軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第10話 ダンジョン攻略開始

砂丘から吹き降ろす風が砂を巻き上げて色付き、冒険者たちへと迫る。

細かい砂粒がパラパラと顔に当たり、対策していない冒険者たちの目へと飛び込み視界を奪う。

視界が奪われた冒険者たちの隙を見逃さずに砂の中に潜んでいた魔物が無数に枝分かれする鋭く尖った舌を砂上の冒険者へと突き出す。

「――邪魔」

次の瞬間、無数の舌が宙を舞う。

鎖に繋がれた戦輪が砂風を瞬く間に払い、ジャリジャリと音を立てて舌の持ち主が潜む砂を掻き分けた。

慌てて砂を掘って逃げ出そうとする魔物だったが、もう遅い。

鎖戦輪が砂中の魔物を両断し、砂から血が滲みだす。

鎖戦輪を手元に引き寄せた冒険者、トールは目をこすりながらため息をつく。

「髪がぼっさぼさなんだけど。早いとこ第十階層に向かうか。ちょっと空から見てくるわ」

だらりと砂上に投げ出された鎖戦輪は赤い雷をまとったかと思うと、バネ仕掛けのように跳ね上がり、その上にいたトールを高く打ち上げる。磁力による反発を応用した跳躍で常人では到達できない高度に達したトールは周囲を見回し、自由落下してくる。

鎖戦輪を砂上に投擲し、磁力による反発力を調整しながら軟着陸すると、パーティメンバーに行く先を示した。

「スロープが見えた。こっちだ」

歩き出しながら、砂丘を駆け下りてくる四足歩行の魔物に鎖戦輪を投げて斬り殺す。

トールの後ろに双子たちが続いた。

「ダンジョンの魔物って、外より強いって聞いたことがありますけど……」

メーリィが話す間にも、トールは奇襲を受ける前に砂の中に鎖戦輪を突っ込み、無数の長い舌を持つ魔物を死体に変えて砂の上に打ち上げる。

メーリィの言葉に、岩塊のフドゥが自信を無くしたような顔で答える。

「魔力が豊富な分、図体がでかい。それに、ダンジョン内では魔物同士の共食いがしょっちゅう発生するせいで戦い慣れてる個体も多い。これは長く放置されたダンジョンの階層ほど顕著なんだ。ダンジョン最奥にいる俗にいうボスは、最も魔力が濃い最奥を魔物同士が常に奪い合って勝ち残った最強の個体だ。……間違ってもすれ違いざまに殺して進めるはずがないんだが、どうやら世界は間違っているらしい」

砂丘の陰に潜んでいた魔物が砂丘の頂上に立ったトールへ砂岩の棘が生えた尾を振りぬく。

鎖戦輪が雷鳴の如き轟音を響かせて迎え撃ち、魔物の尾を弾き飛ばした。勢いを殺し切れずに魔物が尾に引きずられるように宙へと放り出される。

トールは砂丘の頂上で方向を確認しつつ、宙に浮いた魔物を両断する。

砂丘を流れる一筋の赤い川が出来上がった。

役目を終えて戻ってきた鎖戦輪の先端をトールが掴む。鎖手袋と鎖戦輪がかち当たり、かすかな金属音を立てた。

鞘討ちのバストーラがひきつったような笑みを浮かべる。

「魔機獣が倒せるようになったあたりで、誰でも自分が強くなったんだと自覚するもんだけどね。私らからみても赤雷はちょっとどうかしてるわ。なに、あの武器」

ダンジョンに入ってから第九階層まで、岩塊の案内もあって最短距離を進んできてすでに三日目。魔物との遭遇回数は三桁に及ぶも、トール以外は武器を構える必要もない。

トールの間合いは棒立ち状態でも五メートルを超え、身体強化を使った足運びなどを加味するとさらに広がる。

魔物に接近を許さず一方的に即死攻撃を放っていた。

「間合い広すぎ、反応早すぎ、攻撃速すぎ。そりゃあ、ソロBで序列持ちだけあるよ」

「鞘討ちさんたちも序列持ちですよね。それもBランク」

「これでも、序列持ちとしてのプライドとかあったんだよ? でもさ、あれを見ちゃうとねぇ」

バストーラが頬を掻く。

そうこうしているうちに第九階層の端に到着する。

魔力で形作られた半透明の黒い坂道が蜃気楼のようにゆらゆらと揺らめいている。足を踏み出すのが不安になる曖昧な坂道だが、この第九階層に来るまで何度も似たような坂道を下っているため、誰も躊躇しなかった。

