軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

日本の魂を全力で味わおう!

収穫を終えて地上に戻ると、晴輝はすぐに木寅さんの家に向かった。

まだ日が落ちる前ということもあってか、木寅さんは畑で作業を行っていた。

その後ろから声をかける。

「ごめんください」

「おうハル坊。なした?」

作業中だというのに、木寅さんはすぐに晴輝に気づき顔を上げた。

よっこらしょっと、と背筋を伸ばして腰を叩く。

幼い頃から晴輝は木寅さんのお世話になってきた。

だからか、存在感の薄い晴輝が後ろから声をかけたって、必ず彼は気づいてくれる。

「実は稲が手に入りまして――」

「なんだと!?」

稲という言葉で目が血走った木寅さんが、晴輝の肩を強く掴んだ。

つよ――痛い!?

防具を装備したままの晴輝の肩にすらダメージを与えるほどの握力。

70を超えた爺さんの体のどこにここまでの力が眠っていたのやら。

米は人を、こうも狂わせるものなのか。

急に生き生きとし始めた木寅さんに連れられ、晴輝は倉庫に足を踏み入れる。

そこには大小様々な機械が並んでいた。

大きなトラクタや、ベルトコンベア。

人が5人は入れる鉄の箱などがとても綺麗な状態で安置されている。

「…………」

いつかはまた農業を……。

木寅さんは、そう考えているのだろう。

でなければ、ここまで農業用の機械や道具に埃がかぶっていないはずがない。

彼は『農業はもういい辞めだ』なんて度々口にしていたけれど、やはりもう一度、農家として作物を育てたいんだ。

晴輝は倉庫に保管されていた木寅さんの本音に触れ、胸が詰まった。

晴輝が黙って倉庫を眺めていると、木寅さんがいくつかの道具を奥の方から引っ張り出してきた。

「おうハル坊。まず稲を見せてみろ」

「あ、はい」

言われるがまま、晴輝は稲を取り出した。

「ふむ。きちんと乾燥しとるな」

「はい。収穫したときからカラカラでした」

通常稲は、収穫したあとしばらく乾燥させる。

だが相手は稲の魔物だったからか、倒したときにはもうカラカラだった。

「ならすぐに脱穀に移れるな。ほれ、まずここに稲を置いてペダルを踏め」

彼が指さしたのは、丸いドラムの付いた機械。

その名も『チヨダ』。ご丁寧に名前が右読みで印字されている。

それはかなり年季の入った、脱穀機だった。

晴輝は指示に従い、木寅さんが持ってきたチヨダさんに向かう。

ドラムには突起が付いている。

その突起に稲の先端を当てて、晴輝は指示されたとおりにペダルを足で踏む。

するとドラムが動き、突起が米を分離していく。

……いいね。

実にいい!

初めての脱穀に、晴輝は目を輝かせた。

プツン、プツン。

チヨダさんのトゲが米を分離していく。

その感触がたまらない。

脱穀が終わると、木寅さんと一緒に地面に落ちた籾粒をかき集める。

集めたそれを、今度は小型の水車のようなものの上にセットした。

「それはなんですか?」

「 唐箕(とうみ) だ。これで米とゴミを分離する」

上に付いた注ぎ口から籾粒を落としながらハンドルを回す。

すると中に風が送られ、ゴミや藁くずなどを吹き飛ばしていく。

吹き飛ばされずに落ちてきた籾粒を、今度は木摺臼で籾摺りを行う。

木製の臼を手で回転させながら、籾殻を外していく。

籾摺りが終わると、木枠の中に金網を張ったものに流し込む。

こうすることで、籾が外れた玄米が綺麗に下に落ちる。

作業すること2時間。

収穫した稲が、30キロの玄米になった。

玄米にするまでに、2時間。

稲から30キロの玄米を取り出すだけで、2時間だ!

