軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

全人類奴隷化計画

――ヴァルガンド帝国。

今一度おさらいしておくと、はるか昔の時代において、アルセウス王国を統治していた大国だ。

その統治に異を唱えたのが、初代国王たるオルガント・ディア・アルセウス。そして初代剣聖たるファルアス・マクバだ。

突如《独立宣言》を発表したオルガントに、むろん帝国が黙っているわけがなく。

世界全土をも巻き込む大戦争が沸き起こったのが……約二千年前。

当時の《アルセウス王国》は規模も小さかったが、オルガントとファルアスの大活躍によって、戦況を大きく覆していった。

ファルアスに「たったひとりで大軍を壊滅させる」という逸話がつけられたのも、この戦争が名残だ。

両国が疲弊に苦しみだしたタイミングで、オルガントが不戦条約をつきつけ――

現在の両国は、 表向き(・・・) は良好な関係を築いている。

「お、おいおい……これは……!!」

そのヴァルガンド帝国内において、実に見覚えのある光景が広がっているのだ。

闇色のオーラに呑み込まれた冒険者たちが、一般市民に攻撃を加えている……その地獄絵図が。

「ま、まさか……。そういうことか……!」

いち早く“なにか”に気づいたんだろう。

レイファーが目を見開き、真っ青な表情で立ち尽くしている。

「ア、アリオス君……。あの冒険者たちはおそらく、アルセウス王国の出身者だ。我が国の冒険者だけが、ヴァルガンド帝国を襲っている……!!」

「な、なんだって……!?」

さすがに大声を発してしまう僕。

――そう。

冒険者ギルドそのものは、別の中立国に拠点を構える組織だ。

国籍にとらわれず多くの人々が在籍しているため、政治的なしがらみにとらわれることはない。言い換えればそれは、アルセウス王国出身の冒険者が、ヴァルガンド帝国に身を置くこともできるということ。

ただでさえ微妙な関係が続いている両国に、こんな決定的な大事件が起きてしまったら……!

「「緊急放送。緊急放送」」

と。

帝国を映す白いモヤから、事務的な音声が響きわたってきた。

どうやらヴァルガンド帝国全域に音声を鳴らしているようだ。

『我が善良なる帝国市民たちよ。第144代皇帝、スヴァルト・クローフィである。現在、私のもとに信じがたい凶報がいくつも届いている。あろうことか、かの隣国――アルセウス王国に籍を置く冒険者たちが、罪もなき帝国民をなぶり殺しにしていると……!』

「くっ……!」

僕は思わず歯噛みしてしまう。

現皇帝……スヴァルト・クローフィ。

レイから何度かその名を聞いたことがあるが、なかなか抜け目のない人物だと聞いている。冷徹にして残忍、自身の家族でさえ政局の駒にしてしまう、要注意人物であると。

『かの国は元より《我が国の一部》でありながら、愚かしくも独立宣言を主張した。我らの先祖が長きにわたって《安定した生活》を提供していたものを放棄し、かの冷徹な戦争へと発展せしめたのである!!』

『諸君、これを許していいのか!?』

『かの国は我が国への恩を忘れるに留まらず、非人道的な暴力行為まで行っている!』

『世界を代表するヴァルムンド帝国が、かの国の横暴を許していいのだろうか!?』

『我が善良なる帝国市民たちよ! 今一度、その清き心に問いかけてみよ!!』

その瞬間。

さっきまで逃げ惑っていた人々に、見覚えのある闇色のオーラが発生した。

――考えるまでもない。

理性を崩壊させ、人の意識を思うままに操る……影石のオーラだ。

「そ、そうだ……」

「俺たちは善良な帝国民……逃げる必要なんてない、戦えばいいんだ……!」

「殺せ! アルセウス王国の人間は、みんな殺せ!!」

そこからの惨劇は……正直、見たくもない。

アルセウス王国の冒険者たちは、訳もわからない奇声を発して暴れまわり。

それに乗じて、ヴァルムンド帝国の住民たちも反撃をして。

互いが異世界人の操り人形と化して――見るに堪えない戦いを繰り広げていた。

『そう! それでいいのである!』

『我が国を侵略する外道者は、遠慮なく叩き潰すのだ!』

『もちろんこれは虐殺ではない! 自己を守り隣人を守り国を守る……正当な戦いなのである!』

「くそっ……!」

――全人類奴隷化計画。

まさしく言い得て妙な、最悪の計画だった。

「これが……おまえたちの狙いだったのかよ!」

はるかなる高みに浮かんでいるミルアとリオンに、僕は大声で叫んだ。

「世界を奴隷化して戦争を引き起こして……そんなことをして、なにが楽しいんだ!?」

「うふふ。残念ながら、 マスター(・・・・) の考えは私たちにはわからないわ♡」

僕の問いかけにも、ミルアは変わらず妖艶に笑うのみ。

「願わくは、王国の皆さんの苦しむ姿も見たかったものだけど……。まあいいわ。私たちの計画に……寸分の狂いもないのだから」

「ぐ…………!」

「……そう怒るな、アリオスよ」

拳を握り締める僕に向けて、リオンがやけに落ち着き払った声を発した。

「おまえの剣は、すでに剣聖の域を超えている。ここで準元帥の名を拝命したことも……きっと、なんらかの運命であろう」

「リオン……! あんた……!」

「…………」

「ふふ、リオンさん♡ あなたも大概、かなりの親ばかですわね? わざわざ橋を壊したのは、アリオスちゃんが私の餌食になるのを避けるためじゃなくて?」

「……ふん。知らぬな」

「うふ。まあ……いいでしょう」

ミルアはそこで小さく笑い。

パチン、と。

右手の指をならしてみせた。

その瞬間、ミルアとリオンの身体が新緑色の輝きに包まれる。

――転移魔法だ。

「待て!! ミルア!」

と。

さっきまで他の冒険者たちと戦っていたダリアが、息せききってこちらに走り寄ってきた。

「う、嘘だろう!! おまえが本当に事件の黒幕で……私たち冒険者を、裏で操ってたっていうのか!?」

「ふふふ。ダリアちゃん。あなたのその純情な心が……わたくし、心から大好きでしたわ♡」

「なっ……」

「それではみなさん。ご機嫌よーう♡」

そう言い残して、ミルアとリオンは、完全にこの場から姿を消した。