軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第5話  リスキナン・ベロー

冒険者クラン『ブルーブラッド』のリーダーを名乗るリスキナン・ベローは、冒険者と言うには線の細い男だった。

刃渡りの短いショートソードを腰に佩き、長い袖の先から覗く手の武骨さだけが冒険者らしさを表している。しかし、服装はさりげなく金がかかっており、明るい茶髪は毛先まで綺麗に整えられている。

明らかに上流階級の出で立ちだ。

「序列十七位の赤雷、トールさんですね。お会いできて光栄です」

人好きのする柔和な笑みで握手を求めるリスキナンに、トールは愛想笑いを浮かべて手を握り、魔機車の中に通す。

リスキナンは双子を見て驚いたように目を見張った。

「これは美しいご令嬢方。大輪の金の花のようではありませんか。絵のモデルにご興味は?」

「ありませんね」

「そうですか。残念です。気が変わりましたら『ブルーブラッド』までお越しください。ところで、お噂の炭酸ポーションの開発者はあなた方で間違いありませんか?」

さきほどまでギルド職員が座っていた椅子に座り、長い脚を組んだリスキナンが尋ねる。

ユーフィが無言で頷くと、リスキナンはパッと表情を明るくした。

「やはり! うちのクランメンバーが炭酸ポーションのおかげで一命をとりとめたことがありまして、ぜひ直接礼を言いたかったのです。ありがとうございます!」

組んでいた足をすぐに正して、リスキナンは頭を下げて感謝の言葉を述べる。

領主家の血筋とは思えない低姿勢だった。

トールは椅子に座りながらリスキナンに声をかける。

「それで、ご用件は?」

「礼を言いたかったのも用件の一つではあるんですけどもね」

頭を上げたリスキナンは笑みを浮かべたままトールと視線を合わせる。

「クラムベローを騒がせる吸血鬼事件についてです」

リスキナンが切り出した直後、二階から物音が聞こえた。

不思議そうにリスキナンが天井を見上げる。

「二階にも誰か?」

「いや、旅の荷物を積んであるだけだ。この魔機車は買ったばかりでさ。積み方に慣れてないから、走行後はたまにああして崩れて物音がする。話の腰を折って済まない」

ギルド職員が焦って荷物を崩したのだろうな、と予想しながらトールは素知らぬ顔で嘘をつく。

あまりにも平然と嘘をついて見せるトールに、ユーフィとメーリィが小さく笑った。

リスキナンは不審がることもなく、笑顔で手を振る。

「いえいえ、構いませんよ。では、話を戻しましょう」

「吸血鬼事件について聞く前に、リスキナン、あんたはここにどんな立場で来た? 一人の冒険者か、クランリーダーか、それとも領主家の人間か」

立場をはっきりさせてもらおうとトールはリスキナンに鋭い視線を向ける。

リスキナンは一瞬口を閉ざしたが、すぐに笑みを浮かべた。

「クラン『ブルーブラッド』のリーダーとしてであり、領主家の人間としてのコネを使うことを前提に、提案したいです」

トールは、胡散臭い立場表明だと内心警戒する。

「提案を聞こう」

「大層なものではありません。冒険者ギルドからの依頼を断りながらも吸血鬼事件については調べたいと聞きましたが、事実ですか?」

「あぁ、事実だ。個人的な興味で調べに来ただけだからな」

「それは良かった。提案というのは、吸血鬼を発見しても討伐せず、我々かベロー家に報告してほしいというものです」

「……手柄を横取りしたいと聞こえるが?」

「本意ではありませんが、結果的にはそうなるでしょう。我々はこれ以上の騒動を望まない。そこで、吸血鬼と直接交渉したいんです。まして、吸血鬼と序列持ちの戦いともなればクラムベローがどれほどの被害を受けるかわかりません。壊された芸術品は二度と元の形にはなりませんので」

領主家の人間としてクラムベローの平穏を維持するべく、冒険者クランのリーダーとして最大限立ち回りたい。そのためなら手柄の横取りになる不名誉も辞さないつもりらしい。

トールは提案を吟味する。

吸血鬼との交渉を前提にしている以上、ベロー家は融和派に該当するのだろう。それが都市を守るための政治的判断であっても、意見が二分されているこの都市で領主家が融和派に与する事実は重い。

だからこそ、先ほどのギルド職員は青い顔をした。敵対派閥のトップが交渉の場に殴りこんできたように感じたのだろう。

個人的な興味で吸血鬼事件を調べる以上、トールは手柄そのものに執着しない。

提案を飲んでも利害が衝突するわけではないものの、融和派に所属することになる。

「――お断りします」

メーリィが唐突に口をはさんだかと思うと、はっきりと提案を拒絶した。

リスキナンが笑顔を困ったように変え、メーリィに視線を移す。

「それは、パーティ全体での判断でしょうか? 相談しているようには見えませんでしたが」

「トールさんの判断はわかりませんが、私たちはその提案を拒否します。少なくとも今は、状況を判断できるだけの情報が集まっていませんから旗色を明確にするのはリスクが大きすぎますので」

「慎重ですね。しかし、旗色を示さなければ協力を得られないこともあるでしょう?」

「逆もまたしかりです。私たちはクラムベローの政治対立に巻き込まれて吸血鬼事件そのものの調査に悪影響が出ることこそを恐れます」

調査の邪魔になるから、ただそれだけで領主家の提案を蹴るという。

「それに旗色を明確にしなければ、ベロー家には心情を明かせない排斥派の方たちから意見を聞くこともできます。領主家として都市内の二派閥どちらからも意見をくみ取りたいでしょう? 私たちはある種の窓口ということで、どうでしょう」

にっこりと双子に笑みを向けられたリスキナンはため息を一つ。

「トールさんはどう考えていますか?」

「冒険者は根なし草だが、序列持ちともなると政治対立に巻き込まれることもあってな。旗色を明確にするのは嫌なんだ。まして、状況がまるで分からない。というわけで、保留だ」

「そうですか。残念です」

首を振ったリスキナンが立ち上がる。

「考えが変わりましたら訪ねて来てください」

魔機車を出たリスキナンは去り際に、トールを肩越しに振り返った。

「それと忠告です。中立とはどちらにも属さない第三勢力です。協力を得られるとは限りませんよ」