「すごい、大変な作業なんですね」

「脱穀もハーベスタがあれば10分で終わるんだがなあ。ま、手作業ならこんなもんだ。稲から米にするだけでも、エライ作業だべ?」

「はい」

昔の米農家は、これほどの作業を行っていたのだ。

機械化されて楽になったとはいえ、作業の大切さは変らない。

かつて食べてきたお米と、農家の皆さんの努力に感謝だ。

晴輝は玄米の半分を木寅さんに渡し、もう半分を自宅に持ち帰る。

自宅に戻ると、晴輝は物置から家庭用の精米機を取り出した。

昔はこれを用いて精米したてのお米を食べていたのだが、スタンピード以来使う機会がなかった。

「……動くかな?」

埃を丁寧に落として、プラグをコンセントに差し込む。

すると精米機は文句も言わずに立ち上がった。

「久しぶりだが、よろしく頼むぞ」

玄米を入れ、晴輝はスタートボタンを押し込む。

シャラシャラと軽い音を立てながら、茶色い玄米がみるみる白く変化していく。

精米が終わった米は、白かった。

とても美しいビビットな白が、晴輝の網膜に染みこんで来る。

「……おお」

蓋を開いた途端に香る米ぬかの匂い。

その懐かしさに、早くも晴輝の瞳が潤んでしまった。

精米が終わった米をとぎ、これまた久しぶりに取り出した炊飯器にセット。

米が炊き上がるまでに、火蓮ご所望のご飯の進むおかずに取りかかる。

まず以前大量に収穫していたジャガイモを取り出し、皮を剥く。

茹でて柔らかくなったら潰し、デンプン粉を加えて円柱状に纏めて冷蔵庫で寝かせる。

その間にダンジョンで手早くナスとコッコを収穫し、捌いて鍋へ。

一煮立ちしたら味噌を加えて味が整ったら完成。

寝かせていたジャガイモを輪切りにし、フライパンで焦げ目を付けたら、こちらも完成。

おかずの調理が終わると、タイミング良く炊飯器が完成の合図を告げた。

予定時刻に家を訪れた火蓮を椅子に座らせ、大皿に盛り付けた料理を運び込む。

「お待たせしました。本日の料理は鶏肉とナスの味噌煮と、芋餅でございます」

「ふわぁ……」

ご飯を盛り付け、晴輝も座席に座る。

晴輝の横には、何故かレアも座っている。

(部屋に戻そうとしたら怒られた。寂しいのだろうか?)

火蓮は早くも箸を手にして、今か今かと合図を待っている。

「それじゃ……収穫した命と、全ての農家さんに感謝を。頂きます!」

「頂きます!!」

まず晴輝は、白い米を箸ですくい上げ、口に運ぶ。

「~~~~ッ!!」

甘い、旨い、たまらない!!

米の強い甘みが、口のなかで解れてすっと抜けていく。

噛めば噛むほど、うま味が増していく。

鼻を通り抜ける米の香りに、涙が止まらない。

晴輝はおかずには手を付けず、茶碗1杯消化してしまった。

火蓮も同様に、既に茶碗の中が空っぽになっていた。

おかわりをして、次は鶏肉とナスの味噌煮に手を伸ばす。

鶏肉のプリッとした食感と、ナスのとろとろの食感が絶妙に絡んでいる。

味噌が肉とナスを引き立て、肉とナスからしみ出したうま味が味噌を引き立てている。

味醂やごま油が欲しいところだが、それがなくても美味かった。

「素晴らしい!」

「はふ! はふ!」

晴輝も火蓮も、手が止まらない。

芋餅は油で表面がパリっと焼かれているのに、中はジャガイモとデンプンが絡んでもちもちになっている。

「美味いっ!」

「はふ! はふ!」

おかずのせいで、食が止まらない!

レアも芋餅には興味があるらしく、こっそり葉を伸ばして芋餅を1つ宝物庫にしまい込んだ。

これは……どうなるんだろう?

根から吸収されるのだろうか?

「……一体どこに消えたんだ!?」

米は5合炊いたはずだが、晴輝が気づいたときには空っぽになっていた。

まったく食べた気がしない。

だが消えているということは、2人で完食してしまったのだろう。

火蓮はどこかもの悲しい表情で、箸で茶碗についた米粒を1粒1粒口に運んでいる。

……うん、また今度作ってあげるぞ。

なんたって米は、手に入れ放題だからな!

中級冒険家になれて、本当によかった!!

