軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第24話  光剣のカラン

先に動いたのはトールだった。

軽い動作で振るわれた鎖戦輪が地面と平行にゴーレムへと迫る。

小手調べのその一撃は先端速度がやすやすと音速を突破した。

通常のゴーレムでは反応できても防御不能な攻撃速度のはずだった。

しかし、ゴーレムはハルバードで鎖戦輪を下からすくい上げて跳ね上げる。その動作速度は一般的なゴーレムとは別次元の軽快さだった。

「……旧文明の品か? どこから引っ張り出してきたんだよ」

試しに磁力を帯びさせてみようと赤雷を直撃させるが、ゴーレムに衝突する寸前にあっさりと霧散する。

全身にエンチャントを施して魔法抵抗を高めてあるらしい。

「動作時間は短いので、早々にケリを付けさせていただきます」

光剣のカランが剣先をトールに向けると二十体のゴーレムが一斉にハルバードを構えて走り出した。

旧文明の品だけあって魔機獣と同様に連携も巧みだ。加えて生存本能がないため被弾無視で突撃してくる。

トールはポーチから歪になった鉄杭を取り出して地面に転がした。

磁力で加速した鉄杭は先頭を走ってくるゴーレムへと転がっていき、磁力でゴーレムの足裏にくっついた。

わずかに動きが鈍ったが、ゴーレムはほとんど減速せずに足裏にくっついた鉄杭を無視して走ってくる。

「バランスも崩さないか」

さすがは旧文明の品だ。よくできていると感心しながら、トールは地面を蹴った。

エンチャントで炎を纏ったハルバードが一斉に振るわれる。

スライディングで姿勢を低く、磁力で先に放り込んだ鉄杭に自らの体を引き寄せさせて加速する。

ハルバードを鎖戦輪で弾き飛ばし、片手で地面を押し出すように姿勢を持ち上げると近くにいたゴーレムを蹴り飛ばす。

金属製のゴーレムはトールに蹴られた程度ではびくともしなかった。ちょうどいいと笑みを浮かべたトールはゴーレムを足場に宙へと舞い上がり、鎖戦輪を引き寄せた。

宙に上がったトールへと二十本のハルバードが突き出される。

直後、鎖戦輪がゴーレムの頭上を薙いだ。

赤雷による赤い円が宙に描かれたかと思うと、突き出されたハルバードがことごとく切断されて穂先が吹き飛ぶ。

ゴーレムたちは即座にハルバードの柄を使った棒術に切り替えようと持ち手を変えた。

だが、トールを相手にするには遅すぎた。

ゴーレムたちの頭上でトールは鎖戦輪を真下に振り下ろし、二十体のゴーレムの只中に着地する。

同時にトールを中心に赤雷が天から降り注いだ。

幾重にも雷鳴を轟かせ、赤い閃光に包まれたゴーレムたちが反応するよりも早く、事が起きる。

屈んだトールを鎖戦輪が保護し、強烈な磁場で引き寄せられた歪んだ鉄杭と放り出されたマキビシが金属製のゴーレムたちの中を跳ねまわる。

その威力はすさまじく、重量のあるゴーレムが衝撃で脚を浮かせ、ボディをひしゃげさせる。

雷鳴と閃光が止んだ時、ゴーレムたちは装甲を弾き飛ばされ、比較的脆い関節部が吹き飛んだ状態で転がっていた。

立ち上がったトールはカランに向き直る。

「玩具に頼るなよ」

「いえ、兵器ですよ」

冷静な返答をしてカランは剣にエンチャントを施した。

まだ撤退する気はないのかと意外に思うトールだが、周りを見回して気が付く。

トールがあまりに早くゴーレムを倒してしまったため、通行人が足を止めていた。

冒険者ギルドの方角が少し騒がしくなっているが、援軍に来るまでに時間がかかるだろう。

トールは通行人との距離を目測して会話は聞かれないと判断し、カランへと距離を詰めながら声をかける。

「適当に戦って見せればいいのか?」

「本気でお願いしたいですね。タイミングを見て逃げますので。事情の説明は後ほど」

「本気ね」

周囲を見て、トールは首を横に振る。

本気を出すには野次馬が近すぎる。エンチャントが使えない一般人が巻き込まれれば何人が感電死するか分からない。

そもそも、カランを殺してしまうのもまずい。

「まぁ、いまの答えでおおよそは察しがついた。うちの双子も苦情の手紙を書いているみたいだし、慰謝料を搾り取るからそのつもりでいろよ?」

「怖いですね。伝えておきます」

カランが重心を下げ、光に包まれた剣を逆手に構えた。

攻撃が来る、とトールは身構えようとして、カランの剣の金属反応が変化したことに気付き、その場を飛びのいた。

カランが目を丸くする。

「初見どころか技を出す前に避けきりますか……」

トールは重心を高めにしつつ、カランの剣の金属反応に注意する。

トールに対して柄頭が向くようにカランが剣を調整している。その柄頭にはレンズがついていた。

「その剣、柄でレーザーでも撃てるのか?」

「レーザーというのは?」

「対象を焼き切る凝集光」

「えぇ、からくりまで知られているとは思いませんでした。お察しの通りです。火傷は覚悟していただきたいですね」

光のエンチャントを使えるカランならではの飛び道具にトールは嫌な顔をする。

