軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

169 また逢おう

消えた鉱山が再びあるべき場所に戻ったのは、魔王の復活か、それとも天変地異の前触れか? そんな噂がグランドルを駆け抜けている中で、食料を買い込み、念の為に高級ポーションを少しと、魔力ポーション大量に購入してから、俺達はメラトニへ出発した。

メラトニへのルートは来たときとは違い、今回は関所を通ることになっていたが、S級治癒士の肩書きは効力を発揮してくれたようで、通ることに成功した。

ナディアとリディアがブランジュの出身だということもあり、そちら方面からグランドルを経由して聖都へ向かうことを伝えたのだ。

そしてグランドルへ赴いたときと違う点は他にもある。

御者を師匠とライオネルがして、前方にケティ、ケフィン、馬車の後ろに俺とエスティアとナディアというようになっている。

この配置は魔物や盗賊と戦闘になった時に、一番効率が良いとライオネルが考えたものだった。

実際に魔物が現れてからだが、確かに察知系のスキルがあるからか、全体を見渡すように指示が出せる上に、左右後方からも奇襲をされないようになっていた。

まぁ殆どがケティとケフィンと戦闘をして、魔物を弱らせてから、師匠とライオネルに倒してもらい、レベルを上げてもらっていた。

謀略の迷宮でしていた役割を交換したのだった。

「またレベルが上がったぞ。これだけ上がると新人時代を思い出すぜ」

「……私も出来れば冒険者を選択したかった……」

師匠は嬉しそうにする新人時代を語るが、ライオネルは軍にいた時のことを語ることはなかった。

この辺りが対魔物と対人相手の差なのかもしれない。

まぁ師匠も盗賊を斬ったりしているとは思うけど、ライオネルは帝国軍、それも将軍の地位にいたのだから、悪だけを斬っていた訳ではなかったのだ。

国の命令で戦闘を仕掛ける側だから、戦うのが生業の職種だったとしても、悪人を斬るライオネルの性格からすれば、精神的にだいぶ辛い仕事だったことが想像出来る。

「ブゥルルルル」

騎乗したまま考え事をしていたら、フォレノワールに集中して騎乗してろと怒られた気がする。

昨日のことを謝罪したら、許してくれた。

フォレノワールは大人だなぁと思いながら、前にリディアは光の精霊だと言っていたが、いつフォレノワールが加護を付けてくれたのか分からなかった。

だから俺達の関係は人と精霊ではなく、人と馬の関係は変わらず相棒のままだ。

変わる変わらないでいえば、変わるのは俺の心だったりする。

昨日はうじうじ考えるのを止めた。しかし今後のことを考えると、不安で押しつぶされそうになる。

聖属性魔法の使用が出来ないことで、村に寄って患者を癒すことが出来ない、その悔しさやもどかしい気持ちで苛立ち……いや、善人振って言い訳するのは止めよう。

俺は人から褒められたり、感謝されたり、いつの間にかそれを望むようになっていた。

そして人から感謝されるどころか、能力を失ってしまったことで、責められるのが怖いのだろう。

「ブゥルルル」

フォレノワールの声にハッとする。

どうやらまた思考の渦に囚われそうになっていた。

「悪かったな。切り替えて頑張るさ」

そうだ。

俺は師匠とライオネルを助けられたんだ。

それに全ての希望がない訳じゃないんだから、頑張れるだろ。

俺は前を見つめて……馬車が邪魔だけど、進むことを決意して、二ヶ月にも及んだグランドルへの遠征を終了した。

メラトニに着いた俺達を待っていたのは、ガルバさんとグルガーさんによる説教だった。

冒険者ギルドのギルドマスターの部屋で、俺と師匠、ガルバさんとグルガーさんの四人だけで、この二ヶ月にあったことを詳細に説明した。

説明を開始して直ぐに、二人から凄まじい怒気が漏れ始めたのを感じたけど、二人は説明が終わるまで、しっかりと話を聞いてくれた。

そして説教が始めた。

「ブロド、お前は一体何をしているんだ!! ルシエルに修行をつけるために休暇をもらうって、魔族や邪神と戦ってルシエルがいなかったら、死んでこの世に消滅していたってことだろうが!! そしてルシエル、お前もお前だ。お前はただの治癒士じゃなく、全ての治癒士の代表だろが、馬鹿な師匠を止めるのも弟子の仕事だろ。禁術なんて使って、能力を失ってどうするんだ!!」

