軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

それぞれの戦場に立ち向かおう!

「……たぶん、この人がいたからだろうな」

榎本洋一(29) 性別:男

スキルポイント:10

評価:剣師

-生命力

├スタミナ2

└自然回復1

-筋力

└筋力2

-敏捷力

├瞬発力1

└器用さ1

-技術

└武具習熟

├長剣3

└重装1

-直感

├直感1

└探知1

-特殊

└指揮1

晴輝が目を付けたのは、自衛団の中では最もスキルレベルの高い人物だった。

おまけに自衛団で唯一特殊スキルを持っている。

晴輝はおおよそ予測出来ていたが、タップして説明を開く。

するとやはり、『指揮』は部隊を指揮する能力に補正が付くスキルだった。

指揮下にある部隊の能力を強化するバフが発動するのか、それとも棋士のように戦場を操るのかは定かではない。

いずれにせよ、指揮スキルを持つ榎本がいたからこそ、自衛団は通常のダンジョン主を倒せていたのかもしれない。

一通りスキルツリーの確認を終えた晴輝は、全員のスキルに素早くポイントを割り振っていく。

自衛団員が保持しているポイントは榎本と同様に10。

1階に入った3ポイント。5階まで移動した4ポイント。そしてダンジョン主を初めて討伐した3ポイントで10だ。

彼らのスキルを、体の感覚が変わらないように振り分けていく。

具体的には、以前カゲミツに振り分けたものと同様。スタミナ・自然回復・防具だ。

全員のスタミナ平均が1から4に。

自然回復平均が0から4に。

防具平均が1から3に上昇した。

「……よし、これで被害はかなり押さえられるだろう」

かなり乱暴なスキル振りだが、彼らの命を守る上で必要な措置である。

少々強引でも、誰かの命を救うためならば、スキルを割り振った方が良い。それを晴輝は、四釜らの死亡とカゲミツとの共闘によってよくよく理解していた。

自衛団はみなし公務員だ。

上司からの命令に逆らえず無理矢理ダンジョンに送られて、絶望的な戦いに挑まなければならない。

そんな彼らが、ここで命を落とす道理はない。

晴輝がスキルを振り終えると、ダンジョンの外が賑やかになった。

『なんか、体が軽い!』

『お前もか? 俺もなんか肩が軽くなったんだが……』

スタミナと自然回復を上昇させた効果が早くも現れているようだ。

死んだ瞳をしていた皆の顔に、光が戻ってきている。

『これで普通に働けるべ』

『さっきまで倒れそうだったのにな……』

『3徹してもへっちゃらってすげえよな、俺』

『俺なんて4徹だぜ? 3くらいへでもねえだろ』

口調は元気なのに、何故か目に光が戻らない人もちらほらいた。

膨大な仕事をこなしても壊れない体は貴重だ。

だが時として健康すぎる体のせいで、心がへし折れることがある。

かつて年末進行の激務に追われ、バタバタと仲間達が倒れていく中で、晴輝一人が作業を行い続けていたことがあった。

その時晴輝は『これだけ働いてるのに、なんで俺だけは倒れないんだろう?』『他人より頑張りが足りないんだろうか?』と、何度心の中で呟いたことか。

倒れたら休めるのに、とも……。

その当時の感情を如実に思い起こしそうになり、晴輝は慌てて頭を振るう。

自衛団の反応で心を折られている場合ではない。

晴輝はボードをスワイプし、榎本のツリーを表示。

少し考えて、ポイントをスキルに割り振った。

榎本洋一(29) 性別:男

スキルポイント:10→0

評価:剣師→指剣師

-生命力

├スタミナ2→4

└自然回復1→4

-筋力

└筋力2

-敏捷力

├瞬発力1

└器用さ1

-技術

└武具習熟

├長剣3

└重装1→3

-直感

├直感1→2

└探知1

-特殊

└指揮1→3

基本は他の自衛団員と同じ振り方にした。

その上で、晴輝は榎本の直感と指揮を底上げした。

自衛団の被害を減らす上で、指揮は絶対に必要だ。

故に3まで上昇させた。

さらに指揮を行うためには、状況を判断する力が必要になる。

その力を補助するために、直感も引き上げた。

直感が冴え渡れば、瞬時に正しい判断が行える。

正しい判断が、彼の指揮を更に輝かせるに違いない。

晴輝は再度ツリーをスワイプし、振り忘れがないか確認をしてから一人、ダンジョンの中に入っていった。

現在。監禁部屋には、重苦しい雰囲気が漂っていた。

雰囲気が重い原因は、ここにはいない空気のせいだ。

「……まさかアイツが、普通の魔物をテイムするとはな」

真っ白いふわふわの小鳥。マァトがあまりに彼に似つかわしくないため、カゲミツが深刻な雰囲気を放っていた。

全ての行動原理が存在感アップである彼が、まさか普通の魔物を捉えるなど、カゲミツにしてみれば、考えられない現象であった。

もしかしたら、天変地異の前触れではないか?

