軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

涙を拭って探索を再開しよう!

K町の自宅まで戻ってきた晴輝は、遠い目をしながら自宅を見上げた。

悲しい出来事が、沢山あった……。

モンパレを殲滅したあと、晴輝はエアリアルと共に『勇者の酒場』で打ち上げを行った。

代金はすべてエアリアル持ちだ。

大仕事を終えた後だ。きっとおいしいお酒が飲めるだろう。

そう予測していた晴輝は、残念ながらジョッキ1杯の1口しか飲めなかった。

『あれ、空気はもう帰ったのか?』

『これは誰が頼んだジョッキだ?』

『いねぇなら俺が飲むぞ!』

『よし二次会に行くぞ!!』

『空気いねえけど、ま、いっか!』

探知スキルが高いエアリアルは、仮面を外した晴輝にもギリギリ気づいてくれていた。

なのにお酒が入った途端に、カゲミツを含めエアリアルの面々は一切晴輝に気づけなくなってしまった。

原因は間違いない。アルコールだ。

呑みの席だからと油断して、仮面を外していったのがいけなかった。

時間をかけて注文したビールは奪われ、存在をアピールしても気づかれない。

『勇者の酒場』の枝豆は、しょっぱかった……。

悲しい出来事はそれだけじゃない。

空星晴輝(27) 性別:男

スキルポイント:3→6

評価:隠倣剣師

加護:打倒神<メジェド>

-生命力

スタミナ3

自然回復2

-筋力

筋力3→4

-敏捷力

瞬発力3→4

器用さ3→4

-技術

武具習熟

片手剣3

投擲2

軽装3

蹴術1

隠密3

模倣2

-直感

探知2

弱点看破0→1

-特殊

成長加速 MAX

テイム1

加護 MAX

もしかすると世界は、晴輝の設定を間違えているのではないだろうか?

晴輝の意思とは裏腹に、存在感もスキルも、どんどん暗殺者に近づいていく。

そんなもの目指してすらいないのに……。

モンパレを殲滅したあとカゲミツがブログで晴輝について触れてくれた。

おまけにブログの最後に、彼は晴輝のブログのURLまで貼り付けてくれた。

これで一気にブログの閲覧者が増える!!

そんな晴輝の希望とは裏腹に、アクセス数は一切伸びなかった。

解析を見ても、ほとんど貼り付けられたURLを踏んでくれていない。

何故なのか!

晴輝はホテルの一室で泣きながら頭を抱えた。

最も目立つところにURLがあるのに、何故誰も晴輝のブログにアクセスしないのか。さっぱり理由がわからない。

(有名人にブログを紹介されたのに……)

しょんぼりである。

もちろん、悪いことばかりではない。

良いこともあった。

カゲミツのブログ記事とは無関係なタイミングで、晴輝のブログのブックマーク数が一気に5人も増えた。

何故突然ブックマークが増えたのかは定かではない。

だが確実に言えることがある。

これが『ちかほ』に遠征した晴輝の幸福度の、最大瞬間風速だった。

増えたブックマークの数値を見て、晴輝はついつい涙ぐんでしまった。

「ついに俺も、強い存在感を手に入れることが出来たかあ!」

この晴輝の思い込みは、その後のカゲミツの記事できっぱり否定されるのだが……。

最後に、リザードマンを解体する過程で上衣が出現した。

レアモンスターのドロップは、すべて胃袋に搭載されているのか。出現方法はムカデと同じだった。

(レアアイテムの出現という喜ばしい出来事に、何故かエアリアルの女性陣は顔を背けて嘔吐いていた)

