軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

おい、いきなり暴露されたんだが。

スキル《チートコード操作》発動。

――性転換。

そう心中で唱えた瞬間、再び僕の身体を不思議な輝きが包み込んだ。ほのかに新緑に輝くそれが、僕の頭からつま先までをすっぽり覆っていく。

そして光が消えたときには、僕は元の姿に戻っていた。

鏡を見ずともわかる。

見慣れた胸元、手首、腹部……間違いなく、アリオス・マクバの身体だ。

「ふぅ……」

大きく息を吐き、路地裏の壁にもたれかかる僕。

もちろん、周囲には誰もいない。

「ちょっとややこしいけど……この能力、色々と使えるか」

準元帥たるアリオス・マクバは、良くも悪くも有名になりすぎた。辺境ならいざ知らず、人の多い場所では人を寄せ付けかねない。

それだと、今後の活動に支障をきたしかねないからな。

女性へと変貌を遂げることで、そのへんの懸念は払拭されるだろう。それどころか、男のときとは違ってあまり警戒されないからな。コソコソ動きまわるには向いているかもしれない。

……まあ、さっきみたいに男の好意をぶつけられる可能性はあるわけだが。

今後使いやすい能力であることには違いない。

さすがは女神様、といったところか。

「だったら性転換じゃなくても良さそうな気はするけどな……」

僕は大きく息を吐くと、表通りに向けて歩き出す。

色々とゴタゴタはあったけれど、この能力を確かめるきっかけにはなかった。

準元帥として動く傍らで、積極的に使わせてもらおう――

そう思いながら、僕はこっそり表通りに出る。

特にやることもないが、さりとて街中にいると面倒が起きそうだからな。ここは外に出て、特訓も兼ねて魔物と戦おう。

そうして、僕はひとり草原に出るのだった。

「お……」

僕は思わず声を漏らしてしまう。

王都の郊外を抜けた先にある、だだっ広い草原。

街灯が魔物除けの役割を果たしているので、街道あたりに魔物は寄りつかない。

なので、この場所は特訓には向かないわけだ。

特訓する際には街道から大きく逸れ、人の手が届いてない場所へと向かう必要がある。

まあ、これは安全上当たり前の措置なので、文句を言うつもりはからしきないのだが――

その街道から逸れた、木々の密集地帯に、なんと先客がいたのである。

「はぁぁぁぁああああ!」

Aランク冒険者――カヤ・ルーティス。

彼女の華麗な回転切りが、周囲の魔物たちをまとめて攻撃した。

「グオオオオオオ!!」

その一撃だけで、魔物たちはぴくりとも動かなくなった。即死だ。

さすがはAランク冒険者――無駄のない的確な動きだ。

「あら」

僕の視線に気づいたのか、カヤがこちらに目を向ける。

その表情が、すこし嬉しそうに輝いたのは気のせいだろうか。

「アリオスさん……! 来てたんですね……」

「うん。いまさっきだけどね」

そういえば、彼女からは敬語を使わないでほしいと言われているんだったな。

そのことに改めて違和感を覚えながらも、僕は彼女の元に歩み寄っていく。

「すごい動きだったよ。初めて会ったときより……ずっと」

「あはは。初めて会ったとき……ですか」

タオルで汗を拭ってから、彼女は剣を鞘にしまう。

もう周囲に魔物の気配はないからな。剣を握っている必要はない。

「もうどれくらい経つんでしょうね……。大きなジャイアントオークが現れて、死にかけているところをアリオスさんに助けられて……」

「うん……どうだろうなぁ」

時間的に見れば、きっとそんなには経っていない。

だけどその間にも、僕たちには色々あった。

一口で語るには難しいくらいに、いくつものドラマが立て続いたと思う。

「私ね、アリオスさんのこと、実はとても好きなんですよ」

「え…………」

「人として……だけじゃないですからね。男性としてです」

「…………」

おいおいおい。

唐突な発言に、さすがに開いた口が塞がらないんですが。

僕の反応をどう思ったか、カヤは「うふふ」と笑って僕に詰め寄ってきた。

「だってそうじゃないですか。アリオスさんは、命を張ってでも私を助けてくれたんです。誰だって、少なからず特別な感情を持つと思いますよ」

「カ、カヤ……」

「わかってます。アリオスさんには大事な役目がある。そのためには、私じゃなくて――レイが側にいなくちゃいけない」

「…………」

「アリオスさん。どうかこれを……受け取ってください」

そうして彼女から差し出されたのは、小さな石。

深い緑色に彩られていて、陽に照らすと不思議な光沢を放つ。よくよく見れば小さな穴が開いており、そこにヒモを通してあるようだ。

「これは……」

「私からの贈り物です。しばらく離ればなれになっちゃいますけど、せめて、一緒にいる証だけは残したくて……」

「カヤ……」

「うふふ。レイのことなら心配しないで大丈夫です。あの子にも同じ物を渡してますから」

おっと……そうなのか。

僕は静かに頷くと、そのヒモを首に通した。

その途端――気のせいか、身体がすこし軽くなったように思えた。

「その石には、私の祈りを込めてます。今後なにがあろうとも……アリオスさんとレイを守ってくれるって。だから」

もふっと。

カヤがいきなり抱きついてきた。

「…………っ! カ、カヤ……!」

「だから、絶対、無事でいてください。私はいつもあなたを想っています。異世界人なんかに、屈しないでください……!」

「カ、カヤ……」

そうか。

彼女は心配してくれているんだ。

未知なる敵と挑むことになる、僕とレイを。

その想いを、どうして踏みにじることができるだろう。

「カヤ……ありがとう……」

「ふふ。本当はずっとこうしたかったんですが……その役目は、レイに譲りましょう」

カヤは大きく息を吐くと、ゆっくりと僕から身を離す。

それはまさに――彼女のなかで、気持ちを整理しているかのようだった。

「あはは……アリオスさん。ありがとうございました。このことは、どうかお忘れください」

そう言うなり、カヤはひとり、そそくさと走り去っていくのだった。