軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

103 魔道具のアイディアは突然に

聖シュルール協和国との境まで、一日と少しの時間で到着するところまで来ていた。

「馬車を曳く感覚がないと、馬ってかなり速く走れるんだな」

「あれほどの重力軽減がしてある馬車を、私も見たことがないですよ」

「そうか。それにしてもたった一日で国境まで来たけど、一年がこんなに長く感じたのは初めてだったよ」

「慣れないことを始めるとそんなものです。さて、国境を越えたら壁伝いに左へ向かうのでしたな?」

「ああ。場所はちゃんと確認してあるし、ドランとポーラがそう言っていたから間違いないだろう」

「近隣に村か何かがあれば良いのですが…」

「まぁ、ないならないでも……と、はぁ~、魔物はこっちでも多いな」

目の前には、オオトカゲと大蛇が行く手を阻みながら威嚇し合っていたのだが、こちらに気がつくとこちらを警戒し始めた事が分かった。

「この左に広がる渓谷がそうさせるのかも知れませんな」

ライオネルが、そう冷静に分析している横で俺は聖龍の槍を魔法袋から取り出して構えた。

「じゃあ、レクチャー通りに馬上槍で戦闘するかな。頼むぞフォレノワール」

「一番槍は今回もいただきます」

そう話している横から、かなりのスピードで駆け抜けていく猫獣人の姿があった。

「退屈だから参戦するニャン」

顔を見合わせた俺とライオネルは、ケティを追って戦闘に入るのだった。

手綱を左で掴み、魔物とすれ違う瞬間に槍を両手持ちへと変更し、馬を膝でガッチリと挟んで固定する。

フォレノワールが相手の攻撃を読めるために、俺は魔物のただ一点に集中し槍で突く。

タイミングは絶妙でも、さすがに自分の足で戦うよりずっと難しく、倒しきることが出来ずに魔物の横を通りすぎる。

そして折り返す頃には既に、ライオネルとケティが屠り去ったあとだった。

「ブルルル」

少し落胆したようなフォレノワールに謝罪を込め撫でた後、俺は二人の元へと戻る。

「ケティは自慢の俊足があるから分かるが、ライオネルは何でそんなに……」

「これでも将軍でしたからな。馬上槍を十歳から始めていましたので、既に三十年以上の 経験(キャリア) があります」

ライオネルは照れることも無く、少しドヤ顔をしてから笑った。

「ライオネル様は、馬上で不覚を取られたことは一度も無いニャ」

ケティはその素早い動きから、数匹いたオオトカゲの脳を一点集中突き刺し、魔物を葬っていた。

「そうか……それで何で馬車から飛び降りてきたんだ?」

「暇だったニャ。一日目はジットしてたけど、今日は外に出られるよう許可をもらいに来たニャ」

「……もしかして魔法談議を聞いているのが嫌になったのか?」

「ち、違……わないニャ。もう変な呪文が延々と続いているニャ。あそこにいたら精神的にやられるニャ」

「それなら御者をケフィンと代わればよかったろ?」

「ケフィンを良く見るニャ。御者をしているのにも関わらず目が遠いところを見ているニャ」

そう言われてケフィンに目を向けると、確かに遠い目をしていた。

「ドランは?」

「孫に友達が出来たと喜んでいて、完全な好々爺になっているニャ」

…………確かに魔道具を語る友達なんて、探してもあまり見つかりそうにないもんな。

「ペースは変えないぞ?」

「問題ないニャ。疲れたら戻って御者をするか、魔境に戻るニャ」

徐々にテンションが下がるケティに、俺は外にいることを許可するのだった。

一時間ほど馬を走らせ街道が見えて来た頃に、渓谷が少しずつ離れていき、左には森が広がり始めるのだった。

「こういう森とかで暮らす魔物もいるから気をつけないといけないよな」

「まぁここは既に聖シュルール協和国ですから、そこまで強力な魔物が出ることはありますまい」

「それが絶対じゃないから困るんだけど……」

何も魔物は地上にいるだけではないのだ。

時には空からも奇襲があったり、地下から現れる魔物もいる為、気を休めることは出来ない。

俺はそこで考えた。

魔物が分かる魔物探知機があれば、こんなに悩む必要がないのでは?

