作品タイトル不明
赤8ダンジョン再び
「クロ、緑川さんたちはそうめんを喜んでくれたよ。クロの言う通りにして良かった」
「それは何よりです。ユウト」
「うん。とりあえずはいい人たちみたい。ちょっと安心した」
俺は回収したそうめんを入れていた器類を洗いながら、とりとめのない話をクロとしていた。
俺が洗った器をクロが 二(・) 本(・) あ(・) る(・) アームで受け取り、布巾で水滴を拭き取ってくれている。
クロのホログラムが ド(・) ロ(・) ー(・) ン(・) 本(・) 体(・) に(・) か(・) ぶ(・) さ(・) る(・) よ(・) う(・) に(・) 投影されていて、なんだか本当にそこに猫耳少女がいるかのようだ。
「ユウト」
「うん? 何かな」
「ユウトの不在の時。緑川さんたちがいらしたら、私が応対してもよいでしょうか」
「ああ、もちろん。逆に頼みたいぐらいだ。よろしくね」
「はい」
しばし無言でカチャカチャと食器の触れ合う音だけが響く。
「よし。これで終わりと。さて、明日も早いし寝るかな」
「明日は高校はお休みでは?」
「ああ。明日は早川とお祭りに行くんだ。隣町の赤8ダンジョンが十周年記念らしくてね。誘われたんだよ」
「……かしこまりました。楽しんできてください」
「うん、ありがと」
◆◇
「早川、遅刻だぞー」
俺は、駅で駆け寄ってくる早川に声をかける。
「すまんすまん、準備に遅くなった」
そう答えた早川は確かに準備に時間のかかりそうな装いをしていた。
シックな色合いの多収納ポケットのジャケットに、足の稼働を阻害しないストレッチデニム。足元はスポーティーなデザインの真っ赤なセーフティシューズだ。
背負ったバックパックはパンパンに膨らんでいる。
一方、俺はいつもの汚れる時用のツナギだ。
「しかし本当に今日はダンジョンに入るのか?」
「とーぜん。こんな機会、めったにないんだぞ!」
お祭りのイベントの一環として、赤8ダンジョンは今日だけ未成年の入場ができる。
とはいえ、行ける範囲には限りがあるし、安全のためイベント主催が雇った探索者が、ダンジョン内で警備についている、らしい。
というような事を歩きながら楽しげに話し続ける早川。
「そもそもが、ダンジョンの名称である赤、というのは等級としては一番下、なんだろ?」「そうだな。ここは一応は、最も簡単なダンジョンの一つだ。で、国内で赤としては八番目に見つかったから、赤8ダンジョン。ちなみに虹の七色の順番で、難易度が上がっていく。噂では最難関の紫を越える特別なダンジョンには、黒の名前が与えられるらしいぞ」
早川のダンジョントークが終わらないうちに、ダンジョンが見えてくる。
赤8ダンジョンの元となった廃病院。周囲には十周年と書かれた幟がたち、廃病院のテラスからは垂れ幕がかかっていてる。
俺にはなんだかシュールに見える。
そして赤8ダンジョンの周りの出店は、前に来たときの倍は出ていた。
美味しそうな匂いが漂っている。
いつでもお腹が空いている年頃の俺は、思わずそちらに引き寄せられそうになる。
「お、あそこが受付みたいだ。いくぞ、ユウト!」
屋台にふらふらと行きかけていた俺の手をガシッと掴むと、早川は駆け足でダンジョンの入り口に設けられた受付へと走る。
俺も仕方ないなと、早川のあとを追うのだった。