光の出力が分からないものの、レーザーは着弾までのタイムラグがほぼない不可視の攻撃である。

カランのエンチャント由来の光であるため、トールも全身にエンチャントを施せば致命傷は免れるだろう。それでも容易に対処できる技ではないはずだ。

トールは舌打ちする。

「ファライじゃなくても序列持ち相手じゃ手加減できないか。ったく、町中だってのに」

トールは両手の指を組み、左右の鎖手袋をまとめて外すと、革のポーチを開けてひっくり返し、中身を地面にばらまいた。

転がり出るのはマキビシが数十個。よくも入れていたものだと感心するほどばらばらとこぼれ出たマキビシは磁力を帯びており、互いがくっついている。

トールはマキビシを安全靴の先で蹴り飛ばす。

「レーザーだろうが、狙いを付けられなきゃいいだけだろ」

「……え?」

カランの手元の動きよりも速く動き回るつもりでいるらしいトールに、カランが疑問の声を発した時、地面に赤雷が駆け巡った。

トールが発した赤雷はばらまかれたマキビシをさらに広範囲に散らばらせる。

同時に、両手の鎖手袋が宙に浮き、感覚を確かめる様に握ったり開いたりを繰り返した。磁力で指の関節部分を反発させて曲げたり、伸ばしたりしているのだ。

鎖戦輪の中央部分を素手で掴んだトールはカランを睨む。

カランが剣の柄頭を向けかけた、その瞬間にトールは足元のマキビシと安全靴の金属を反発させ、姿勢を変えずにカランの前に移動する。

行動の予兆となる重心移動が一切ないその動きに虚を突かれたカランの反応が遅れた。

中央を掴んだ鎖戦輪で左右からカランを強襲する。

「くっ!?」

焦った顔でカランが剣を振り上げて右側の鎖戦輪を弾き、左側からくる鎖戦輪を鞘で打ち払う。

反撃に転じようとカランが柄頭を向けた時、トールは足元のマキビシを利用して後方に逃れていた。

距離が離れたトールを見てカランが体勢を立て直そうとした直後、鎖戦輪がカランの後ろから音速を超えて飛来する。

ばらまかれて地面に埋め込まれたマキビシを土台に鎖手袋が鎖戦輪を振り回していた。

地面すれすれを飛ぶ鎖戦輪を軽いジャンプで躱したカランへと、トールが左手の鎖手袋を投げつける。

鎖手袋を見たカランは一瞬剣で払いのけようとして、思いとどまり上半身をそらして躱す。

「まぁ、バレるよな」

トールは歪んだ鉄杭を手元に引き寄せながら呟く。

剣で払いのけようものなら鎖手袋で刃を掴み、それを起点に磁力で剣を奪い取る算段だった。

だが、結果は同じだ。

すでに攻撃の起点となるマキビシをばらまいており、周囲は一般人で囲まれている。

カランが単なる犯罪者であれば民間人の被害を気にしないが、口で何と言ったところでカランが民間人に危害を加えるのは考えにくい。

カランの事情を見透かしたうえで、トールは完全に戦場を手中に収めていた。

マキビシからマキビシへと磁力の反発と引力で高速移動する鎖手袋と鎖戦輪、さらにはトールが予兆を感じさせない動きで距離を詰め、鉄杭で殴り掛かる。

防戦一方のカランは必死だった。

これがファライであれば地面に銃弾を撃ち込むなどで砂や石を掘り起こして転用し、包囲を抜けるだろう。

だが、カランはまだ逃げるわけにもいかないのだ。

人ごみの一部が割れ、冒険者ギルドからの応援が来た時、カランはほっとしたような顔をした。

「時間切れですね。逃げさせてもらいます!」

あらかじめ用意していただろう台詞を言い放ち、カランが冒険者の群れを見る。

直後、カランがエンチャントの強度を高めてまばゆい光を発した。

冒険者たちが突然の閃光に視界を奪われ動きを止める。しかし、AランクやBランクの冒険者たちが全員動きを止めるはずもなく即座に身体強化やエンチャントで応戦の構えを見せた。

しかし、彼らが認識するよりも早く、カランは冒険者たちの間をすり抜けて戦場を走り去っていた。

金属反応でおおよその状況を把握しながらも追いかけなかったトールは鎖手袋と鎖戦輪を引き寄せ、軽く地面の上を鎖戦輪で薙いで地面に埋め込んでいたマキビシを回収する。

冒険者の群れを割り、支部長が現れた。

「事情の説明をしてくれ」

「あぁ、そうだな」

こっちもまだ答え合わせが終わってないんだけど、とトールは魔機車を振り返る。

キャンピングトレーラーのサンルーフから顔を出したメーリィが手紙を折りたたんで紙飛行機を作り、飛ばしてくる。

「トールさん、経緯を書いた物です。支部長に渡してください」

「ありがとう」

トールの戦闘中に書き上げたらしい手紙を空中でつかみ取り、トールは支部長に手渡した。

「悪いが、俺も依頼人の元に急がないといけなくてな。後でまた来るから、いまはそれで勘弁してくれ」

「お、おい」

支部長の呼び止める声を無視して、トールは魔機車の運転席に乗り込んだ。

助手席に座ったユーフィが口を開く。

「珍しく最後まで振り回されている気がしますね」

「だが、状況は見えてきた。茶番劇にも付き合わされたんだし、出演料をせしめないと割に合わねぇ。ふんだくってやる」