軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第10話  紺青

「ずるいですね。おいしいお酒を二人きりで飲んでいるだなんて」

「男性同士の友情を深める酒盛りを否定はしません。けれども、私たちだって飲みたいです」

そんな抗議をしながらキッチンにやってきた双子はトールからワイングラスをせしめると二人で一口ずつ飲んだ。

「凄くおいしいですね」

「銘柄を覚えておかなくては」

「実はもう一本あるんだけれど」

キリシュがワインクーラーを横目に言うと双子は拍手した。

「嬉しい知らせですね! それはそうと、ピアムさんが疲れて眠ってしまったので部屋に届けたいのですが」

「おや、リビングで居眠りとは珍しい。それをネタにすれば酔い潰れても怒られないで済みそうだ」

キリシュがくっくっくと笑いをかみ殺しながら、リビングに向かう。

ほどなくして、ピアムを部屋のベッドに寝かせてきたキリシュが戻ってきた。

「では大人の交流会といこうか。双子さんも飲むだろう?」

「いただきます」

「どうぞ遠慮なく飲んでくれ」

グラスからつまみまでも用意し始めるキリシュに悪いからと、トールは一度魔機車に戻って旅の途中に購入した珍味を持ってくる。

四人で酒杯を掲げ、世間話ついでに昨今のクラムベローの絵画界の噂を聞いていると、双子が興味深そうに食いついた。

「新しい青色顔料ですか」

「そう。リスキナン氏の冒険者クラン『ブルーブラッド』はそのまま貴族を指すが、商品名もこれにちなんでいるようだね」

双子が考えこむ横で、魔物肉の燻製をかじっていたトールはふとトリビアを思い出す。

「そういえば、カタツムリの血って青いんだったか」

ブルーブラッド、青い血からの連想で話題とはまるで無関係のカタツムリの話を持ち出すあたり、トールは酔いが回っている。

トールも酔いを自覚して水を飲み始める。

「――そういうことですか」

「ん? メーリィ、何がそういうこと、なんだ?」

「デズラータム教ですよ。トールさんの出身世界の宗教ではないので分からないかもしれませんが」

メーリィが口にした宗教の名前にトールは少し記憶を漁って、手を打った。

「思い出した。落ち物の書物に記載があった宗教だろ。地球関連物でもなく、この世界のモノでもない宗教だ」

「話の腰を折って済まないけれど、トール君は落ち物なのかい?」

「あ、隠していたわけでもないが、落ち物で、地球出身なんだ」

「へぇ、数奇な運命を辿ったものだね」

キリシュが好奇心に満ちた目でトールを見るが、話が逸れてしまうためそれ以上は言及せず、双子に視線を移して無言で続きを促した。

メーリィがワイングラスを片手に説明する。

「デズラータム教はあまり詳しくわかっていない異世界の宗教です。関連する物品もただ一つ、その落ち物はこう呼ばれています。『デズラータム宗祭事書』、と」

メーリィが楽しそうにその名を口にする『デズラータム宗祭事書』は異世界の宗教本、教典の類とされている。

数十年前にダンジョンから発見されたもので、こことはまた別の異世界の品だ。

地球に関連したものではない上に戦争のごたごたで紛失して行方も分からないことからトールも詳しく調べていない。

「確か、カタツムリを神と崇める宗教らしいとは聞いたが、それ以上は知らないな」

「はい。もともと情報が少ない宗教ですから当然でしょう。デズラータムは流浪の民であり、固い住居を持って移動するカタツムリに共感したのかこれを崇めるようになったようです。ですが今回、注目すべきは宗教そのものではありません」

ワインを飲むメーリィの後を引き取るようにユーフィが説明してくれる。

「『デズラータム宗祭事書』に書かれた宗教的儀式の内の一つ、葬儀の項目には、生まれ変わった際に住居を得られるように、カタツムリにあやかって青い血を死者の心臓に注ぎ入れる儀式があります」

「青い血を?」

神と崇めるカタツムリに近づけるべく青い血を注ぐというのは、宗教催事の動機として理解できないこともない。

問題はどれくらいの量の青い血を死者に注ぐのか。カタツムリやナメクジを大量虐殺してみたところで青い血を得るのは難しい。

「カタツムリをはじめとする青い血の動物は人間のヘモグロビンとは異なり、ヘモシアニンを持ちます。ヘモグロビンは酸化鉄由来の赤色を呈しますが、ヘモシアニンは酸化銅に由来する青色を呈します」

「ですが、デズラータムの民がこれらの知識を持っているわけではなく、宗教的な儀式ということもあり――死者の血を青くしてから心臓に戻します」

ここからが本題だと、双子が声を合わせる。

「『デズラータム宗祭事書』には赤い血液を青くする詳しい方法が書かれているそうですが、おおよその推測はできます。地球の錬金術師、ヨハン・ディッペルが製造した人工の青色顔料、プルシアンブルーと同一のモノでしょう」

プルシアンブルー、またの名を紺青。

ヨハン・ディッペルが偶然製造した人工青色顔料であり、江戸時代に日本に輸入されると葛飾北斎をはじめとしたさまざまな浮世絵師が利用した。

「この紺青、詳細を省きますが血液由来の鉄分を利用したもので、生物の血液や肝臓などが原料になります。クラムベローの吸血鬼事件と符合しませんか?」

二年前から俄かに増えた魔物や家畜の不審死では血液だけでなく肝臓なども抜かれていた。

さらに現在、新しい青色顔料をリスキナン・ベローが製法を秘匿したまま独占販売している。

そんなリスキナン・ベローは冒険者としてクランを設立している。

冒険者であれば、クラムベローの外に魔物を狩りに行くのは自然なことだ。

状況証拠しかないため断定はできないものの、一致する点が多い。

「証拠を固める方法は?」

「リスキナン・ベロー率いる『ブルーブラッド』の構成メンバーが魔物を仕留め、血液や内臓を抜く現場を押さえること。もう一つは、紺青の製造時に発生するアンモニア臭です」

容疑者を絞ってしまえば、調査もやりやすくなる。

トールは頷いて、方針を定める。

「ひとまず外堀を埋めていこう。二人は紺青の製造場所を特定してくれ。俺は森に行ってブルーブラッドが内臓を抜く現場を押さえてみる。ついでに不審死のあった現場も回ってみよう」