軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

192 敵意

ネルダールへと来た時の魔法陣を使い、俺達は教会本部の教皇様の横にある魔法陣へと転移した……筈だった。

しかし光が収まるのを待って目を開くと、そこは何故か魔法陣のあった部屋ではなく、闘技場のような場所だった。

何故、夜にも関わらず、訓練場だと認識出来たのか? それは篝火を持った大勢の騎士達が俺を出迎えたからだった。

「……ここは大訓練場じゃないのか? ……しかし雰囲気が悪いのは噂のせいか? それとも……」

全員が抜剣はしていないものの、武装をしてのお出迎えだった。

そして僅かではあるが、敵意が見え隠れしていることにも気がつく。

「どうしますか?」

「この数だったら、攻撃しないと逃げることも難しそうですけど……」

「……その必要はないようだぞ」

二人もおかしな空気を感じたのか、俺の指示によっては、戦闘の覚悟もしてくれているようだった。

そこへ一人の女性を先頭として、騎士達がやって来た。

「こんばんは、ルミナさんと戦乙女聖騎士隊の皆さん。まだ公国ブランジュへと、向かわれていなかったのですね」

「こんばんは、ルシエル君。私等にはそれよりも重要な任務が与えられている。だから直ぐに行動する訳にはいかなかったんだ」

ルミナさんと俺が会話している中で、彼女達からは戸惑うような感じを受ける。

きっと聖属性魔法が使えなくなったことを考えているのかも知れない。

まぁ分かりやすい敵意を感じないだけマシか。

「それでこの大層なお出迎えは、一体何なのでしょうか?」

「ネルダールから帰還したルシエル君は知らないだろうが、現在ルシエル君に対して巷で噂が飛び交っている」

「なるほど。この布陣は俺を捕まえるための包囲網だという訳ですか?」

冷静に話しているつもりだが、さすがにこの状況は考えていなかったので、大暴れしたくなってきた。

ナディアとリディアは、ルミナさんの会話を聞いて、驚きのあまり怒気が漏れてしまっている。

「ああ。疑いさえ晴れれば問題はないのだが……現在の状況は知っているか?」

「まぁ何となくですが。神罰が下って、治癒士でなくなったことにより、聖属性魔法が使えなくなったってことですね?」

すると、周囲からの敵意が強くなった気がするが、何故このような仕打ちを受けなければならないのか、全く理解出来なかった。

ルミナさんはとても言い辛そうにしているが、きっとこの役を買って出たのだろう。

さっきから一人だけ心配そうな目で、こちらを見ている。

きっとルミナさんがいなかったら、この理不尽を全力で吹き飛ばしていただろう。

「ああ、それがこの治癒士ギルド本部である、聖シュルール教会に泥を塗った罪として……拘束の命が出された」

ルミナさんは目を閉じてそれを告げた。

抑揚のない声が、ルミナさんの気持ちを代弁しているようだった。

これが企業なら、人事部のリストラを言い渡すポストになるので、ここはグランハルトさんが出てくると思ったのだが……そんなことを考えながら、ルミナさんに語り掛ける。

「なるほど。しかし私の事情を知っている教皇様が、よく拘束の命を出すことを許しましたね」

「教皇様の命ではなく、協会には執行部が存在していて、今回はそこから命が出ている」

教会のトップがS級治癒士を捕縛することを知らないとか……それなら教皇様はお飾りに過ぎない。

百年前に力を求めたのは、こういう背景があるのかもな。

それにしても、その執行部が何のためにあるかは、この際どうでも良い。

人を祭り上げるだけ祭り上げて、風の流れが変わった瞬間に切り捨てる……ここは今後の安寧の為に、潰しておくのが一番のような気がしてきた。

教皇様から、圧力を掛けられないだろうか?