第十階層、第十一階層と何事もなく進んでいたトールたちの足を止めたのは第十二階層だった。

「――さて、どうする?」

第十二階層に降りたばかりのトールは坂道に座りこんでパーティメンバーに訊ねた。

第十二階層は大木のような奇岩が林立する不可思議な景観だった。遠目に人の三倍はありそうな巨鳥が見える。

「登攀装備がありませんし、奇岩の根元を縫って歩くのが正解でしょう。ただ、あの鳥が奇岩の頂上に岩を運んでいるように見えるのが気になります」

メーリィが魔物の動きを観察しながら言う通り、巨鳥は岩を運んでいる。あんなものを奇岩の上から落とされれば、いくら冒険者でも即死しかねない。

正攻法があるとすれば、奇岩の上を制圧して周辺に寄ってくる巨鳥を撃墜、別の拠点となる奇岩の上を制圧する形が安全だろう。

だが、奇岩は小さいものでも高さ十数メートルある。五階建てのビルの高さに相当するその頂上へと昇るには専用の装備が必要になるだろう。

「頭上の安全さえ確保されれば、私らで地上の奴は片付けるよ」

バストーラが奇岩の隙間から見える地上を観察しながら請け負う。

トールはフドゥに目を向けた。

「物資はあとどれくらい持つ?」

「余裕を持って十日分」

「帰るのに四、五日はかかるから、進めても二日か」

トールは腰のポーチを開いて中からマキビシを取り出す。

「頭上は俺が潰して回る。この階層を超えても最奥に着かなければ一時撤退だな」

「了解」

念のため頭上に注意し、自然発生の落石などがあった場合に魔法で迎撃する役割などを決めた後、出発した。

跳躍力に優れたウサギのような魔物をバストーラが鞘に入ったままの長剣で撲殺する。

横に振り抜いた長剣の勢いのまま体を反転させて後続の魔物を蹴り飛ばし、長剣を地面に突いて棒高跳びの要領でふわりと浮き上がる。

さらに空中に土魔法で足場を生成して蹴り、正面の魔物に頭から突進、ウサギ魔物の群れの中央に到達するや否や長剣を振り抜いた。

魔物の群れが四方八方に散らされ、バストーラの仲間たちが手分けして殴殺していく。

「足場が悪いから、血は流さない方向で。滑ると危ないからね」

声を掛け合いながら、言葉通りに流血を最小限に抑えて魔物の群れを撃破する鞘討ちたちの頭上では、奇岩の合間をトールが飛んでいた。

鎖戦輪を奇岩に突き刺し、磁力による吸引で自らの体を引っ張って移動する。ワイヤーアクションのような動きで奇岩の間を飛び交い、巨鳥を間合いに捉えた瞬間にマキビシを磁力で射出した。

