軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔物早狩り競争の準備を進めよう!

旭川市から依頼を引き受けてから2週間。

カゲミツらはひたすら魔物の追い込みを行った。

まず、ベッキーが広範囲探知能力である『千里眼』で魔物の気配を察知し、居場所を特定する。

カゲミツとヴァン、それにドラ猫が見つけた魔物を追い込んでいく。

追い込んだ先にはヨシが罠を張っていた。

彼の罠はベッキーと同じ、開眼能力だ。

上層程度の魔物では抜けられる心配はない。

こうしてエアリアルは2週間で、神居古潭の中央から1・2キロ範囲内に、魔物を追い込むことに成功した。

現在、神居古潭外に魔物が散らばるのを、ヨシが設置した罠で防いでいる。

ドラ猫とヴァンは監視役だ。

魔物の動向と共に、イベントで冒険家同士での諍いが起こった場合、該当冒険家の失格処分と仲裁を行う。

ベッキーの仕事は魔物総数のカウントだ。

『千里眼』で監視を逐一行い、魔物の取りこぼしを防ぐ。

カゲミツは司会進行と、スタート地点の管理――主に、今回支援してくれている一菱買取所の応援を行う。

日本各地にいるランカーは、その知名度を生かして様々なイベントを行っている。

最も有名なイベントはベーコンの『初心者講習』だ。名前は初心者講習だが、彼の筋肉見たさに、古参も集まっている。

普段絡みがない冒険家が繋がり、正しい技術が伝播し、ダンジョンの知識を蓄える。

ランカー主催のイベントは、その地域の冒険家レベルの底上げに寄与している。

実際、ランカーが冒険家としての基礎的な手ほどきを伝え始めた頃から、ダンジョンでの死亡率が一気に低下していった。

ランカー主催イベントが死亡率低下の原因かは定かではないが、少なくとも要因であることは確かである。

しかし、カゲミツはこれまで1度もイベントを主催したことがなかった。

主催すれば北海道の冒険家レベルが底上げされるだろうにもかかわらず、だ。

彼がイベントを主催しない理由は単純だ。

もしイベントを主催すれば、嫌でも目立ってしまうから。

カゲミツは目立つのが苦手だ。

人の視線が怖くて、目立つだけで胃壁がすり減ってしまうほどに。

だからこれまでカゲミツは散々、この手のイベントの主催から逃げてきた。

現在彼が、『なろう』ランカーかつ企業からの支援を受けるという目立つポジションに居るのは、仲間のためである。

もし仲間がいなければ、一人でひっそり誰の目にもとまらないよう生きていただろう。

今回、仲間のためならと我慢してきた男が、仲間以外のことで目立とうとしていた。

その原因は、以前に秘密裏に行なったマサツグとのチャットのせいだ。

『仮面くんは最近、時雨とも接触したらしいね』

『時雨は結構気に入ったみたいだ』

『仮面くんは、その実力をもっと伸ばすために、中央に来て貰った方が良いかもしれないな』

鹿の稀少種討伐の報告で、カゲミツが空気の功績を余すことなく伝えたとき、マサツグはそう言った。

カゲミツは他人の成功を妬む狭量な人間ではない。

自らが信用している男がマサツグに気に入られたことを、カゲミツは素直に喜んだ。

だが、しかし。

『北海道って、冒険家のレベルが低いだろう?』

『カゲミツが北海道で何をしてたかは知らないけどさ』

『自衛団の装備がスコップだったのを見てすごくビックリしたよ。ここまで酷いのかって』

『そんな低い場所で育つより、レベルの高い中央で揉まれた方が彼は成長すると思うんだ』

マサツグとのチャット以来、カゲミツは激しい胸焼けに苛まれていた。

自分の地元を『低レベル』と貶されたこと。

『低レベル』なのはカゲミツが弱いからだと揶揄されたこと。

そしてなにより、そんな効率優先で感情無視な“ガチ勢然”としたマサツグに、何一つ言い返せない弱い自分が、カゲミツは許せなかった。

(はんかくせぇ!)

