軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

122 将来の夢と目標

ロックフォードの入り口、フェイクの町に入る際、ケティに索敵してもらったが異常なしとの報告を受け内部へと入っていく。

「こちらにも被害が無ければ良いのですが……」

ライオネルは不安そうにそう告げるが、ロックフォードは全く問題が無かった。

町の中が壊された形跡もなければ、地盤沈下している場所もなかったのだ。

中央広場にポーラのゴーレムが動いているのが確認出来た。俺達は安堵しながらそちらへ移動することにした。

しかし中央広場には蟻の死骸が大量に残されており、穴も複数開いて、激しい戦闘があったことが状況から見て取れた。

「皆さん、大丈夫ですか? ただいま帰還しました。怪我人がいれば直ぐに治します」

俺が広場の外から声を掛けると、五メートル級のゴーレムは消えて、ポーラが倒れた。

「ポーラ!?」

俺達が駆け寄るよりも先にドランがポーラを支えた。

「助かった。ルシエル様、穴を塞ぐ手伝いを頼みたい」

ドランはこちらを見て要求を口にする。

確かに中央広場は穴だらけなので、塞いだ方が良いというのは明白で直ぐに手伝いをすることにした。

「じゃあライオネル達は穴から出てくる魔物退治。グランドさんはドランと一緒に穴を協力して埋めてもらえますか?」

『はっ』

グランドさんは魔石の使用許可を求めてきた。

「ルシエル殿、魔石を使わせてもらっても良いだろうか?」

「ええ。それ程多くかかるものではないでしょうから、あの山済みになっている蟻……いや、我々が回収してきた蟻の魔物から魔石を取り出して使うことを認めます」

「分かった」

穴を埋めるのにそれほど時間は掛からなかったが、夜通しで防衛した疲れが溜まっていたのか、リシアンもドランも、町で戦闘に参加していた人々も立っているのも精一杯という感じだった。

「ここは俺達が引き受けますから、皆さんは一旦家に戻って食事をして、休んでください。怪我人がいる場合は声を掛けてください」

俺がそう告げると何人かは怪我の治療に訪れたが、それ以外はお礼を言いながら、自分達の工房へと帰っていくのだった。

「ドラン、食事は?」

「置いていってもらった食事を摂ったので問題ないぞ」

「そうか。トレットさんは?」

「トレットは戦闘職ではないから、魔物の分解をしとるぞ」

魔石とか、防具とかに使えそうなものに変えているんだろうな。

「分かった。ゆっくり休んでくれ」

ドランはこちらに頭を下げると、ポーラをおんぶして、工房に戻っていった。

リシアンも続くようについて行った。

「グランドさんはライオネル達の武器と防具の採寸をお願いします」

「ルシエル殿は戻らんのか?」

「はい。少しここで考えごとをして、頭を整理してから戻ろうかと思います。ライオネル、ケティ、ケフィンも戻っていいぞ」

グランドさんは了承しながら頷き、ドランの後を追ったが、三人は話し合いライオネルが俺の側へ残ることになったみたいだ。

ケティとケフィンがドランの工房に向かうのを見送っていると、先にライオネルが口を開いた。

「もう穴に落ちることはないと思いますが、念のためです」

「……そんな事、考えてもみなかったんだが・・・」

一人でも大丈夫だと思っていたが、それを言葉に出されると途端に恥ずかしくなってきた俺は、広場へと目をやる。

「ルシエル様の立場は、従者が側にいて当たり前なのです。いずれは慣れることも必要かと」

「そうか……ただ、なかなか慣れないんだよな」

「十年もすれば慣れますよ」

十年とか長いし、考えるだけで辛いな。

それまでにライオネルやケティの奴隷契約を解除して、きちんと従者になってもらいたいと思うのは俺のエゴだろうか?

