軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

おい、そういうのを過大評価っていうんだそ

「アリオス!」

ふいに名前を呼ばれ、僕は背後を振り返る。

「レイ……」

「良かった……やっぱりここにいたのね……」

レイは不安そうな表情を浮かべていた。僕がダドリーに会いにいくのを察して、心配してくれていたのかもしれない。

なんにしても――ここでレイが来てくれたのは助かった。

「レイ。神聖魔法、頼めるか?」

「うん。任せて」

レイはダドリーの側でしゃがみ込み、両手をかざす。ほのかな煌めきがその手から発せられ、それは少しずつダドリーの身体に入り込んでいく。

「くっ……」

ややあって、ダドリーは呻き声を発した。

「お、俺は……?」

「目覚めたか……!」

僕はほっと一安心する。

たいしたダメージを与えていないはずだが、これまでも予期せぬうちに敵を倒していたことがあったからな。すこしだけ不安ではあった。

「アリオス……それにレイミラ様も……」

ほんの一瞬で、ダドリーは自分の状況を察したのだろう。照れくさそうにそっぽを向き、ぼそりと呟いた。

「……はん。気ぃ遣わなくても大丈夫だったのによ……」

「ダドリー? なんか言った?」

「あ、いえっ。ありがとうございましたレイミラ様!」

レイの圧に、ダドリーが妙にかしこまる。

「はは……」

そういや、ダドリーはレイに頭が上がらないんだったよな。

かつてラスタール村で追いつめられたことが、よほどトラウマになっているんだろう。

「ふふっ……」

そんなダドリーの様子に、レイも小さく笑った。

「そうだ。レイ、いま何時だ?」

「そうね……だいたい7時半かしら」

7時半。

となると、まだ若干時間が余っている形になるな。

すこし早めに晩餐室に向かってもいいとは思うが……それにしたって30分前に行くのは早すぎるもんな。

なにかで時間を潰せないものか……

「アリオスお兄ちゃん!」

僕がそう思案していると、またも背後から声をかけられた。

「おおっと……?」

今度はエムか。

――いや。

よくよく見れば、もうひとりいるな。王国軍の制服をまとっているから、どこかの師団に属する兵士だと思われる。気のせいか、そこらの兵士より身のこなしが精錬されていた。

「エ、エムちゃんっ!?」

彼女の登場にあからさまな反応を示したのがダドリーだった。背筋をピンと伸ばし、顔をめちゃくちゃ赤くしている。

「あれ……? レイ様と、ダドリーさんもいる……?」

「はっは! エムちゃんのためなら、俺、どこへだって現れるぜ!!」

「ほへ? どうしてですか?」

「え、そ、そりゃあ……えっと……」

途端にもじもじするダドリーに、エムは小首をかしげる。

「……やっぱり変なお兄さんですね」

「へ、変なお兄さん……」

――こりゃあ前途多難だな……

僕はふうとため息をつくと、エムに視線を向け、話題を切り替えた。

「で、どうしたんだ? なにか用がありそうだが」

「あ、はい。そうでした」

エムはそう告げると、王国軍の兵士にちらと視線を向ける。

兵士はその視線を受け止めるや、まずはレイに敬礼をし、続けてかしこまった態度で言う。

「ご歓談中、申し訳ございません。アウト・アヴニールで異質なものを発見しまして……ぜひアリオス様に見ていただきたく思った次第です」

「異質な……もの……」

僕たちもアウト・アヴニールの全体を確認できたわけじゃないからな。残りの調査は王国軍が引き受けてくれていたのだが、その過程で、妙なものを見つけたということか。

「ふむ……」

晩餐会まであと30分。

確認するだけなら、充分に間に合うだろう。

「わかりました。案内だけお願いできますか?」

「ありがとうございます。アウト・アヴニールの入り口にすべて運んでいますので、時間はそうかかりません。ぜひお願いします」

「あ、私も!」

「お……俺も行きますよ!」

慌てたようにレイとダドリーもついてくるのであった。

アウト・アヴニール。

――すなわち、ファルアスたちが異世界人を封じ込めた異空間。

その入り口は、まだレイファーの私室に存在しているようだ。黒ずんだ空間の歪みが、さきほどと変わらず異様な存在感を放っている。

そこをくぐり抜けたとき――僕は、兵士の言う《異質なもの》の正体を知った。

実験体(ホムンクルス) だ。

頑張って運んできたんだろうな。百体はあろうかというホムンクルスのポッドが、入り口にびっしりと置かれていた。

相変わらず、ずっとポッド内で眠ったままだが……こうして見てみると、本当に人間となにも変わらないな……

「いかがでしょうか。アリオス様」

兵士が歩みながら訊ねてくる。

「たしかご報告によれば、アルセウス救済党とともに襲ってきたようですが……まとめて 処分(・・) したほうがよさそうですか?」

「処分……」

「はい。私どもとしては、それが最善の策かと思います」

なるほど。

その質問の意図を、僕はまじまじと感じ取った。

処分――つまり殺してもいいかということだ。

異世界人の思惑によって生み出され、いいように操られた彼女らを……暴れないうちに殺すと。

ぎゅっ……と。

エムが不安そうに僕の裾を握りしめてきた。泣きそうな表情だった。

「なるほどな……」

エムがなぜ僕を呼んだのか、それがわかった気がする。

「エム。最初に聞いておきたいんだが……このホムンクルスたちは、目覚めた途端に人間を襲うのか?」

「いえ、それはないと思います。実験体Nも、命令されて動いていたようですし……」

ふむ。たしかにそれは感じたな。

だが、それは結局、希望的観測に過ぎない。そもそもエムと実験体Nは違うわけだし、僕たちはホムンクルスのことをすべて知ってるわけじゃないからな。

僕は顎をさすりながら呟く。

「たしかに、ここで対処するのが一番安全ですね」

「そんな! アリオスお兄ちゃん!!」

エムが悲痛な声を発する。

僕はそんな彼女に目で合図を送ると、レイに視線を移した。

「……うん」

こんなときでもさすがはレイミラ。僕の意図をすべて察し、ゆっくり頷いてくれた。

僕は薄く微笑むと、改めて兵士に返答した。

「……でも、兵士さん。あなたたちならすでにお聞きかと思いますが、今回の事件はこれで終わりではありません。今後、大きなトラブルが起きる可能性もあります」

「……はい」

「相手は未知の力を持っています。王国軍だけでは対応しきれないかもしれません。――そんなとき、彼女たちがいたら心強いと思いませんか?」

「…………」

「もし万一、彼女らが暴れ出したら僕が制圧します。……それまで、僕の配下にいてもらうのはいかがですか?」

「なんと……しかし、そんなことが可能ですか……? 相手は百体もいるのですよ?」

「なぁに問題ねえだろ」

そう答えたのはダドリーだった。

「こいつは小国を吹き飛ばす魔物――ヴァニタスゾローガでさえ瞬殺した。これだけでも充分説得力あると思うぜ?」

「む……」

兵士は難しそうな表情で、数秒だけ考え込む。

そしてふうとため息をつき、観念したように僕を見据えた。

「はは……。国王陛下がなぜあなたに一目置かれるのか、わかった気がしました。非常にお優しく、そして誰よりもお強い方ですね」

「い、いや……さすがにそれは過大評価だと思いますが」

「いえ、大丈夫です。そのように計らっておきましょう。――申し遅れました、 私(わたくし) 、第一師団長のロルガと申します。今後ともどうぞ、よろしくお願い致します」