誰も俺のことを責めなかったのに、グルガーさんは俺を叱りつけた。

怖いのは勿論あるのだが、少し身体が軽くなっていく。

「いくら魔通玉で呼びかけても出ないのは、そういうことだったんだ……。ブロド、君は自分の立場を……いや、冒険者ギルドは百歩譲って、この際どうでもいい。それよりも私達との約束を忘れたのか? 私達が若くして冒険者を引退したのは、何の為だった? 多くの冒険者を育てることで、戦えない人達を守ることを目的として設立された、冒険者ギルドに本来の形に戻すためだろ!!」

ガルバさんは感情をむき出しにして、師匠の襟を掴む。

師匠はされるがままで、ガルバさんと視線を合わせない。

「兄貴、今のブロドはレベルが低いから危険だ」

そう言ってグルガーさんは、ガルバさんの腕を掴んで、ブロド教官の襟から手を離させた。

「確かに一度は諦めかけた……だけど、ルシエル君が冒険者ギルドへ来てから、メラトニの冒険者達が徐々に強く成長して、住民からの依頼が増え犯罪も減った。数年でこの街はとても明るくなった。なぁブロド、ルシエル君が大事なのは分かる。だが死ぬと予言されたんだったら、一言ぐらい私達に相談があっても良かったんじゃないのか?」

「……すまなかった」

師匠が発した言葉はそれだけだった。

頭を下げた師匠の姿を見て、ガルバさんは盛大に溜息をついた。

きっとこと以上責めても自分のウサ晴らしにしかならないと感じたのだろう。

しかし彼の標的は師匠だけではなかった。

そうこちらを見てガルバさんが笑ったのだ。

ワラビスの言っていた悪魔の笑みを見た気がした。

「ルシエル君、君には聖属性魔法を取り戻したら、私の修行も受けてもらうから、今は何も言わないであげよう」

「は、はい。その時はご指導ください」

……精神耐性はⅩの筈なのに、先延ばしになった修行を考えるだけで悪寒が酷い。

それでもこれ以上口撃されないことに安堵した時だった。

さっきの笑みの意味を知る。

「うん。やっぱりルシエル君は素直だね。さすがブロドが口癖のように、あいつは俺の息子みたいなものだから、ゆっくりと真っ直ぐに育ていきたい。そう熱く語るだけはあるね」

「ガルバ?! それは卑怯だろ」

そう。俺に対して師匠が面と向かって言わないことを暴路し始めたのだった。

師匠はガルバさんの口を塞ごうと、掴みかかろうとするが、同じくニヤついているグルガーさんに、後ろから止められてしまった。

今ならステータスの差で振り払うことも出来ないだろう。

師匠が俺のことをそう思っていたとは……しかし、それなら師匠の視線と類似する視線が俺の目の前あと二つあるのを知っている。

「俺も三人のことは心から尊敬していますし、信頼しています」

師匠が父親なら、ガルバさんとグルガーさんは、きっと歳が離れた弟のような視線で、俺の成長を見守りながら接してくれている気がしていた。

俺がそう告げると、ガルバさんはようやく怖さがある笑みから、いつもの優しい笑顔に変わる気がした。

「ブロドはルシエル君がイエニスで、学校を作ったことを聞いて、将来的にギルドマスターを引退する気になっていたんだよ。そして貴族も平民もなく全ての子供が学校に通えるように、新たな目標を立てていたんだ」

