軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

捜索の準備を進めよう!

翌日に火蓮と待ち合わせをし、車で札幌へと移動を開始した。

運転席は晴輝。助手席には火蓮。そして後部座席にはレアが座っている。

倒れて中身が溢れ落ちたら致命的だ。

心配なので、レアのプランターはかなり厳重に座席へと縛り付けている。

「『ちかほ』の6階から8階まで、シルバーウルフレベルの敵であれば問題なく捜索出来そうですね」

「だな。ただ6階からは少しだけ趣が変るぞ」

「え? ダンジョンの内面が変るのは10階。中層からじゃないんですか?」

「いやそうなんだがな……罠が生まれる」

救出を開始するにあたり、晴輝が心配しているのは5階までは無かった罠の存在だ。

かかっただけで絶命するような罠は、上層ではまず出ない。

だが落とし穴やトラバサミのような、戦闘中にかかれば致命的になりかねない罠が出現するようになる。

5階までと6階からでは、出現する魔物が同じでも難易度が変ってくるのだ。

「まるでチュートリアルですね……」

「案外そうなのかもしれないぞ?」

ダンジョンが何故現われたのかは未だにわからない。

どう成り立っているかも。

だがダンジョンの維持に莫大なエネルギィがかかっていることは想像に易い。

そのエネルギィを、どうやってまかなうか?

もしかすると生物を捕食してエネルギィにしているのではないか?

ダンジョンの奥に進みやすいようにしているのは、人間を取り込む場所が奥であればあるほど効率が良くなるからではないか?

そんな憶測が掲示板でよく飛び交っている。

当然ながら憶測は憶測だ。

だがダンジョンが、人間にとって親切設計になっているのは事実。

人を殺す魔物を生み出すダンジョンが人に親切にする。

裏がないはずがない。

「捜索を進めたいのは山々だが、まず俺たちは6階の地形に慣れなきゃいけない」

「……どれくらい時間がかかるんでしょうか」

「うーん。普通の冒険家だと1ヶ月か?」

「間に合いますか?」

「どうにかして間に合わせる」

曖昧に答えるが、晴輝は既に罠攻略の見当がついていた。

WIKI情報によると、ダンジョンに設置された罠は感覚が鋭くなれば見抜けるようになるらしい。

そのことから、晴輝はおそらく罠は探知スキルを上げれば回避出来るようになるのではないかと踏んだ。

スキルポイント:4→3

-直感

探知0→1

先日の夜、試しに晴輝は探知スキルにポイントを1つ振ってみた。

すると、それまで僅かに薄暗かったダンジョンが途端に明るくなった気がした。

まるで照明が灯ったかのような変化だった。

違いは視覚だけではない。

全身の感覚が空間を感知している。

足下の僅かなくぼみ、壁の凹凸などが、目を瞑っていても意識さえすれば手に取るように把握出来た。

実際に目にするまでは判らないが、おそらく探知を1つ上げたいまなら、問題なく罠を見抜けるだろう。

そう晴輝は予測している。

予約を入れておいたホテルに車を止め、カウンターでチェックインする。

現状、魔物のテイムに成功した冒険家は、晴輝を除いて存在しない。

念のために、晴輝はレアをマジックバッグの中に押し込んだ。

マジックバッグに入れられるものは、直径20センチサイズまで。

プランターのサイズは口より一回り小さく、またレアが体を折り曲げることでギリギリバッグに詰め込めた。

現在、レアの詰まったマジックバッグは火蓮が装着している。

レアが悪戯を仕掛けて、ポーチの蓋から葉を覗かせる。

慌てた火蓮が「ダメでしょ!」と小声で叱りながら、ポーチの蓋を手で押さえていた。

ホテルにチェックインした後、晴輝は冒険家用の雑貨店に向かった。

雑貨店は様々な効果があると『信じられている』道具を揃えたお店だ。

見た目はビレッジバンカート。

ごちゃごちゃしていて、だから、わくわくする。

見た目が似ているのは、この雑貨店がビレバンの傘下だからだ。

品揃えは総じてニッチ。需要が行方不明の商品が多数陳列されている。

雑貨店ではここも含め、売られている道具や薬品はほとんどがオカルト的だ。

手にしていたら魔物が近づかない予感!

飲むとスタミナが回復するかも?

魔物の接近に気づけるかもしれない!

