軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ズームム会談

「ユウト。いま、よろしいでしょうか」

「申し訳ないけど、あまり、よろしくない。うわっ! はぁっ!」

俺が蟻にまみれながら必死に新聞紙ソードで駆除活動に勤しんでいると、ふわふわと飛んできたクロが尋ねてくる。そのホログラムの表情はとても申し訳なさそうだ。

しかし残念ながら、いまの俺に本当に余裕はない。

一瞬の気の緩みが、悲惨な事態となりうるのだ。

無数の大きな蟻が、いまにも俺の体にどんどん這い上ってこようとしている。登られてしまったところを想像するだけで、むずむずする。

「わかりました。では手短に」

「いや、話すのかよ! てか、そんなに急ぎ、なの!? つっ!」

「はい。前にお話ししていました特措法によるセキュリティの向上を目的とした──」

「ぐぅっ、はぁっ!」

新聞紙ソードを振り回し、呼気荒く叫ぶ俺には、そのクロの話はほとんど聞いている暇がない。

「──そのために、承認をいただきたくて──」

「オッケー。承認する!」

そんな状況下なので、話を聞けてないが、つい適当にオーケーしてしまう。

ふらふらとクロが少し離れていくのを見て、俺は目の前の強敵たちへと意識を集中する。

そのため、俺は気がついていなかった。

クロのホログラム画像が、ドローンの機体の上から、その正面へと移動した事に。

そしてホログラム画像がドローンの方を向くと、クロとダンジョン公社とのズームム会談が始まる。

その背景には、俺が蟻たちと死闘を繰り広げている場面がばっちりと映り込んでいた。

◇◆

【ダンジョン公社の一室】

「課長、ゆうちゃんねるよりズームムのURLが来ました。まもなく会談開始の指定時間です!」

加藤が興奮をおさえた口調で告げる。

その場に集まった「ゆうちゃんねる」対策メンバーたちは皆、これから始まるズームム会談が歴史に残るものになるだろうという確信があった。

静かな興奮が部屋のなかを渦巻いている。

「了解した。では加藤がズームムにて、ゆうちゃんねる投稿者と話を──」

「──私に、やらせてください!」

課長の声を遮ったのは、緑川だった。

運び込まれた医務室から這うようにして抜け出してきた緑川。

周囲の制止の声も聞かずに、緑川は目を爛々と輝かせて課長へとそう話す。

「緑川、いけるのか?」

「いけます! 私の、仕事です。やらせてください!」

「よし、席につけ緑川」

「ありがとうございます」

「時間です。ズームム、繋がります!」

加藤の時間を告げる声。緑川が椅子に座り、ディスプレイに向き合った瞬間、映像が映る。

画面正面に現れたのは、黒髪に猫耳の生えた美少女。

しかし緑川の視線を奪ったのは、別のものだった。

猫耳少女の背後。庭とおぼしき場所で行われている、戦い。

「──そんなっ。あれは、ジェノサイドアント?」

「なん、だとっ! ジェノサイドアントといったら、厄災級の特殊個体モンスターじゃないか!」

「馬鹿な、ジェノサイドアント十匹もいれば、都市が一つ滅ぶと言われているんだぞ!? それがあの数。数百はいるだろあれ」

「あの、パクックマの人。ジェノサイドアントの大群と互角以上に戦っているように見えませんか?」

緑川が加藤が課長が。ディスプレイを眺める面々が、その衝撃の光景に驚きを隠せない様子だ。

人ではあり得ない速さで縦横無尽に動きまわり、手にした新聞紙を振り回す人影。

ゆうちゃんねるで、これまでもその活躍を見てきた。しかし今回はまさに別次元の強さが、これでもかとばかりに画面越しに伝わってくる。

画面の向こうでは、丸められた新聞紙の一振りで、大地が割れ、空気がはぜる。

それでもジェノサイドは一撃では即死することはないようだ。

そのために放たれる、連撃。

その一撃一撃が轟音を響かせる。その発せられる音の圧だけで、「ゆうちゃんねる」対策メンバーは完全に、けおされてしまう。

間近でディスプレイに向き合う緑川も、それは例外ではなかった。どちらかと言えば探索者あがりの緑川の方が、その戦いの格の違いを、圧倒的な暴力の本質を、感覚的にも正確にとらえていた。

その圧倒的な暴力の光景を背景にして、クロと緑川のズームム会談が、いま、始まる。