散弾銃のように襲い掛かるマキビシを体が大きい巨鳥は躱すこともできない。マキビシが胴体に深く食い込んだ。

それでも致命傷にはならず、反撃に転じようとするが、トールが鎖戦輪を軽く振り回すと磁力に引かれたマキビシが巨鳥の体内で暴れ、肉を突き破って鎖戦輪に回収された。

体内をずたずたに引き裂かれた巨鳥が墜落していくのを気にも留めず、トールは奇岩の上に巨鳥がため込んでいた岩を仲間が通る前に地面に蹴り落として安全を確保する。

「――トールさん、休憩です」

ユーフィに声をかけられ、トールは片手をあげて応じる。

周囲の安全を確認した後、奇岩に鎖戦輪を突き刺し、ゆっくりと地面に降りた。

「魔力回復用の炭酸ポーションです」

メーリィが全員に炭酸ポーションを配っていく。

トールは柑橘系の香りがする炭酸ポーションに口をつける。

レモンソーダっぽい、と思いながら飲み干して、魔力が回復するまでの休憩に入る。

「魔力ポーションが美味い!」

バストーラが笑いながら、ポーションの入ったコップを掲げる。

「いつもはただ酸っぱいだけだもんなぁ。口がきゅってなるしさ。詠唱できないっての」

バストーラにフドゥたちが無言で頷いて同意する。

メーリィがポーションを片付けながら口を開いた。

「提携していた錬金術師さんたちが炭酸の飲み口に合わせて調整したそうです」

「やるねぇ。圧力に屈した腰抜けだとばかり思ってたよ」

バストーラが褒めているのか貶しているのか分からない評価を下す。

フドゥがメーリィに声をかけた。

「ダンジョンが攻略された後、フラーレタリアはどうなると思う?」

「ダンジョンは封印しても残りますよね?」

「魔物がそれ以上増えないというだけで、空間としては残るな。観光地化を図っているところもあるが、あまりうまくいっていないようだ」

「一般的な利用方法と同じく放牧地としての利用になるでしょうね。温泉地への輸出はこれまで行っていたのですから、その販路を利用するでしょう。後は皮革、紡績業への切り替えが主になると思います。冒険者向けの宿は多くが店じまいすることになり、失業者が増えるので紡績業で雇用を創出する必要がありますね。先ほど倒していたウサギの魔物の毛を見ましたか?」

フドゥたちが顔を見合わせる。魔物を討伐対象ではなく毛織物の原料として見ていた者はいなかった。

トールは件のウサギを思い出し、浮かんだ単語を口にする。

「アンゴラウサギ」

「まさにそれです」

メーリィがぱちぱちと拍手する。

長毛種のウサギであり、外見的特徴に近いものはあった。

しかし、話題になっているウサギは魔物である。それなりに凶暴で、何より跳躍力に優れているため半端な囲いでは逃げ出してしまうだろう。

「多少、管理が大変だと思いますが繁殖力次第では十分に家畜としての価値があります」

「それに、ほかの地域から改良済みの家畜を輸入してきて繁殖させるという手もありますね。とはいえ、どの場合でも、数年の不況が訪れると思います」

「やっぱりそうなるか」

フドゥが険しい顔をした。

ダンジョンを封印しないわけにはいかないが、自分たちがフラーレタリアの不況の引き金を引くのは良い気分ではない。

士気が下がりそうな結論に、バストーラが口をはさんだ。

「歳がばれるからあまり言いたくない言い回しだけど、私の経験上そんな穏やかな未来が来るのは数年後だよ」

「どういう意味ですか?」

ユーフィが尋ねると、バストーラはトールをちらりと見た。

「そこのソロBも含めて、Bランクなら知ってると思うけどね。ダンジョンを封印すると、その地点の魔力濃度は当然下がる。これは他の地域と均されるだけなんだけど、それまでとは違う状況、つまり魔力異常だ」

バストーラは手を横にスライドさせて魔力濃度の勾配を表した後、続ける。

「そして、魔機獣は魔力異常を検知して突っ込んでくる」

「もしかして、ダンジョンを封印すると魔機獣が寄ってくるんですか?」

「そういうこと。加えて、ダンジョン内の残党狩りの問題もある。ダンジョンを封印したからって魔物が消えてなくなるわけじゃないからね。商業ギルドが懸念するような魔物資源の枯渇は一瞬ではやってこない。加えて、ここは第十二階層、私らは戦闘そっちのけで最奥を目指しているから、第九階層からここまでほぼ丸々魔物資源が残っていることになる」

バストーラは最後に結論付ける。

「商業ギルドの連中、これから特需が始まるっていまごろ冒険者ギルドから説明されて泡を食ってるはずさ。今冒険者に睨まれたら誰一人戦利品を持ち込まないからね。そこまで経験でわかってるからこそ、そこのソロBは躊躇なくこんな意趣返しをしてるんだろう。双子が逆恨みされる可能性があったら、フラーレタリアを無視して別のところに行ってただろうからね」

「歳を食うと余計なことまでしゃべる」

「お、やんのか、赤雷! 口喧嘩限定で買うぞ、こら!」

威勢がいいのか悪いのかよくわからない啖呵を切るバストーラを無視して、トールは立ち上がる。

「そろそろ行こう。多分、最奥が近い」

その日の夜、トールたちは第十三階層へと続く坂道を発見した。