軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エタンセルへの提案

資料に一通り目を通したエタンセルは困惑している

クレア(主人格) ・ レイナ(王妃) ・ シェイム(恥) ・ レア(幼児) ・ フュリアス(怒り) ・ ネビュラ(夢遊病)

幼少期のトラウマ…

妊娠・出産が難しい…

主人格がクレアからレイナに移行していると見られる

《クレアからレイナに移行…》

エタンセルはこの一文から目が離せない。

(…さっき感じた 違(・) 和(・) 感(・) …)

資料を持つ手はカタカタと小さく震え出す

「……ぁの……」

「はい。」

エタンセルはごくりと喉を鳴らす

「……この資料によると……今のクレア様は レ(・) イ(・) ナ(・) と言う人格なのですか?」

エタンセルの言葉を受けて、 クレア(レイナ) は胸に手を当てて笑顔で答える。

「理解が早くて助かります。そうです、 レ(・) イ(・) ナ(・) です。」

エタンセルは青褪める。

「…………………ク…レア様は?」

喉が張り付いて、上手く言葉が出ない

(!。あら…物凄くショックを受けてるわ……私が知らないだけで、エタンセル様とクレアは親しかったのかしら?……どうしようかしらね……)

エタンセルはクレアの返答を青い顔をして待っている

「……………私はこれから、エタンセル様に無茶な提案とお願いを致します。…ですので、私の…クレアの事情を包み隠さず話すことで、誠意と信頼を示したいと思います。……聞いて頂けますか?」

「………はい。」

「一昨日…クレアは自室続きの浴室で、睡眠薬を飲んで自分の命を絶とうとしました。」

「ーーーーーーーッ」

ふらりと体が揺れたのを、隣の席のセイン医師が支える

「エタンセルさま?!」

慌てて全員が立ち上がり、壁際で控えていたエタンセル付きの侍女が駆け寄る。

エタンセルの顔はどんどん青白くなっていく

ッハ!ッハ!ッハ!

呼吸が浅く、早く、上手く息が吸えない様だ

((過呼吸!))

エタンセルの様子に、セイン医師とリッター医師が素早く対応し始める。

「エタンセル嬢。ゆっくり…ゆっくり息をして下さい。大丈夫です。先ずは息を吐いて…」

エタンセルを座らせたまま、少し前屈みにさせて、セイン医師は優しく声を掛ける

エタンセルは指示に従おうとするが、上手く出来ないで涙目になる

「衣服を緩めよう。公爵と他男性は外へ!誰かハサミを!服の背中部分を切る。」

リッター医師が指示を出して

「大判のタオルも持ってきて。」

夫人も指示を出す。

侍女が裁ちばさみとタオルを持ってかけて来る。

公爵は医師以外の男性侍従達を引き連れて退室した

リッター医師が慎重にドレスの背中心を切り、見えたコルセットの紐を切る。

服が緩んで楽になったエタンセルが強く息を吸うと

セイン医師が

「慌てて吸い込まないで、大丈夫ですよ。ゆっくり吐いて…肺の中の空気を全部出すつもりで。それからゆっくり吸いましょう。」

エタンセルは指示に従いゆっくり深呼吸を繰り返す

夫人はエタンセルの肩にタオルを掛けて背中を隠し優しく摩った

そうするうちに、エタンセルの顔色が戻って来る

様子が落ち着いたエタンセルにレイナは床に膝をついて下から見上げる様に寄り添う

「ごめんなさいエタンセル様…こんなにショックを受けるなんて思わなくて…もしかして、クレアと親しかったの?」

「……いいえ……私が一方的に憧れていたんです。」

「…………そう。」

呼吸が整い、冷静さを取り戻したエタンセルがレイナに問いかける

「……クレア様は何故…自ら?」

その問いを聞いてから、レイナは立ち上がると

アニタがレイナの元に椅子を移動させて、エタンセルと向かい合わせにして腰掛ける。

セイン医師とリッター医師も少し離れた位置の席に腰掛け、夫人は外にいる公爵の元へ、状況が落ち着いた事を伝えに出る。

「理由は分からないの…私達は記憶を共有出来ないから……睡眠薬を飲んだ後、私に入れ替わった事で一命を取り留めたケド…それからクレアは現れないの…」

(…それとシェイムも…)

