軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

学院祭と、二人の計画

あの野外実習から、私たちの日常は少しだけ、でも確かに変わった。

一番の変化は、やっぱりセラフィーナさんだろう。

「リィア、あなたの昨日のレポート、エラーラ先生が絶賛していましたわよ」

「あら、セラフィーナさん。あなたの魔法実技の成績こそ、いつも見事ではありませんか」

学院の廊下ですれ違えば、そんな風に、どこか探るような、それでいて相手を認めているのが分かる、奇妙な会話を交わすようになった。

彼女は時々、私が一人で大書庫にいると、ふらりとやってきては、古代魔法の解釈について議論を吹っかけてくる。

「その術式は、根本的にマナの効率が悪すぎますわ!」

「ですが、安定性はこちらの方が上です。汎用性を考えれば、些細な効率は度外視すべきかと」

「なんですって!?」

そんな、穏やかで知的な刺激に満ちた日々は、私にとって心地よいものだった。

その日の授業の終わりを告げる鐘が鳴り、生徒たちが片付けを始める。

その時、教室の扉が開き、エラーラ先生が入ってきた。

「諸君、よく聞きなさい」

先生のその一言で、教室の空気がぴんと張り詰める。

「来月、年に一度の学院祭が開催されることになった」

その言葉をきっかけに、教室はわっと歓声に包まれた。

学院祭。生徒たちが一年間の研究の成果を発表したり、模擬店を出したりする、学院最大のお祭りだ。

エラーラ先生は、そんな私たちの興奮を、片手を上げて静かに制した。

「今年の学院祭は、参加は任意だ。個人での研究発表、有志のグループでの模擬店、形式は問わない。優れた発表には、学長から特別な褒賞も与えられるだろう。参加を希望する者は、一週間後までに申請するように」

その言葉は、静かだった教室に、新しい火種を投下した。

義務ではないからこそ、生徒たちの探求心がかき立てられる。

あちこちで「何をやる?」「誰と組む?」という、楽しげな相談が始まった。

「すごいね、リィア! どんなお店が出るんだろう!」

ミエルが、目をキラキラさせて私の袖を引く。彼女は、すっかりお祭りを楽しむ側の気分でいるらしい。

その無邪気な笑顔も可愛いけれど……。

「ミエル」

私は、彼女に向き直った。

「見るだけでは、勿体ないですよ」

「え?」

「私たちも、何か出展してみませんか?」

私のその提案に、ミエルはきょとんとした顔で私を見つめる。

「私たちがこの一年で学んできたこと、そしてエレーナさんに教わったこと……その成果を、何か形にしてみたいんです。それに、お祭りは参加した方が、きっと何倍も楽しいですから」

私のその言葉に、ミエルの瞳が、ゆっくりと輝きを増していく。

彼女の心の中にも、私と同じように、この学院で学んだことへの確かな誇りと、それを誰かに見てほしいという小さな願いが芽生えていたのだろう。

「……うん! やってみたい! 私、リィアと一緒なら!」

私たちは、顔を見合わせて力強く頷いた。

そして、その日の放課後。

寮の部屋に戻った私たちは、早速、二人だけの作戦会議を始めた。

「それで、何をやるの?」

ミエルが、わくわくした顔で私のベッドに腰掛ける。

「そうですね……。私たちの得意なことと言えば、やっぱり……」

私の視線が、ミエルの机の上に置かれた薬草の束と、私のカバンに入っている父の手記へと、自然と向けられる。

ミエルも、同じことを考えていたらしい。

二人の口から、ほとんど同時に、同じ言葉が飛び出した。

「「ポーション(薬草)!」」

私たちは、顔を見合わせて、くすりと笑った。

「でも、ただポーションを売るだけじゃ、普通すぎるよね。それに、薬なんて欲しがる人、そんなにいないかも……」

ミエルの言う通りだ。お祭りの日に、わざわざ苦い薬を買いに来る人は少ないだろう。

(薬、だけど薬じゃない。美味しくて、楽しくて、飲んだら少しだけハッピーになれるような……そんなもの……)

私は、父の手記の一節を思い出す。

『錬金術とは、物質の理を解き明かし、再構築する技術。その応用範囲は、無限だ』

そうだ。錬金術は、なにも強力な薬や武器を作るためだけにあるわけじゃない。

「ミエル」

私は、一つのアイデアを思いついて、顔を上げた。

「薬を、『売る』のではなく、『楽しんでもらう』というのは、どうでしょう?」

「楽しんでもらう?」

「ええ。例えば、飲むと気分がすっきりするお茶や、食べると少しだけ身体が温かくなるお菓子。そういうものを、私たちの研究成果として提供するんです。『ポーションカフェ』を開く、というのはいかがでしょう?」

「ポーション……カフェ……!」

私のその、誰も思いつかなかった提案に、ミエルの目が、これ以上ないくらいにキラキラと輝いた。

「すごい! それ、すごく面白そう! やりたい!」

「決まり、ですね」

こうして、私とミエルの初めての共同プロジェクトが、静かに、しかし確かな熱気と共に、動き出したのだった。

どんなカフェにしようか。どんなメニューを作ろうか。

私たちの夜は、これからしばらく、楽しい計画で眠れそうにない。