「なるほど。私を守るのではなく、排除する立場に回ったのですね。しかもネルダールに赴き不在だったことも知っていたのに……しかし冤罪をでっち上げると、S級治癒士でも捕縛対象になるんですね」

俺は笑った。

そんな俺を見て、ルミナさんが懇願するように告げる。

「……冤罪だというなら、この場で証明してくれないか?」

「証明ですか。別にいいですよ。怪我人はいるんですか?」

これで師匠やライオネル達が出てきたら、さすがに暴走する自信があるぞ。

そんな最悪な未来が来ないことを祈って、ルミナさんへと返答した。

「……信じていいのだな?」

何処か神妙な顔をして、ルミナさんはそう俺に念を押した。

「ええ。嘘を吐くのは苦手です」

俺の答えに満足したのか、ルミナさんは笑みを見せた。

しかしその笑みが、何かを決意したように感じると、急激に嫌な予感が込み上げてきたのだが、次の瞬間だった。

ルミナさんが抜剣し、そして鮮血がまった。

ルミナさんが斬ったのは、あろうことか自分の左腕だった。

「エクストラヒール」

頭がパニックで真っ白になって、気がつけばルミナさんに駆け寄り、エクストラヒールを発動していた。

きっとこれが脊髄反射というものなのだろう。

魔法を唱え終わると、周囲にパァーンという音が響き割った。

ルミナさんは俺が聖属性魔法を使えると信じて、切り落としても結合出来ると思ったのだろう。

しかし予想を上回り、光が止むと腕が再生していることに気がつき、ルミナさんを含め、周囲の騎士達は固まった。それが、本当に聖属性魔法を使ったからか、それとも伝承並みの回復魔法だったからなのかは分からないが、きっと彼等は噂を信じた者達なのだろう。

中には何人も、一緒に訓練したことのある顔が混じっていたことに、俺は大きなショックを受けていた。

だが先に、勢い余ってルミナさんの頬を 叩(はた) いてしまったことの対処することにした。

「貴女は馬鹿か! 傷が残ったらどうするんだ」

頭は冷静のはずなのだが、何故か叱っていた。

ルミナさんはキョトンとしてから、フッと罰が悪そうに笑い口を開く。

「すまなかった。でもこうすることが、ルシエル君を捕縛しようとしている騎士達を、手っ取り早く納得させる方法だったのだ。まさか回復の技量が上がっているとまでは分からなかったが」

ルミナさんの気持ちは分かった……ならここで、俺も本音をここにいる騎士達にも聞えるように叫んだ。

「そんなこと知るか! たかが噂で崩れる信用や信頼などいらないし、欲しくもないわ!! 偉そうに捕縛命令を出した奴等の責任問題を追求し、それが叶わなければ俺は治癒士ギルドを辞めて冒険者として活動する。責任は諸君等が自ら取れ」

俺はそう告げて、出入り口に向かって歩き出す。

「ルミナさんあまり無茶はしないでください」

「……ルシエル君」

ルミナさんの横を通り過ぎるときに、ルミナさんだけに聞えるように囁いた。

彼女の行動が俺を救うものだったのは、ちゃんと理解しているし、嬉しかったのだが、腕を切り落としたのには、さすがにドン引きだった。

包囲していた騎士達は、誰もが押し黙り、道を開いていたが、最後にカトリーヌさんが抜剣して立ち塞がった。

「カトリーヌさん、どいてくれませんか?」

「一応命令が出ているから、それは出来ないの」

この人は何故止めなかったのだろう? 俺を捕縛しても無罪になることは分かっているはずだ。

それとも教皇様から新たな言伝でも預かったのだろうか? しかし抜剣しているのが解せない。

「……カトリーヌさん、貴女は全て知っていますよね?」

「ええ。だからこそ、捕縛させてもらうわ。聖属性魔法が使えることを踏まえた上で、治癒士を止めてもらうわけにはいかないから」

ただ戦いたいのか、それとも裏があるのか? この人のことはいつも読めないが、現在剣を向けられていても、敵意を感じないのは何故だろうか?