そう考えてしまうのも仕方がない。

マァトは現在、火蓮の膝の上でくつろいでいる。

その姿を見て、ベッキーとドラ猫が「はうぅ」と癒やされていた。

「なんか、胡散臭ぇな」

「胡散臭いって、酷いですよカゲミツさん」

カゲミツの言葉に、ヨシが苦笑した。

「空気さんだって、マトモな人間だったってことじゃないですか」

「いんや、お前は考えが甘いべ。空気は自分の存在感を高めるためならなんだってやる男だぞ?」

カゲミツの言葉は非常に正しい。

なんだってやった結果が、今の彼の姿なのだから。

「きっとあの小鳥も、なにか隠し持ってるはずだべさ」

「えぇえ。例えば?」

「攻撃時、体から触手を放つ」

「…………何故でしょう。絶対にあり得ないのに、空気さんの従魔ならあり得そうだって思えるのは」

勝手な妄想を言い合って、監禁中の硬い雰囲気を払拭していく。

そんなカゲミツらを眺めながら、火蓮は気付かれぬよう苦笑した。

(どうしよう。空星さんが無茶苦茶言われてるけど。事実だから言い返せない!)

晴輝を守りたい火蓮でも、さすがに反論が出来なかった。

さらに相手は北海道のトップチーム。

『なろう』のブログ愛読者である火蓮にとって、憧れの冒険家達である。

以前『車庫のダンジョン』にカゲミツが訪れた時もそうだったが、緊張しすぎて話しかけることさえ出来ずにいた。

「空気チームの唯一の良心は、あの嬢ちゃんだけだな」

「……それ、本当にそう思ってます?」

「なん、だと……!?」

「――ふぇ!?」

話の矛先が、急に火蓮に向けられた。

火蓮は慌てて両手を振った。

「私は普通で――」

「ぷるるるぁぁぁ!!」

自分は違うと答えようとしたその時、火蓮のポケットからチェプが飛び出した。

腕輪に押し込む火蓮の力を、さらに上回る力で脱出してきたのだろう。

チェプの気合の声が部屋中に響き、何度も反響した。

「「「「「…………」」」」」

エアリアルの目が、一斉に点になった。

火蓮は彼らの視線から、逃れるように縮こまる。

「――と、あれ? レア様はどこですの?」

「「「「「――ッ!?」」」」」

喋ったァァァ! と思っているだろう。

エアリアルが眦を決した。

「火蓮、火蓮。聞いていますの?」

「はい。効いてますよ……」

エアリアルの視線がボディブローのように……。

彼らはチェプを見て、火蓮を見て、『ほらぁ』『やっぱりぃ』とでも言うような顔つきになった。

「この子も、さすがは空気のチームだけはあるな」

カゲミツの呟きで、火蓮の泣き顔に近い笑みに『ビシッ』とひびが入った。

「わ、私はから――空気さんとは違って普通ですから!」

「ほぉん? 喋るシャケを連れてんのに、普通ぅ?」

「うぐ……」

カゲミツがまるで良い獲物を見つけたかのように、ニタニタと笑った。

こうなることが予測出来ていたから、火蓮はいままで全力でチェプを腕輪に閉じ込めていたのだ。

まさかこのタイミングで腕輪から脱出されるとは……。

火蓮は崩れ落ちそうな心を立て直し、どう言い訳しようか頭を悩ませた。

果たして誤解は解けるのか。

火蓮の名誉を賭けた戦いが、今まさに始まった。

ダンジョンの攻略方法は、冒険家により2種類に分けられる。

マップに空白があろうと前に進むか、マップを全て穴埋めしてから進むかだ。

晴輝の攻略方法は後者だ。

通常は、その階を詳らかにせねば次の階に臨まない。

だが事は一刻を争う。

晴輝はカゲミツにタブレットで見せて貰った函館山ダンジョンのマップを思い起こしながら、全速力で前に進んでいく。

函館山ダンジョンのユニークなところは、下ではなく上に進むダンジョンであること。

日本で二番目に難易度の高い『富士山』ダンジョンや、常に水が滴る『黒部ダム』ダンジョンなどが上に進むダンジョンとして有名どころだが、上るダンジョンの総数は少ない。

