軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

116 本部で留守番

戦闘職のドワーフ達は蟻の魔物から襲撃されている場所へと散っていった。

するとここに戦闘をしないドワーフは居なかったようでロックウェル王の側近だけが残った。

「ケティ、ケフィンは危なくなったら直ぐに引き上げてくれ。そこからまた作戦を練ることにするぞ」

散って行くドワーフを見送ると俺は指示を出し始める。

『はっ』

俺は二人にライトを念のために渡す。

「奴隷の諸君等は必ず指示に従ってくれ。じゃないと単独で蟻の巣に突っ込んで行く羽目になるからな」

「な、なぁ、俺達にも武器を渡してくれないか?」

「流石に素手じゃ無理だよ」

奴隷の中から二人の男が、声を上げた。

「名前は?」

「マポーロ」

「俺はジャブロンだ」

俺は彼ら申告内容を確認したが、魔法適性があること以外、武器などに関しての文言は一つも無かった。

「もともとメインが魔法なら武器は必要ないだろ? それに諸君が思っている以上にこの二人は有能だ。馬鹿なことさえ考えなければ、ちゃんと帰って来られるさ」俺は彼らに諭すように話した。

「さっさと行くニャン」

「ルシエル様に、面倒ごとをかけるな」

ケティとケフィンはそう言って歩き出すと奴隷達もゾロゾロと歩き出していった。

「君達の今後はその二人の報告に掛かっていることを忘れるなよ」

そう告げると急に皆の動きが活発になって、ライオネル達が戦っている場所を通過して行った。

「ライオネル、ロックウェル王は待機でお願いしますよ」

俺がそう言うと二人はつまらなそうに、ケティ達が消えていった洞穴を見つめながら敵を葬っていく。

こうして俺達はここを本拠地として留守番することになるのだった。

「さて、ロックウェル王の側近の皆さん、戦闘職以外の住民はどうされました?」

「……王の住処にいる」

「じゃあ連れてきてください」

「どうするつもりだ!」

ロックウェル王の側近達は戦闘職に無い仲間を想ってか、そう言いながらこちらを睨んでいる。

「料理を手伝ってもらいます。お腹が空くとストレスも溜まりますからね」

俺が笑って答えると、少し毒気を抜かれた側近に、またもやグランドさんが説得するように言葉を投げかける。

「ルシエル殿は基本的に優しいぞ。ただ最近は敵対するものに、少し厳しさを持てるようになったがな。悪いようにはならんさ」

「……グランド様がそう仰られるのなら」

側近の者数名が、王の住処へ向かって歩き出した。

「……さっきから何だかアピールされていますか?」

俺はおいしいところを持っていくグランドさんに微笑みながら声を掛けた。

「何の話じゃ? 誰も失望したと言われて、ドワーフ族ではこれだけ権威を持っていると、分かってもらおうなんて事は思っていないぞ」

グランドさんは目を逸らし答えた。

「……権威があるのは知っていましたよ。ただ手紙の内容は知りませんし、ロックウェル王の態度や、あの場の出来事を考えると謀られたと思っても仕方ないでしょう?」

「……王に息子がいるのは知っていたが、あそこまで暗愚だとは知らなかったのだ」

グランドさんは本当に知らなかったのだろう。俺は、ただロックウェル王を含めドワーフ達の態度が少しでも改善されればと牽制の意味を込めて話しを続ける。

「ケフィンが本気で動いていたら、ロックウェル王以外は死んでいましたよ? まぁケフィンが抜刀するなんて事は無かったでしょうがね」

「……信頼しているのだな」

俺の言葉に一瞬詰まったグランドさんは、そう告げて目を瞑った。

そのグランドさんが迷っている表情は、何処か痛々しかった。

だから俺はライオネルやケティ、ケフィンに対する気持ちをグランドさんへ素直に伝えた。

「ケフィンもそうですが、ライオネルもケティも敵に回る可能性がゼロではないと思っています。それでも彼らが居なかったら、俺はもうとっくに死んでいたと思います。彼らは俺を命の恩人だと思っていますが、また逆も然りで、俺の命の恩人でもあるんですよ」

「そうであったか。しかし普通は奴隷からの解放を望むだろうに……何故、彼らは奴隷で居続けようとするのだ?」

再び目を開けたグランドさんは真剣な表情だったので、しっかり答えることにした。

「推測は出来ますが、聞くことはしていません。今後も聞くことはないと思います」

「……聞きたいとは思わんのか?」

「思いません。聞いてもらいたいことなら聞きますし、一緒に悩むこともします。でもそれだけです」

「……何故だ?」

「話せないということは、自己処理が出来てないからだと思うからです。だから相談にならいつでも乗るし、奴隷契約の解除をしたいと言われれば直ぐにそうするつもりです。俺の命に危険が迫っていない限りと条件がつきますけどね」俺はそう言いながら笑った。

「後悔はしないのか?」グランドさんは神妙な面持ちで聞いてきた。

「するんじゃないですか。でも壁にぶち当たってからが本当の勝負ですよ。何でも十全にこなせる人なんて存在しませんし、俺は凡人ですから。それにあのレインスター卿でさえ失敗をして後悔しているんですからね」

「数年で随分と強くなったものだ」

グランドさんは目を細めて頷くのだった。

俺はその言葉を聞いて少し嬉しくなった。

どんなチートだと思える能力を持っていたとしても人は失敗する。

目の前に突如でかい壁が出来た時に諦めるか、乗り越えるか選択肢は本当に二択なのだろうか?

