軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

127 模擬戦

カトリーヌさんに連れられ、久しぶりに迷路のような廊下を歩いていくと、辿り着いた先は戦乙女聖騎士隊の訓練場だった。

「戦乙女の聖騎士隊の訓練場に来たってことは?」

俺がカトリーヌさんに聞くとカトリーヌさんはニヤッと笑い答えた。

「ええ、 戦乙女の聖騎士隊(かのじょたち) と模擬戦をしてもらうわ。戦鬼将軍以外の二人も結構強そうだし、ルシエル君がどれだけ成長したかを測るには、ルシエル君の実力を知っていた者達が相手のほうがいいでしょ?」

既に俺も模擬戦をすることが確定しているようで、逃げ場がないことを悟った。

だけど、俺は最後まで諦めない。

「これから夕食の時間ですし、私達も宿泊の場所を探さないといけないので、後日にしませんか?」

「後日も模擬戦をやりたいなんて、知らないうちにたくましくなったのね。それにルシエル君の連れなら奴隷であろうと、しっかり客間が用意してあるから、安心しなさい」

安心できないし、既視感が半端じゃないのはどうしてだろう?

俺は心の涙を流しながら、抵抗することを諦めた。

戦乙女聖騎士隊は既に隊列して俺たちを待っていた……?

「何で既に隊列が整っているんですか?」

「そんなのこれが規定路線だからに決まっているじゃない」

カトリーヌさんはそう言って笑った。

俺が顔を向けるとルミナさんが敬礼して口を開く。

「ルシエル様、お久しぶりです。本日の模擬戦闘、宜しくお願い致します」

階級が逆転したからか、それともライオネル達がいるからなのか、理由は分からないが、一つだけ言いたいことがある。

「……ルミナさん、そして皆さんもですが、口調は昔の通りでいいですよ。出来ないのであれば、人がいないとき限定で。皆さんに敬語を使われると、背筋がゾクッとするので」

「やはりルシエル君は変わらないな」

「折角偉ぶっていたら、模擬戦で揉んで心から叩き直してあげようと思っていたのに」

ルーシィがルミナさんに続いて、笑いながら口を開くと、それからは皆がそれぞれのトークを開始してしまい収集がつかなくなっていった。

「少しは強くなった?」

「私とリプネアが双剣の手解きをして差し上げますわ」

「えっ? 私もするんですか?」

「当然よ」

最近は全然訓練していない双剣術をエリザベスさんが、リプネアさんをダシに教えたいと言ってきたが、二人の意思相通が取れていなかった。

そこへパン、パンと手を叩いた音が聞こえた。

「皆が懐かしく嬉しい気持ちは分かるけど、時間も押しているから、早速戦闘を開始させるわよ」

『はい』

先程までのはしゃぎモードが一転、戦闘モードへと切り替わるのだった。

「まず始めにルシエル君の主観で良いのだけど、何対何くらいで模擬戦するのがちょうどいいかしら」

「そうですね。魔法ありなら戦乙女聖騎士隊が十、我々が四でしょうか? もちろんカトリーヌさんが審判ならですけど、それで良い勝負になると思いますよ」

「ルシエル君、その発言は私達、戦乙女聖騎士隊が弱いと言っているように聞こえるのだが?」

「ルミナさん、そうではありませんよ。仮に私だけで皆さんと一対一で戦闘するなら、全敗すると思います。ですが、理由があって奴隷の身分となってはいるものの、私の従者達は皆かなり優秀なのです。あとは戦闘のバランスでしょうか」

俺はそう言い切ると、不敵な笑みを浮かべながら、カトリーヌさんが口を開く。

「ルシエル君、本当に十対四で良いのね。ルミナ、心臓と首を斬る以外は何でもありで、全力で揉んであげなさい。ルシエル君も簡単にやられては駄目よ」

さすがに俺の発言を聞いてカトリーヌさんも怒ったようだが、ライオネルの実力を知っているのであればカトリーヌさんの発言は逆に迂闊過ぎる発言ですよ。

俺のエリアバリアの効果もかなり向上している。それを知らない彼女達のことが心配になってしまった。

「武器はどうしますか?」

「急所や首を刎ねたりしなければ、ルシエル君なら治せるわね?」

「それは問題ありませんが……実戦を想定しての模擬戦ですか?」

「ええ。その方がお互いに緊張感もあるでしょ?」

俺がライオネル達に顔を向けると、皆が笑顔で頷いた。

「分かりました。戦闘開始はいつからにしますか?」

「中央に集まり、今回は三十歩の距離をとったところからスタートするわ」

「分かりました」

こうして模擬戦を行なうべく中央に集まり、カトリーヌさんの始めの合図を待って、戦闘開始となった。

俺は詠唱破棄でエリアバリアを発動すると、ライオネルが俺の前に立ち、ケティとケフィンが遊撃の為に飛び出す。

戦乙女聖騎士隊はケティ達二人に五人が走りだし、残り五人が俺とライオネルに向けて駆け出した。

「防御を優先するか? それとも力で押すか?」

「見た目で相手の能力がどれくらいだと断言は出来ませんので、受け手からと考えてます」

「了解した」

ルミナさん、サランさん、マイラさん、ベアリーチェさん、キャッシーさんがライオネルを多角的に攻撃を仕掛けた。それをライオネルは一歩下がり大盾と大剣を振り、それに当たった彼女達が瞬間的に吹き飛ぶ。

