軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

聖女さまたち、がんばる。

――人は信じがたいものを見聞きしたとき、本当に身動きひとつできなくなるらしい。

その場にいる誰もが絶句し、立ち尽くす中、オスワルドの柔らかな声ばかりが響いていく。

『ユーリウス殿下。ミロスラヴァ王国は、救われます。聖女さま方が、必ずお救いくださいます。ですがその後、傷ついた貴国の人々を導けるのは、あなただけなのではありませんか?』

穏やかな優しい声で、ユーリウスに王位に就けと――自ら愚かな国王を断罪し、すべての元凶ともども追放せよと唆すオスワルドは、本当に恐ろしい人物だと思う。

今までのやり取りは、すべて大陸全土に伝わっている。彼は一年前の事情を明らかにすることで、人々の国王夫妻への反感を一層煽り、逆にユーリウスへの同情心を一気に高めた。

何より、聖女ディアナは名指しで要望を告げることで、彼女がユーリウスに対して忌避感を抱いていないと、暗に告げてくれたのだ。

(おそらく……オスワルド殿下が、ディアナさまに当時の事情をお伝えくださったのだろうな)

聖女ディアナに直接弁明することなど、望むこともできなかった彼にとって、今の状況は奇跡に等しい。

ここまで見事にお膳立てをされてしまっては、ユーリウスは全面降伏するしかないではないか。

一度大きく息を吐き、ユーリウスは顔を上げる。

「オスワルド殿下。聖女ディアナさまからのご要望、たしかに承りました。これより、直ちに手続きに入らせていただきます。どうか聖女ディアナさまには何ひとつ憂うことなく、ご夫君とともに我が国へお戻りくださいますよう、お伝えくださいませ」

そう言って、同じくその場で立ち尽くしていたウルシュラに視線を向けると、弾かれたように我に返った彼女は、一瞬泣き笑いのような表情を浮かべた。そして深々と一礼するなり、控えていた公爵家の騎士たちを率いて駆け出していく。

一歩間違えれば、国王への反逆行為だと言われかねないというのに、まるで躊躇うことのなかった細い背中が、ひどく頼もしく見えた。

(……国王陛下。王妃殿下。あなた方が、私と等しく厳しい王太子教育を施した我が妹は、実に優秀な女性ですよ。今頃、ただ愚かしく右往左往しているばかりであろうあなた方を、可愛い末娘夫妻ともども、すぐさま捕縛してくれることでしょう)

ドランスキー侯爵家については、昨日の聖女ディアナの告発以来、怒りに燃えた市民たちに屋敷を包囲され、まるで身動きできない状況だと聞いている。スタンピードが収束するまで放置しておいても、問題あるまい。

『了解いたしました。ディアナさまには、必ずそのようにお伝えいたします。ただいま大変な苦難の中にいらっしゃるミロスラヴァ王国のみなさまが、一日も早く安らかに過ごせますよう、心より祈念しております』

「はい、オスワルド殿下。このたびの貴国のご尽力に、我が国民を代表して心から感謝申し上げます。本当に……本当に、ありがとうございます……っ」

オスワルドが――スパーダ王国の聖女を擁するルジェンダ王国が、率先して働きかけてくれなければ、三名もの聖女がこれほど迅速に動いてくれることはなかっただろう。

彼の言うとおり、きっとミロスラヴァ王国は救われる。

先ほどまで満ちていた絶望と焦燥の代わりに、今ここにあるのは希望とわずかな興奮だけだ。

震えそうになる指をぐっと握りしめていると、オスワルドが穏やかな声で言う。

『聖女に関する大陸国際条約加盟国のみなさま。長らくお邪魔をしてしまったこと、改めてお詫び申し上げます。また、先ほど私が申し上げた融解寸前の魔導鉱石に関する情報については、これより我が国の広報よりお知らせさせていただきますので、各国上層部の方々には早急にご確認いただければ幸いです。それでは、失礼いたします』

