軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

まだ諦めない

「ど、どういうことだ、ミルアっ!!」

近くで戦闘を繰り広げていたダリアが、悲痛きわまる声を発した。そのまま僕の隣に走り寄ってきて、空高くに浮かんでいるミルアを見上げる。

「な、なんでミルアがそこにいるんだ!? ふざけてる場合じゃないだろう、降りてこい!」

「うふふ……。ダリア……♡ 気丈な態度とは裏腹に、心に隠し持っている“純朴な乙女心”……。あなたと一緒にいるのはとても楽しかったですわよ♡」

しかし、ミルアはまったく意に介さない。

人差し指を頬にあてがい、変わらず妖艶な笑みを浮かべている。

「願わくは、そんなダリアを身も心も支配してあげたかったのですけれど……。こればっかりは仕方ないですわねぇ」

「ミ、ミルア……っ!!」

ダリアはまだ現実を信じることができないらしい。

恩師の名前を必死に叫び、ミルアを呼び戻そうとしている。

――無理もない。

先ほどの話によれば、ダリアとミルアは旧知の仲。かつては師弟関係にあったようだが、現在はそれ以上の、まさしく親友とでも言うべき仲なのだろう。

そんなミルアが、影で陰謀を企てていたなんて……信じられない、いや、信じたくないはずだ。

だがおそらく、それすらもミルアの喜びを引き出しているようで。

懸命に恩師の名を叫ぶダリアを見て、ミルアは愉悦の表情を浮かべていた。

「ふう……」

そんなミルアに対し、元剣聖リオンでさえ呆れ気味なため息をついた。

「《 魔羅(まら) 》のミルア・クレセント……。さすがは《創造者》きっての性悪と言われているだけはあるな」

「あら♡ 性格の悪さで言うなら、あなたも負けてないと思いますわよ。リオン・マクバさん♡」

「ふふ……。まあ、違いあるまい」

訳のわからない会話を繰り広げている二人ではあるが、これにて判明した事実はひとつ。

リオン・マクバ。

そしてミルア・クレセント。

二人は異世界人――もしくは異世界人の仲間――であり、今回の騒動を引き起こすために日々暗躍していたのだ。

なにより特筆すべきは、ミルアの《精神異常》。

フォムスやレイファーですら翻弄した異能を、なんとミルアが使えるというのだ。

そんな化け物じみた異能を使えるのであれば、冒険者たちを操るのも難しくなかっただろう。上っ面では《大人しそうな冒険者》を演じておいて、こっそりと《精神異常》の異能をしかけておけばいい。

そうすることで、ゆっくりと……じっくりと、冒険者たちを洗脳していったんだろうな。

さらに言えば、ミルアは表向きSランクの冒険者だ。

その立場を利用すれば、世界各地を動きまわるのも容易だったはず。

そして《女神による封印が解かれたとき》に備え、数多くの冒険者を手玉に取っていった……

そうと考えれば、色々と辻褄が合う。

「カヤ……ユウヤさんも……」

かつての仲間たちの名前が――自然と思い起こされる。

ダリアが無事だったくらいだし、まさか《精神異常》に呑み込まれていることはないだろう。だが王国各地の冒険者が暴れまわってしまっている以上、なんらかの被害を受けてしまっていることは確実。

だが……心配するのはよそう。

カヤもユウヤも、僕より先輩にあたる冒険者なのだ。僕ごときが心配しなくても、きっと場を切り抜けてくれるだろう。

僕は僕で、目の前の戦いに集中しなくては――!

「あら? お仲間が心配なのかしら、アリオスちゃん♡」

僕の気持ちを読み取ったのか、ミルアが妖艶な笑みを浮かべる。

「心配しなくても結構ですわよ。あなたが心配しようがしまいが――あなたの仲間たちはみな、今日をもって死ぬことになるのだから」

「なに……?」

僕が目を見開いた、その瞬間。

ミルアはどこからともなく 扇(おうぎ) のようなものを取り出すと、そのまま空中で舞い始めた。まさしく妖艶という表現がぴったりの、怪しげな舞い……。見る者すべての心を鷲掴みにしてしまうような踊りを、ミルアは突如にして行い始めた。

そして……気のせいだろうか。

影石にも似た闇色のオーラが、ミルアの全身から放たれているような……

と、次の瞬間。

「ウゲェ……オゴゴゴゴゴゴゴゴ……」

「オレ……ミルア様ノタメニ、命……捧ゲル」

驚くべきことに、さっきまで倒れ込んでいたはずの冒険者が再び立ち上がり始めるではないか。みなダリアたちによって制圧されたはずなのに、片言を呟きながらふらふらと立ち上がっている。禍々しい闇色のオーラが彼らに迸っているのは、もはやご愛敬か。

「ええっ……! どうしてっ!?」

「オソラク……アノ異世界人ノ影響デショウネ……」

遠くで戦っていたアンとウィーンが、悲痛なる声を発する。

「困リマシタネ……。冒険者タチハ限界ヲ超エテ戦ワサレテイマス。コレ以上戦イガ長引イタラ、死ンデシマウカモワカリマセン」

「そ、そんなぁ……! どうしたらいいのよ……!」

「……サア。頑張ルシカアリマセンネ……!」

「もう……! 本当に最低っ!」

アンとウィーン。

言うまでもなく二人は実力者だが、かといって永遠に戦い続けられるわけではない。しかも冒険者たちの命を気遣いながら戦うとなると――さすがに骨が折れるだろう。

ミルア・クレセント。

可愛らしい見た目に反して、なんと性悪な性格をしているのか……!