だからこそカゲミツは、表舞台に上がる決意を固めた。

マサツグが言う通り、確かに北海道のレベルは低い。

だからといって黙って指をくわえていられるほど、カゲミツは北海道に諦観してはいない。

北海道で最も名のある冒険家が、無名の冒険家にスポットライトを当てる。

活躍の機会を与え、のし上がるチャンスを与える。

与えられたチャンスが多ければ多いほど、冒険家は手を伸ばす。

チャンスを掴むために、努力する。

その努力は北海道の冒険家レベルを、全体的に押し上げることになるだろう。

己が信じる、北海道のポテンシャルの高さを本州の冒険家に見せつけるのだ。

これは北海道の冒険家のレベルを底上げするための、第一歩だった。

同時にカゲミツは、自らのレベリングにも精を出した。

現在エアリアルの『ちかほ』最高到達階層は27階。

あと1ヶ月以内には、30階に到達する腹づもりである。

30階――深層に到達すれば、ランカー実力者の上位に食い込む。

深層にも到達出来ない低級ランカーと、ガチ勢に侮られることもない。

『あの稀少種を倒せたっていうことは、そろそろか』

マサツグの見立ては恐ろしく正確だ。

たしかに空気らは、そろそろ次の段階に到達しそうな気配がある。

あるいは既に、晴輝は到達しているかもしれない。

『彼がどういう行動を起こすか。最悪の場合の対処を、きちんと考えた方が良いよ』

マサツグに言われるまでもない。

ダンジョンで魔物を倒しレベルアップ。そんな身体能力の上昇より、アレは強力だ。

使い方を誤れば、すべての冒険家の立場が一瞬にして裏返ってしまうほどに……。

だからこそ、マサツグは空気を中央に誘おうと言った。

その力を、扱うにふさわしい人材にするために。

あるいは誤った使い方をしても、すぐに対処出来るように……。

おそらく既にマサツグは動いているはずだ。

彼のチーム・ブレイバーにとって空気はいずれ最高戦力になりえる可能性のある人材だ。

その可能性があると、カゲミツは確信している。

そんな空気を、ダンジョン攻略を一番の目標に掲げるマサツグが見逃すはずがない。

出会った時から、マサツグは空気に何かしらの才能を見抜いていた。

己の技術の向上にしか興味のない時雨が、『面白い』と空気に興味を抱いた。

モンパレの殲滅や稀少種の討伐で、カゲミツは空気の恐るべき戦闘を目の当たりにした。

既にランカーの3人が、空気に興味を抱いている。

多くの冒険家を目にし、才能や能力を正確に見抜く目を持つランカーが3人も、彼に何かを――未来の可能性を感じたのだ!

それだけで、既に異常。

もし彼がその気なら、一気に冒険家の頂点まで上り詰められる。

彼はそれだけのポテンシャルを秘めている。

残念なのは彼の素顔を、いまだ誰も知らないことだ。

「だって仮面を外すと消えるしな……」

名前さえも間違われるほどなのだ。

存在感があまりに薄すぎて、彼は『なろう』ランカーに上りつめられはしないだろう。

天は二物を与えず。

あるいは彼が空気なのは、彼に与えすぎた才能の代わりに、神が奪っていったからか……。

「うらやましいッ!」

彼の存在感のなさに、カゲミツは嫉妬を抑えきれない。

「あの希薄な存在感があれば、俺はッ!!」

視線を集めすぎるせいで、胃壁を痛めることもなかった。

存在感が薄ければ幼い頃から憧れた、本物の忍者として生きて行くことだって出来たはずだ。

カゲミツが如何に忍者になりたかったか。

そして、どれほどの思いで忍者への道を諦めたか……。

それを思うと、涙が止まらない。

駅舎の外が賑やかになってきた。

そろそろ魔物早狩り競争のスタート時間だ。

頭を振って、カゲミツは意識を切り替える。

今回のイベントは通常の冒険と違い、他の冒険家と一緒になって魔物を倒していく。

通常チーム単位でダンジョンに潜る冒険家にとって、他の冒険家との共闘は得がたい経験だ。

他人と比べることで初めて、いままで気づけなかった己の強みや弱みに気づくことができる。

克己自強。

拗ねず、腐らず、見下さず。

そんな気高い意志さえあれば、さらなる高みへの道が開かれるだろう。

基本料金の発生しない依頼だったが、今回のイベントには沢山の冒険家が集まった。

ほとんどが中級以上で、カゲミツも知っている実力者が何人も参加している。

そんな中、さて、空気は一体どれほど多くの魔物を討伐出来るだろう?