そんな説明が書かれたポップが至るところに張られている。

全部断定がない。

憶測だ。

ダンジョンが出来る前まで、日本を含めた世界では、ある種の科学信仰が主流だった。

飲める洗剤。

運気を向上させる壺。

彼女が出来るブレスレット。

癌を治す金塊。

このように科学を外れたものは、すべからくオカルトに分類された。

だがダンジョンが出来てからは、科学信仰が一気に衰退した。

ダンジョンから産出するものに、科学がほとんど太刀打ち出来なかったのが原因だ。

ダンジョンから出たものならそういう効果があっても不思議じゃないな。

よく判らないけど!

――というようなダンジョン信仰が勃興した。

科学的証明が一切出来ない。

しかし何故か、期待される効果が現われる。

だからこそ、オカルト的。

いずれこの店にある雑貨も、何故そういう効果がもたらされるのか? 科学的な証明がなされるかもしれないが、その未来はまだまだ遠い。

ポップは疑問形だったり『!?』でぼかしているが、書かれた効果は大体発揮すると思って間違いない。

晴輝は雑貨を眺めながら、カゴにドリンクタイプの回復薬を放り込む。

そのお値段なんと100万円!

通常時であれば手を出さないだろう。

だがもし遭難した支店長――大井素才加が怪我を負っていて動けないのであれば、必ず役に立つはずだ。

ドリンク薬のポップには、『骨折などの大けがが1日で良くなる!?』と書かれているので、その程度の効果は見込めるだろう。

他になにか役に立つものはあるだろうかと店内を隈無く探す。

すると晴輝は、魔物避けコーナーで、ヌタウナギのような物体を発見した。

【ヌメヌメウナギ】

『これを持っていたおかげで、上層の魔物に囲まれても無傷で生還出来ました!』(冒険者談)

本体:魔物( 生(なま) )

生産地:釧路湿原ダンジョン中層部

効果期限:封を開けてから1日

実に不審感を抱く煽り文句だ。

見た目はヌタウナギ。あるいは触手。

魔物だけでなく人間さえも逃げだしそうだ。

晴輝は顎に手を当ててポップを睨む。

『上層』と書かれているので、そこまで強い魔物には効果がない。あるいは自分と同じ程度の魔物にしか効果がないか。

劇的な効果は期待出来ないかもしれない。

それを踏まえ、晴輝はいくつか商品を比較した。

他の棚には『匂いも音も消える気がする! ※悪用厳禁』だったり『気配が薄くなるかも!? ※覗きは犯罪です』だったり。

ずらっと魔物からの発見を遅らせるアイテムが並んでいるが、効果がことごとく晴輝にとって致命的だ。

決して手を出してはいけない。

結局晴輝はヌメヌメウナギを買うことにした。

効果は1日。念のため晴輝は4本カゴに放り込んだ。

「とりあえず今日はこれくらいかな」

6階から下に潜ってみて、足りないものがあれば買い足せば良い。

会計を済ませる前に、晴輝は火蓮の姿を探す。

彼女も彼女で、欲しいものがあるかもしれない。

晴輝は取得したばかりの探知スキルを発動すると、すぐに火蓮が見つかった。

「…………なにやってるんだ?」

「ひっ!?」

火蓮が肩をふるわせると、手元で「ピヨッ」と音が聞こえた。

【ピヨコ】

『いいか魔物に気づかれるかもしれないからダンジョン内で鳴らすなよ? 絶対に鳴らすなよ!?』

本体:魔物(剥製)

生産地:中札内ダンジョン中層部

効果期限:なし

吹き出し状のポップに、几帳面な文字でそう書かれていた。

説明から『それはダチョウだ!』という突っ込み待ちの匂いがする。

こういうシュールなセンスは素敵だ。

いろんな人の目に触れても生暖かく放置されてると思うと、晴輝はついクスっとしてしまう。

火蓮が手にしているのはその『ピヨコ』の死体だ。

死体とはいっても、ヌメヌメウナギとは違ってきちんと剥製化されている。(あれは生だ)

そのお値段、なんと一つ20万円。

魔物をおびき寄せるなど、効果がかなり物騒だ。

一体どこに需要があるのやら……。

「ここ、コレは、別に私の趣味ってわけじゃなくて、どこかで使えるかもしれないなって思って!」

彼女の手元でピヨコが何度も『ピヨッ』と鳴いている。

どうも彼女は、その腹部の感触が気に入っているらしい。

「それはさすがに、経費じゃ落ちないぞ?」

「…………はい」

おなかを押すとピヨピヨ鳴くピヨコに後ろ髪を引かれるのか、火蓮は何度も後を振り返りながら、商品との別れを惜しんでいた。

まだ昼ということもあり、晴輝らは翌日のためにゲートで行ける階層を増やすことにした。

ゲートで4階に降りて5階を目指す。

シルバーウルフを沢山狩って成長した晴輝らにとって、キルラビットはもう取るに足らない魔物になっていた。

「一番最初は結構苦戦したんだけどなあ……」

晴輝は初戦を思い出しながら、蹴りだけでキルラビットの首の骨を折っていく。

ボスはキルラビットが二回り大きくなった魔物だった。

晴輝が特攻してしばらく回避を続ける。

敏捷はシルバーウルフより低い。

魔剣でサクッと首を飛ばすと、後にいた火蓮の表情が僅かに沈んだ。

ボス戦を経験したかったのか?