「あらぁアリオスちゃん、そんなに怖い顔をしないでちょうだいな♡ 心配しないでも、他の場所もきちんと見せてあげるわよ♡」

「他の……場所だって?」

「ええ。ほら、これこれ♡」

ミルアが右手の指を鳴らした、その瞬間。

同じく空高くに、5つの《映像》が出現した。薄いモヤがかかっているのであまり鮮明ではないが――うち2つの景色に、僕は見覚えがあった。

すなわち……王都アルセウスと、ラスタール村だ。

「こ、これは……!?」

「ふふ、アリオスちゃんならわかってるでしょう? さっき私から送った犯行声明……。その場所の映像ですわ♪」

「犯行、声明だと……!?」

そうか。たしかカーナがそんなようなこと言ってたな。

ポージ港町、ムカレス村、ラスタール村、オージニア商業都市、ダレス町、そして王都アルセウス。

この6か所において、間もなく暴動を起こすと……そんな声明が届いていたのだ。

ではあの映像は、ポージ港町を除いた、残り5つの映像ということか……!?

「ど、どうしてまた起き上がってるの!?」

「むぅ……しかも先ほどより強くなっておる……!」

そんな声が聞こえてくるのは――ラスタール村の映像か。

カヤとアルトロが善戦を繰り広げていたようだが、再び立ち上がった冒険者たちに困惑している様子。穏やかだったはずの《辺境の地》は、まさに地獄絵図と化していた。

「く……! これは参ったね……!」

「ちきしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおお! イリアを、イリアを返しやがれぇぇぇ!」

一方、こちらの声は王都アルセウスの様子だ。

かつて僕をなじってきたBランク冒険者――ユージェスが絶叫をあげ、冒険者たちと戦闘を繰り広げている。イリアというのはたぶん、ユージェスの身内か誰かか。

ユウヤも加勢して戦っているが、再び立ち上がった冒険者ににっちもさっちもいかず。

王都も王都で、相当な大混乱が引き起こされていた。

そしてそれは他の3つの地域も同様……いきなり冒険者たちが暴れだしたことで、どの場所も大惨事に陥っていた。

「そうか……そういうことだったのか……」

事ここに至り、なぜわざわざミルアが犯行声明を出してきたのか判明した。

冒険者たちは本来、脅威から住民を守るのが仕事だ。僕も冒険者だった頃はそんな意識を持っていたし、カヤやユウヤも冒険者という職業に誇りを持っていた。

だからきっと、先の犯行声明も、軍から冒険者たちに通達されていたはずなんだ。特に王都以外は辺境ばかりだから、軍が常駐していない地域もある。だから軍と冒険者が結託することで、地域の治安を守っていたはずなんだ。

しかし――現状はどうだ。

その冒険者が《精神異常》にかかってしまっているせいで、せっかくの連携が機能していない。それどころか、その連携を逆手に取られてしまっている。

おそらくだが、軍本部はいまごろ大騒ぎになっているだろう。

王都や港町ポージはともかくとして、それ以外の地域には駐屯地はない。いまから辺境に軍を派遣しようとしても……もう遅い。

「ふふ……。どうかしら、アリオスちゃん♡」

僕の様子をどう思ったのか、ミルアが変わらず妖艶な笑みを浮かべる。

「あなたの《チートコード操作》や《原理破壊》はたしかに強力です。まさしく世界そのものに干渉する、創造主のごとき力を持っているでしょう。しかし私たちも《異なる理》に生きる者。あなたひとり相手に、負けるいわれはないんですよ」

「――そして、おまえたちの敵はこのミルアだけではない」

続きの言葉を、リオン・マクバが引き継いだ。

「私にフェミア、そしてミルア……もちろん他にもたくさん仲間がいる。これほどの大敵を前に……おまえは勝てるつもりでいるのかな?」

「リオン……おまえ……!」

ひどい……

こいつはいったい、どこまで堕ちれば気が済むんだ……!

「おまえの《チートコード操作》はたしかに強力だが、この状況を打破するほどの力はあるまい。諦めるのだな」

「くっ…………!」

考えろ。考えるんだ。

まだ絶対に手はあるはず。

こんなところで諦めるわけには……!

と、そのときだった。

「――あ、あなたは、レイファー殿下!?」

頭上に浮かぶ映像のひとつから、そんな声が聞こえてきた。

レイファー殿下って……まさか……!?

僕は思い切り目を見開き、かつてアウト・アヴニールにて戦った王子の姿を目撃するのだった。