軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

未成年の顔出し記事は、厳禁です

シークヴァルトに全力で同意されたのは嬉しいけれど、よその国ですでに決定した出来事について、外野がやいやい言っても仕方があるまい。

「まあ、十二歳だっていうなら、ちゃんとした結婚は早くても六年後になるんだよね。それまでに聖女本人が『やっぱり、二十歳も年上の旦那さまなんてイヤなんです』って言い出したら、ちゃんと婚約解消はしてもらえるんでしょう?」

たしか、レングラー帝国の成人年齢は、この国と同じ十八歳。婚約ならば何歳からでもできるだろうが、夫婦関係を前提とする結婚となると、最低でも当事者同士が成人していることは絶対条件であるはずだ。

ロリコン疑惑が甚だしいオッサン皇帝とはいえ、いくらなんでも女性として体のできあがっていない未熟な少女に、無体を強いることはないだろう。そんなことをしては、せっかく自国で生まれた聖女が、使い物にならなくなってしまいかねない。聖女が聖女としての存在意義をまっとうするためには、その最も効率的な力の発現方法が『聖歌』である以上、心身が健康であることが不可欠だ。

(身体的なものだろうが、精神的なものだろうが、虐待を受けた聖女がまともに聖歌を歌えるわけがないし。……いや、周り中からめっためたに甘やかされまくってても、まったく聖歌を歌えないへっぽこ聖女がわたしなんですけども。とりあえず今は、そこはどうでもよくて。たった十二歳の女の子が困ったことになっているかもしれないっていうのが、大問題なわけですよ)

十二歳、というのは凪の感覚からしてもまだまだ幼い子どもである。その幼さゆえに、彼の国の聖女は、皇帝との婚約をあっさり受け入れてしまったのかもしれない。相手は三十路のオッサンなのに。

けれど、これから思春期を迎え、大人の女性に成長していく中で、きっと彼女は多くのことを学んでいく。心から思い合う相手と、出会うことだってあるかもしれない。

「さすがにね、いくら皇帝陛下の言うことはゼッターイ! な教育をされてるからって、十二歳の女の子が将来の旦那さまを決められちゃうのって、正直どうかと思うし。そのうちどこかでレングラー帝国の聖女に会うことがあったら、ちょっと話を聞いてみようかな」

たとえ皇帝との婚約のことがなかったとしても、レングラー帝国の聖女はこの世界で数えるほどしかいない、貴重な凪の『同族』だ。もし仲よくなれそうな子であれば、ぜひいろいろと話をしてみたい。

何より、と凪は唇の端を持ち上げた。

「子どもの頃のシークヴァルトさんをいじめただけじゃ飽き足らず、わけのわからん被害妄想で実の弟を殺そうとするような、ド腐れ外道なレングラー帝国皇帝が、ですよ? 皇帝特権で世間知らずのお子さま聖女と婚約したのに、いずれ大人になった彼女にフラれたりしたら、ものすごーく楽しそうだよねえ?」

うふふふふー、と据わった目つきで不気味に笑う凪の言葉に、ソレイユがぎこちなく片手を挙げる。

「あのー。ナギちゃんがレングラー帝国の聖女さまと会う機会って、これからあったりするんでしょうか?」

少し考えるようにしてから、口を開いたのはライニールだ。

「いずれナギがこの国の聖女として公表されれば、外交の一環で他国の聖女とご挨拶する機会はあるだろうな。……ふむ。レングラーは今のところ、我が国が過去に認定した聖女がニセモノだったという情報しか得ていないわけだ。今回の婚約披露宴で、オスワルド殿下と婚約者さまは少々肩身の狭い思いをされるかもしれないな」

――ここルジェンダ王国に対する他国の評価は、今のところ『ニセモノ聖女をホンモノと認定しちゃった、残念な国』である。そんな国を代表する形で、王太子であるオスワルドとその婚約者である令嬢がレングラー帝国へ赴いたりしたら、肩身が狭いどころではなさそうだ。

そうだな、とエルウィンが苦笑した。

「シークヴァルトを受け入れたことで、レングラー皇帝のこの国に対する印象は、元々最悪もいいところだしなあ。ここぞとばかりに、ふんぞり返って見下してきたっておかしくないぞ」

現実的なふたりの言葉に、将来の愉快な妄想でニヨニヨしていた凪は、さっと青ざめる。

「それって、わたしが学園に通いたがったせいで、オスワルド殿下と殿下の婚約者さまが、いやな思いをするかもってこと? 今すぐ、『ワタクシ聖女でございます、ロリコン野郎は黙ってろ』って公表したほうがいい感じ?」

動揺のあまり、少々テンパった凪がそう言った途端、シークヴァルトが肩を震わせながらテーブルに突っ伏した。何かおかしなことを言っただろうか、と思っていると、片手を挙げた彼が言う。

「……あー。いや。そういった感じの洗礼なら、オスワルドも婚約者のご令嬢も、とっくの昔に済ませてる。今更レングラーの皇帝にふんぞり返られたくらいじゃ、ふたりともびくともしないと思うぞ」