広場を眺めながら、俺はライオネルと今後の話をすることにした。

「この際だから聞いておく。いずれ帝国に赴く時が来るかも知れないが、大丈夫か?」

「……奴隷と言う形なら、気持ちを律することが出来ると思います。ただ奴隷契約が解除された場合は、正直どうなるか分かりかねます」

「……そうか。今後の計画ではドランをドワーフ王国に連れて行ったあとに、メラトニの町へ赴くことにする。場合によっては聖シュルール教会に行くことも考えなければならないと思うが、問題はその後だ」

「行き先はルシエル様自身で決めることが出来るのですか?」

「あぁ、一応何もなければな。それで俺は魔法独立都市ネルダールだっけ? そこへ行ってみたいと思っている。もしかすると魔法が使えるかもしれないし、空中に浮かんでいる国なんて凄いだろ?」

「なるほど。ですが、確かあの国に行くには帝国で竜篭に乗るか、迷宮国家都市グランドルの迷宮を上る、あとは各国の代表が頼んでネルダールから迎えに来てもらうしかなかったはずですが?」

「そうなのか?」

「ええ。私は行ったことがありませんが、その話を遠い昔に聞いたことがあります」

「なるほどな。まぁメラトニでは皆の武具が整う数ヶ月間を過ごしてもらう予定だ。一度初心に戻ってブロド師匠に鍛えてもらう。それにライオネルとブロド師匠の戦いも見てみたいからな」

「ルシエル様がいれば何度も楽しめそうですからな」

ライオネルは目を輝かせて喜ぶのだった。

「それでエスティアの件だが、本当に覚えていなかったのか?」

「……記憶を失うというよりは、記憶がかなり薄められた感じでした」

「それはどれくらいの?」

「数年前に聞いたことがあるような、ないような曖昧な認識になっていました」

「外であった時に思い出したか?」

「注意深く見ていなければ、分からなかったと思います」

「幻術や幻覚じゃなくて、忘却か?」

「認識阻害と隠蔽効果が混ざりあっているような感覚でした。ケフィンの忍術に酷似していることから、慣れていけば忘れることは無いと思いますが……」

「そうか……どう思う?」

「……彼女が帝国の潜入者だった場合、奴隷になって入り込むことも考えられます。ただ認識出来ないものを管理するとなると、彼女に帝国が疑念を抱かせることがあってはなりません」

「演技が見抜けたらいいけど、精霊が関わっているから、余計に質が悪い」

「確かに悪い人族には見えませんでしたから、従者にすることを止めはしませんが、その場合は警戒が必要になってきます」

「……俺の直感ではないけど、フォレノワールが敵対心を抱いていなかったことが、謎なんだよな」

「ルシエル様の馬ですか?」

「ああ。動物は人よりも何倍も直感が優れていると聞いたことがある。

人の直感は記憶から判断されると聞いたことがあるけど、動物は生存本能でそうさせると聞いたことがある。

フォレノワールが嫌がらずに自分から近寄った。それは害意がなかったからなのかも知れないと考えたんだ」

「動物と話が出来る魔道具があれば良いのですが」

「本当に作ってもらいたいぐらいだぞ」

こうして俺達は色々なことを話し合い、その後で軽く手合わせをしたり、魔力操作したりして時間を潰すのだった。

「今回手に入れた魔物の死骸から、かなりの魔石が取れるはずだ。それであれの完成を目指してもらいたい。優先順位としては一番が武具で、あとはドランが決めて進めてほしい」