再び手を合せ、頂いた命に感謝。

「「ごちそうさまでした!」」

火蓮との食事会が終わり、片付けを済ませたあと。

晴輝は再び武具を装備した。

「……っと、ビックリした。もしかして見送り?」

家から出ようとすると、レアが晴輝に近づいてきた。

先日より、レアは下の葉を使って歩けるようになった。

だが晴輝はまだ、レアの歩く姿になれていない。

いまはまだ、心臓に悪い。

晴輝が一人で行こうとすると、レアが晴輝の膝裏をツンツンする。

どうやら見送りではないようだ。

(連れていきなさいよ)

そんな声が聞こえた。

断ると後が怖そうな気配を感じる。

仕方ない。

晴輝はレアを背負い、共に家を出た。

向かう先は、もちろんダンジョンだ。

晴輝は先日、一晩かけてより良い動作を体にたたき込んだが大量のイナゴと稲を相手取ったとき、染みついていた古い動きが出てしまった。

まだまだ完璧にはほど遠い。

どんな状況になっても洗練された動きが出来るようにならなきゃダメだ。

そう思い、再びゲジゲジと戯れようと改札口を抜ける。

すると、

「ん?」

そこに、武具を装備した火蓮の姿があった。

彼女は晴輝に気づかずゲートの向こうへと消えていった。

どうやら火蓮は一人でダンジョンに潜りにきたようだ。

ゲートを使ったことから、火蓮の目的地は晴輝より下。

ということは……。

「メロンでも収穫に来たのかな?」

火蓮はメロンに強烈に惹かれていた。

きっと自分のおやつ用に狩りにきたのだろう。

「おやつはほどほどにな」

そう晴輝は呟き、ダンジョン1階へと向かった。

「はぁ……」

ゲートに背中を預け、火蓮は大きくため息を吐き出した。

どれほど魔物を倒しても晴輝のレベルに追いつかない。

彼を手助けしたい。強くなって、恩返しをしたい。

その一心で火蓮はK町に訪れた頃からずっと、夜になるとこっそり車庫のダンジョンに踏み入り独り、狩りをしていた。

はじめは、すぐに晴輝に追いつけると思った。

実際、夜の訓練のおかげで火蓮は晴輝との差を徐々に埋めていった。

だがいつしか、晴輝との差は埋まらず離れていくようになった。

晴輝の成長速度が明らかに変ったのは、四釜らを失ったあの事件からだ。

一方的に差が開いていくのは、火蓮と晴輝の才能の差か。

あるいは、覚悟か。

もしかしたら晴輝も、夜のソロトレーニングを行うようになったのかもしれない。

晴輝がダンジョンを進む速度は尋常ではない。

魔物を倒してから、間髪入れずに次の魔物を探す。

火蓮ははじめ、彼の後ろについて行くのがやっとだった。

呼吸が苦しくて、何度も倒れそうになった。

いまでも時々倒れそうになる。

疲労で動けなくなりそうな火蓮とは裏腹に、晴輝はあまり休憩を入れない。

倒れるまで、狩り続ける。

そんな彼がソロで、なんの足かせもない状態でトレーニングを積んでいたら。

――火蓮が晴輝に追いつけないのも当然だ。

いまのままじゃ、足りない。

晴輝の背中に、手が届かない。

もっと強くなる。

そのために、火蓮が出来ることは変らない。

沢山の魔物を倒して、沢山レベルアップをする。

レベルアップで、強くなる。

強くなって晴輝に少しでも追いついて、

そして、彼の背中を支えるのだ。

落ち込んでる暇はない。

泣き言なんて言ってられない。

頬を張って気合いを入れた火蓮は、ゲートで11階に降り立った。

訓練後のご褒美――収穫したメロンに想いを馳せながら。

おかしい……。

晴輝は目の前の光景に疑問を抱く。

何故こうなったんだ? と。

メロン狩りに向かったと思われる火蓮を見送った後、晴輝は大好きなゲジゲジを追い回していた。

――いや、美しい動きが出来るよう、ゲジゲジを相手に特訓を行っていた。

ゲジゲジは訓練相手である。

見つけ次第、バラバラにしてきた。

しかし現在、晴輝の目の前には一匹のゲジゲジと、

それをかばうレアの姿があった。