スクリーンからオスワルドの姿が消えるのを待って、ユーリウスもこちらからの通信を切る。

一瞬の静寂。

(融解寸前の魔導鉱石、か。もし本当に、そのようなものを我が国に持ち込んだ者がいて、そのせいで今回の我が国の惨劇が起きたのだとしたら、断じて許すことはできないが――)

今はまだ、その件について論じている余裕はない。

ユーリウスはひとつ深呼吸をすると、どこか気の抜けた様子の人々を大声で叱咤した。

「みな、安堵するにはまだ早いぞ! 残存戦力と戦闘資材の確認をせよ! ルジェンダ王国、トゥイマラ王国、そしてアシェラ傭兵団の方々に、我らが絶望などしていないことを証明するのだ!」

「……はい! 我らが主!」

***

「ごきげんよう、国王陛下。後悔の時間は、存分に味わうことができましたか?」

武装した公爵家の騎士たちを従え、愛用の魔導剣で後宮の扉を叩き割ったウルシュラは、その奥で身を寄せ合って震えていた者たちを、ひどく冷めた思いで眺めていた。

――十八年前、末の妹ヨゼフィーナが生まれてから、すべてが変わってしまったように思う。

それまでは、長男のユーリウスから一年おきに生まれた王女たちにも、等しく愛情を注いでくれていたはずの国王夫妻は、いつしかヨゼフィーナばかりを見るようになっていた。

とはいえ、両親が愛くるしい赤子に夢中になる気持ちがわからなくもなかったし、立派な兄と気の合う妹がいたお陰で、特に不満に思うこともなかったのだ。

どちらかといえば父王に似た容姿で生まれた自分たち三人とは違い、ヨゼフィーナは母親である王妃に、生き写しと言っていいほどよく似ていた。

兄のユーリウスと自分、そして妹のマルツェラが、国王譲りの癖のない黒髪に鮮やかな緑色の瞳であるのに対し、ふわふわと波打つミルクティー色の髪に、抱き人形のようにぱっちりと大きな胡桃色の瞳を持つヨゼフィーナ。

幼い頃から両親に溺愛され、それゆえに周囲から愛されることを当然として育った末の妹は、いつしかひどく傲慢でわがままな性格となっていた。

そんなヨゼフィーナを、ユーリウスはよく穏やかな口調で諭していたけれど、すぐに癇癪を起こして国王や王妃に甘える彼女には、結局何も響いていなかったようだ。

だがまさか、「わたくし、運命の男性と出会ってしまいましたの!」などという頭の沸いた言葉を、自分と血の繋がった生き物が吐き出すとは思わなかった。

「抵抗はしないでいただきましょう。国王陛下。王妃殿下。そして、ヨゼフィーナとその夫君。これからあなた方を、北の塔へお連れいたします」

北の塔は、高貴な身分の罪人が収容される牢獄だ。

豪奢極まりないこの後宮の一室にも、先ほどのルジェンダ王国王太子とユーリウスの対話は流れていたのだろう。ウルシュラの宣言を聞いた国王夫妻は黙ってうなだれるだけだったが、ヨゼフィーナはきつく顔を顰めて睨みつけてきた。

「なぜわたくしたちが、北の塔へなど行かねばならないのですか!? お姉さま!」

「それがわからない時点で、そなたの愚かさは罪に等しいということだ」

ひとつため息を吐き、ウルシュラは剣先をヨゼフィーナに向ける。

「そなたとこれ以上、無駄な問答をするつもりはない。立て、ヨゼフィーナ」

「イヤ! わたくしはただ、サムエルさまを愛しただけですわ! サムエルさまだって、わたくしを愛してくださっていますのに!」

サムエル、とはヨゼフィーナが抱きついている、やたらと派手な顔をした男の名だったか。一応、彼はウルシュラの義弟のはずなのだが、ほとんど交流のない相手であったため、今の今まですっかり忘れていた。

ウルシュラは、淡々とヨゼフィーナに告げる。

「だから?」

「……え?」

「そなたがその男を愛していて、その男がそなたを愛しているのはわかった。だから、それがどうしたというのだ? ――答えは簡単だ。そんなくだらない事実には、なんの意味も価値もない」