5か10か。

空気が自らの度肝を抜く結果を出してくれることを、カゲミツは楽しみにしていた。

実力者が集った中、上位に食い込めば名実ともに評価が確定する。

さらに、実力者を押しのけて上位に入った空気が、今年冒険家になったばかりの新人だと知れば、企業だって放ってはおかないだろう。

とはいえ、

「あいつ、オレのブログに名前を掲載して目立つのか?」

以前ブログに掲載したときは、一切の反応がなかったみたいだが……。

カゲミツは一抹の不安を抱かずにはいられなかった。

「よっしゃ、みんな集まってるかー!」

太陽を憑依させたかのような輝きを持つカゲミツが登場すると、冒険家達の「おおお」と地響きのような声が響き渡った。

その声の大きさに、晴輝は思わず耳を塞いだ。

冒険家の皆はそれぞれ、カゲミツへとキラキラした尊敬や憧れの眼差しを向けている。

とはいえ全ての冒険家が明るい感情を抱いていたわけではない。中には反骨心を瞳に宿している者もいる。

だがそれは頂点への憧れ。『いつか追い抜いてやる』という健全な反骨精神の表れだった。

カゲミツから遅れてベッキーも登場。カゲミツの存在感の中でも、その姿に釘付けになる冒険家が多数存在している。

やはり彼女もまた、北海道頂点に君臨するチームのメンバーというだけあって、強い存在感を持っている。

大丈夫だろうか?

エアリアル2名の登場により、晴輝はそわそわと身を動かした。

俺の存在感、息してる?

「よおし、ちょっと静かにしてくれ」

カゲミツの一声で、辺りが静寂に包まれた。

誰一人、彼の指示に刃向かおうなどという者はいない。

それもそうだ。

ランカーとは武力があり、経験がある。

情報の少ない最前線で戦い続け、生き続けている。

その上で更に民主主義的支持を得てもいる。

冒険家にとってランカーとは、 絶対王者(スター) なのだ。

冒険家ならば誰しもが、彼が手にした力の強大さを熟知している。逆らおうなどと思う者はいない。

皆が固唾を呑んで、次の言葉を待っている。

凄まじい緊張感が、空気が肌をひりつかせる。

晴輝はカゲミツと2度、戦場を共にしている。

晴輝は最低限敬称を付けてはいるが、本人の要請もあって彼とは自然体で会話出来るようになっている。

だから、さほど意識せぬようになっていた。

しかし現在、晴輝は思い知らされていた。

本来は、どれほど高い場所に座す存在であるかを……。

(遠いな……)

晴輝は現在の自分からカゲミツまでの距離を意識し、僅かな寂しさを覚えた。

「――今回は第二次スタンピードの時に漏れた魔物の殲滅戦だ。とはいえただ無闇に魔物を倒しても面白くねえ。依頼料もケチくさい額だしな」

カゲミツが冗談を飛ばすと、多くの冒険家がクスクスと笑った。

皆、依頼料の低さには不満があったのだろう。しかしカゲミツの冗談で、それらの不満が笑いに変わって消散した。

「ってわけで、少しでも面白く仕事が出来るよう殲滅戦は競技形式にした。

ルールは簡単だ。魔物を一番多く狩った奴が優勝。1位から3位まで表彰し、俺のブログにも名前を掲載する。1日平均20万アクセスある俺のブログに掲載するんだ。たぶん、かなり目立つだろうな」

目立つ、というカゲミツの言葉に全ての冒険家がどよめいた。

それも当然だ。

何十万と居る無名の冒険家にとって、もっとも難しいのは売名なのだ。

どれほどブログ記事をアップしても、無名だと誰にも見られない。

だが1日に何十万人も閲覧するランカーのブログに名前が掲載されれば、自らのブログのアクセスが簡単に上がる。

――己の名前を手軽に売るチャンスである。

企業からスポンサードを受けるには一定の実力と、圧倒的な人気が必要である。

この場に集まっている冒険家のほとんどは、前者の条件を満たしている。

つまり、あとは名前が売れるだけで企業からスポンサードを受けられる可能性が生じる者達ばかりなのだ。

カゲミツのこの提案に喜ばぬ冒険家はいないだろう。

喜ばない人は、そもそもこの依頼に参加していない。

晴輝も、カゲミツの言葉に体を震わせ、喜んだ。

目立てる!

