軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

コアからエネルギィを吸収しよう!

「……危うく忘れるところだった!」

依頼達成の報告を終えカゲミツらと別れたあと、晴輝は再び函館山ダンジョンに訪れていた。

火蓮も連れて行こうかと思ったが、行って戻るだけだ。彼女はホテルで待っていてもらうことにした。

今回晴輝がダンジョンに訪れたのは、ダンジョンコアから強化ポイントを頂くためである。

討伐に来たときはゴッコ汁しか頭になかったため、すっかりコアのことを失念していた。

それに、討伐時には周りに自衛団がいた。

いずれにせよその場でコアに触れることは出来なかった。

「さて、コアはどれかな……」

晴輝は辺りを見回して、コアらしきものを探す。

するとすぐに、直径100メートルはあるだろうボス部屋の最も奥に、コアらしきオブジェがあるのに気がついた。

コアは旭川にあったものより小さい、タンスほどの大きさの石だった。

石はやはり人工的に加工されたような見栄えだ。これがダンジョンで一般的なコアの形なのかもしれない。

晴輝は早速手を伸ばし、コアに触れた。

コアに触れると上部からじわじわとコアが暗色に変化していく。

コアの全体が薄暗くなったのを確認し、晴輝はスキルボードを取り出した。

≪ダンジョンコアよりエネルギィが流入しました≫

≪コアのエネルギィを全て吸収しました≫

≪コアが一時的に活動を停止させました≫

≪次回スタンピード発生時期が後退しました≫

以前と同じように、コアからエネルギィを抜いた旨のログが現れていた。

それと、

「……ん?」

≪条件達成によりデモ・グラフの 等級上昇(アップデート) が可能となりました≫

≪等級の上昇を行います≫

条件達成の文字が、いままさに現れた。

「おおー!」

ログが現れたのは現在。なので条件の達成は晴輝の行動と関係がある。

晴輝はコアに触れてエネルギィを抜いたので、これがキーになっているだろうと予想される。

だがコアからエネルギィを抜いたのは1度だけではない。

「もしかして、回数か?」

数度コアに触れてエネルギィを抜いたら達成されるか。その場合は同じコアでも良いか、あるいは別ダンジョンのコアでなければダメか……。

はたまた一定以上の強化ポイントを取得したら達成するか、かもしれない。

いずれにせよ、コアに触れたことで条件が達成されたのは間違いない。

「さて、これで……なにが変わる?」

晴輝が固唾を呑んで見守る。

しばらくして、次のログが出現した。

≪―― 上昇(アップデート) 完了≫

≪安全装置が解除されました≫

「ブフっ!?」

安全装置が解除という危険を感じさせる言葉に、晴輝は思わず息を漏らした。

安全装置で晴輝が真っ先に思い浮かべたのは、研究施設にある自爆装置。

赤いボタンと、その上を被った透明のフタだ。

なにか取り返しのつかないことをやらかしてしまったのでは?