ヨゼフィーナの主張を一刀両断したウルシュラは、腰に剣を戻した。そのまま、唖然とする妹の襟首を掴んで引き寄せれば、悲鳴を上げて身をよじる。

「痛……! 痛いです、お姉さま! やめてくださいませ!」

「たったこれしきで、痛いと喚くか。……そなたは本当に、随分と甘やかされていたのだな」

ユーリウスはもちろん、ウルシュラもマルツェラも、幼い頃から一通りの戦闘訓練は受けていた。王族として生まれた以上、いつ民を守るために武器を手に取るときが来てもおかしくないからだ。

――国王夫妻は、そんな最低限の矜持さえ、ヨゼフィーナに教えていなかったのか。

いっそ哀れみさえ覚えたものの、ほんの少し周囲を見回してみれば、自分の兄と姉たちがどのように日々を過ごしているかくらい、簡単に理解できただろう。

だがヨゼフィーナは、何も見ようとしなかった。自分の望みは必ず叶えられるものだと無邪気に信じ、何一つ躊躇うことなく、他人の婚約者を奪い取ったのだ。

目を細めたウルシュラは、背後に控えている騎士たちを振り返り、低く命じる。

「今から一分間、目と耳を塞いでいろ」

「はっ」

彼らの返答を聞くと同時に、ウルシュラはヨゼフィーナの頬を張り飛ばした。高く乾いた音が響き、ぎくしゃくと振り返ったヨゼフィーナが、信じられないものを見る目で見つめてくる。

「一年前のあのときに、こうしてやりたかったぞ。ヨゼフィーナ」

そう吐き捨て、返す拳で逆の頬を打ち付ければ、奥歯の折れる音がした。

「殴られ方すら知らぬ、愚かな娘。そなたはこれから、聖女に非道を働いた大罪人として裁かれる。この国の民すべてから憎まれ、石を投げられ、生涯罵倒され続けるだろう。それが、そなたの大好きな『運命』だ」

最後はヨゼフィーナが好んでよく使う言葉を皮肉って言ってやると、その大きな瞳から涙が決壊したように溢れ出す。

そんな妻の様子を見てさえ、まるで動く様子のないサムエルを見たウルシュラは、小さく笑った。

「安心しろ、ヨゼフィーナ。そなたの夫は、必ずそなたと運命をともにする。何しろこやつはそなたにとって、『運命の男』なのだからな」

「……バルターク公爵夫人! ディアナは、今も私のことを愛してくれているはずです!」

突然、サムエルが意味のわからないことを叫んだ。

「お願いいたします! どうか、ディアナと会う機会を作っていただけませんか!? そうすれば、彼女はきっと――」

「そなた、正気か?」

思わず真顔になってしまったウルシュラは、首を傾げてサムエルに問う。

「いったい、何をどのように都合よく考えれば、聖女ディアナさまがそなたのような浅ましい裏切り者を、今も愛してくださっているなどと思い上がれるのだ?」

「ディ……ディアナは、幼い頃からずっと私を慕ってくれておりました! ですから、彼女は今も私のことを、愛しく思っているに違いありません!」

……自信たっぷりに目を輝かせて言うサムエルは、どうやら本気でそう思っているらしい。

あきれ果てたウルシュラは、冷ややかに告げた。

「世の男の中には、一度自分に惚れた女は、いつまでも自分を思い続けていると勘違いする阿呆がいるというが――いいことを教えてやる。女というものはな、たとえどれほど愛した男であろうと、自分を裏切ったと知った瞬間に愛情が完全に冷え切るものだ」

「え……」

サムエルが、驚きに目を見開く。

「まして聖女ディアナさまには、すでにご夫君がいらっしゃるであろうが。そなたのことなど、とうの昔に思い出したくもない過去のひとつにされているであろうよ。まったく、ばかばかしいにもほどがある」

蒼白になって口をつぐんだ男とは、これ以上言葉を交わす理由もない。

――ちょうど、一分。

騎士たちを振り返ったウルシュラは、彼らに四人の捕縛を命じた。騒がれると少々面倒なことになっただろうヨゼフィーナも、もはや抵抗する気力はないようだ。

北の塔へ送られる四人の後ろ姿を見ながら、ウルシュラはそっと息を吐く。

(……ありがとうございます。オスワルド殿下)

