軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

side 緑川 7

「いま、俺たちにできることを、するぞ」

加藤先輩からの短い言葉。

しかし、絶望に支配されかけていた分室の空気が、ピリッと引き締まる。

「ユウト君たちの行動予測を──電車を使わないのはいい判断ね」

動画から流れる。その声に耳を澄ませる私たち三人。

「ユウト君たちの最も近いスタンピードは黄38です。自転車でとりうるルートは大まかに三通りです。それぞれルートABCとしますです」

「どのルートを通った場合でも緊急でピックアップ出来るように手配するわよ」

「クロの意向はどうする?」

「もちろん尊重するわ。でも状況は流動的」

「わかった。最も可能性が高いルートBの手配は俺がする。現地警察にちょうどねじ込むツテがある」

「……先輩方、残念なお知らせです。人口密集地の防衛を最優先する決議が出ました。ダンジョン公社本社も首都の防衛に専念するようダンジョン省から指示が……」

「くそっ!」

「まだ、手は打てるわっ。ユウト君たち、ルートAの可能性は零よ」

必死にそれぞれのモニターの前で業務を行う私たち。加藤先輩は方々に電話をかけている。

「黄38スタンピードがユウト君たちが乗らなかった電車の路線に到達! 被害者が出始めていますっ」

衛星画像を見ながら叫ぶ目黒。

加藤先輩がぎりぎりと拳を握りしめている。いまにも飛び出してしまいそうな自分を必死に抑えているのだろう。私も同じ気持ちだからよくわかる。

「あっ」

「どうした目黒!?」

「黄38スタンピードが方向を変更。電車車両への襲撃が終了しました! これは──ユウト君たちの方へと向かっていますです!」

「どういうことっ!?」

私は思わず叫んでしまう。

「──クロさんから、可聴域外の音が出ていますです。もしかするとクロさんがユウト君の方にスタンピードを誘導している可能性がありますです」

「なんだと。クロが人助けをしているってことか」

「意図は不明です。問い合わせのDMを送りますか?」

目黒の見ている衛星画像のモニターの前に私と加藤も集まる。画像処理された見にくい映像だが、確かにモンスターたちが移動している。

その集団から一体のモンスターが飛び出すと、先行を始める。

「速いっ! ──クロからの映像の方にも映ったぞ」

「解析できました。先行しているモンスターの名称はエンシェントラクーンドッグ。黄38スタンピードの主です! あっ、ユウト君と接触しますです!」

上空からの画像。茂みから飛び出したモンスターとユウトが重なったかと思うと次の瞬間、モンスターが爆散する。

「蹴った?」「蹴ったわね」「まあ、ユウトなら一撃だよな」「そうね」

思わず口々にそんな事を私は加藤と確認してしまう。

「黄38スタンピードの主の討伐で、黄38スタンピードのモンスターたちが撤収していくです」

目黒の言うとおり、黄38スタンピードのモンスターたちがダンジョンの方向へと走り去っていっていた。

「とりあえず、ここは終わったのか?」

「黄38スタンピードの終結時刻を確認しましたです。どうやら今回のスタンピードの中で最速の終結となりそうです。あっ、クロさんがエンシェントラクーンドッグの魔素結晶体を確保するようです!」

地面へと降下していくクロからの映像。次の瞬間、魔素結晶体がクロへと取り込まれていく。

「おい、何が起こる?」

加藤の不安そうな声。

「わからないわ。存在進化だとは思うけど」

残念ながら映像ではクロ自身は映っていないのだ。しかしそのクロの存在進化の影響を私たちは別の形で知ることとなる。

「クロさんからDMです! ユウト君たちのピックアップ依頼です。ですけど、これって──」

「どうした目黒?」

「えっと、文面をそのまま読み上げますです。『目黒さんへ。ユウト様と早川へお迎えをお願いします。これ以上二人がイチャイチャしてるのを見るのが耐え難くなってきました。クロより』、だそうです」

思わず私たち三人は顔を見合わせる。三人ともなんとも言えない表情を浮かべ、ただただ無言の間が続く。

「──加藤先輩」

湧き上がる疑問を圧し殺して、私は加藤先輩に声をかける。

「──ああ、手配していた知り合いの警察官に二人のピックアップを頼むわ。警邏中に避難する高校生二名を発見、保護という流れだ」

「お願いします」

ユウト君たちは無事に回収され、家まで送り届けられることとなる。

しかし、国内の状況は、依然混迷が進んでいた。