晴輝にとっては初めて挑戦するタイプのダンジョンだ。

晴輝は上に向かう階段を、若干の違和感を覚えながらも進んで行く。

ダンジョン主を倒した経験がある自衛団は、ゲートを使って移動をするはずだ。

彼らの戦闘に乗り遅れないように、晴輝はダンジョンを迅速に駆け抜ける。

今回晴輝はレアとエスタの両名を連れてきていた。

マァトも一緒に行くと猛烈にアピールをしていたが、晴輝はマァトが戦っているところをうまく想像出来なかった。

一体あのくちばしや羽でどう魔物を倒すのだろう? と。

スキルボードだけを見れば、マァトは強い。

ダンジョン主の稀少種を討伐するのに有用な戦力といえるが、晴輝はマァトを連れて来なかった。

それは、自らの戦闘よりも火蓮が心配だったからだ。

彼女は現在、大々的に魔法が使えない。

戦闘能力の半分も生かせない状況で、自衛団の本部に監禁されている。

いざという時はエアリアルのメンバーが助けてくれるだろう。だが、それだけだと晴輝は不安だった。

「少し過保護なのかもしれないけど……」

団長の吉岡は攻略に同席していない。

自衛団本部で待機している彼が、どういった行動を起こすかわからない。

ならば安易に考えて対策を怠るよりも、最悪を考えて備えて行動するべきだ。

レベリングもマッピングもせず、晴輝はダンジョンを進んで行く。

回避出来る魔物は回避して、立ち塞がるものだけを切って捨てる。

フナムシやダンゴムシ、それにキルラビットが現れたが、晴輝の行く手を阻めるほどの魔物ではなかった。

実際接敵した次の瞬間には、魔物はもう晴輝によって切り刻まれていた。

そんな晴輝に負けないようにか、レアがチラリ遠くに見えた魔物にジャガイモ弾をプレゼントしていく。

魔物は晴輝らの存在に気付く間もなく絶命した。

3階、4階と進み、いよいよ晴輝は5階に通じる階段に到着した。

5階からは既に戦闘の音が響いていた。

慌てて晴輝は階段を駆け上っていく。

「右翼退避! 左翼は攻撃だ!」

自衛団の鎧が擦れる音。ゴムを叩くような攻撃の音。

悲鳴、怒号、気合、叱咤、そして――壊れた笑い。

様々な音が、様々な感情が、フロアを満たし混ざり合い、渦を巻いていた。

「…………う」

晴輝はスキルを上げたのだから、簡単に壊滅はしないだろうと考えていた。

だが晴輝の予想を裏切って、戦況は非常に悪かった。

既に負傷者が20名ほど出て後方に退避している。

そのうちの半数は、傷薬を塗れば再び前戦で戦える。

しかし残りの半数はダメだ。

皆が大量に血を流し、地面に倒れ込んだままうめき声を上げている。

何故ここまで被害が?

晴輝のその疑問は、ダンジョン主の姿を見ることで解決する。

「……デカい」

主はとにかく、デカかった。

全長30メートル。縦横20メートルはある。

ずんぐりむっくりした体に大きな口。

白黒の虎模様が体に浮かび上がっている。

攻撃すると怒りを表すように体が膨れ上がる。

腹の下には宇宙人の口のような吸盤が付いている。

その唯一種は――、

「……ゴッコか!!」

冬の道南の名産品であるゴッコ――ホテイウオだった。

ゴッコは深海に生息する魚だ。見栄えはふぐのようで、体は白身。淡泊な肉を、分厚いゼラチン層が包み込んでいる。

ホテイウオという名の通り、正面から見る顔は布袋様にどこか似ている。

非常にふぐに似ているが、ゴッコがふぐと決定的に違うのは吸盤の有無だ。

ゴッコは普段、吸盤を使って深海に張り付いている。それが冬場になると産卵のため、海岸の岩場まで上がってくる。

つまりゴッコは、冬の味覚である。

「…………じゅるり」

晴輝は唾液を啜り、鞄にしまったままだった仮面を装着した。

「新鮮なコラーゲン、魚卵、白身肉。待ってろォ……ゴッコ汁ぅ!!」

短剣を抜いて、農家の炎を宿した晴輝は、全力で飛び出した。