軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第8話  密輸捜査

注文したスープパスタを食べながら双子から聞いた話を総合すると、次のようになった。

ダランディ内で出所不明の銀細工が発見されたとの報が流れる。

銀細工の発見報告がたびたび上がるようになる。

双子はこっそりとウバズ商会の帳簿を確認、外部の町の工房への発注量が年々増加していることを知る。

増加した発注量から推測すると売上金が足りていない。そもそも、在庫がだぶつく可能性が高い。

ウバズ商会の倉庫を調べるが、在庫が存在する様子がない。

ハッランやウバズ商会の従業員、『魔百足』の目をかいくぐっての調査には時間がかかり、そうこうしているうちに徴税請負人が動き始め、金貨不足が表面化し始める。

調査を進めるには『魔百足』への対抗処置が必要となり、トールを護衛に雇った。

「『魔百足』とハッランが架空発注で裏金を作り、それを街の外部に密輸している。そう疑っているのはわかったが、架空発注以外は全部想像だろう。証明するにしても、当てはあるのか?」

双子が語った内容はほぼ状況証拠からの推測だ。

架空発注について双子がハッランを糾弾しないのも不自然だった。おそらく、架空発注についてすら証拠は不十分なのだろう。

トール個人としてはハッランと『魔百足』の心証はよくない。密輸をしていると聞かされればありうると思うほどに。

しかし、証拠がなければ動けないのも事実だ。

「トールさんの言う通り、証拠が必要」

「そしてこの時期、税の申告と納付のためウバズ商会には多額の金銭が集まります」

「いわゆる決算期なのですが、『魔百足』への支払いもこの時期」

「貨幣を不法に持ち出すための下地が整っていると言えます」

双子は片方が食べている間にもう片方が話す。

「ハッランたちの出方を見る、と?」

「もう動いていると思います」

「私たちはこれから尻尾を掴むために動く」

「いざとなったら俺の出番ってわけだ。外部はどう動いているんだ?」

「ダランディ上層部も調査を始めているはずです。『魔百足』を怪しんでいると思いますよ」

「情報共有は支部長を使うのか?」

「そうなります」

双子が同時に鴨の生ハムを口にし、鏡写しのように頬を押さえて首をかしげる。

「美味しい」

大規模な犯罪捜査の話をしている真っ最中とは思えない嬉しそうな表情だ。

飯の顔しやがって、と内心で突っ込みを入れるトールだったが、口から出たのは全く別のことだった。

「しかし、捜査を続けていいのか?」

「と、いうと?」

双子が不思議そうにトールに問う。

気を使い過ぎて言葉不足だった、とトールは反省して言い直した。

「ハッランは実質的なウバズ商会の責任者だろう。その犯罪が明るみに出れば大問題だ。塩の専売権は取り上げられるだろうし、下手をすれば商売そのものができなくなってウバズ商会の倒産もありうる」

ギルド支部長から聞いた話では、ウバズ商会を今ほどの規模に育て上げたのは双子の両親だという。ウバズ商会は双子にとって両親の形見なのだ。

そんなウバズ商会が潰れるのを双子は容認するのか。それとも、ダランディ上層部に先駆けて証拠を固め、ハッランを追い出して内々に話を付けるつもりなのか。

どちらを選ぶかによって時間制限が変わってくる。後者を選択するなら強引な手を使うことにもなりかねない。

護衛として方針を聞いておきたかった。

双子はフォークを置いて、真摯な表情でトールを真正面から見据えた。

「経済に麻酔はない。故に痛みをのんで病巣の早期切除が望まれる」

「人に流させた汗は賃金となる。人に流させた血は借金となる」

「すでにダランディの経済は病的な状態です」

「事態が進めば経済的な困窮から死に至る方も出るでしょう」

「得をするために動く。商人でなくても当たり前のことです」

「損をしないために動く。商人でなくても当たり前のことです」

双子はそこで、少しだけ寂しそうに微笑んだ。

「両親の受け売りで、ウバズ商会の者なら誰しも聞かされた教えですが」

「いまや理解しているのは私たちだけになってしまいました」

「ですから、私たちが手を下す必要があります」

「形見はなくなっても、学んだことは消えません」

「なにしろ、私たちには頭が二つありますので」

覚悟はとうに固めているようだ。

愚問だったか、とトールは双子の覚悟に敬意を払いつつ、続けて問う。

「具体的に、どこから調べるんだ?」

「押さえるべき情報はたった一つです」

「密輸方法、この一点」

「というわけで、地道な聞き込み調査をしましょう」

「食事を終えたら『魔百足』の利用する宿に向かいます」

「こんな時間に聞き込みか? 相手がいないだろう」

冒険者が利用する宿だけあって、従業員が客の情報を話すとも思えない。『魔百足』は二十人に及ぶ大口顧客だからなおさらだ。

しかし、双子の聞き込み相手は宿の関係者ではないらしい。

「二十人の食事ともなれば残飯も相応の量となります」

「おい、まさか」

「はい、夕食の残飯を目当てに集まる方々が聞き込み対象です」

相手は浮浪者らしい。

綺麗な所作で上品に食事を進める二人のいいとこのお嬢様が自分から声を掛けるような相手ではない。何をされるか知れたものではないのだ。

視線に気付いた双子がにっこりとほほ笑む。

「トールさん、護衛のほど、よろしくお願いしますね?」

自ら危険に飛び込むつもりの護衛対象にトールはため息をつき、高い値段がついているだけあって美味い食事を味わうことにした。

せめて、これくらいはうま味がなければ割に合わない仕事になりそうだ。