軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔物を討伐しブログを更新しよう!

全力で地面を蹴った晴輝が、ゲジゲジにナイフを突き立てた。

「堅っ!!」

先端が甲殻を滑って抜けた。

予想外。

その結果に、晴輝のゾクゾクと背筋が震えた。

「うおぉぉぉぉ!!」

アドレナリンが思考を加速させる。

一秒が永遠に引き延ばされる。

ナイフの先端が滑った刹那のあいだに、

晴輝は無理矢理ナイフの軌道を変えた。

刺す、刺す、刺す、刺す!

何度も切りつける度に甲殻に傷が入り、深くなる。

その傷がとっかかりとなり、接触した先端が安定。

パキッと甲殻が割れた。

途端にするりと刃が中に滑り込む。

おそらく脳をやられたのだろう。

ゲジゲジは力を失った。

気を緩めることなく、晴輝は三メートルほど間を開ける。

ただの反射なのだろう。ゲジゲジの足がピクピクと動く。

その反射が落ち着いた頃、ようやっと晴輝は戦闘態勢を解いた。

「ふぅ……。普通にゲジゲジじゃなかったらやばかったなこれ」

冒険家の免許を獲得してから、少しずつ札幌のダンジョンで魔物と戦っていたおかげで、ゲジゲジ相手に遅れを取ることはなかった。

だが、甲殻は別だ。

まさかコンバットナイフが刺さらないとは思わなかった。

これも、予想外。

晴輝の背筋はいまだ鳥肌が立っている。

もしこれで殺傷力のある魔物だったら……。

晴輝は致命的な結末に陥っていただろう。

冒険はなかったけれど、経験はあった。

今後攻撃が通じない魔物が現われても、未経験より落ち着いて対処出来るだろう。

「しかしこれ、本当に初心者御用達なのか?」

一度も魔物と戦ったことのない冒険者であれば、返り討ちにあってしまいそうだ。

主に、防具喪失という形でだが……。

そう首を傾げる晴輝の体が、突如ぼぅっと熱くなる。

まるで風邪を引いたように体が熱くなって、しかしすぐに熱が引ける。

「……かなり、強烈だったな」

晴輝は頭を抑えながら呟いた。

現在の体の変化は、いわゆるレベルアップ酔いと呼ばれている。

実際変動したレベルを確認することは出来ないし、上がった実力を数値化出来るほど明確でもない。

だが、これを何度か経験するといままで持ち上げるのが精一杯だった米俵が、片手で持ち上げられるようになる。

このため『なろう』ではレベルアップ酔いと呼ばれているのだ。

「ちかほ1階の魔物相手だと、そうそうレベルアップ酔いは起こらなかったんだけどなあ」

まさか1体目で起こるとは。

これも成長加速のおかげだろうか?

……いや、さすがにまだ断定は出来ないだろう。

成長加速があったから、というよりもむしろ「初心者御用達だから」という方が近いかもしれない。

そこそこ弱いにも拘わらず経験は多い。

おまけに殺傷能力がない。

故に初心者御用達。

逆に『初心者殺し』は、上層に出てくる『強さの割にうま味が少ない魔物』を指すので、晴輝の推測はあながち間違ってはいないだろう。

晴輝はナイフを仕舞い、解体用のものを取り出す。

WIKIにある甲殻類の解体方法を思い浮かべながら、ナイフを動かす。

沢山ある手足を落とし、裏返しにし、筋肉に沿ってナイフの先端を動かす。

ゲジゲジの重みに苦労しながら、晴輝はゲジゲジの甲殻を体から切り離した。

大きさは大体晴輝の胴体2つ分。これ1つで、防具が1領作れそうだ。

平均買取価格は千円ほどだったか。

『ちかほ』1・2階の魔物の素材で1つ100円であることを思えば、1体で千円はかなりおいしい。

重ねて車に乗せれば、売りに行くだけでも確実にガソリン代の元は取れるだろう。

リュックは持ってきたが、サイズからいって入りそうにない。

おそらくこれが、買取価格千円のからくり。

大きくて鞄に入らないので、一度の狩りで大量に持ち帰れない。

大量販売出来ないので、価格が下落しにくいと。

マジックバックがあれば、数量を気にせず狩りが出来るんだけど……。

そう思うがあれは初心者冒険家にはとても手が出せる代物ではない。

甲殻を地面に置いて、晴輝は切り離されたゲジゲジの肉を見下ろした。

こちらは……食べられるのだろうか?

ある冒険者は言う。

『魔物は二種類に分けられる。食べられるか、食べられないかだ』と。

この魔物はどうだろう?

