軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

同志A

謎の施設、アウト・アヴニール。

その最奥部はなんとも仰々しかった。

なにかの祭壇だろうか。

奥に壇が設置されており、その両脇には巨大な蝋燭が鎮座している。その炎も一定期間ごとに色が変わっており、なんとも幻想的な雰囲気が漂っている。

そして――その祭壇を堂々たる振る舞いで見上げている人影が二つ。

アルセウス王国の第一王子、レイファー・フォ・アルセウス。

そしてアルセウス救済党の党首、マヌーザ・バイレンス。

一連の事件を企てた首謀者たちが、大胆にもこちらに背を向けたまま、祭壇をじっと見つめている。

僕たちに気づいていないわけではないだろう。あの二人はそんな馬鹿ではない。

僕が警戒しつつ歩を進めると、ふとレイファーの肩がすこしだけ揺れた。

「……来たか。君たちならば、わずかなりとも可能性はあると思っていたよ」

そしてゆっくりと振り向き、とうとう僕たちと対峙した。

レイと同じ金髪に、計算高さを思わせる鋭い眼光。鼻もすらりと伸びており、まさに《王子様》さながらの風貌をしている。

そして驚いたことに、腰には鞘がぶら下がっていた。

王子みずから剣を握るつもりか。たしかにレイファーの剣の才は、父リオンでさえ目を見張ると聞いたことがあるが……

「クク。だとしても低すぎる確率を、よくぞ潜り抜けてきたものだ。おまえたちには本当、感服させられてばかりだな」

続けてそう言うのは、アルセウス救済党を束ねるリーダー……党首マヌーザ。

他の構成員が灰色のローブをまとっていたのに対し、マヌーザは深緑のコートを身につけていた。

顔面を晒しているのも通常の構成員とは異なる点か。黒縁眼鏡に細い目、それでいて堂々とした風格。さすがは強敵揃いのアルセウス救済党のトップ、滲み出る魔力も尋常ではない。

マヌーザは僕たちを見渡すなり、ふうとため息をつく。

「ここまで来るのは容易じゃなかっただろう? アルド家を制圧することによって我が党の所在を暴き、村に押し寄せる第19師団を押しのけ、大胆にも王城に潜入し――そしていま、おまえたちはここにいる」

そして肩を竦め、眼鏡のレンズを光らせた。

「……やれやれ、すさまじいことをやってのけたよ。おまえたちは」

「……そりゃどうも」

僕は警戒を解かぬままに歩み続ける。

その後に、レイ、エム、ダドリーが続いた。

そしてある程度の距離を詰めたところで立ち止まり、チーム戦の陣形を取った。ダドリーとエムが前衛、僕が中間、レイが後衛だ。

その様子に、レイファーが余裕そうに笑う。

「ふふ。なんとも奇妙なメンバーだな。元剣聖候補に、第二王女、そしてホムンクルスに孤児か」

「ああ。それには僕も同意だ」

レイファーに対して無礼すぎる言葉遣いだが、もはや構うまい。あいつは様々な悪事を働いてきた。やりすぎたのだ。

僕はさらに一歩を踏み出すと、一同を代表して語気を荒らげた。

「答えろ。おまえたちの目的はなんだ。どうして王子とテロリストが手を組んでいる……!」

「…………」

レイファーはマヌーザとしばし視線を交わしたのち、「ふっ」と鼻を鳴らした。

「簡単なことさ。我が国を救うためだよ」

「はぁ!? なに言ってんだよアンタ!」

ダドリーが意味がわからないといったふうに喚き散らす。

「俺やリオンさんと陥れて……エムやエアリアル第一王女をあんなに苦しめて……なにが王国救済だよ!! 笑わせんなタコ虫が!!」

「ダ、ダドリー……」

思わず呆れ返ってしまうし、タコ虫っていうのはよくわからないが、内容には同意だ。レイファーはなにをもって自国の救済と言っているのか。

「ふっ、君たちならさぞ痛感しているだろう? 人民の愚かさをな」

レイファーはそう語るや、僕たちに背を向けて両腕を広げた。

「我がアルセウス王国は豊かになった。周辺諸国に怯える必要のない、強大な国となった。――だからこそ、覇気のない人民が大量に生まれてしまっている。自分たちはなにもせず、周囲の思うがままに流され、声だけはやたらにでかい……」

そして僕たちに視線だけを向けると、口の端を吊り上げながら笑った。

「私はね、そのような人民は邪魔だと思っているのだよ。ならばこそ、すべての人々を意志のない奴隷とすることにより、賢者の導きやすい世界をつくる!! それが私の理想郷だ」