あのときウルシュラは、本気でここにいる四人の首を取ったのち、己の身命をもって聖女ディアナに詫びるつもりだった。そんなことで聖女の助力を得られるはずもないとわかっていても、自分がその役割を代わることで、ユーリウスが少しでも長らえてくれるのなら、それでいいと思っていたのだ。

けれど――今になって、自分を「母上」と呼んで笑う我が子たちの姿が目に浮かぶ。あの愛しくてたまらない存在を手放すことにならなくて、本当によかったと歓喜する自分がいるのだ。

少なくともウルシュラにとって、今回の件で最大の恩人であると感じるのは、紛れもなくルジェンダ王国の王太子である。これからそのような機会があるかはわからないけれど、もし彼が自分たちに助力を求めることがあったなら、何をおいても立ち上がろう。

そんなことを考えながら、国王らが北の塔へ収監されたことを確認したウルシュラは、いまだ人々が慌ただしく働いている中央大会議室へ戻った。

「お兄さま。国王以下四名、北の塔への収監を完了いたしました」

「ああ。ご苦労だったな、ウルシュラ」

笑って応じる兄の顔に、先ほどまでの諦念と焦燥はすでにない。

ほっとしたウルシュラは、いまだスタンピードを示す赤い光が点滅しているとはいえ、その大部分がすでに鎮静化してきている様子に驚き、目を見開く。

「……お兄さま。いくら三名の聖女さま方がいらしてくださっているとはいえ、大型魔獣を含むスタンピードが、これほど早く鎮静化するものなのでしょうか?」

この場に、聖女の力がどれほどスタンピードに対して効果を発揮するのか、正しく知る者はいない。それでも、八カ所もの大規模スタンピード、しかもその内五カ所では大型魔獣が確認されているという状況が、こんなにも素早く収束していくものだろうか。

三名の聖女たちが直接対処に入ったメデリナ領、プロウ領、バレク領のスタンピードが、すでに鎮静化に向かっているのは、まだわかる。

だが、ルジェンダ王国魔導騎士団が魔獣の対処に入ったセト領だけでなく、人口の少ない山間部や海岸部で発生したスタンピードを示す赤い光もまた、今にも消えそうなほど弱々しいものになっているのだ。

ユーリウスも同じ疑問を抱いていたようで、自信なさげに口を開く。

「私にも、よくわからないのだが。三名もの聖女さまが、同時に一国の対処に当たってくださるというのが、おそらく歴史上はじめてのことだ。もしや聖女さまのお力というのは、互いに共鳴して広がっていくものなのだろうか……?」

「それは……ありえない話ではないかと思います。しかし、現在聖女さま方がいらっしゃる場所から遠く離れた山岳部のスタンピードも、すでに収束しつつあるようです。あそこは、どちらの戦力が対応してくださっているのでしょう?」

ウルシュラの問いかけに、ユーリウスがざっと地図のデータを確認する。

「今、山岳部のスタンピードの対処に当たってくださっているのは、ルジェンダ王国魔導騎士団の方々だな。セト領での対処が概ね済んだため、第二部隊の方々だけ先行してそちらに向かってくださったらしい」

「……まさか、ルジェンダ王国魔導騎士団のみなさまは、彼の地でスタンピードを起こした魔獣たちを、すべて殲滅してしまったのでしょうか」

聖女を擁さないルジェンダ王国魔導騎士団がスタンピードを収束させたとなれば、それ以外には考えられない。

だが、いかに魔導騎士団が各国の最高戦力であるとはいえ、ミロスラヴァ王国の騎士団が当該地域住民の避難で精一杯だった災厄を、この短時間で殲滅させられるものなのか。もしそれが事実なのだとしたら、ルジェンダ王国魔導騎士団とは、いったいどれほど凄まじい戦闘能力を有しているのか――。

