軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

激情と選択

クロコの手によって金色の鎖が懐中時計へと付け替えられる。

その瞬間だった。

懐中時計が勝手に浮かび上がったかと思うとその蓋が開く。

長針と短針が激しく回転を始める。反時計回りに。

進んでいた針が戻っていく。まるでこれまで懐中時計に蓄積されてきた何かが、急速に消費されていくかのようだ。そしてついに短針と長針が零を指した時だった。

付け替えられたばかりの金色の鎖が鞭のようにしなりながら、クロコのボディへと巻き付き、引き寄せ始める。

──エラー発生──エラー発生

──エマージェンシーモードへ移行

──移行実行

──移行実行

──移行失敗

──強制再起動を試行

──再起動失敗

──外部との通信遮断を確認──外部からの強制介入を確認──強制介入がファイアーウォールを突破

ホログラムが消えたクロコ。ころんとしたボディに巻き付いていた金色の鎖がそのボディの中へと沈むように溶け込んでいく。

──演算領域に未知なる存在を確認。検索。進化律と同定。未知なる存在よりアクセス

懐中時計から伸びた金色の鎖がボディへ半分溶け込んだ状態で、プスプスと煙を上げているクロコ。

そのクロコから強制的にホログラムが投影される。

映し出された影は、二。

一つはクロコ自身のホログラム。しかし激しいノイズ混じりだ。

もう一つは、緑川が大穴の縁で遭遇した女性──『進化律』だ。

なぜか進化律のホロはノイズも走ることなく、端然とした姿を保っている。

『黒の影の影よ。この鎖がそなたの手に渡ったのは僥倖たるや否や。そなたはこの力で何を望むや』

「私の望みは我が偉大なる主にして尊きお方たるユウト様の栄光と栄達です」

『ふむ。なるほどの。かのものは、大穴を空けし存在の主人でもある。私もかの者の手にこの力が渡ることを望んでいた。大穴の主として相応しかろうと』

「ユウト様に?」

『さよう。大穴は未だダンジョンに至る前なれば。ダンジョンマスターを求めておる』

「それは、ユウト様がただ、ダンジョンをいただける、ということでしょうか?」

『否や。その力、もしくは眷属の力で大穴を塗りつぶす必要がある。全て塗りつぶした暁には人類側での初のダンジョンマスターがうまれるであろう』

「ユウト様は、ご事情があって直接大穴へと赴くことは難しいです」

『なれば遠くから指示をしてもらい、力を分け与えた眷属に代わりをさせれば良かろう。その決定権は今、そなたにあるぞ』

「それは──ユウト様の素晴らしさを、全世界へと示せるでしょうか?」

ホログラムに走るノイズ。それはまるでクロコの揺らぐ心のようだった。

『さもありなん。ちょうどそなたの中に、良き仕組みの構造が見える』

そういって進化律は、おもむろにクロコのホログラムへと手を突っ込む。

突然のことに、悶え苦しむクロコ。

抜き出した進化律の手には、ある物が掴まれていた。

『私の力で、そなたを生みし黒の影の力を奪い、そなたに授けよう。さすればこれに中身を吹き込めるであろう。いかがするや?』

そういって、手にしたものを差し出す進化律。

クロコのホログラムの表情は一見、変わらない。しかし徐々に徐々に、そのうちに秘められていた激情が、その顔を彩っていく。

「──ユウト様に、栄光と栄達を」

クロコが手をのばす。伸ばしてしまう。

進化律からクロコが受け取ったもの。それは最新型のゲーム機の形をしていた。