作品タイトル不明
加藤とイサイサと神の吐息
「なあ。また、穴なんだが」
「そうだね」
「しかも、今度の方がいっそう、深そうだぞ?」
「そうだね」
「──やっぱり、飛び込むんだよな」
「当たり前だね」
「はぁ」
「一回できたんだから、大丈夫。今度もいっぱい愛してあげるからね、加藤」
再び現れた大きな縦穴を前にして、加藤がイサイサと話しているときだった。
それまで、平然としていたイサイサが急に顔を強ばらせる。
ピクピクと鼻がひくつき、コボルドとして大きな耳がピンと伸びる。
「加藤、ちょっとまって、何かが──」
「どうした!」
「これは、さすがにまずいかも……」
次の瞬間だった。
何か大きな音がした。
それは、最初は単なる風の音だった。
大穴の先に向かって、加藤とイサイサの背後から風が吹き付ける。
まるで、穴の先へ空気が吸い込まれていくかのように。
穴の淵にいた加藤とイサイサは、危うくその風に押されて一緒に吸い込まれかける。
「イサイサっ」「かとう」
握りあっていた手をとっさに引き寄せ、イサイサを抱き止める加藤。反対の手に持っていた七武器の一たる短槍を、地面に力一杯突き立てる。
それはギリギリ、間に合った。
しかしすでに豪風となった風で加藤とイサイサの体は浮き上がり、その体は今にも穴へと吸い込まれそうになる。
地面に突き刺した短槍がミシミシとしなり、刃先が徐々に抜け始める。
「──もたないっ」
「えいっ」
悲鳴のように叫ぶ加藤。その腕のなかでイサイサが気合いと共に頭を一振りする。
するとイサイサの両耳についたイヤリングと化していた大剣と錫杖の七武器が、そのチェーンを伸ばしながら地面へと突き進んでいく。
両武器が地面へと潜り込み、そして元のサイズへと戻っていく。
それはまるで、二本のアンカーのように、イサイサと加藤を繋ぎ止めることに成功する。
「でかした、イサイサ!」
加藤が思わず叫んでいると、穴へと向かう風が穏やかなものへとかわり、さがて無風になる。
「はぁ、助かった。今のはいったい……」
「加藤、まだ終わってない。次が本当にまずい」
耳を痛そうにおさえながら、珍しく怯えた様子を見せるイサイサ。
そういえば、まるで高い山に登ったかのように加藤も、耳の奥に痛みを感じていた。
「な、なに!?」
「あれはたぶん、偉大なるお方の深呼吸だと思う。だから……」
「……次は、向かい風?」
「それだけじゃない、はず。何かのスキルの効果が上乗せされて──」
そのイサイサの言葉が終わる前に、二人の目の前の穴から、風が吹きつけ始めるのだった。
世界に安寧をもたらす、神の吐息が。