「そうだよ、ナギ。むしろおふたりなら、今回の状況をここぞとばかりに利用しにいくんじゃないかな?」

シークヴァルトに続いたライニールが、なんだかものすごく楽しそうだ。

「まあ、なんにせよ、レングラー帝国との外交問題に関しては、それこそ王宮上層部の管轄だ。おれたちは、殿下たちの報告をのんびり待っていればいいと思うよ」

たしかに、聖女という最強のカードをどこでどのように使うのかは、その道のプロである王宮に委ねるべきなのだろう。彼らが、凪の存在を公表する最高のタイミングを計っているのであれば、たとえその本人であろうとよけいな口出しをするべきではない。

(うんうん。わたしを魔導学園に誘ったのは、オスワルド殿下ご本人だしね! 難しいオトナの世界はオトナな方々に任せて、オコサマはできる限り、楽しい学生生活を送らせていただきたいと思います!)

凪は自らの身の振り方を、思いきり周囲の大人たちに丸投げすることにした。別に、いろいろと考えるのが面倒くさくなったわけではない。ただ単に、適材適所というだけのことである。

「うん、わかった。――学園といえば、グレゴリーは大丈夫だったのかな。あの子から兄さんに、連絡とかは来てないの?」

「いや、今のところは何もないね。エルウィン、マクファーレン公爵家のほうで、何か動きはあったか?」

ライニールの問いかけに、エルウィンが軽く顎を撫でて口を開く。

「マクファーレン公爵家で、というか……。報道関係の動きが速すぎて、ちょっと笑えてきたくらいだな」

笑い含みの言葉に、凪がどういう意味だろうと首を傾げていると、彼は胸元から取り出した透明なカードに、軽く指を滑らせた。途端に、いくつもの淡く輝く情報シートが、一同の視線の少し上辺りにパパッと広がっていく。凪は、目を丸くした。

(おぉー! これが噂の情報検索魔導ネットワーク! すごい! カッコいいー!)

魔力のない者には使えない情報伝達システムだが、元の世界で言うならスマートフォンが一番近いだろうか。凪もライニールから、同じカードを身分証明証として与えられている。しかし、未成年の間はロックがかかっているため、こんなふうに情報検索魔導ネットワークにアクセスすることはできないのだ。

話には聞いていたけれど、実際にこのカードの使い方を目の当たりにすると、つくづくファンタジックなものだと感嘆する。しかし、凪以外の面々が興味を引かれていたのは、当然ながらその情報シートに上がっている記事の数々であったようだ。

堪えきれない、というように、ソレイユがぶほっと吹き出し、笑い出す。

「そ……それ、そこの……っ、よりによって、マクファーレン公爵がナギちゃんに張り飛ばされた瞬間の、顔面のどアップを一面に使うかなあ!? ちょっと、面白過ぎるんですけどー!」

彼女が言っているのは、凪とマクファーレン公爵の魔力が共鳴した瞬間について、驚くほど詳細に書かれた記事に添えられた画像のことだろう。

相変わらず無表情なセイアッドが、淡々と応じる。

「ナギの姿を画面に入れない工夫は、評価してやってもいいと思う。記事の内容にも、これといった誤りはない。これを書いた記者は、いいセンスをしている」

未成年の顔出し記事は、この世界でも厳禁らしい。一方、成人した貴族は基本的に公人扱いになるとのことなので、記事の中にはライニールの姿も多数あった。

――『元』マクファーレン公爵家の嫡男、母の忘れ形見となった少女を発見。

――父親のおぞましい過去を、自ら断罪。

――傷つけられた母の名誉を、見事に回復。

そんな文句が躍る記事を眺めていたシークヴァルトが、くっくっと肩を震わせながら言う。

「五年ぶりに公の場に姿を現した、麗しき氷の貴公子、だとよ。ひねりがなさすぎて笑えるなあ? ライニール」

「やかましい。おまえもさっさと爵位を受けろ。そして、公の場に出るたび、おれの盾になって記者連中の餌食になれ」

(氷の貴公子……)

凪は、思わずライニールに憐憫の眼差しを向けた。そんなふうに彼を表現した記者の気持ちもわからないではないけれど、さすがにちょっと恥ずかしすぎる。

しかし、凪が思うほど『氷の貴公子』呼ばわりを気にしていないのだろうか。ライニールは特に不機嫌そうな様子もなく、ふむとうなずく。

「まあ、概ね想定通りの内容だが……。おれが、グレゴリーの新たな庇護者として扱われている論調が多いのは、王宮側から調整が入ったか?」

「さてな。そこまでは確認していない。――不満なのか? おまえさんだって、随分あの坊ちゃんに肩入れしてやったそうじゃないか」

気遣わしげに言うエルウィンは、学園のガーデンパーティーでの一幕について、セイアッドかソレイユから話を聞いているのだろう。グレゴリーは、ある意味凪やライニールと同じく、マクファーレン公爵夫妻の身勝手に傷つけられた被害者だ。

ライニールが、いや、と応じる。

「グレゴリーがマクファーレン公爵夫妻と縁を切るというなら、おれが後見人になるのは問題ない。……ただ、あの子は優しい子だ。そう簡単に、実の両親を切り捨てることはできないだろう」