晴輝のこめかみに冷たい脂汗が浮かぶ。

青ざめた晴輝が見守るなか、最後のログが表示された。

≪これより気力ツリーの使用が可能となります≫

「…………ほっ」

そのログを読んだ晴輝は、胸に手を当てて息を吐き出した。

スキルボードに隠された危険なシステムを呼び起こしてしまったのでは考えたが、どうやら想定したほど脅威はなさそうだ、と……。

「しかし、ようやっとか……」

スキルボードは筋量やスタミナ、敏捷や免疫に至るまで表示する。

だが、ツリーに『料理』スキルは現れていない。

晴輝は自らの料理の腕に自信があるので、この項目がスキルとして表示されないのは奇妙である。

しかし、おそらくツリーに表示されているものは、ダンジョン攻略に関わりのある能力。あるいは様々な能力に『応用の利く基礎的能力』だと考えると、一応は筋が通る。

これまでボードには、魔法攻撃や気力攻撃を行う場合に必ず用いられる気力は表示されていなかった。

これが表示されないことが、晴輝は少々引っかかっていた。

だが≪安全装置が解除≫と≪気力ツリーの使用が可能≫の文言から、何故いままで見えなかったのかが、朧気だが理解出来た。

「気力ツリーは他のツリーよりも、上位の項目なのか」

ボードの操作で基本スキルを強化出来るだけでも、晴輝は十分凄いと考える。

だが気力スキルは、それ以上の効果が現れてしまうのだ。

実際、晴輝は飛ばす気力攻撃を現在は封印指定にしている。

封印したのは強すぎること。

それと、制御出来ないためだ。

人間にとって過ぎたる力。

その言葉が思い浮かんでしまうほどに、飛ばす気力攻撃は晴輝にとって、恐ろしいと感じられるものだった。

スキルボードを手にしたその日に気力ツリーを弄れたとしたら、新人冒険家が気力攻撃を使えてしまうことになる。

それは赤子に拳銃を持たせるようなものだ。

扱えるはずもなく、扱えるようになる前に人的被害を出してしまう。

中級冒険家となり気力を意識的に扱えるようになった晴輝でさえ、コントロールはまだ完璧にはほど遠い。

意識しないと気力がダダ漏れになり、勝手に魔剣や仮面に気力が入ってしまう。

過ぎたる力は繁栄ではなく滅びを招く。

気力ツリーの出現に条件が付けられていても無理はない。

晴輝はログから目を離して、自らのツリーを確認する。

空星晴輝(27) 性別:男

スキルポイント:5→9

評価:隠倣剣王

加護:打倒神<メジェド>

スキルポイントの上昇は、ダンジョン主の討伐によるものだ。

ダンジョン主が稀少種討伐は、通常種のダンジョン主討伐よりも1ポイントだけ取得ポイントが多い。

(稀少種で、さらにスタンピードを引き起こすダンジョン主なら、合計6ポイントになるのか……?)

