軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

職人街のドワーフ

メーヴィスさんの農場での一件を終えた翌朝、

私は、いつもより少し早く目を覚ました。

窓から差し込む朝日に、鉄のプレートをかざしてみる。鈍い光が静かに反射した。

(……二つ目の依頼も、無事に終わった)

この街に来て、まだ数日。

それでも、私は確かにこの世界で、自分の足で立っている。

その実感が、心を満たしていた。

今日の目的は決まっている。

朝食を簡単に済ませ、私は宿を出た。

向かう先は、アークライトの北区画――職人街だ。

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大通りを抜け北区画へ足を踏み入れると、空気ががらりと変わった。

カン、カンと響く鉄を打つ音。ごうっと燃え盛る炉の唸り。

石炭の煙と、なめした革の匂い。

行き交う人々の体つきも逞しい。

ここが、アークライトの物作りを支える心臓部なのだろう。

私は通り沿いの鍛冶屋を一軒ずつ覗いて回った。

並んでいるのは量産品の剣や鎧。悪くはないが、私が探しているのはこういう店じゃない。

(……ただの鉄じゃない。魔力を持つ金属を打てる職人……)

父シルヴァンの工房を思い出す。

静かな誇りと探求心が満ちたあの空気。

私が求めているのは、そういう魂を持つ鍛冶師だ。

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半刻ほど歩いた頃、職人街の外れに一軒の鍛冶屋を見つけた。

派手な看板もなく、古びた木の扉の上に槌と金床を象った無骨な鉄の紋章が掲げられているだけ。

それでも、その店構えからは静かな自信が漂っていた。

(……ここ、かもしれない)

重い扉を押し開ける。

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炉のごうという唸りと、むわっとした熱気が私を包んだ。

薄暗い工房。壁には金槌やヤスリが整然と並び、床には鉄の塊や鉱石が転がっている。

中央では、一人の男が真っ赤に焼けた鉄を金床に置き、槌を振るっていた。

カンッ、カンッ――火花が散る。

背丈は私より低いが、肩幅は広く、丸太のような腕に筋肉が詰まっている。

長く編み込まれた赤茶色の髭。……ドワーフだ。

彼は目の前の作業に没頭していて、私に気づいていない。

私は壁際で静かに待った。

やがて鉄を水にじゅっと浸す音と共に作業を終え、彼は顔を上げた。

「……なんだ嬢ちゃん。うちは鍋や釜の修理はやってねぇぞ。向かいの鋳物屋に行きな」

低くしゃがれた声。

「鍋じゃありません。お願いしたいのは武具です――それも、この街で一番の職人に」

ドワーフの眉がわずかに上がった。

「……ほう。口だけは達者だな。料金は高いぜ? 嬢ちゃんの財布で払えるのか?」

私は答えず、工房の隅の作業台へ歩み寄った。

腰のポーチから二つの物を取り出し、そっと置く。

遺跡で手に入れたロックリザードの魔石。

そして黒曜石のように光を吸い込む月鋼の塊。

最初は興味なさそうに見ていた彼の表情が――月鋼を認めた瞬間、固まった。

やっとこがガシャンと床に落ちる。

彼はゆっくりと近づき、震える指で月鋼をなぞった。

「……この重さ、このマナ……まさか……月鋼か……!?」

驚愕と歓喜の混ざった声。

「どうしてこんなもんを……いや、それよりお前、一体何者だ?」

初めて視線がぶつかる。

「私はリィア。冒険者です。――等級は、まあ、まだ鉄ですけど」

「冒険者……?」

「この金属は父からの贈り物。魔石の方は……つい先日、自分で仕留めた魔物のものですよ」

男――グラックは喉を鳴らした。

「……グラックだ。月鋼を譲る父親……てめぇの親父、只者じゃねぇな。」

「……で、このお宝で何を作れってんだ?」

グラックの視線が月鋼と魔石の間を行き来する。

私は腰の剣を抜き、作業台の上に置いた。

「この刃を完璧な一本に仕上げてほしいんです。柄と鍔を付けて――そして、この魔石を組み込んで」

グラックは剣を手に取り、光にかざす。

「……形は悪くねぇが、鍛えが足りねぇ。ただの塊だな」

「ええ、だから貴方にお願いしてるんですよ。月鋼を扱える鍛冶師なんて、そうそういませんから」

わざとさらりと言って、彼の反応を待つ。

案の定、グラックは鼻を鳴らした。

「……分かってんのか? 月鋼は並の炉じゃ溶けねぇ。魔石の相性を見誤りゃ、工房ごと吹っ飛ぶぞ」

「だからこそ――貴方に頼むんです。それに……私にも手伝わせてもらえませんか?」

「はあ? 手伝う?」

「錬金術の心得があります。金属の構造を内部から安定させて、マナの流れを制御できます。

……どうです、役に立ちそうでしょう?」

グラックはしばらく黙って私を見ていたが、やがて口の端を吊り上げた。

「……ククッ……クハハハハ! 面白ぇ! 面白ぇじゃねぇか、エルフの嬢ちゃん! 乗った! その話、受けてやろう!」

私はにこりと笑う。

「じゃあ、お願いできますね?」

「おうよ! 金なんざいらねぇ! こんな仕事、タダでもやる価値がある!」

グラックは床に落ちていたやっとこを拾い上げ、月鋼をもう一度愛おしそうになぞった。

「……嬢ちゃん、覚悟しとけよ。歴史に残る最高の一本を打ち上げるんだ。生半可な気持ちじゃ務まらねぇ」

「もちろん。――鍛冶場の熱にも、きっと負けませんから」

彼は満足そうに笑い、炉の中に新しい薪を放り込む。

ごうっと炎が高く唸りを上げ、工房の空気がさらに熱を帯びた。

こうして、私とグラックの特別な日々が始まった。

炉に火が入れられたのは、そのすぐ後のことだった。