「分かった。ポーラは魔石を固める作業、リシアンは魔石の属性付与の作業をしてもらうぞ」

「……仕方ない」

「それが終わったら、新しいものを開発してもよろしいんですの?」

「勿論だ。俺も明日からは解体を手伝うし、かなりの数の魔石になるから、大変だと思うけど頑張ろうな」

俺がそう告げるとグランドさんは驚いているようだったが、気にせずに夕食を作りながら、今日は皆早めに就寝することを義務付けた。

夕食が終わった後に俺は部屋へ戻ると、教皇様に魔通玉で新たに分かった事実を告げた。

《……登録はまだ確認が出来ておらんのじゃ。だが一度エスティアとやらを、聖シュルール教会本部まで連れて来てもらいたい》

「問題はないと思いますが、大丈夫なんでしょうか?」

《既に奴隷紋の解呪はしてあるのだろ? それにフォレノワールが敵対心を出さなかったなら、問題はないし……気になることもあるのじゃ》

「分かりました。メラトニに行く前に一度教会本部に帰還します」

《大変だと思うが頼むぞ》

「はっ」

俺は最後に返事をして通信を切るのだった。

全ての闇に帝国が絡んでいる。

ライオネルは別に行きたいという感じにも見えなかったし、今行くことはないだろう。

内容を知るためにもエスティアとはもう一度会わなければいけないよな。

イエニスが終わったと思ったら、ドワーフ王国に巻き込まれるし、最近ツキがない。精神的に病むような問題ではないけど、たまにはのんびりしたいよな…

龍の封印には邪神が絡み、精霊は自由奔放なのか、眷属想いなのか振り回されるし……。

加護は何らかの意味があるらしいけど、結果的に俺の選択肢を狭められているようで、残念に思いながら、日課の魔力操作と連続詠唱を練習してから眠りに就いた。

翌日からは魔物を解体し、魔石を取り出す作業と、それらを仕分けする予定だったが、トレットさんも解体を手伝ってくれることになった。

「俺が魔石を一つ取り出す作業と、トレットさんが一体解体し終わる作業のスピードが殆ど同時とか、色々自信を失いますね」

俺は力無く笑うとトレットさんは笑って答える。

「小さい時から何度もしてきた仕事で、初心者のルシエル君に負けるはずがないわよ。もし超えることが出来たら、性別を私は超えるわ」

「……超えないでいいです。ごめんなさい。許してください。さて、仕事をしますか」

俺は完全に精神力を破壊され、完全な棒読み状態で、解体作業に集中していった。

解体場は三十分ごとに浄化魔法をかけると皆からは感謝された。こうして解体作業に没頭するのだった。

解体作業を続けていったところで、俺はあることに気がついた。

「リシアンは精霊魔法が使用出来るんだよな?」

「はい。得意なのは風の精霊魔法ですわ」

「……ちなみに土の精霊魔法を使おうとしたらどうなる?」

「試したことはないです。だけど、かなりの魔力を奪われるはずですわ。精霊との相性で魔力をどれだけ使うかが変わるので」

「そうか。ちなみに光の精霊魔法も使えたりするか?」

「魔法のイメージを伝えれば、使用は出来ると思います。今やっている魔石への属性付与は、精霊達に頼んでいますから」

となると、エスティアが光の精霊魔法で回復魔法を使わせたりしたら、一気に魔力切れになるのも頷けることなんだな。

「ポーラとリシアンが一緒に組めば、出来ない付与はないのか?」

「そんなに甘くないですわ。光、闇はかなりの魔力があっても作れないので、場合によっては属性付与する為に必要なアイテムが出てきます。闇の魔石なら聖水などが必要なんです」

「それは大変なんだな」

「はい。だから私はレインスター卿に凄く憧れていますわ。全属性の適性を持っていたとされる彼なら、きっと色々な魔石を作り出せたんだと思うと羨ましくもありますね」

「そうか」

「ルシエルちゃんなら、きっといつか賢者になれるわ。そしたら一緒に色々開発しましょう?」

「ルシエル、そしたら結婚してもいい」

「それはいい案ですわ。私も一緒に立候補しますわ」

「ポーラとリシアンは煩悩優先じゃないか」

俺は笑うしかなかった。

解体作業は食事休憩やお茶休憩を合間に入れながら、ずっと続けられた。

「……これを一日中って大変だな」

「どんな仕事にも楽なことなんてないわよ」

「挫折、忍耐、努力があって、やっと入り口」

「好きじゃなくても出来ないことではないです。でも、才能があっても、誇りや新しいものを作る情熱が無ければ、長続きはしませんの」

俺に置き換えると魔法の練習? それとも……何かそこまで真剣に打ち込んだことって……メラトニでの二年間か。

そういえば二年間は考える余裕もなかったよな……。

本部に呼ばれなかったら、俺はどうなっていたんだろうな?

「ルシエルなら人助け?」

ポーラにポンっとそう聞かれても、俺は直ぐ答えることは出来なかった。

何故なら俺が俺でないような気がしてきたからだ。

「……俺は自分が死にたくないと思ったから、必死で武術訓練して、聖属性魔法を勉強してきたんだ。最近は自分が助けられる命があれば、助けたいと思うけど、全てを救いたいとも思えないのかもな」

「それぐらいの歳なら迷って当然よ。ルシエルちゃん程じゃないけど、私も伝説の系譜って言われてものづくりの道に進むか、それともこの技術を活かした新しいことを始めるか、数十年悩んで、未だに悩んでいるんだから」

トレットさんも背負っているものがあるけど、いつも迷いが無さそうなのにな。

それにしても何十年って、狸獣人のワラビスさんと一緒ぐらいなら……。

何も言わなくても、これ以上言ったら大事なものを失う覚悟をしないといけなくなる気がするので、思考を切り替えるとポーラが話し始めた。

「魔道技師、魔道具製作レベルⅩにすることが目標。次はトレット師匠よりいいものを作り出すことが目標」

「私も私が先駆者として、新しい魔道具を開発することが目標ですわ」

ポーラのあとにリシアンが胸を張って答えた。

二人とも目標があって、突き進むことが出来ているんだから……?