「気力ツリーはこの位置に出現するのか……って、なんじゃこりゃ!?」

現れた気力スキルを見て、晴輝は目を剥いた。

-筋力<->

└筋力5

-気力<-> NEW

├気力2

├気量5

├気力操作1

└脱力耐性MAX

-敏捷力<+2>

├瞬発力6

└器用さ5

まず気量。

現れたばかりだというのにレベルが5もある。一切手を入れていないスキルとしては破格の高さだ。

さらには脱力耐性。

これに至ってはカンストしてしまっている。

「なんでいきなりこんなに高いんだ……?」

晴輝は首を捻りながら、説明をポップアップさせた。

『気力(気力を上昇させる)MAX30』

『気量(気量を増加させる)MAX10』

『気力操作(気力の操作力を上げる)MAX10』

『脱力耐性(気力欠乏状態への耐性を上げる)MAX5』

スキル構成と説明は、他のスキルと同様にかなりアバウトだ。

ただ、この気力を『物事を成し遂げようとする精神の力』=『やる気』と置き換えると、おおよそスキルが司るものが見えてくる。

気力は『やる気の強さ』。

気量は『やる気の持続力』。

気力操作は『やる気を自由に出す力』と解釈出来る。

さて、『気力』を『やる気』に例えると、『脱力耐性』が何を司っているかが見えてきた。

そして晴輝は『やる気』に例えたことで、自らの気力系スキルが何故高いのかが判ってしまった。

「仕事か……」

間違いない。

印刷工場での職務経験のせいだ。

最大残業時間200時間。

最大作業継続時間72時間。

最低月休暇日0日。

やる気が無くてもやらねばならない。

気力がゼロでも動き続けなければ、印刷ラインがストップしてしまう。

そんな状況で晴輝は、昼夜問わず、不眠不休で戦い続けた。

その経験が、気量5と脱力耐性MAXという数値として表れてしまったのだ。

並大抵の努力では、自然上昇でスキルが5まで上がらない。

実際、晴輝がダンジョンに入って自然上昇した中で、最も高いレベルのスキルは『隠密』の4である。

「隠密でさえ4までしか自然上昇してないのに、自然上昇のみでスキルレベル5って……。いったい俺はどれだけ過酷な労働を強いられてたん…………」

-技術<->

├武具習熟

│├片手剣5

│├投擲2

│└軽装5

├蹴術2

├隠密4→5

└模倣3

訂正。

隠密のスキルレベルが5に自然上昇していた。

「ぎゃぁぁぁ!!」

晴輝は血を吐くような悲鳴を上げた。

あまりにショッキングな出来事に、晴輝は激痛を堪えるようにその場に崩れ落ちた。

「隠密を使ったからか? 隠密を使ったからなのか!? ……ちくしょぉぉぉっ!!」

監禁部屋を出た時からダンジョンに入るまで。

それとダンジョンから出てから再び監禁部屋に戻るまで。

晴輝は隠密を使って移動していた。

晴輝にはそうしなければならない事情があった。

やむなしと判断し、実行に移したのは晴輝である。

しかし、まさか隠密が上昇してしまうとは……。

あのときの晴輝は『隠密が上昇するかもしれない』などとは一切考えていなかった。

ただ自衛団を助けたい。

その思いしか、抱いてはいなかった。

熱いものが晴輝の頬を伝い、顎からしたたり落ちて床にシミを作っていく。

「こんなのってないよ……あんまりだよ……」

どれほど存在感が欲しいと願っても、世界は晴輝の存在を、全力で消しに来ている。

そうとしか思えぬほど、晴輝の意志に反して隠密が上昇していくのだった。

隠密上昇の悲劇による廃人化から(脱力耐性のおかげか)辛うじて逃れた晴輝は、スキルボードをスワイプして強化画面を表示させた。

【アイテム強化】

【強化ポイント】1448→4964

強化ポイントは、旭川ダンジョンよりも少し高い3516ポイントだった。

車庫のダンジョンで1000ポイントしか入らなかったのは、それが疑似コアだったからか。

「仮面の完全強化まで遠いなあ……」

現在得られたポイントでは、仮面を次の段階に強化するには少し足りない。

さらに次の段階もある。

ポイントが全然足りない。

育てきれば存在感がアップする。

そんな夢を見る晴輝は、どうしてもコアから取得出来るポイント量が物足りなく感じてしまう。

しかしコアのエネルギィはいずれ充填されるはずなので、スキルポイントほど入手困難なわけではない。

焦らずじっくりと、時間を掛けて仮面を育てて行けば良い。

他に強化出来そうなアイテムを眺めていた晴輝は、新たなアイテムの名前を発見した。

シルバーウルフの短剣0

合皮の革手袋0

合皮の革靴0

シルバーウルフの下に出現した合皮シリーズは、朱音から購入した“一”の防具だ。

この合皮シリーズは以前の強化画面では出現していなかった。

「……ということは、アップデートで出現するようになったのか」

スキルボードの等級が上がったことで、強化出来るアイテムの制限が上昇した。

これならば、以前は強化出来なかったアイテムも強化出来るようになっているかもしれない。

そう思い晴輝はさらに画面をスワイプするが、リザードマンを倒して手に入れた鱗の上衣や魔剣は出現していなかった。

「“一”は行けるけど、それ以上はまだ無理か」

魔剣は出所が不明だし、鱗の鎧は30階相当の魔物から出たアイテムだ。

それ以下のワーウルフの短剣も、まだ出現していない。

店売りの等級で比較するなら、現在のアイテム強化は“一”までは対応可能、“壱”はまだ無理といったところだ。

アイテムを強化しても、等級が上がりすぎて装備出来なくなることのないラインである。

「なるほどそういう意味で、強化制限が必要なのか」

冒険家のレベルに比べてアイテムの等級が高ければ、その冒険家はアイテムを装備することが出来ない。

強化制限は、アイテム強化により等級が上がったことで、装備資格が無くなるのを防ぐセーフティ機能なのかもしれない。

「ということは、このままスキルボードの等級が上昇していけば、鱗も魔剣も強化出来るようになるかもしれないのか……」

強化出来れば、もっと強くなれる。

期待で胸が膨らんでいく。

夢は大きく。

けれど、夢に期待をしすぎないように。

最終的に必要なのは、武具の強さではない。

冒険家としての能力なのだから。

強い武具を手に入れても、力不足じゃ恥ずかしい。

晴輝はその時が来るまで、強化した武具に恥じないように、冒険家として成長し続けようと心に誓うのだった。