強い存在感が得られるぅ!!

どうしよう。

存在感が強くなったら、どうしよう!?

まずは素顔で買物だな……。

晴輝の脳内で、夢が膨らんでいく。

「注意点だが、見つけた魔物を同時に攻撃した場合、攻撃が速く到達した奴のポイントになる。だからって、ファーストアタックしっぱなしで次の魔物を探そうとすんなよ? アタックしたら最後まできっちり倒すこと。じゃなきゃノーカンだからな。

もし、ファーストアタックが同時だった場合は、じゃんけんでどっちの獲物か決めてくれ。色々文句が出るだろうことは承知してるが、文句をダラダラ言ってるくらいなら、次の獲物を探した方がポイントは稼げるからな? 合理的な方が順位は高くなるぞ。

当たり前だが、他の冒険家を害する行為は禁止だ。足を引っ張るのもな。

ここにはベッキーしかいないが、他のメンバーは森の中を見張ってる。本来の目的は、指定区域外に魔物が抜け出さないよう抑える役目だが、冒険家の監視もする。オレらの目を欺けると思うなよ?」

カゲミツの最後の言葉には、強い威圧が込められていた。

弱い者であれば身動きが取れなくなるだろう、かなり強い威圧だった。

それに、ほとんどの冒険家が背筋を震わせた。

「討伐終了時刻は日暮れまで。太陽が沈み切ったら終了だ。それまでに全部魔物を倒せなくても、残りはオレらが責任もって片付けるから大丈夫だ。

ちなみにフィールド内にはオレらがマークしてる特別な1匹がいる。ちょいと危険な生物なんだが、それを倒せば3ポイント獲得だ! マークとはいえ目印はないからな。まあ、これはお楽しみ抽選会みたいなもんだと思ってくれ。素材の買取についてだが――」

カゲミツの話を聞きながら、晴輝は必至に手元を動かしていた。

それはこの競技に勝つための、最後のキィである。

手抜かりがないよう、丹精を込めて縄をくくりつけていく。

「……あのぅ、空星さん。一体なにをされているんですか?」

「なにって。これは火蓮が口にしたことだろ?」

晴輝は火蓮を見上げて首を傾げる。

晴輝の手の先にはエスタと、その上に縄で固定されたレアがいる。

「いやいや、私、エスタにレアを乗せるなんて一言も言ってないですから!」

「言ったじゃないか。合体って」

その火蓮の言葉で、晴輝はこの作戦を思いついたのだった。

名付けて『機動砲台エスタレア』。

エスタの俊敏な機動力に、レアの砲台を固定。

最高の速度に、最高の一撃。

漢のロマンと夢がたっぷりと詰まっている。

やはり『合体』とはこうでなくては!

「でも、無理矢理レアとエスタをくくりつけて、2人とも、嫌じゃないんですか?」

「そうでもない、ぞ?」

手を離れたエスタレアはカサカサと動き回り、砲台をシュンシュンと様々な方向に向けた。

普段と同じ視点で素早く移動出来るからか、レアは楽しげに葉を揺らしている。

対してエスタは、姉にこき使われる弟の如き哀愁を放っていた。

とはいえエスタは嫌がっているわけではない。

ただ、レアの姉弟愛が重いだけだ。

「これでレアとエスタが動き回れるようになったが、2人だけだと他の冒険家に狙われるかもしれない。というわけで、火蓮。2人のことは頼んだぞ!」

「……なにが『というわけで』なんですかねえ」

火蓮ががくりと肩を落とした。

しかしこのままでは、エスタレアが先行した場合に冒険家の襲撃を受けてしまうかもしれない。

晴輝は念のために、エスタレアに“もう一手間”加えることにした。

晴輝が発案したこの『機動砲台エスタレア』は後々、『なろう』掲示板各所で、度々話題に上がるようになる。

まさかエスタレアが多くの冒険家の自信を喪失させ、恐怖の渦に陥れることとなるとは、発案者である晴輝は夢にも思わなかった。