俺は二人を見て羨ましいと感じたのは何故だ?

目標があるからか? それとも自分を持っているからなのか?

「俺の目標……か」

「ルシエルちゃんの目標は平和な国づくりとか、人が傷つかない世界とかかしら?」

「人材発掘?」

「世直しではないんですの?」

「どれもですけど、俺はそんな高尚なことは考えていませんよ。ただ命の危険が無くて、何か打ち込める……薬学とか、魔道具を作るのも面白いのかもな」

「まだ若いんだし、色々やってみるといいわよ。でもどの世界も最初は甘く感じても、苦しいことの方が多いのが現実なんだから、投げ出しちゃ駄目よ」

どの世界でも甘いと思っていても、結局は壁にぶつかった時にどう出来るかですか。

目標や夢か……。

「ルシエルが弟子……面白い」

「ルシエルさんなら、きっとたくさんの魔石が……」

二人からはまた煩悩が溢れ出ていた。

「そうですね。長期的な目標が老衰することだけって寂しいですもんね」

俺がそう言うとトレットさんが消えたと思った瞬簡、いきなり抱きしめられていた。

「そんな病んでいたなんて。今からでもこっちの世界に……」

全身鳥肌が立ち、悪寒もしてが、ポーラとリシアンが助けてくれた。

「ルシエルは渡さない」

「主であるルシエルさんを、そっちの道に誘わないでください。トレット師匠がそれだと、怪しい集団になってしまいますわ」

「あら、だったら二人はナニするの?」

「魔道具開発を死ぬまで頑張る」

「人族の寿命は短いですから、ルシエルさんが老衰されるまでは一緒にいますわ。相棒ライバルもいますから」

これ聞く人が聞いたら、逆プロポーズだな。

「ありがとう。まずは中長期的な目標と、夢を考えてみたいと思います」

膨大な量の蟻の解体を終えたのは丸三日後のことだった。

翌日から俺は並列魔法陣詠唱の訓練を始めた。

直ぐに中長期的な目標を立てることもそうだけど、自分に足りないことを後回しにすると、いつか取り返しの出来ないことに直面しそうだったからだ。

ライオネルの採寸とケティの採寸が終わり、ケフィンの採寸時にトレットさんに詰め寄られるケフィンを笑いながら、あっという間に十日の時が流れた。

「じゃあ出発するけど、いいか?」

「ああ」

ドランは緊張していた。

まぁロックウェル王と会うのだから当然といえる。

「でも本当について来るのか?」

「お爺が行くなら当然!!」

「敵情視察ですわ!」

何故敵なのかは奴隷にされたからだろうな。

それにしてもこの二人は本当に仲良くなってくれて良かった。

あのドランがエルフであるリシアンを受け入れられるのも、二人の関係があるからだろう。

「新しいアイディアももらったし、工房の留守番は任せて」

ウインクしながらトレットさんは微笑むが、その対象は俺ではなくライオネルになっていて、ケティはフッシャーと警戒心を丸出しにしていた。

「大体の仕上がりまで、三人分で三ヶ月と見てくれれば大丈夫だ。それと鉱石に関しては余った分は返却する」

「でも鉱石が必要だって言っていましたよね?」

「今回の件で大事なことを思い出した。武具の作成が終わったら、鉱山に出向くつもりだ」

「グランドの兄者」

「ドランみたいに、ルシエル殿のところで働くには些かしがらみが多くてな。それらが全て片付いたら、雇ってもらえるかな?」

「グランドさんが働きたいなら、皆でイエニスの広い土地を買って、町を新しく造るのも面白そうですけどね」

「あら、それだったら私も参加するわよ。新しい町を作るなんて、かなりテンションが上がるじゃないフォ-」

「十年以上……もっと先の話になるかも知れませんが、そういう夢があってもいいでしょうか?

あまり干渉されないで、このロックフォードみたいに憩いの場が作れたら、俺も何だか頑張れそうな気がします」

皆は笑いながら、賛成してくれた。

何だか久しぶりに心が軽くなった俺は、皆へ感謝しながら、本当にいつか実現させる夢を目標にして、ロックフォードからドワーフ王国へと向かうのだった。