「……そういえば火蓮はまだボスと戦ったことがないんだったな」

「そうですけど……。次は私に戦わせてもらえますか?」

「了解。ただボスの強さ次第では俺も参加するからな」

「はい、お願いします」

5階に降りてすぐにゲートをアクティベート。

そこからレベリングや素材採取は無視して進んで行く。

5階もキルラビットしか出現しない。

だが4階とは違って、常にキルラビットは3・4匹の群れで出現した。

車庫のダンジョンとは違って、難易度は1階毎に緩やかに上がるらしい。

ただ、キルラビットが多少群れたところで、晴輝にはさして大きな障害にはならなかった。

ボスは4階のものと同じサイズだったが、色が暗く変化している。

筋肉の盛り上がりも、こちらが上だ。

多少難易度が上がっているのかもしれない。

「火蓮、行っていいぞ。もし危ないようなら助けに入る」

「お、お願いします」

声を強ばらせながら、火蓮は前に進み出た。

ずいぶんと肩に力が入っている。

ボスがまだ反応しない位置で、火蓮は杖を掲げて集中を始めた。

(……うん、大丈夫そうだな)

火蓮の魔法は、込める魔力の違いによって威力が変化する。

現在のように沢山時間を使って放つ魔法は、1撃が晴輝の攻撃よりも強力になる。

晴輝は火蓮の勝利を確信して、こっそりスキルボードを取り出した。

画面をスワイプし、火蓮のものを表示。

「……と、行き過ぎ……あれ?」

あれぇ? と晴輝は首を大きく傾げる。

レア(0) 性別:女

スキルポイント:8

評価:葉魔

+生命力

+筋力

+敏捷力

+技術

+直感

+特殊

レア……なんでお前がいるんだよ!

いやテイムしたから当然なのか?

生まれてまだ1年経ってないのか。

って女!? 嘘だろ!?

スキルボードの表示に晴輝は混迷を深めていく。

……検証したい。

知らない情報が現われたことで、晴輝の知識欲がうずき出す。

全身が甘く痺れ、早く調べろ!とせき立てる。

だがいまはそんなことをしている余裕がなかった。

準備が整えば火蓮はすぐに魔法を放つ。それまでに準備を進めなければ!

晴輝は後ろ髪を引かれながら、火蓮のスキルボードを表示させた。

そこから直感をタッチしてツリーを開いた。

探知スキルを覚えた晴輝が先導すれば罠にはかからない。

だがもし晴輝の誘導を外れることがあれば。

たとえば魔物から逃走するような状況に陥ったら、火蓮は容易く罠を踏んでしまうだろう。

いざという時を考えると、火蓮も罠を見抜けるようになっていた方が良い。

とはいえ探知は1つ振るだけでも感覚が如実に変化する。

なにもせずに急に感覚が鋭敏になったら、いくらなんでも変だと気づく。

ボスを討伐してレベルアップ。それで感覚が変ったのだろうと錯覚させれば急に感覚が変化しても問題ないはずだ。

そう考え晴輝は、火蓮の攻撃と同時に1つ振ることにした。

火蓮が魔法を放つ予兆を察知。

ボスに魔法が当たると同時に晴輝はスキルアップをタッチした。

スキルポイント:3→2

-直感

探知0→1

「――う? あれ?」

どうやら感覚の変化に気がついたようだ。

火蓮が目を白黒させている。

魔法を放ったボスは頭部が弾けて絶命済み。

……操作以外スキルレベル1だというのに、恐ろしい威力だ。

「お疲れ。どうした?」

「あ、いえ……なんだか感覚が変なんです」

「レベルアップで感覚が鋭敏になったんじゃないか?」

「……そう、かもしれませんね」

あまり上手とはいえない誘導だったが、火蓮は晴輝の説明に納得してくれた。

これで問題はクリアだ。

とはいえ感覚が急激に変化するスキルを上げるのは、いずれ限界が来るだろう。

危険な状態に陥ってもまだ、グダグダと悩んでいては、救える命も救えなくなる。

そうなる前に、晴輝は答えを出さなければいけない。