試しに解体用ナイフで肉を切り出し、いつでも吐き出せるようにして口に含む。

「……んー?」

味は完全に無味無臭だ。

噛んでみると、独特の食感がある。

嚥下せずに吐き出して、水筒に入った水で口をゆすぐ。

食べられないこともないだろうが、濃い味付けにしないとダメかもしれない。

野菜があればその食感を生かした料理が作れそうだが、ダンジョンが出現して以来、野菜の価格が爆上がりしてしまった。

原因は原油があまり輸入できないこと。

ダンジョンは地上だけでなく、海底にも出現したらしい。

当然人の手が入れられないので魔物は出っぱなし。普通の船では航海出来なくなってしまった。

そのためガソリン価格がリッター1000円を超えた。

野菜を大量生産しても、農業機械を使えば収穫だけで赤字になる。

大量にバイトを投入して収穫したとしても、輸送費が馬鹿にならない。

トラックだってガソリンか軽油で動いているのだから、輸送費が高騰するのも当然の結果である。

だから自然と作付け面積が減り、野菜の価格が高騰。

いまでは貴族の食べ物か? ってレベルになってしまった。

晴輝の庭にも家庭菜園はあるが、収穫はまだ先だ。

とはいえ晴輝の家の食糧事情は常に逼迫しているが、まだ限界を超えたわけではない。

ひもじくなったらゲジゲジの肉を試してみよう。

晴輝はゲジゲジの甲殻をダンジョン外に運び出し、またダンジョンに潜っていった。

【気づかれる存在感への道】

『初心者御用達ダンジョン!』

どうも空気です(^o^)

先日発生したダンジョンは、1階にゲジゲジが出ました(>_<)

見た目はかなり可愛らしいですね(^_^)

チョコチョコした足の動きがお気に入りです。

ゲジゲジは、WIKIの通りすごいおいしかったです\(^O^)/

こんな魔物が1階から出るなんて、もしかしてこのダンジョン。大当たりかも?

ゲジゲジの甲殻は良い値段で売れるので剥ぎ取りました。

枚数104枚。その重さなんと254kg!

結構レベルアップしたからかな。

最初はきつかったけど、最後の方は余裕を持って倒せた!

だからちょっと頑張りすぎちゃった(^^;)

魔物との戦闘より、素材運びで階段の上り下りの方が辛かった。

明日は筋肉痛かも(>_<)

問題はこのあと、素材をどうやって売りさばくかなんだけど……。

近くに素材買取店はないし……(= =; ウーム

ま、腐らないものだからダイジョブだよね!

今日も一日、レベリング超頑張った!

これでまた一歩、存在感が得られる未来は近づいたかな? かな?

『なろう』のブログは記事を更新すると、トップページの新着記事一覧に表示される。

表示されている時間はおおよそ10分だ。

更新してから1時間ほどは、PVが回転しやすいと言われている。

……が、何故だ?

何故PVが3しか回らない!!

訪問者(ユニークアクセス) は3人。

うち2人はブログ記事に滞在している時間が3秒。

つまりこの2人は、入る部屋を間違えたようなものだ。

ほぼほぼ、1時間で1人しか記事を見てもらえていない。

おまけに1時間を過ぎれば、PVはもう回らない。

これが晴輝のブログの常である。

『なろう』ユーザーは100万人いるというのに、である。

逆の意味で凄い。

このPV、壊れてない?

「なんで誰も見てくれないんだろう……」

トップランカーの記事を真似て書いているというのに!

ブログ記事品質は、トップランカーとほぼ同じだというのに!

本当に同じレベルかはさておき、少なくとも晴輝の目には、自分の記事とランカーの記事は、同一レベルに見える。

にもかかわらず、1日のPV回転数はまさに天と地である。

何故自分の記事はこんなにもPVが回らないんだ。

やはり、存在が空気なのがいけないのか……。

PVの少なさに絶望し、涙を流しながら晴輝が床についた頃、『なろう』雑談掲示板のとある 冒険の書(スレッド) に、ゲジゲジの話題が出現した。

ダンジョンについて語るスレ【第532階層】

315 名前:とある名無しの冒険家

あるブログで「ゲジゲジが1階に出てラッキー」なんて言ってる奴いたぞ

316 名前:とある名無しの冒険家

マ? ネタだろ?

317 名前:とある名無しの冒険家

いやわりとマジっぽい

318 名前:とある名無しの冒険家

うわぁ初心者かよそいつマジバカスww

319 名前:とある名無しの冒険家

たぶん初心者だろうな

320 名前:とある名無しの冒険家

WIKIをまるまる信じるとか頭お菓子

あんなの3階から正規出現するMOBだろそれを1階でラッキーとか

精神ドMかよ!

321 名前:とある名無しの冒険家

うそをうそであると見抜ける人でないとWIKIを使うのは難しい(キリッ

322 名前:とある名無しの冒険家

いやでもよ

そいつ100匹近く狩ったって言ってるぞ?

323 名前:とある名無しの冒険家

マ? じゃ初心者じゃないのか?

324 名前:とある名無しの冒険家

わからん

ただ初心者っぽいブログ記事ではあった

325 名前:とある名無しの冒険家

なんて奴よ?

326 名前:とある名無しの冒険家

空気

記事そのものはショボいから期待すんなよ

327 名前:とある名無しの冒険家

おk把握

翌日。

ブログのPVが3つ回転したことで、晴輝は歓喜した。

しかし彼はまさか自分が、WIKIをまるまる信じたことで馬鹿にされていたとは知るよしもない。