「…………」

駄目だ。

完全に狂っている。

ある意味では、過激思想によって国を救済せんとするアルセウス救済党とウマが合ったのかもしれないな。

「違うわ! お兄様!」

レイファーの一人語りを、ふいにレイが打ち破った。

「お兄様はそんな人じゃない! 妹たる私がよくわかっています! 本当は優しくて誰よりも国の未来を案じている……お兄様のお姿を……!」

「……なんだって?」

その不意打ちをどう思ったのだろう、レイファーは不愉快そうに口元を歪ませた。

しかしその圧にも屈せず、レイは必死に話し出す。

「昔は……昔はよく遊びに興じたではありませんか! あれから長き年月が経ったといえど……お兄様の目は昔とそんなに変わっていない! 弱き者にも手を差し伸べる清い王となりたい――そう仰っていたではありませんかっ!!」

……なんと。

そうだったのか。

人当たりが良いのは知っていたが、そこまで思慮深い人物だとは聞いていなかった。

感情の読みとりづらい笑顔の裏側は、そんなにも純粋だったのか……?

「ふん。なにを戯言を」

レイファーはつまらなそうに吐き捨てた。

「幼少期の脆い政治観など……私はとうに捨てた。おまえの知っている兄はもういないのだよ」

「レ、レイファー兄様……」

潤んだ瞳で兄と対峙するレイ。

……それにしても、そうか。

彼女によれば、レイファーは本来、優しく清い人物。

だとするなら……僕が感じていた疑念は……

「党首マヌーザ」

僕はお次に、アルセウス救済党のトップに目を向ける。

「おまえにも聞きたいことがあった。おまえたちが持っている宝石――影石といったか。あれを、どうやって入手したんだ」

「ほう……?」

ファルアスたちによれば、女神ですら単身では勝てない《大敵》が、影石を現代に遺したのだという。

では、なぜ。

アルセウス救済党が大量の影石を持っているのか。

その点も昔から謎であり、いままで解決しなかったことでもあった。

「ふふ、どうだかな」

しかし、マヌーザはなおも肩を竦めるばかり。

「おまえたちに答える義理はない。知りたくば自分で探求することだな」

「違う!!」

僕はマヌーザの言を真っ向から否定した。

「おまえたちはわからないんだ。気づいたら影石を持ってて……それを利用してテロを起こしていた。いつ、どうやって影石を手に入れたか、おまえたちにもわからないんだ!」

「ぬっ……!!」

マヌーザの表情がひどく歪む。

「え……?」

「それって、どういうこった……?」

エムとダドリーがそれぞれに首を傾げる。

やはり図星だったようだ。

マヌーザは顔をしかめたまま、なにも言わない。

「それからもうひとつ」

僕はレイファーとマヌーザを交互に見やった。

「おまえたち、同志Aはどこに行った? 味方なんじゃないのか?」

「同志Aだと……? なんだおまえ、誰のことを言っている」

マヌーザからの返答は、しかし間抜けなものだった。

――同志Aを知らない。

アルセウス救済党の2番手を知らないというのは、普通に考えておかしいはず。

「あ、あんたこそなに言ってんのよ!」

レイがかっと目を見開いて言った。

「同志Aはアルセウス救済党の2番手で……いつも一緒に行動してたでしょ!」

「我がアルセウス救済党の……2番……手……? ぬ、うぉおおおおおおああ!!」

途端、マヌーザが頭を抱えて叫び出す。

さっきまで冷静沈着だった男の姿は、もはや見る影もなかった。

――やはりそうだ。

レイファーやマヌーザの一連の行動は、考えてみれば不可解な点が多かったんだよな。

レイファーの行動は、動機が不明。

マヌーザが影石を持っていた理由も不明。

女神らによれば、常軌を逸した《大敵》が今後攻めてくるということだが……

なんのことはない。

いままでバラバラに散らばっていた謎を突き詰めると、一本の線に繋がる。

つまり、レイファーたちですら、連中にとってただの傀儡でしかなかった。

それだけだ。

そしてどうやら、同志Aはやはりただ者ではなかったようだ。

マヌーザやレイファーの記憶を操作し、あいつが事件を裏から牛耳っていたのだろうか……? これについては現状、まだわからない。

「ぬおおおおおおっ! お、おのれ、アリオス・マクバめ……!」

額を抑えながら、マヌーザが恨めしそうに呻く。

「訳のわからない言葉で我らを翻弄しおって……。そこまで死にたいのであれば、お望み通り痛めつけてやるわ!」