その隙に剣がライオネルを突き刺す。

しかし傷が深くならないよう俺は直ぐに止血のヒールをするため、ライオネルへと魔法陣詠唱でバリアを飛ばす。

遊撃をしているケティとケフィンにも同じタイミングでバリアとヒールを掛け続ける。

オートリジェネレートみたいに傷ついても直ぐに治癒されてしまえば、運動能力が落ちることはない。

そんな心配もないほどにケティは攻撃を避けながら、かすり傷程度ではあるが確実に彼女達へダメージをカウンターで与えていく。

ケフィンも忍術全開で霧のように消えて同士討ちを誘い、攻撃を受けたと思っても変わり身の術で起爆させたりして時間を稼ぐ。

勝負が加速したのはそこからだった。

さすがにこのままだとまずいと思ったのか、吹っ飛んでいたサランさんとケフィンのところにいたエリザベスさんが、俺へと標的を定めたのか、回り道しながら攻撃をしかけてくる。

「純粋な攻撃力ではないけど、仕方がないか……」

俺は右手に持っていた幻想杖を幻想剣に変え魔力を注ぎ、魔法袋から盾を取り出して左手に持つと、サランさんとエリザベスさんの攻撃を待ち、急所を防ぎながら二人の剣に幻想剣を合わせることにした。

二人の剣は俺の幻想剣に当たったと同時に斬れる。

その隙を突いて俺はまず双剣使いのエリザベスさんを蹴り飛ばすと、サランさんには回転して盾で殴りつけた。

武器破壊されたことで、驚いた二人は身体を止めた。

エリザベスさんもサランさんも幻想剣の性能を知らずに突っ込んできたのが敗因だなと思いながら、油断をせずにライオネル達を遠隔回復していく。

ケフィンは傷を負いながらも、手数の多かったエリザベスさんが抜けたことにより、初見の忍術を使って攻勢に出ていた。

ケティは一度も攻撃を受けることなく、リプネアさん、マルルカさん、ルーシィさんを手玉に取りながら、赤い鮮血に染め上げていた。

「ライオネル、助太刀するか?」

「……そうですね。ルシエル様は一人ずつ倒していっていただきますか?」

「了解」

ライオネルは攻撃を受けながら、キャッシーさんをこちらに吹き飛ばしてきた。

俺は手負いのキャッシーさんと相対すると、幻想剣を構えた。

「その剣は反則。この武器高かったんだから、壊さないで」

「なら降伏を宣言して、エリザベスさんとサランさんと一緒にいてください」

「分かった。その武器に降参する」

言葉数が少ないものの、キャッシーさんは武器の性能差で負けを宣言した。

俺はそれでも初めて彼女達に勝てたことで嬉しくなった。

そうこうしているうちに、ケティとケフィンは怪我を負って運動能力が落ちた戦乙女聖騎士隊のメンバーを倒していく。

降参(リザイン) に追い込み、残すはルミナさん一人だけとなっていた。

「鉄壁過ぎる。デタラメだ」

ルミナさんはそう呟き、自身の出来る最高の攻撃、連撃を繰り出すが、ライオネルが全てを大盾で防ぎきった。

「ルシエル様のエリアバリアは、普通ではありませんからね」

「……忘れていた」

「余所見をしていいのですか?」

ライオネルが大剣を振ると、ルミナさんがそれを避けて首筋に剣を当てようとして動きが止まった。

いや、正確には止められた。

ケティとケフィンがいつの間にか移動を終えて、武器をルミナさんの首に後方から肩を通してクロスしてあったのだ。

「ふぅ。良い従者を選んだな、ルシエル君。まさか我等が少人数に負けるとは」

「ありがとうございます。じゃあ今回は私達の勝ちということで、皆さんを回復させましょう」

「宜しく頼む」

俺達がカトリーヌさんの方を向くと笑って頷き、勝者を告げる。

「勝者ルシエル君とその従者達」

ネーミングセンスがないと思いながら、エリアハイヒールを魔法陣詠唱で発動して全員の怪我を治し、今日の予定はこれで終わると思っていた。

しかし現実とはやはり無常なものだった。

「じゃあルシエル君もレベルが上がったみたいだし、技術だけじゃなく強くなったか私と模擬戦をして強さを測ってみようか」

「えっ? 嫌なんですけど」

「だって武器が凄かったぐらいだけしか分からないし、本当の強さを知っていないと援護が必要かどうかも分からないじゃない」

この後何を言ってもカトリーヌさんには聞き入れてもらえなかった。

「今日は夕食の時間もあるので、明日の朝になら……」

そう口から言葉が飛び出すまで、カトリーヌさんと戦乙女聖騎士隊から逃げることは出来なかった。

「……苦しい時に助けてもらった人のお願いって、断わり切れないようになっているのか?」

俺の呟きに反応を示す人はいなかったけど、ライオネルはカトリーヌさんと話をしながら、ケティとケフィンも獣人だからと見下されることなく嬉しそうに話している姿を見て、まぁいいかと思えた。

翌日、模擬戦がとんでもない規模に発展していくのだが、このときの俺はそんなことを知る由もなかった。