そこで、ユーリウスがぽつりと言う。

「そう言えば……ルジェンダ王国魔導騎士団には、かつてレングラー帝国の皇弟であった方が在籍されている、という噂を聞いたことがあるな」

ウルシュラは、はっと振り返る。

――レングラーの呪われ子。

かつてレングラー帝国には、人々から恐怖をもってそう呼ばれた皇子がいた。

強大な魔力量を誇るレングラー帝室に生まれながら、なお恐れられるほど規格外に膨大な魔力を持つ彼は、幼い頃に帝国を追われ、ルジェンダ王国に亡命したという。

以来、ひたすら沈黙を貫いている元皇弟に関する話題は、彼がルジェンダ王国の貴族籍に入ることを拒否したこともあり、いつしか人々の間から消えかけていたのだ。

ユーリウスが、小さく笑う。

「元皇弟どのは、幼い頃からオスワルド殿下を兄のように慕っていらしたとか。――いやはや、オスワルド殿下はいったいどれほどのカードを隠し持っていらっしゃるのやら」

スパーダ王国の聖女といい、彼女の護衛を担うアシェラ傭兵団といい、今の彼の国には次々と大きな力が集まっている。数ヶ月後にはウエルタ王国へ移るとはいえ、彼らとルジェンダ王国の縁が切れることはないだろう。

「持てる者こそ、惜しまず与えよ――オスワルド殿下が、王族としての矜持を正しくお持ちの方だったからこそ、我々はこうして救われたのですね」

「そうだな。だが、そのお心に甘えてばかりというわけにはいかぬ。我々も民を救うために、せいぜい足掻いて見せようではないか」

ユーリウスの言葉にウルシュラが頷いたとき、新たな通信が入った。トゥイマラ王国の聖女が対処中の、プロウ領からだ。

『ほ……報告、いたします。たった今、スタンピードの中心であった大型魔獣を、トゥイマラ王国の聖女さまが自ら撃破されました……』

(……は?)

その場にいた人々が揃って目を丸くする中、どこか呆然とした声の報告は続く。

『その……聖女さま曰く、「相手がちょうどよく目の前に突っこんで来ようとしたから、イケると思った」とのことで……。現在、そのような無茶をなさった聖女さまを、トゥイマラ王国魔導騎士団団長どのが、盛大にお叱りになっている最中です……』

人々の間になんとも言い難い沈黙が落ちたとき、今度はスパーダ王国の聖女が対処に当たっていたメデリナ領からの報告が入る。

『こちら、メデリナ領。ただいま、スタンピードが無事収束したのですが……。スパーダ王国の聖女さまが、鎮静化した群れのトップに抱きついて、離れようとなさいません』

(……抱きついて、離れない?)

いったいどういう状況だ、と人々が困惑していると、同じように困惑しているらしい報告が続いた。

『ええと……アシェラ傭兵団の方々がおっしゃっていたのですが。スパーダ王国の聖女さまのお力は、凶暴化した魔獣たちに対して非常に強い効果を発揮されるそうでして……。そのお陰で、暴走した魔獣たちの多くを討伐することなく鎮静化できたらしいのです。そして今は、すっかりおとなしくなった群れのトップ――巨大な猛禽型の魔獣の腹部に抱きつきながら、「モフ……モフ……」とおっしゃっていて、大変お幸せなご様子です』

(……スパーダ王国の聖女さまは、魔獣がお好きな方なのだろうか)

ますます困惑が深まる中、興奮気味にもたらされたのは聖女ディアナが対処しているバレク領からの報告だ。

『報告いたします! ただいま、聖女ディアナさまのお力により、バレク領におけるスタンピードは完全に収束いたしました!』

歓喜に満ちたその声に、ややあってユーリウスがぼそりと返す。

「……それだけか?」

『は? あ、いえ! 聖女ディアナさまのお力は――その歌声は、本当に素晴らしく……! 危機が去った今、我々はみな感動に打ち震えております!』

その追加報告を聞いたとき、ウルシュラは密かに確信していた。

ユーリウスが報告者に「それだけか?」と問うたのは、おそらくそういう意味ではなかったのだろうな――と。