作品タイトル不明
逡巡
──あたたかい
クロのあたたかさが、伝わってくる。
俺の異形の体を慈しむようにまわされた、クロの両腕。
その腕ごしに、俺と縁の出来た、皆の様子が見える。
早川の魂を掬いあげたことで横たえておいた目黒さん。彼女は、どうやら目を覚ました様子だ。
白羅ゆりにより長年かけて施されていた様子の思考汚染は、早川の魂を掬いとるときに軽く払ってある。
だからかもしれないが、軽く混乱した様子だ。キョロキョロと周囲を見回して、だんだんと顔が青ざめている。
その目黒さんの肩に腕を回して、満面の笑みで加藤さんが目黒さんへと何かを囁いている。
たぶん、おはなしあい、の類いだろう。
ただ、それでも青ざめていた目黒さんの顔色は少しだけ赤みが差している。
寄る辺にはなっているようだ。
あだむといぶを筆頭にコボルドたちは柔らかそうなふわふわの腹を見せるようにして、仰向けに寝転がり、ただ視線だけはみな、俺の方を心配そうに見ている。
辺りを埋め尽くす、わんちゃんのふわふわのお腹は、すでに草原のようだ。
そのふわふわの草原のさらに向こうには、ダンジョン&キングダムで俺の配下になったものたちも勢揃いして、それぞれがそれぞれの形で俺への思いを表明してくれているようだった。
そんな俺とクロの一番近くに佇むのは、当然オボロだ。
クロに言われたからか、その視線は俺たちと、ホログラムに映る緑川さんを交互に行き来している。
俺はその固く握りしめられた拳に、そっと剥離に使った小刀を戻してあげる。
俺の触手のようになってしまった腕を、細心の注意を持って動かし、オボロの手へと小刀を手渡す。
はっとした表情を見せるオボロ。
どうやら、語れずとも俺の意思は伝わったようだ。
オボロは手にした刀を額におし当てるとポタポタと大粒の涙を流して歩み去っていく。
クロの言葉通り、そして俺の意思を汲んで、緑川さんのところへと向かったのだろう。
そして、静寂が訪れる。
コボルドたちを筆頭にした混沌たちの意思が、人ならざる者と化した俺に伝わってくる。
それは、俺がどんな選択をしようとも俺を支持し、献身するという、強い想い。
加藤さんと目黒さんは、より複雑だ。
それでも俺の選択を尊重しようとする意思が、一番強い。
そんな皆の気持ちが俺を支えてくれる。
俺は、逡巡の果てに、自らのわがままを叶えることを選択する。
──ひととして、生きたい
こうして、俺はクロを受け入れた。