軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

月と姫と

「うわー。本当に穴、あいてる」

制服に着替えた俺が外に出る。

最近、朝は肌寒い。そんな早朝の空に浮かぶ月には、ニュースで見た通りぽっかり穴があいていた。

しばらく眺めていたが、とはいえ見つめていても、特に何か変わるわけでもないのだ。

俺はすぐに視線をそらすと、自転車にまたがる。

そのまま学校に向かおうと少し自転車をこぎ出した時だった。

「あれ、緑川さん?」

こんな早朝から外に出て、まだうす暗い空をぼーと眺めている緑川さんがいた。

なんか前もこんなことあったなーと思いながら挨拶をする。

「おはようございます、緑川さん。なんだかすっかり朝は寒くなりましたね」

「ひゃっ! あ、ああ。ユウトくん。おはよう」

びっくりさせてしまったらしい。

──また、お仕事かな。そういえば緑川さんしばらく不在だって目黒さんが言ってたけど、ご用事は終わったのかな。

俺は思わずうちに目黒さんたちが泊まった時のことを思い出しかけて、慌てて考えるのをやめる。

顔が少しあつい。ただ、辺りはまだ薄暗いから顔が赤くなりかけたのはたぶん気づかれて無いはずだ。

あまり突っ込んだことを聞くのも変かと、無難な天気の話を続けることにする。

「すごい大雨に、月に穴が空いたりと変なことが続きますね? 雨は大丈夫でした?」

「ふぇっ!? だ、大丈夫大丈夫よ。その、ユウトくん?」

「はい?」

「……う、ううん。何でもないの。これから学校?」

「そうです」

「そっか。朝からご苦労様。道、気をつけてね」

「はい、ありがとうございます。緑川さんもお仕事、頑張って下さい」

「んっ、あ、うん。がんばります……」

なぜか俯いて小声になってしまう緑川さん。俺は何か変なこと言っちゃったかなと気になりながらも、学校に遅れないよう、その場を離れるのだった。

◆◇

「あ、ユウト。おはよ」

「おう、おはよ早川。この前ぶり」

「うん──」

学校について、俺はさっそく早川から話しかけられる。

しかしなんだか、いつもと少し早川の反応が違う気がする。俺も早川と二人でダンジョン&キングダムをやったあとの、少しぬれた頬の感触を思い出してしまう。それで、急に舌がもつれる感じがする。

それでも無理やり話題を出してみる。

「──見た、月」

「……見た見た。すごいねあれ。ねえ、知ってる? ダンジョンの消失と月の真ん中が消えてたの、同じ原理なんじゃって、ネットじゃ今、もっぱらの噂なんだよ」

饒舌に語る早川。良かったいつも通りだとそんな早川を見て少し安心する。

「え、そうなのか? さすがに大きさが違いすぎない?」

「でもほら。どっちも説明つかないことだし、あながち無関係じゃ無さそうでしょ」

そんなネットの噂でひとしきり盛り上がったところで、ポツリと早川がきいてくる。

「そういえばさ、あのあとユウトは目黒さんに会った?」

「いや。会ってないよ。加藤さんと、緑川さんには会ったけど。何かあったの?」

「ううん。そういう訳じゃないんだけどね──」

そこでちょうど始業のチャイムが鳴る。

結局目黒さんに関する話はそのままになるのだった。