軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

スタンピードの終息を報告しよう!

スタンピードが始まってから1時間以上経過した。

ダンジョンを抜けてくる魔物はもうほとんどいない。

だというのに……。

「まだ帰ってこない……」

晴輝がまだダンジョンから現われない。

火蓮はてっきり、スタンピードが始まるくらいで戻ってくると思っていた。

まだ戻ってこないなんて。あまりに遅すぎる。

「すみません」

火蓮は先ほど怪我をした壮年の男性に声をかける。

彼は休憩を取りつつ、ダンジョンを警戒していた。

あと少ししたら中に踏み込むつもりらしい。

「なにか問題でもあったか?」

「はい。あの……実は、私のチームメンバーの冒険家が中に入ったきり、帰って来なくて。空星さんって言うんですけど」

「……誰だ?」

彼は不思議そうに首を傾げる。

いやいやいや! と声を荒げそうになるのをぐっと堪える。

これは彼が空気だから。

隊員が悪いわけではない。

「この家の持ち主で、冒険家なんです」

「…………ああ、居たなそういえば?」

どうやら彼はまだ、完璧に思い出せていないらしい。

可哀想に。

火蓮は晴輝に、どうしようもない憐憫を抱いてしまう。

「中に入って確認してきて良いでしょうか?」

「まだ魔物が彷徨いてるかもしれんぞ」

「魔物がいたら逃げるので大丈夫です」

「……そういえばお嬢ちゃんも冒険家だったか。休息を取ったら全部隊で確認しに入るが、それまで待てないか?」

もう十分彼の到着は待った。

これ以上は待てない。

その決意が伝わったのか。

壮年の男性は渋い表情をして首を振った。

「判った。まだ終息していないかもしれん。冒険家だからといって無理はするなよ」

「心得ています。ありがとうございます」

【討伐】スタンピード作戦本部【165匹目】

773 名前:名も無き日本防衛隊

こちら大分

無事3つあるダンジョンのスタンピード終息完了

774 名前:名も無き日本防衛隊

こちら秋田こっちも終わった

WIKI情報通りボスを倒せばスタンピードが終わるみたいだ

ボスを倒した途端に魔物が散っていった

775 名前:名も無き日本防衛隊

マジかよ!

さっそくこっちもやってみるわ

776 名前:名も無き日本防衛隊

>>775 気をつけろよ

ダンジョンなのかランダムなのか

ボスのレベルがばらけてるから考え無しで突っ込むと死ぬぞ

ちなボスは希少種な

777 名前:名も無き日本防衛隊

>>776 了解把握

だがどうやって叩くんだ?

スタンピードってようはモンパレだろ?

モンパレ突っ切らないとボスに辿りつけないんじゃね?www

778 名前:名も無き日本防衛隊

>>777 俺んところは迂回路があったからそれを使った

ボスまで脇道なしだと直接叩くのは不可能だろうな

それが出来るとしたらマサツグとかベーコンって名前の変態だけだ

779 名前:マサツグ★

>>778 誰が変態だって?

780 名前:名も無き日本防衛隊

本人キター!!

状況はどうよ?

781 名前:マサツグ★

札幌は終わった

勿論無事だ

新宿の状況がどうなったか判る奴はいるか?

ベーコンに連絡が繋がらない

782 名前:名も無き日本防衛隊

こちら埼玉

いまから確認に向かおうか?

783 名前:マサツグ★

いや状況が判らないまま向かうとヤバイかもしれない

とにかく連絡が取れる奴を見つけてくれ

万が一を考えてなるべく早く東京に戻るように準備をする

784 名前:名も無き日本防衛隊

了解

ちと手当たり次第連絡してみるわ

785 名前:名も無き日本防衛隊

おk把握任せろ

786 名前:マサツグ★

ベーコンへ

ブログでもここでもいい

何かしら足跡を残しておいてくれ

明日の夜まで連絡を待つ

晴輝は腹の重みに気づいて目を覚ました。

起き上がろうとすると、晴輝の胸に耳を当てて目を真っ赤にした火蓮が顔があった。

「おはよう?」

「全然見つからないから、食べられちゃったかと思ったじゃないですか」

「……ああ、ごめん」

現在晴輝はまだダンジョンの中にいる。

彼女には適当なタイミングで撤退すると告げていた。

だからきっといくら経っても帰って来ない晴輝を探しにきたのだろう。

でも仕方ない。逃げられなかったのだから。

そう口にするような雰囲気では無い。

もし口にしようものなら、再び気絶させられかねない獰猛な気配を感じる。

……あれ、火蓮ってこんなに怖かったっけ?

