車のマニュアル操作よりは簡単に思えるけど、慣れが必要かもしれない。

「……難しそうだけどやってみる。だけどさっき言っていた魔物が現れたらどうする?」

「空中停止も出来るから、この飛行艇の魔力が尽きるまでに倒してもらいたい」

ドランは真顔でそう言い切った。

「……ドラン、魔導砲は期待している」

「くっくっく。任せておけ、それと出来たらこの飛行艇に名前を付けてくれ」

「そうだよな、考えておくよ」

俺は皆の方へ向き直り、声を掛ける事にした。

「皆、待たせた。今から聖都へと向かう。初フライトだから揺れるかもしれないが、宜しく頼みます」

深呼吸を一回してから、俺は水晶を押し込んだ。

徐々に外の景色が上がっていき、機体が浮かび上がっていくのが分かる。

驚く程音がなく、震動もない。

そしてある一定の高さで止まった。

高鳴る心音と共に水晶を置いた手を前方へ動かす。

「飛行艇、聖都へ向けて発進!」

声が何となく出てしまったが、そんなことを気にすることもなく、飛行艇はその名に恥ない飛行を開始したのだった。