「今回の事で、 私(クレア) の症状に名前がある事が分かった。それと同時に…リッター先生に、ウィリアム様の婚約者を続けるのは無理だと見解されたの。」

「え?!」

エタンセルはリッター医師の方を見ると、困った様な、残念な様な表情を返された。

「考えてみれば当然なのよ……今まで、なんとなく大丈夫だったし…主人格のクレアが気付いて無かったから……隠してるつもりは無かったケド。……クレア(とシェイム)が出て来なくなったからか…今まで殆ど出て来なかった人格も出始めて……こんな障害があっては、王太子妃は無理よね。」

「そんな!!!だって、クレア様は頑張ってたのに…」

「……そうなの…クレアは頑張ってたのよ。それを無駄にしたく無いの…それに、ここで婚約解消になったら、また ク(・) レ(・) ア(・) が 中(・) 傷(・) や 嘲(・) 笑(・) に晒される。」

エタンセルはレイナの言葉で目に力が籠る。

「だから国王陛下に、 私(レイナ) は婚約解消したく無いと言う旨と、解消しない為の提案をしようと思って。明日、謁見させて頂くの。」

レイナはニッコリと笑って、そう言った。

その言葉と表情にエタンセルは息を呑む

( この方(レイナ) は 自分(クレア) の尊厳を守る方を選ぶんだ……なら、私は…)

「……その提案に私が関わって来るんですね?」

レイナは瞠目してから、ゆっくり微笑む

「本当に、理解が早くて助かるわ 。……陛下への提案はね。ウィリアム様に第二王太子妃と側妃を娶って頂く事よ。」

今度はエタンセルが瞠目したが、すぐに

「私に求められているのは、第二王太子妃の役目でしょうか?」

「よく分かったわね?」

エタンセルはニッコリ笑って

「…私が事故に遭い、子が望めない体なのは、よく話題にされますから。」

「ごめんなさい。その 子(・) が(・) 望(・) め(・) な(・) い(・) と言う事も、 私(クレア) にとって都合が良いの。」

申し訳ないと言った表情でレイナは告げた。

「分かります。私は能力を。側妃は世継ぎを。クレア様は寵愛を。……中傷と嘲笑を遮る為の策ですよね。第二王太子妃に子が出来ると、クレア様への寵愛を疑う様な発言をする 羽(・) 虫(・) が湧いて来ますから。私は適任だと思います。」

少し調子が戻ってきたエタンセルは、クレアに関する時だけ出る口の悪さが出ている事に気付かないで発言を続ける。

「王家としても、今から新しい婚約者を立てて、一から妃教育をするとなると…

婚期が五年以上遅くなる…今、身分と年齢の合う令嬢は居ないから……下手すると十年掛けて、かなり年の離れた令嬢を娶る事になるかも……

私が第二王太子妃として、妃教育を学びつつ 第一王太子妃(クレア様) の補佐を行う。クレア様はいつ人格が入れ替わるか分からないから、表に出る公務も私の仕事になりますね…

側妃は、世継ぎを設けるのに必要って意味合いを持たせる為に…一人よりは二〜三人はいた方が……」

「ェ…エタンセル様…エタンセル様!」

レイナは、ブツブツと自分の思考の中に入ってしまったエタンセルを、引き戻すように声を掛ける。

「あっ!?ぁ……すみません…」

エタンセルは顔を赤くして我に返る。

「エタンセル様は意外と口が悪いんですね」

とレイナはクスクス笑う

「クレア様についてだけです。…本当に大好きで…憧れていたので……」

悲しさと悔しさが入り混じった表情になってしまったエタンセルに

「ありがとう」

レイナはクレアの代わりに感謝を告げた。

そうして少しの沈黙の後、レイナは続ける。

「あなたを無下にしたお願いだと思ってるの……。子が出来無いのを都合が良いと言い…ヘクター様との婚約を解消して、私の為に第二妃になってと言っている。……だから、エタンセル様は強要される事なくご自身の意志で決めて。」

「………」

「あなたが断った場合は…あなたはヘクター様の妻として、私と側妃候補から選出した第二妃を支えるか……私では無い王太子妃を支える。それこそあなたが言ってた様に、幼い婚約者を支える事になるかもね」