教皇様からの信頼も厚いし、教皇様、ルミナさん、イエニスの皆の次に俺も信頼している。

丁度イライラもしていたし、邪魔をするなら、全力で相手をしてもらうことに決めて、挑発することにした。

「……執行部を畏れるような人が、この俺に勝てると思っているんですか?」

「あら? それは馬鹿にしているのかしら?」

額に青筋が入った気がしたが、俺は構わずに続ける。

「……面倒ですから、治療はしませんよ」

「さっきから、誰に言っているのかしら? 少しお灸が必要そうね。何処からでも掛かって来なさい」

「本気を出さないと、一瞬で終わりますよ?」

「言うようになったわね」

カトリーヌさんがそう言った瞬間、俺は幻想剣を取り出して、一気に魔力を高める。

対人戦をするのは師匠達以来だと思いながら、俺は小さく呟いた。

「聖龍よこの身を守れ、雷龍よ全てを置き去れ」

その瞬間、周囲の音が消えた気がした。

確かにカトリーヌさんは騎士としては強いだろう。

だが、ライオネルよりも固くないし、圧倒的な攻撃力がある訳じゃない。師匠よりも遅く、技が多彩である訳でもない。

まして双龍程のプレッシャーがある訳でも、オルフォードさんのような魔法がある訳でもない。

それだけ分かっていれば、恐怖など感じることもなかった。

輝き出した俺に驚くカトリーヌさんだったが、全力で動いた俺の速度を捉えられなかったのか、隙だらけだった。

だからあえて構えていた剣に、俺は幻想剣を当てて弾き飛ばそうとしたのだが、驚くことにカトリーヌさんの剣と幻想剣が当たった瞬間、何の感触もなく、カトリーヌさんの剣の刃が斬れてしまった。

このままだと再戦と言いかねないので、当たるかどうかは分からなかったが、今度は盾ごと思い切り蹴り飛ばすことにした。

カトリーヌさんは驚愕の表情を貼り付けたまま、吹き飛んでいった。

あまりにあっけない幕切れに、さすがに不味いのかもしれないと思い、遠隔でミドルヒールを発動してから、龍の魔力を解除すると音が戻ってくる感覚があった。

しかし待っていたのは、先程と違う静寂だった。

誰の息を呑む音が聞えてきそうな感じだった。

騎士団員は誰一人として、カトリーヌさんが負けることを想像もしていなかったのだろう。 皆、唖然とした表情のまま固まっていた。

ナディアとリディアも驚いてはいたが、直ぐに俺の視線に気がつき、頷いた。

こんなに早く決着がつくとは思っていなかったけど、やはりレベルアップの恩恵と龍の力は絶大だったらしいな。

それにしても自分達のトップが倒されたんだから、怒って掛かって来るぐらいの気概は、見せてほしいところだ。

それが少しでもあれば、救いようはあるんだけど、本当にこの騎士団は大丈夫なのか?

それとも俺の階級が彼等よりも上に位置しているからなのだろうか?

これを立て直すとしたら、ライオネルと師匠に来てもらうしかないだろうな。

そんなことを思いながら、騎士団員を一瞥して口を開く。

「これでも死ぬ気で鍛えているんですよ。それで? この中にまだ文句がある方がいらっしゃるのであれば、お聞きましょう。ただ賢者が作り出した神々の嘆き、物体Xの原液を飲ませられる覚悟がある方のみですが……」

口調が丁寧になってしまったが、挑発したのだから何人かが掛かって来ると思ったのだが、誰も掛かってくる素振りを見せなかった。

それどころか、騎士団員を眺めると、誰一人として目を合わせようとはしなかった。

いや、ルミナさんだけは、こちらを変わらず心配そうな表情で見ていたが、口を開くことはしなかった。

「それでは何もないようなので、教皇様へ帰還の報告がありますので、失礼します」

そう告げて、訓練場から退出するのだった。

扉を閉めた直後に、ナディアとリディアが問いかけて来る。

「ルシエル様、何故先程のような態度を取られたのですか?」

「私もそう思いました。あれだときっと嫌われてしまいますよ」

「これで嫌われるなら、仕方がないよ。例え魔法が使えなくなっても、心配してくれる人もいるし、励ましてくれる人もいるだろう。そんな人達と生きていくだけでいいさ」

俺は自分で言っていて、少し寂しくなりながら笑う。

すると二人はそれ以上その話題に触れることはなく、先程の戦闘について質問をしてきた。

「ルシエル様、どうやったらあのような攻撃が可能なのでしょうか?」

「全く見えなかったです。」

こうして教皇様の部屋を訪れるまでの間、ナディアとリディアは俺の新しい力について、質問を繰り返すのだった。