発想を変えて壁を壊すことや、壁の横を歩く方法を考えつくのか、俺はそれが一番大事だと思っている。

大手の会社と競合になった時にイニシャルコスト、ランニングコストで負けていても、別に値段勝負と考えるのではなく、他にニーズにあった提案が出来れば勝負出来ることもある。

営業であれば商品知識や、そのお客様が何を一番望んでいるか、ちゃんとリサーチして提案が出来れば、少し高くても構わずに逆転することも出来るものだ。

勿論、全てがうまくいく訳がないのも事実だ。

でも何事も諦めたら、そこで終わってしまう。

「後悔したら、立ち直るまでに長い年月が掛かる場合もあります。それでも時間は流れますから、日々自分が出来ることを少しでも進めています」

「……我等ドワーフも、そう突き進まないといけない時期が来たのかもしれないな」

グランドさんの呟く声は、俺には届かなかった。

そんな会話が途切れた所に放っていた治癒士の五人が視界に入ってきた。

いずれもビクビクしているのだが、薄暗い穴の中にいる為だと理解するのに時間は掛からなかった。通常治癒士は魔物が出るようなところには行かない。しかも薄暗い洞穴。治癒士には精神的にきついことを思い出した。

五人を見ていると、必死にブロド教官に訓練をつけてもらっていた日々を思い出だし、自分を褒めてあげたくなる。

もし仮にまたこの人生をやり直せても、メラトニの街では同じ行動を取るだろう……っと、思考の渦に巻き込まれるとこころだった。

「じゃあ治癒士の五人は一応自己紹介してもらってもいいですか? ああ、その前に私が自己紹介するか。イエニス支部から教会本部所属に戻ったS級治癒士のルシエルです」

俺の自己紹介で驚きはない。

きっと知っているものが教えたのだろう。

「では私からですが、元ルーブルク王国プラスタに所属していました治癒士メリードと申します」

「同じく元ルーブルク王国プラスタに所属していました治癒士ファンズと申します」

「イリマシア帝国デレスード所属ナラットと申します」

「同じくイリマシア帝国デレスード所属ノルマンと申します」

「聖シュルール協和国エビーザ所属エスティアです」

「悪いが有事なので、階級に沿った喋り方にさせてもらう。皆さんはエリアバリアを使えますか?」

『はい』

「使えません」

「それでは四名はニグループに分かれて、ドワーフ達が集まっているところで、エリアバリアを唱えて魔力が枯渇しそうになったら、戻ってきてください」

「あの、回復の方が良いのでは?」

「本当はその方が良いです。ですが、レベルが低いと魔法が使える回数も少ないままなので、レベルを上げてください」

「それでレベルが上がるんですか?」

四人が怪訝そうな顔をするが、俺はそれを肯定することにした。

「上がると思います。私は何度か経験がありますので。ただそれは皆さんの魔力練度等に影響を受けるものですから、真剣に取り組んでください」

『はい』

同じ所属でペアを作ると彼らは別々の場所へと向かった。

「さてと、君は治癒士ではないのか?」

俺は残ったエスティアに声を掛けると彼女は静かに頷いて口を開いた。

「精霊魔法剣士です」

「精霊魔法剣士?」

「はい。他の人のことは分かりませんが、JOBはそうなっています」

「……精霊魔法を使うってことか?」

「ふふっ、はい。精霊魔法は光、火、水、土、風、闇、雷、氷、木の九属性がいて、魔力を対価として精霊さんにお願いして魔法を使う人のことです」

魔法剣士の精霊版か? レインスター卿も同じようなもんだとしたら、もしかしてこの女性も強いのか?

戦乙女聖騎士隊やケティ、ナーリアも俺より強い部類だし……。

「……それで、君は何が出来る?」

「回復、補助、攻撃、妨害の魔法を少々と剣と盾が使えます」

「……何故奴隷になった?」

「お買い物してから、ご飯屋さんで食事をしようとしたら、奴隷商の馬車に乗せられていました」

完全に違法奴隷だな……だが睡眠薬を盛る店なんてあるのか? という疑問と、ご飯屋さんという言葉に違和感を覚えた。

「……ご飯屋さん?」

「えっと、お食事を出してくれるところです」

「食事処か……どれくらい戦える?」

まさか転生者……いや、飛躍し過ぎている気もするが、迂闊なことは言わないように気をつけることにした。

「奴隷の中ではたぶん一番?」

「……そうか」

俺は聖銀の剣と盾を出してエスティアに渡すことにした。

「神と精霊に誓い、俺、俺の従者、ドワーフ達に不利益が出ないように戦闘に参加することを宣言して受け取れ」

「……誓います」

「暫らくは俺の護衛を頼む」

「えっ? 蟻の巣に突っ込まないんですか?」

「今から洞穴に入ったら、下手をすると攻撃を受ける。だったら皆の休憩と食事を用意してあげる方が効率が良いはずだ」

「…………」

エスティアは目を逸らした。

俺はそれを見て察したが、野菜を洗うキラキラ君ぐらいなら扱えるだろうと、仕事を与えようと思った時に、王の住処に戻ったドワーフ達が戻ってきた。

それも戦闘職ではないドワーフ女性や子供を連れだ。

集団は食事を運んできてくれたので、大きな鍋などがあった。

「来ていただいてありがとう御座います。戦闘は近くで行われていますが、皆さんに危険が及ぶことの無いように、尽力させていただきます。その証として皆さんに防御結界を張りますね」

俺は少しでも安心してもらおうとエリアバリアを掛ける事を宣言してからエリアバリアを展開した。

最初は戸惑いの表情を浮かべたドワーフ達だったが、手や顔などを軽く叩いても痛みなど無かったからか直ぐに、はしゃぎ始めた。

「お前達、はしゃぐのは良いが、食事の準備を進めておくのだぞ」

直ぐにロックウェル王が一言発すると、ドワーフ達はテキパキ動き出し、俺もそれを手伝いながら、ケティとケフィン達の帰りを待つのだった。