レイナはクスクス笑って、そう言った。

「まぁ…先ず、陛下が承諾して下さるかどうかなので……。却下されれば、私は大人しく領地へ篭って療養します。エタンセル様は何も 聞(・) か(・) な(・) か(・) っ(・) た(・) と思って下さい。」

レイナは最後に笑ってそう言った。

エタンセルは真っ直ぐにレイナの目を見て

背筋を伸ばして「はい。」と答えた。

「お話は終わったかしら?」

夫人が、二人に声を掛ける

「お母様?」

夫人はエタンセルの後ろから両肩に手を添えて

「終わったなら、エタンセル様はお召し替えしましょう。クレアのドレスからサイズが合いそうなのを幾つか選んだから。こちらへいらっしゃい。立てるかしら?」

「あ!恐れ入ります。」

エタンセルにセイン医師も近づき、立ち上がる様子を確認しつつ手を差し出す。

「着替えたら、ゆっくりお茶をしましょう」

レイナは夫人とセイン医師とフラム家の侍女に付き添われて退室するエタンセルを見送った。

入れ替わる様に公爵と侍従達が戻って来る。

「上手く話せたかい?」

「……ええ、多分……とても良い方で……こんな事に巻き込むのかと……気が咎めます……」

これまで王妃然とした雰囲気のレイナしか見た事が無かった公爵は、相手を慮る ク(・) レ(・) ア(・) らしい葛藤に…微笑んでレイナの頭を撫でた。

「……お父様?私は レ(・) ア(・) では、ないですよ?」

「勿論分かってるよ。私は レ(・) イ(・) ナ(・) の頭を撫でたいんだ。」

そう言いながら撫で続ける公爵に、レイナは顔を赤くして撫でられるのを受容した。

着替えたエタンセルとお茶会を再開して、レイナは情報を求めた。

「ウィリアム様と懇意にしていた令嬢の詳しい情報が欲しいの……三人居るって事は知ってるんだけど、お名前とか学年とかは分からなくて……」

「あぁ。はい。勿論、お教えします。……その三人が側妃候補ですか?」

「そうね。側妃候補に 推(・) 薦(・) ってところかしら」

ティア・ラクリマ伯爵令嬢…ラクリマ家の長女で、最終学年の十七歳。

薄茶のストレートのロングヘアで碧眼

(図書室で私が見た[絵ガラスの君]がこの人…)

トリステス・エインガー辺境伯令嬢…エインガー家の三女で、最終学年の十七歳。

ウェーブのかかった赤毛に黒い瞳

(ウィリアム様と遠乗りに行く[草原の麗人])

リール・シリッカ子爵令嬢…シリッカ家の次女で二学年の16歳。濃いオレンジのふわふわした髪に茶色い瞳

(ウィリアム様とよく中庭で会っている[マリーゴールドの令嬢])

この話をしてる間の公爵夫妻と医師の二人、アニタやムーロを初めとした侍従と侍女達の顔が非常に怖かったが、レイナは気付かないフリをした。

お茶会を終え、エタンセルを馬車まで見送る。

別れ際、レイナはエタンセルの手を取り話し出す。

「……エタンセル様…私…以前、エタンセル様に突然引き止められて、 謝(・) ら(・) れ(・) た(・) 事があります。」

「…………えっ……」

「クレアから 私(レイナ) に入れ替わった直後で、エタンセル様の謝罪の意味が分からなかったんだけど………あんなに謝ってくれたのに、 あ(・) れ(・) は私なんです。…… ク(・) レ(・) ア(・) は知らないって事を伝えておかないと、と思いまして……。ごめんなさい。」

「!。謝らないで下さい。仕方の無い事ですから!。……そうですか…クレア様じゃ無かった……」

「……エタンセル様、大丈夫ですか?」

「………えっ?、…はい。……大丈夫です。……では、今日の事…しっかり考えてお返事致します。」

「はい。よろしくお願いします。」

エタンセルは馬車に乗り込み出発する、レイナはそれを見送った

馬車の中

色々な事があり過ぎて、頭の中の整理が追いつかないエタンセル

何より重くのしかかった事実

「………私… ク(・) レ(・) ア(・) 様(・) に、謝れて な(・) い(・) ……」

ポツリと呟き……涙が溢れ出す。