上衣にはリザードマンの鱗がびっしり付いていた。

防御力も、布装備だというのにムカデの甲殻より高い。

鱗を叩くと鉄のような音が響くのに、持ち上げると非常に軽い。

かなりの優れものだ。

エアリアルと協議した結果、上衣は晴輝が頂くことになった。

というのも、リザードマンの上衣を装備出来る人物が、晴輝しかいなかったのだ。

ドロップした魔物は30階で、エアリアルの最高到達階層は24階。

レベルはギリギリクリアしているが、誰も装備が出来なかった。

それは大剣使いが短剣を装備出来ないのと同じ。

彼らには上位を装備する適性が無かったのだ。

リザードマンの上衣は晴輝にとって、格上の装備である。

にもかかわらず、晴輝は持つだけでなく装備まで出来た。

これはおそらく加護があったから。

晴輝の加護『打倒神<メジェド>』は、スキルレベル1だと『布者』だった。

そこから、出現した文字にはなにかしらの恩恵が存在する。

たとえば『布』なら、『布装備への適性が上がり、装備難度が下がる効果があるのではないか?』と、晴輝は考えた。

もしその憶測が正しければ、下層の強い防具でも加護があるおかげで布系なら装備し放題になる。

実に素晴らしい効果だ。

とはいえ、強い布装備など防具全体を通してごく少数だ。

あまりにニッチすぎてありがたみを感じ難い。

ちなみに加護スキルレベル2は『透明』。

透明。

加護の名は、適性が、飛躍的に上がる、効果。

もしそうなら……。

どうやら晴輝はとんでもない 加護(ばくだん) を抱えてしまったようだ。

荷物を家に入れて、晴輝はプレハブに向かう。

真夏の日差しに晒されたプレハブは、近づくだけで顔を歪めるほどの熱気を纏っていた。

まるで熱した鉄板のようだ。

したたり落ちる汗を拭いながら、晴輝はプレハブの扉を開いた。

プレハブの中は、もっと酷い。

完全にサウナだ。

そんな中に、涙を流して震える女性が2人。

火蓮と、朱音だ。

火蓮はプレハブの隅で、膝を抱えて震えている。

朱音は……こちらはダメだ。顔が女を放棄してる。

見てはいけない。

「……一体、なにがあったんだ」

晴輝が熱気に耐えながら、プレハブの窓を全開にする。

外からの生暖かい風が入り込み、室内のむっとする熱気を押し流していく。

「空星……さん?」

火蓮がようやく顔を上げた。

だが、

「――ッ?!」

大きく息を飲み、彼女の顔が引きつった。

「……あ、ああ、そうですか。また、いろいろ、強くなられたんですね」

そして火蓮はなにかを悟り、コクコクと頷くのだった。

『いろいろ』ってなんだ?

晴輝はやや憮然としながらも、火蓮に近づいた。

「一体なにがあった?」

「そうだ、空星さん、助けてください! 車庫のダンジョン、10階が危険です!」

とにかく危ない、危険という言葉を連呼し怯える火蓮を連れて、晴輝は車庫のダンジョンに向かった。

「……で、なんでお前も付いてくるんだ?」

「いいじゃない、別に」

武具を装備した朱音が火蓮に寄り添っている。

彼女の防具は“壹”のロゴが入った軽重装。

重装の一部を省き、敏捷性を底上げするタイプの装備だ。

なんの素材を使っているかは晴輝では判らないが、“壹”シリーズを装備しているのだ。

実力は晴輝をも凌ぐはずだ。

だがしかし……。

武器を見た晴輝が眉根を寄せる。

「一菱社員が番磨の武器を持つのはどうなんだ?」

彼女の武器は“IBI”のロゴの入った、 番磨(はりま) 工房の小手。

小手には肘まで伸びるブレードが付属している。

このブレードを操り、トンファのように敵を攻撃する。かなり珍しい武器だ。

「お前、一菱の社員だろ。番磨なんて持って問題ないのか?」

「仕方ないじゃない。一菱じゃこういう武器を作ってないんだから」

こういう武器――番磨工房の武具はひとクセもふたクセもある。

そもそも番磨の武具は設計思想がおかしい。

例えば朱音が手にする武器は、『トンファ』→『回転する』→『そうだ、ジェットエンジンの設計を流用しよう!』→『武器部分はジェットエンジンのブレードな!』と、悪乗りした社員が開発したという。

結果、小手にジェットエンジンのブレードが付いた謎武器が完成。

ブレードで敵を攻撃でき、またブレードが盾にもなる。

攻防一体型の武器として販売されたが、あまりに使いにくい武器だったため、売れ行きはお察し。

とはいえ、その愉快な思想により番磨はコアなファンを獲得している。

番磨が体質に合うと、もう番磨以外の武具は使えないという。

おそらく朱音もその一人なのだろう。

確かに大衆を意識した一菱では、番磨のような無茶な武具は作れない。

晴輝はそれとなく二人を観察した。

何故朱音は火蓮に寄り添っているのだろう?

