軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お悩み

「クロさん! 何があったんですか?!」

尋常じゃない様子に一気に警戒感を強める緑川と加藤。

加藤がいつでも獲得したユニークスキル 空白(スペース) を使用できるように構える。加藤のユニークスキルスペースは近接戦闘であればそれなりに使えるようになっていた。

かわりに緑川がクロにじりじりと近づきながら声をかける。

あり得ないことだが、クロやユウトを無力化できうる存在が潜んでいるか、罠を張っている可能性を念頭におく。

クロからの返事はない。

しかし緑川が近づくにつれて徐々に何かが聞こえてくる。どうやら小さくクロが呟いているようだ。

「クロさん? ユウト君は、どこに?」

床に土下座を続けるクロまであと二歩ぐらいの距離まで近づいたところで立ち止まり、再び緑川が問いかける。

やはり返事はない。じっと耳を澄ます緑川。

「──要らない子じゃないです。ユウト様の平穏な生活を守ってきたのはクロです。クロは要らない子じゃないです。ユウト様の平穏な生活を守ってきたのはクロです。クロは要らない子じゃないです。ユウト様の平穏な生活を守ってきたのはクロ──」

どうやらクロはずっと同じフレーズを繰り返し繰り返し呟き続けているようだ。

「緑川、そっちはどうだ!?」

「どうも、なんだかショックなことがあったみたい? ユウト君に何か言われたのかも?」

「違います!」

加藤に返事をする緑川に、がばっと起き上がったクロが告げる。

「「あ、戻った」」

「っ!」

しかし再び土下座の姿勢になって先程と同じことを呟き始めるクロ。

「──で、どうする、緑川。俺たちでも、ここにはあまり長居は難しいぞ」

「なんとか事情を聞きたいけど……」

加藤も近づいてきて土下座をしているクロを見下ろす。しかしすぐにその脇にしゃがみこむとクロに話しかけ始める。

「なあ、クロさん? よかったら俺たちに相談してみないか。ユウトの事で悩んでるんだろ? 話し、聞くぜ。どうだ、とりあえずうちにきてさ」

クロの呟きが止まる。かわりにウーウーと何か唸っているかのような小さな音が漏れ聞こえてくる。

加藤が緑川を見上げながらジェスチャーする。どうやら援護しろということらしい。

「あ、えーと。そ、そうね。何でもきくわよ?

何があったのかな?」

なぜか顔を手で覆って上を見上げる加藤。緑川の説得の拙さ加減に絶望したとばかりの仕草だ。

「緑川、お前さんはもういいや。クロさん、人間関係で悩んだ時は俺たちも、互いに相談したりするんだ。それが、どうしてだかわかるか?」

「ウーウー。……どうしてですか」

「人と人との悩みはやっぱり人同士じゃないと解決しないからさ」

「ウー。……クロは、人ではありません」

「悩んでるんだろ? それもユウトとの事で」

「──はい」

「なら、おんなじさ。クロさんが、そういう感じの事で悩むってこと自体がもう、俺たちと同じような魂があるってことだ」

「──魂の存在は観測されていません」

「そこは言葉の綾だって。いいから行こうぜ。少しぐらいここを離れても大丈夫だろ?」

「はい……ユウト様は今しばらく戻らないと思います」

そのクロのフレーズに加藤と緑川は短く視線を交わす。

どうやらユウトは外出しているのは間違い無いようだ。

二人はクロを誘導するようにして、ダンジョン公社支部へと戻るのだった。