俺は昼休憩の際にそれが作れるか聞くと三人は固まった。

「その手が合ったか!」

「閃きの天才!」

「それが出来れば、魔物に怯えないで人々が暮らすことが叶うかもしれませんわ」

三人はそう言い出して、そこからはたくさんの専門用語が飛び交い、すっかりと蚊帳の外へと追いやられてしまった。

「……いずれ軍事利用する国が出てきてもおかしくはなさそうですね」

ライオネルはそうポツリと呟いた。

「それでもそれは使う人によると思いますニャ」

ケティは遠い目をして視線を先へとやる。

「ルシエル様が平和の為に作ろうとしている事は、俺達が証明しましょう」

ケフィンが拳を作りながらそう言ってくれた。

軍事利用とか全く考えていなかった俺は、ライオネルの考えに置いてけぼりにされたが、ここでようやく再起動を果たすことが出来た。

「しかしドランが料理が出来るとは以外だった」

俺の呟きに魔道具談議をしていた筈のドランは、いつの間にか俺の隣に来ていて、その理由を語る。

「ポーラをしっかり育てられるように、色々努力したんじゃ」

「なるほど……そのせいでポーラは料理を覚えることはせず、魔道具技師になったのか」

「…………反省はしているが、後悔は少しだけしかしておらん」

少しはしているらしい。

「……そのうち野菜を入れたら、勝手に調理してくれる魔道具を開発しそうだな」

「?!やはり閃きの天才!」

「それは絶対に造るしかないですわ!」

実はリシアンも料理が出来ないので、二人の食いつきは先程よりも凄かった。

「何か構想はある?」

「どんな些細なことでも構いませんわ」

「えっ? ん~そうだな……例えば材料を入れたら、レシピの工程を順番通りに行ったりとかかな。

それとは少し違うけど、料理を急速に冷凍した後、圧力で水分を飛ばすことが出来れば、お湯で戻せる非常食のようなものが作れるかもしれないね。

今でも干し肉を作るときには、塩や香辛料で腐敗を防いで乾燥させてスープ等に使うし、その技術が確立出来ればお湯を入れて戻すだけで美味しい料理が食べれたりするんじゃないかな?」

前世のテレビで見たフリーズドライ食品を説明することによって、この世界で再現できるかは分からないが、やってみる価値はあると思い二人に提案してみた。

「魔物探知機と保存食……やはり天才…それとも……」

「ポーラ、ここはそれを造り上げるために、お互いの技術を集結させるしかないですわ」

「分かった。料理が出来なくても、お湯を注ぐだけで料理になる。これは人類の夢」

「世界が変わりますわ」

二人は手を取り合いながら、固い握手を交わしてまた魔道具談議を始めた。

俺はそこで解放されると、ライオネル達も驚いていた顔をしていた。

「……何?」

皆があまりにもこちらをじっと見ているので、とりあえず聞いてみることにした。

「その若さで奇跡の光を使い、人々から魔物に襲われないような発想を考え出し、長期に渡って料理を保存出来る魔道具を構想するとは……」

ライオネルはいつもとは違い、言葉尻に向かうにしたがい声が徐々に小さくなっていた。

「いずれ完成したら、私も欲しいニャ」

ケティは想像通りだったので、不覚にも笑ってしまった。

「武器や防具のアイディアも色々あれば聞かせて欲しい」

ドランは鍛冶でも何か面白い構想のアイディアを欲しがった。

「…………」

最後にケフィンだけはこちらを熱い眼差しで見つめていた。

これはあれか……ケフィン達が治癒士ギルドを襲撃して失敗した際に、ドランとポーラが剥ぎ取ったマジックブラジャーと、セット装備で効果が上がるマジックパンツを渡したか?

「悪いが俺はノンケだぞ」

「はっ?」

真顔で返事をされたから、どうやらそういうことではないらしい。

「……どうしてそんなにこちらを見ている?」

「えっ……いや、俺にも目標が一つ出来たと実感していたところです」

……目標か。

色々と背筋がゾクっとなっていたから、勘違いで良かった。

「なら良いや。頑張れ」

「はい」

ケフィンは嬉しそうに頷いた。

俺達はこうした雑談を交えた昼休憩を終えると、技術屋が集う街ロックウォードへ向けて移動を再開するのだった。