彼女は火蓮と、そこまで仲の良い間柄ではなかったはずである。

一体いつ仲良くなったのやら。

「また空気は変なもんを手に入れたわねぇ。それ、リザードマンの防具?」

「よくわかったな」

「鱗を見れば大体わかるわよ。性能は……ちょっといい?」

朱音が顔を寄せて晴輝の上衣の観察を始めた。

「んー、斬撃に対する防御力は相当ね。ただ布系だから打撃攻撃には注意ね。特殊能力は……あるのかしら? 詳細鑑定してみる?」

「時間があったらな」

折角強い装備が手に入ったばかりなのだ。

鑑定に1ヶ月待つより、早く使って戦い心地を確かめたかった。

「しっかし、仮面に羽根にジャガイモ、鱗と。アンタ一体どこに向かってんのよ?」

「もちろん、ランカーみたいに強い冒険家に決まってるだろ」

「……エェエ」

朱音の冷たい瞳をやり過ごし、晴輝はゲートを起動して10階に向かう。

朱音は……どうやら10階までゲートをアクティベートしているようだ。

「いつダンジョンを攻略してたんだ?」

「ついこの間よ」

「店員が表だってダンジョンを攻略してもいいのか?」

「ダメなわけないじゃない。業務には入らないけどね。でもダンジョンに入れば、開眼で色々能力が得られるかもしれない。攻略に関する情報も得られるし、魔物の強さが判れば実力に見合った武具を勧められる。だから一菱社員はダンジョン攻略を推奨されてるのよ」

「なるほどな。理由はわかったが、店を放置しといていいのか?」

「どうせ誰も来ないから。平日は営業時間を短縮してるわ」

自由すぎないか?

晴輝の顔が僅かに引きつった。

だが実質、平日にプレハブを訪れる客は晴輝達だけ。

営業時間を短縮したところで、問題はなさそうだ。

「それで、なんで今頃になって車庫のダンジョンを攻略しようと思ったんだ?」

「それがこの前、火蓮と喧嘩をして――」

「喧嘩!?」

「魔法を撃たれて負けそうになったから――」

「魔法を撃ったのか!」

「10階で狩り対決しようと――」

「狩り対決……」

もう、どこから突っ込めば良いのやら。

10階に向かうゲートの中で、晴輝は頭を抱えてしゃがみ込んだ。

「で、火蓮の面倒をアタシが見ることになったってわけよ」

「なにが“で”なのか判らんが……ん? 面倒を見る?」

「ええ。火蓮は一菱のスポンサード候補者よ」

「……なん、だと!?」

朱音の言葉で、晴輝は硬直した。

企業のスポンサードは、ブログの閲覧者数や冒険家ポイントの高い者の中から選ばれる。

ただ、スポンサーが付く数字は一般的に5千くらいからだと言われている。

ブックマーク千と少しの火蓮では少々足りない。

とはいえブックマークが低ければ決してスカウトされないわけではない。

希にランキングを駆け上がる前でも、冒険家に光るものがあればスカウトされることがある。

火蓮はこちらだ。

しかしまさか火蓮がスカウトされるとは……。

晴輝の胸の中から、ドロドロとした感情があふれ出す。

くそっ。

羨ましい!!

ランキングに登場してない冒険家が企業と契約なんて。

すごく“目立つ”シチュエーションじゃないか!