「なにがあったか、説明してください」

やだ、火蓮の背後に阿修羅像が見える!

晴輝は正座になり、ここまでの状況をつぶさに語った。

脂汗を浮かべながら……。

「……ひとつ、良いでしょうか」

「はい、なんでしょうか」

「空星さんは、堅いジャガイモが湧き上がる壺を持ってモンパレに立ち向かったとおっしゃいましたが、何故、堅い石を投げただけで魔物が倒せるとお思いになったんですか?」

「…………」

尋ねられると途端に、全身の血液が凍り付いた。

ただの堅い石を投げた程度で、どうして自分は魔物が倒せると思い込んでいたのだろう?

それも、投擲を1上げただけでだ。

ゲジゲジは……踏むだけで倒せるレベルだからまだ判る。

だがブラックラクーンは、纏まってかかってこられると多少苦戦する。

おまけにシルバーウルフは同等か格上だ。

もし石を投げても魔物が倒せなかったら、一体自分はどうなっていただろう?

もし倒せずボスに出会っていたら……。

楽勝だと思っていた戦法が、実は綱渡りだったことに気づき、晴輝は言葉を失った。

「……空星さんって、実は行き当たりばったりなんですね」

「すみません……」

「怒ってませんよ?」

いいや、怒ってる。

絶対怒ってるぅ!

晴輝は心の中で反論する。

だがそれさえも見越したように、彼女は片方の眉を僅かに持ち上げた。

「怒ってませんからね?」

「はひっ」

途端にぶるっと背筋が震えた。

晴輝はゴクリと、音を立ててツバを飲み込む。

……やだ、この娘怖い。

「もっと思慮深い人で、入念な作戦の元に実行に移すタイプだと思っていたので、意外でした」

「本当に、すみません」

「いえ、もういいです。そういう人なんだって判りましたから」

そういう人、という言葉が『ダメ人間』に聞こえ、晴輝はますます萎縮する。

「生きていただけで、本当に良かったです……」

火蓮はしみじみと呟いた。

ホッ吐き出した息に籠もった心痛が、晴輝の胸にチクリと刺さった。

「……それで、外はどうだった?」

「自衛団の方達は、みんな生きてますよ。ちょっと、怪我人が出てしまいましたけど」

「そっか……」

でも、みんな無事で良かった。

ちょっと無理した甲斐があったというものだ。

……ちょっとでは無かったかも知れないが。

おまけに素敵な魔物とも戦えた。

素晴らしい魔物だった。

もう一度戦いたいとは思わないけれど、戦えて良かったとは晴輝は思っている。

もっと上がある。

上にはもっと、面白い魔物がいる。

それをこの目で、見てみたい!

晴輝は戦友と言っても良いだろうワーウルフの亡骸を見下ろした。

こいつみたいな魔物と戦える日は、一体どれくらいで訪れるだろう? と。

それくらい強くなった暁にはきっと、

仮面なしでも気づいてくれる存在感が身についているはずだ!

そんな淡い期待を胸に抱いて……。

晴輝は最後の激突で散らばった武具を回収。

一度瞑目して、ワーウルフの亡骸をダンジョンから運び出した。

ボスの亡骸を運び出すと、防衛戦に参加していた隊員達がにわかにどよめいた。

武器――スコップを構えた彼らを、火蓮が慌てて止めに入る。

「お嬢ちゃん、これはどういうことだ?」

「ええと空星さんがボスを倒しまして。それでスタンピードが終わったみたいです」

ボスを倒してスタンピードを止めた。

その説明に、晴輝は多少胸の内にくすぐったさを感じてしまう。

冒険家として、スタンピードを押さえ込むのは当然だ。

当然のことだと思っているが、それでもどこかで「どうよ?」と胸を張りたくなる自分がいる。

素晴らしいな空星くん!