「……もしかして結構間が悪かったですか?」

「まぁね。まさかルシエル君が、世界を左右してしまう出来事に、巻き込まれているなんて思わなかったからね。さすがに私達も驚く程にね……」

「そうですよね……」

まぁ普通は転生龍とか魔族なんて単語とは関わらずに生きていくんだろうし。

「暗い顔をしない。さてブロドなんだけど、実はかなり仕事が溜まっているから、ルシエル君について行かせる訳には行かない。それに弟子に弱いところを見せたくないだろうから、師匠が復活するまで気長に待っていてよ」

「ブロドの相手は俺と兄貴に任せて、さっさと聖属性魔法を取り返してこい。もしそれがダメでもクヨクヨしないで、SSS級の冒険者になれるように仕込んでやるから、ちゃんと帰って来い」

ガルバさんとグルガーさんは何だかんだいっても優しかった。

「ルシエル、そういう訳だから当分の間は何も教えてやれない。だが俺は必ずルシエルの師匠として復活するから精進していろ」

「はい」

「困ったときは魔通玉に連絡を入れてくれ、俺達三人が解決に動く」

「その時は宜しくお願いします」

「ルシエル、諦めずに生きて 必ずまた逢おう」

「師匠も無理に魔物に突撃しないでくださいよ」

ガッチリと握手を交わし、俺達は別れを告げた。

こうして師匠がパーティーから抜けることになり、夜になってから俺達は隠れるようにメラトニを離れることになった。

そんな中、エスティアの様子がおかしいことに、最初に気がついたのはリディアだった。

「顔色が悪いよ?」

「だ、大丈夫」

しかし顔は真っ青になっていた。

「……今の俺には治癒が出来ないし、仕方ない。孤児院に行く」

俺はそう判断して孤児院に連れて行くのだった。

さすがに戦闘でもないのに、凄く不味いポーションを飲ませるわけにはいかなかった。

俺が先頭になり、進むとエスティアの顔から血の気が引いていた。

俺は急いで孤児院の中に駆け込んだ。

「おい、院長はいるか?」

「何ですか騒々しい。子供達が起きて……ルシエル……様」

今の間は何だと突っ込みたかったが、我慢して抑える。

「悪いが少し魔力枯渇気味で、魔法を使うことが出来ないから、代わりに診てくれ」

「……無茶苦茶だ。ですが、まぁ良いでしょう。どなたを診れば?」

「エスエィア……この子だ」

「ふむ。じゃあこちらへ」

そう言ってイスまで誘導した時だった、エスティアと闇の精霊が入れ替わった。

「治療は良い。家族は……娘がいるか?」

ボタクーリは手を掴まれて驚いたが、俺の方に顔を向けて睨む。

「……俺は何も伝えていないぞ。エスティア大丈夫なのか?」

「ああ。それよりも家族は?」

「痛いだろ。妻は死んだ。娘は当時病に蝕まれていて、私では治すことが出来なかった。そこで秘薬を開発した帝国に治療を依頼して、一度だけ元気になった姿を見てから、奴隷にしたと言われ会えなくなってしまった。今でも探し続けている」

「……そうか。治療は結構だ」

闇の精霊は外に出て行った。

「意味がわからないな。代金は置いていく」

俺は金貨五枚を置いて闇の精霊を追って外へ出ると、闇の精霊が待っていた。

「一体どうしたんだ?」

「理由はエスティアが落ち着いたら話す。今は聖都へ向かわせてくれ」

そう俺だけに聞えるように話した闇の精霊は、余裕がないように思えた。

「夜間の移動になるが、このまま強行する。皆は警戒を怠らないようにしてくれ」

「「「「「はっ」」」」」

俺達はこうして暗闇に紛れて聖都へ向けて出発した。

暗闇でもライトがあることで、走ることは難しくなかった。

さらに馬たちのボスであるフォレノワールが、率先して引っ張ってくれていたので、他の馬も落ち着いているように見えた。

俺は夜道を走ることに警戒をしていたが、ボタクーリとエスティアの関係が、どうしても頭の中で引っかかり続けるのだった。