「スポンサードか。いいな……」

「まだ候補よ候補」

「魔法か?」

「そうね」

晴輝が尋ねると、朱音はあっさりと答えた。

晴輝が想像した通り、希有な能力である魔法が使えたことで朱音は火蓮を選んだようだ。

火蓮をバックアップし、魔法を分析すれば、他の冒険家達にフィードバックする過程で利益に繋げられる可能性がある。

企業として、非常に正しい判断である。

候補であるのは、彼女がまだ未熟であること。

そして魔法が未知であることが原因か。

「…………」

「……なによ?」

晴輝はじっと朱音を眺める。

彼女からは、火蓮を悪用しようという雰囲気がない。

銭を皮算用をする雰囲気は感じるが……。

それは朱音が企業人だから。

銭勘定は仕方が無い。

売り上げに目は行ってるが、火蓮を個人的にどうこうしようとは思っている雰囲気はない。

それを、晴輝は朱音の表情から感じ取る。

「なになに空気ぃ。アタシに惚れちゃったぁ?」

「ぶっ飛ばすぞ?」

「暴力反対!」

晴輝が少し殺気を滲ませただけで、朱音が涙を貯めて頭をガードした。

すぐ涙目になるくらいなら安易に挑発するな……。

火蓮はこれまで、晴輝以外の人前で魔法を使うことは一度もなかった。

その点だけは、1度たりともミスはしなかった。

それだけ彼女は魔法の使用に、細心の注意を払っていたはずである。

にも拘わらず火蓮が人前で魔法を使ったことに、晴輝は驚いた。

おそらく“よほどの事情”があったのだろう。

しかしそれが悪い状況に繋がらなさそうで、晴輝はほっと胸をなで下ろす。

これも火蓮の特殊スキル『運』の影響か。

今後火蓮は、一菱の後ろ盾を得ることで今より動きやすくなる。

ブログで魔法について情報公開する日も、そう遠くないかもしれない。

「良かったな、火蓮」

「ここまで育てていただいたのに、私だけ、すみません……」

スポンサード候補者になったことに、後ろめたさを感じているのだろう。

火蓮が申し訳なさそうにうなだれた。

火蓮は晴輝が支援したことで強くなった。

だが晴輝は、見返りを求めて彼女をサポートしたわけじゃない。

強くなりたいという意思が彼女にあった。

晴輝はその意思に、少し手を添えただけ。

意思がなければ、彼女はここまでの成長はしなかった。

スキルを上げても、力に振り回されて足を踏み外していた。

「気にするな。……で、朱音。俺への支援は――」

「無理。諦めて。だってアンタ、ブログの閲覧数極端に少ないじゃない」

「っく!!」

晴輝は心臓を抑えよろめいた。

恐る恐る尋ねてみたが、尋ねた勢いとは真逆の剛速球が晴輝の心臓を貫いた。

「一菱がスポンサードする冒険家は広告塔よ? 見られてナンボの立場に空気のアンタがなれるわけないでしょ」

「し、しかしだな……」

「広告塔が空気とか、僻地にアドバルーン飛ばしたほうがまだ有用なんですけどー?」

「カハッ!!」

さらに死体蹴り。

一切容赦がない。

晴輝は火蓮が羨ましかった。

だが、妬ましいと思うほどでもない。

晴輝の目的はスポンサードを受けることでも、ランカーになることでもない。

ましてや、冒険家として成り上がることでも。

それらはあくまでも手段。

他人に気づかれる存在感を手に入れる!

それさえ手に入れば、栄誉も名声もお金さえも、

晴輝には必要ないのだ。

10階に降り立った晴輝は、ゲート部屋を出てずんずん進んでいく。

しかし、

「……おい、行かないのか?」

晴輝とは裏腹に、火蓮と朱音は体を震わせたままゲート部屋で待機している。

お互いがっちり手を握り合っている。

それは恐怖をお互いに落ち着ける美しい友情の表れではない。

隣人が先に逃げ出さないよう押さえつけているのだ。

実に醜い争いである。

晴輝はここまで、彼女らに10階でなにがあったのか尋ねはした。

だが何度尋ねても、彼女たちの口は硬く、なにも聞き出すことが出来なかった。

10階のフロアを入念に見回すが、モンパレらしき集団は見当たらなかった。

どうやら『ちかほ』のような事態にはなっていないようだ。

それだけで、晴輝の警戒感がワンランク下がった。

「うーん」

車庫のダンジョンは『ちかほ』とは違い、2階毎に食べ物の魔物が現われる。

そのルールが変らなければ、10階は食料階。

彼女たちが怯えるなにかが現われるとは、晴輝には考えられなかった。

しばらく進むと、晴輝の探知に魔物の反応が引っかかった。

すぐに短剣を抜き、構える。

「さてどんな奴が現われるやら……」

もそもそ、と草むらが動いた。

晴輝が油断せずに構えるなか、腰ほどある草の中から1匹の魔物が姿を現した。