さすがだわ空星くん!

まるで冒険家の鏡ね!

そんな称賛の言葉をイメージしていた晴輝は、

「……………………誰だ?」

「「えぇえ……」」

晴輝と火蓮の声がハモった。

ええと……。

冒険家空星晴輝はいま、目の前におりますよ?

「からぼし……。お嬢ちゃんがその魔物を討伐したのか?」

「いえいえ! 私の仲間の空星さんが一人で討伐したんです」

「またまた。そんな架空の人物を作り上げて謙遜すんなよ嬢ちゃん!」

架空じゃないよ!?

実在するよ!

何故彼らは頑なに空星晴輝の存在を否定するのだろうか。

もしかして空星って、地球レベルでNGワードになってるの?

いまだかつて無い強烈なスルーに心が折れそうだ。

……まさか、もしかして。

晴輝は自ら立てた予測に、戦慄した。

一度ダンジョンに潜り、スキルボードを取り出した。

-技術

隠密0→1

「ぎゃぁぁぁ! 勝手に成長したぁぁぁ!!」

原因はおそらく、気配を殺したこと。

固定砲台で魔物を撃つ際に、晴輝は魔物に気づかれぬよう己の気配を必死に殺していた。

だからか?

だから成長したのかお前!?

「……くっ!」

ぽろぽろと、涙が溢れ落ちる。

何故だろう。

スタンピードを抑えたっていうのに、すごく、しょっぱい。

嗚呼。

存在感が濃くなる未来が、遠のいていく……。

涙を拭いて地上に戻ると、火蓮は困り果てたように説明を続けていた。

もうこのまま、ボス討伐の業績を火蓮に押しつけてしまっても良いのではないだろうか?

説明するのも面倒だし。

心折れたし……。

けれど火蓮が振り返って「助けてください」みたいな目で見つめてくる。

そんな瞳さえ晴輝に届いていないのだが……。

晴輝はため息を吐き出して、仮面をかぶる。

「どうも、空星です」

途端に隊員達がぎょっと目を見開いた。

「一体いつからそこに?!」

さっきから居たよ!

火蓮の横に居たんだよ!

叫び出しそうになるのをぐっと堪える。

おかしいな。

タマネギの魔物はいないのに、涙が……。

「失礼、私は合同自衛団団長の、芝崎と申します」

「あ、どうもご丁寧に、空星晴輝です」

芝崎は制服を着てバーに行けば、実に目立つだろうナイスミドルだ。

きっとそのオーラに、バーにいる女性達は釘付けになるだろう。

くそっ。なんて羨ましい良オーラなんだ!

「このボスは空星さんが討伐されたのですか?」

「はい。ギリギリでしたけど」

戦ったことがある魔物か? というような視線を芝崎は部下達に向ける。

だが反応は芳しくない。

どうやらこの中に、ワーウルフと戦ったことのある者はいないようだ。

晴輝は火蓮に話したように、自らの立ち回りを芝崎に伝えると、

「なんてことをしているんだお前は! 命が惜しくないのか!?」

途端に芝崎が激高した。

無謀だとか、死んだらどうするつもりだったんだとか。

後ろで部下達がオロオロしてしまうほどの怒りぷりだった。

だが晴輝は一切言葉を返さなかった。

なぜなら彼の言葉に、確かに温もりを感じたから。

ああそうか。

この人は、共に戦う冒険家も守るべき市民として見ているんだ……。

自分だって命がけ。

腕を怪我しているというのに。

そんなの当たり前だ。

皆のために怪我をするのも仕事のうちだ。

そんな口調で詰め寄られると、ただただ晴輝は頭が下がる思いで一杯だった。